『ボブ・ディラン解体新書』 中山康樹

ノーベル文学賞にボブ・ディラン(72歳)が選ばれた。いくら歌詞が素晴らしいからといって、シンガー・ソング・ライターが、なんで文学賞なんだという疑問は払拭されていない。当初、だんまりを決め込んでいたディランだが、世間がしびれを切らした頃に、受賞を快く受け入れ、12月10日の授賞式には出ると言った。しかし、やっぱり先約があったのでとキャンセルしたという。
出席してもお利口さんにしていられないだろう。
11月30日に、ホワイトハウスでオバマ大統領が主催したアメリカ人ノーベル賞受賞者の交流会を、すっぽかしたという。

ボブ・ディラン解体新書 (廣済堂新書)
中山 康樹
廣済堂新書
2014年2月

『ラブ・アンド・セフト』は久しぶりに充実したディランらしいアルバムとして評価された。しかも、リリースされたのが、のちに「9.11」と呼ばれる2001年9月11日であった。ところが、『ラブ・アンド・セフト』の歌詞に盗作疑惑が浮上した。日本人医師兼作家・佐賀純一の著書『浅草博徒一代』の英語版『あるやくざの告白(Confessions ofa Yakuza)』を、そのままコピーしたかのように見える箇所が14箇所もあったという。
裁判沙汰になってもおかしくなかったが、幸運なことにそうはならなかった。「盗用」と「継承」とは紙一重という曲解によって不問に付された。

〈フォークやジャズでは引用はあたりまえだ。伝統的な技法だ〉〈ちまちま文句をつけやがって、昔からそうなんだよ〉〈誰もやっていることだ〉〈そんなに簡単に盗用で作品が作れるなら、やって見せてくれ〉などと、ディランの回答は逆ギレだった。

新作が発表されるたびに原典探しが行われるような状況は、決して健全とはいえない。そして近年のディランの音楽にそのようなカラクリがあることを知らない多くの聴き手にとって、一種の裏切り行為でもあると、著者はディランを痛烈に批判する。ところが、著者は、ディランを無数の盗人といっしょに檻に収監できない理由は、ディランの「サウンド」と「視点」にあると、天才としてのディランを認めているのだ。
それにしても、ディランをノーベル賞に推挙した人物たちは、この盗作問題を知っていたのか。

ディランの伝説は捏造されている。たとえば、1965年、ニューポート・フォーク・フェスティバルのステージにエレクトリック・ギターをぶら下げて立ったところ、ブーイングが浴びせられ、ディランはステージから引き摺り下ろされた。再びステージに姿を見せたディランは、涙を流しアコスティック・ギターで歌ったと伝えられている。
しかし、真実はディランは即席バンドで登場したため3曲しか歌えなかった。あまりの短さにブーイングが起こり、そこで、アコスティック・ギターに持ち替えて現れたというのが真相である。

ディランが世界的に著名な存在でありながら、あまり聴かれていないという状況は、故意的なわかりにくさが大きく影響しているとする。「もっとも有名な無名のミュージシャン」と呼ばれる所以である。
ディランを知る方法として、カヴァー・バージョンから入る手がある。
カヴァー・バージョンには、ディランが名曲を量産した名作曲家であることを気づかせる効能がある。さらに、カヴァー・バージョンを聴くことによって、ディランの個性的な歌唱法のどこがヘンなのかがわかるという。

本書は2014年の出版だが、ノーベル賞騒ぎで急遽増刷となった。著者が、ディランを持ち上げてはいないところがいい。残念なことに著者は昨年1月に亡くなってしまった。ディランのノーベル賞受賞をどう評価するのか、ぜひ聞いてみたかった。

ボブ・ディラン解体新書
現代ジャズ解体新書 村上春樹とウィントン・マルサリス
アイム・ノット・ゼア』(DVD)

『熊と踊れ』アンデシュ・ルースルンド&ステファン・トゥンべリ

本作は、1991年秋から1993年末にかけて、ストックフォルムで起きた連続銀行強盗事件を下敷きにしている。

長兄レオをリーダーとして、次男フェリックス、三男ヴィンセント、幼なじみのヤスペルの4人組は、軍の武器庫の床を爆破し、二個中隊分の武器と弾薬を手に入れた。それらの武器を、表向き長男が経営し弟たちが従業員として働いている工務店の倉庫に隠した。
そして、4人組はショッピング・センターで現金輸送車を襲い、なんの手がかりも残さず、まんまと現金を強奪した。

さらに、4人組は次々に銀行を襲い、警察を手玉にとった。1日のうちに続けてふたつの銀行を襲ったり、警察の捜査を分断するためにストックフォルム中央駅のコインロッカーに爆弾を仕掛けたり、そのスケールは徐々にエスカレートしていく。手口の無駄のなさ、防犯カメラに写った銃の扱い方、統率のとれた機敏な行動から、「軍隊ギャング」と呼ばれるようになる。

熊と踊れ(上)(ハヤカワ・ミステリ文庫)
熊と踊れ(上)
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アンデシュ・ルースルンド
ステファン・トゥンベリ
ハヤカワ文庫 2016年9月
熊と踊れ(下)(ハヤカワ・ミステリ文庫)
熊と踊れ(下)
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ヘレンハメル美穂
羽根 由 訳
ハヤカワ文庫 2016年9月

もうひとつの軸として語らるレオたちの過去は、物語の重要な鍵を握っている。兄弟は、家族をドメスティック・バイオレンスで支配する父親イヴァンのもとで育った。家族はイヴァンの機嫌を伺いながらの生活が強いられた。

イアヴァンが幼いレオに喧嘩のやり方を教え込むくだりがある。
「相手がひとりでも、ふたりでも、3人でも関係ない。これはな••••••熊のダンスだ、レオ。一番でかい熊を狙って、そいつの鼻面を殴ってやれば、ほかの連中はみんな逃げ出す」タイトルの『熊と踊れ』は、このくだりからつけられた。

「絆」の語源は動物をつなぎとめる縄であるというが、本作のテーマはまさに語源どおりの意味でも「絆」である。
冒頭で、4年ぶりにイヴァンが帰ってきて母親を殴りはじめる。長男のレオが止めに入り、母親が家から飛び出していく。この出来事は、兄弟の精神的なトラウマとなっている。「あの時、ドアを開けてイヴァンを家に入れたのは誰だ」という問いに、兄弟たちはくりかえし苛まれるのだ。

事件を担当するストックフォルム市警察警部ヨン・ブロンクスは、犯人に近づく手がかりがまったくないまま、苦悩する。ブロンクスには父親を殺して服役中の兄とのあいだに、解決されていない問題があった。その兄から事件の手がかりを得ようと面会するが、兄は弟を拒絶するのだった。
ブロンクスは、銀行襲撃の手口はエスカレートしていき、いずれミスを犯し、捜査の糸口がつかめるだろうと読んでいた。

一方、4人組にとって、銀行襲撃で手にした現金に、行員によって赤い塗料をぶちまけられたことが、ケチのつきはじめだった。
そして、4人組の人間関係に不協和音が生じはじめていた。

『阿蘭陀西鶴』朝井まかて

井原西鶴(1642〜93年)を盲目の娘おあいを通して描いている。
おあいが9歳の時、母親が25歳で亡くなった。
通夜での、西鶴の周章狼狽ぶり、おあいの落ち着きぶりが対象的に描かれている。
母親はおあいに生活する上での術を徹底的に仕込んだ。とくに料理は、近所の誰もがその腕を褒めるほどである。そんなわけで料理の描写が多い。

俳諧師である西鶴は、初七日の法要の席で千句を詠んだ。これを『独吟一日千句』として出板(出版)したのだった。その後、矢数俳諧は西鶴の得意とするところになり、四千句、一万とエスカレートしていった。果ては、大坂に芭蕉の弟子・其角が立ち寄った際に、住吉神社の神前で其角を後見に向かえ、大矢数俳諧を興行し、二万三千五百句を詠んだ。
もちろん、そのほとんどが駄句だった。

阿蘭陀西鶴 (講談社文庫)
阿蘭陀西鶴
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朝井 まかて
講談社文庫
2016年11月

「阿蘭陀(おらんだ)」と名のる西鶴は、とにかく人の前を歩きたい目立ちたがり屋。阿蘭陀とは毎年御公儀に拝謁する長崎から江戸に向う異国の者のこと。異端を意味した。
西鶴は、大坂の談林派を代表する俳諧師であると自負していたが、評価されないことに不満を抱いていた。俳諧仲間からは、「西鶴は己の宣伝が過ぎる。目立ちたがり屋にも程がある」と非難されていた。

西鶴は、江戸の深川に居を移した松尾芭蕉(1644〜94年)の噂を聞いてから、様子が変わる。
談林派の宗匠が亡くなり、宗匠を目指していた西鶴は、突然、おあいを連れて淡路島に旅だったのだ。淡路島に逗留している間に書き上げた『好色一代男』を出板すると、大評判となり大いに売れた。江戸では浮世絵の創始者となる菱川師宣(1618〜94年)が挿絵を描いた。
その後、『好色五人女』『日本永代蔵』『世間胸算用』のヒットを飛ばす大エンターテーメント作家となるが、家計はいつも火の車だった。
当時の作家の収入は最初の原稿料だけで、いくら増刷されても作家には支払われないシステムだった。浮世作家だけでは食べていけない西鶴は、句会の点者として稼いでいた。

そんな西鶴を芭蕉は激烈に批判したのである。
<見当はずれなことを言い散らして、句の良し悪しをちゃんと判じておらぬ。西鶴は俳諧をまるでわかっていない。阿蘭陀西鶴、浅ましく下れり>と。
それを耳にした西鶴は、阿蘭陀西鶴らしい啖呵を切る。
〈わしが浅ましゅうなったやとぅ。阿保か。この阿蘭陀西鶴、名乗りを上げたその日から、さもしゅうて下劣な輩やと自ら触れてあるわい。突くんはそこか。違うやろ。せっかく町人の、俗の楽しみになってたもんをわざわざ難しゅうして、皆が手ぇの届かん俳風に祀り上げてんのは己やないかい。ああ、ああ、なるほど、おまはんは清いわ、尊いわ。言葉に凝りに凝って磨きをかけて、これが芭蕉の句でござい、はっ、それがなんちゅうねん。小っちゃい言葉の端切れにこだわって、理詰めにあれこれ判じて。それが一体、何になる。凝り性の澄ましやがっ。〉

西鶴は利発なおあいを世間に自慢したくてしょうがなかったが、おあいは拒否した。おあいは長ずるにつれ、西鶴を誤解していたことに気づき、次第に受け入れるようになっていく。父娘の愛情物語でもある。

阿蘭陀西鶴/講談社文庫/2016年
胘(くらら)/新潮社/2016年

『マンモスのつくりかた』ベス・シャピロ

映画『ジュラシック・パーク』(1990年)のなかで、琥珀に閉じ込められた蚊の腹部から血液が採取され、恐竜のDNAが抽出される。抽出されたDNAをカエルのDNAで補完したのち、ワニの未受精卵に注入し孵化させ、クローン恐竜が誕生する。このようなことは可能なのか。

著者は米国の進化生物学者。カリフォルニア大サンタクルーズ校の准教授。専門は古生物のDNA解析。20世紀初頭に絶滅したアメリカリョコウバトや、3700年前に絶滅したとされるマンモスのDNA解析の第一人者である。
脱絶滅(de-extinction)の試みについての議論は、喧々諤々であるという。
本書では、脱絶滅に関して「科学」と「空想科学」を切り離すことを目指すという。

マンモスのつくりかた: 絶滅生物がクローンでよみがえる (単行本)
ベス シャピロ/宇丹貴代実
筑摩書房
2016年1月

脱絶滅の対象となる種は慎重に選択されるべきだ。
復活に成功したときに、個体群にふさわしい生息地があり、餌動物や食料があり、捕食者は排除されていると同時に、食物網を不安定にさせないような食物連鎖が働き、病気・寄生体・汚染は取り除かれていて、その種がもともと生息していた環境に気温や降水のパターンが近く、自給の個体群を許容できる広さがあるかなどを、クリアしなくてはならない。結構、条件は厳しいのだ。
厚かましい条件だが、絶滅を引き起こした張本人の人間の生活を脅かされないことも求められる。

以上の条件に照らしあわせると、マンモスは脱絶滅に適している。
すでに、ロシアのシベリア北東部にあるロシア科学アカデミー北東科学局は、脱絶滅が成功したあかつきにマンモスが住む更新世パークを準備しているという。

マンモスが寒冷地に住んでいたおかげで、保存状態の良い骨からDNAの分析ができる。
マンモスの最近縁種はアジアゾウで、およそ500万〜800万年前に枝分かれした。変化の速度がほかの哺乳類とほぼ同じとするなら、この種間はおよそ7000万箇所の遺伝子の相違があると予想される。これはゾウのゲノム全体のうちの2%未満だが、それでも7000万は途方もない数だ。
凍土の中から発見される保存状態の良いマンモスから抽出されるDNAといえども、7000万のゲノムの変更点を到底訂正できないだろう。とすれば、核移植によるクローン作製は今のところ難しい。現在可能なのは、マンモスの遺伝子の断片が組み込まれたゾウを作製することだという。

マンモスの形質や行動を復活させるのに必ずしもマンモスのクローンを作製する必要はない。たとえば、マンモスの毛深さを指定(コード)するDNA配列を突き止めたうえで、ゾウのゲノム配列に組込み、ゾウをもっと毛深くすることは可能である。もちろんマンモスを復活させることと同じではないが、その方向へ一歩進むことではある。
そんな大雑把なことでいいのかと思うが、そのあたりが今のところの限界なのだ。

今後も、著者たちによりマンモスのゲノム解析は地道に続けられるだろう。そして、クローン種作成の技術的なハードルはどんどん下がっていくに違いない。
なお、2016年中にマンモスのクローンを作製すると宣言している勇敢な学者が複数いて、しのぎを削っているという。

マンモスのつくりかた/ベス・シャピロ/筑摩書房/2016
6度目の大絶滅/エリザベス・コルバート/NHK出版/2015
サイボーグ化する動物たち/エミリー・アンテス/白揚舎/2016
外来種は本当に悪者か?/フレッド・ピアス/草思社/2016
爆発的進化論/更科功/新潮新書/2016
ゲノム編集とは何か?/小林雅一/講談社現代新書/2016
がんー4000年の歴史/シッダールタ・ムカジー/早川NF文庫/2016
破壊する創造者ーウイルスが人を進化させた/フランク・ライアン/早川NF文庫/2014
生物と無生物のあいだ/福岡伸一/講談社現代新書/2007
人はどうして死ぬのかー死の遺伝子の謎/田村靖一/幻冬舎文庫/2010
できそこないの男たち/福岡伸一/光文社新書/2008
二重らせん/ジェームス・ワトソン/講談社文庫/1986

『6度目の大絶滅』エリザベス・コルバート

地球史において、かつて5度の大絶滅が起こり、それらは「ビッグファイブ」と呼ばれている。「ビッグファイブ」のうち3つは原因が判明している。
最初の大量絶滅は、大半の生物が水の中で暮らしていたオルドビス紀後期(4億5千万年前)に起きた。氷期によってもたらされたとされる。
史上最大の大量絶滅は、ペルム紀末(2億5千万年前)に起きた。大量の二酸化炭素が地球温暖化をもたらし、海水に溶けた二酸化炭素が海水の酸性化を招いたことが原因とされる。
一番最近で最も有名な大量絶滅は、白亜紀の終わりごろ(6千5百万年前)に起こり恐竜が消滅した。ユカタン半島およびメキシコ湾に巨大隕石が衝突したことが原因であるとされる。というように、絶滅の統一理論はない。
そして現在6度目の大絶滅が進行中である。

6度目の大絶滅
6度目の大絶滅
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エリザベス・コルバート/鍛原多惠子 訳
NHK出版 2015年3月

著者は、パナマでカエルの大量死を目の当たりにし、ビッグファイブの最初の絶滅の証拠を求めてスコットランドに渡る。地中海の島では熱水噴出孔からの熱水による海水温の上昇の影響を調査し、グレートバリアリーフでは壊滅的な被害を受けているサンゴ礁を調べる。アンデス山脈の樹林帯では、樹木の組成の変化を知らされる。マサチューセッツの洞窟に入りコウモリの大量死を見届け、シンシナティ動物園でサイの人工授精に立ち会う。こうして著者は各地に出向き長期にわたるフィールドスタディを積み重ねていく。

18世紀末、フランスの博物学者キュヴィエは「現生ゾウと化石ゾウの種について」と題された公開講義で、生物の絶滅の事実を知らしめることに成功した。それまでは、種が絶滅するという概念はなかったのである。
種の誕生にかかわるダーウィンの理論は種の消滅の理論でもあったが、ダーウィンは絶滅についてほとんど関心をはらわなかった。

ショッキングな数字が並べられている。

現在、両生類はもっとも絶滅の危機に瀕していると考えられており、その絶滅率は背景絶滅率の4万5千倍という試算もある。ところがその他の多くの動物種の絶滅率も両生類に迫りつつある。造礁サンゴ類の1/3、淡水生貝類の1/3、サメやエイの仲間の1/3、爬虫類の1/5、哺乳類の1/4、鳥類の1/6がこの世から消えようとしていると推定される。・・・生命の消失にはさまざまな理由がある。しかし、その過程を丹念に追っていけば、必ず同じ犯人ーあるひ弱な種ーにたどり着く(つまり、人間である)。

ちなみに、「背景絶滅率」とは、100万種につき年あたりの絶滅種数で表される。哺乳類の背景絶滅率は、約0.25と考えられている。つまり、現在約5500種の哺乳類がいるので、背景絶滅率に従えば大雑把に言って700年ごとに1種が消えることということになる。

考古学的な証拠から、ネアンデルタール人はヨーロッパまたは西アジアで進化し拡散したが、河川や海などの障害物があったところで止まっている。現生人類のみが、そうした障害物を越え、あるいは陸の見えない海に漕ぎ出していった。そこにはなにか狂気じみたものがあるという。

ネアンデルタール人をはじめとする古人類の絶滅も現生人類が引き起こした。さらに、現代における類人猿の生存数の極端な減少も、森林伐採を行ったわれわれが主犯である。
現生人類が地上に現れたときから、その影響で種の絶滅がはじまっていることが、最近明らかになったという。人類は過剰殺戮犯なのだ。

著者は6度目の大絶滅を食い止める処方箋を示すわけではない。ただ、絶滅危惧種を救おうと懸命に努力する人びとがいることに、かすかな光を見出しているのである。

6度目の大絶滅/エリザベス・コルバート/NHK出版/2015
サイボーグ化する動物たち/エミリー・アンテス/白揚舎/2016
外来種は本当に悪者か?/フレッド・ピアス/草思社/2016
爆発的進化論/更科功/新潮新書/2016
ゲノム編集とは何か?/小林雅一/講談社現代新書/2016
がんー4000年の歴史/シッダールタ・ムカジー/早川NF文庫/2016
破壊する創造者ーウイルスが人を進化させた/フランク・ライアン/早川NF文庫/2014
生物と無生物のあいだ/福岡伸一/講談社現代新書/2007
人はどうして死ぬのかー死の遺伝子の謎/田村靖一/幻冬舎文庫/2010
できそこないの男たち/福岡伸一/光文社新書/2008
二重らせん/ジェームス・ワトソン/講談社文庫/1986

『室町無頼』垣根涼介

『週刊新潮』に連載されている頃(2014年7月〜15年8月)から、あまりの面白さに単行本の発刊を心待ちにしていた。
室町時代中期、応仁の乱が起こる前、頻発する飢饉と室町幕府の失政により、人々の生活はどん底に落ち不満は極限に達していた。
世直しの土一揆を企み着々と準備を進める蓮田兵衛、その先頭に立って戦わねばならない兵法者の才蔵、一揆を制圧する側の骨皮道賢、比叡山を後ろ盾に金貸しとしてやりたい放題の法妙坊暁信。
これらの人物に、京の人間なら知らない者はいないという高級娼婦の芳王子(ほおうじ)が絡む。
蓮田兵衛、骨皮道賢は実在の人物。

室町無頼
室町無頼
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垣根 涼介
新潮社
2016年8月

15歳で浪人の父親を亡くした才蔵は、独学で棒術を身につけ、強盗を叩きのめしたこともあった。17歳のときに、比叡山の僧兵を束ねる法妙坊暁信に土蔵の用心棒として雇われた。才蔵は生まれてはじめて、他人に期待される立場にいることに自信を持ち、また戸惑いを覚えた。土倉とは銭貸し業のこと。

ある日、土倉が襲われ、 用心棒のうち最後まで盗賊と闘った才蔵はとらわれの身となった。盗賊の首謀者は骨皮道賢。配下に浮浪人やならず者300人を集める頭目である。幕府は道賢に京の警護を任せていた。警察でありながら強盗も働く道賢は、乱世ゆえにまかり通る存在である。

暁信は才蔵を族の一味と疑い探していた。
道賢は才蔵を蓮田兵衛に預けることにした。預ける理由は、土倉襲撃が道賢の仕業と法妙坊にバレないことと、才蔵は腕は立つが足軽稼業には向かないこと。
兵衛はその才蔵を唐津の老人に預けた。そこで9か月間、文字通り命をかけた修行をこなし、老人から先端に三角錐の金具がついた六尺棒を授けられた才蔵は、無敵の戦闘サイボーグとなって兵衛の元に帰ってきた。

兵衛の屋敷には、多彩な人物たちが寝泊まりし、金も払わずに食事をしていく。兵衛は、いざという時のために、そうした人々の話を聞き情報を集め、心を掌握しているのだった。こうして、兵衛は着々と土一揆の準備を進めていく。
一揆が起これば、道賢や法妙坊暁信は制圧する側に回らなければならず、誰も生き残る見込みはない。

長生きしてもいいことなどあろうはずもない乱世に、無謀な戦いに挑む「無頼」な男たちの、爽快なピカレスク・ロマンである。

『サイボーグ化する動物たち』 エミリー・アンテス

バイオテクノロジーが、どのように動物たちにかかわっているかがテーマ。著者は旺盛な探究心で、会社や研究機関を訪れ担当者にインタビューし、それらの動物たちに会いに行く。原題は、『Frankenstein's Cat』。

最初のテーマは遺伝子組み換えである。米国では、サンゴやイソギンチャクのDNAを埋め込んだ観賞用の光る魚が、ペットショップで売られている。FDA(米食品医薬品衛生局)が許可した米国初の遺伝子組み換えペットである。
例えば、成長が早いサーモンや、人間にアレルギーを誘発する遺伝子をなくした猫を作ろうとしている。
ファーミングは単純な遺伝子操作によって、ヤギの乳やニワトリの卵から、人間の病気を治すための薬を抽出する方法のことである。

サイボーグ化する動物たち-ペットのクローンから昆虫のドローンまで
エミリー・アンテス/西田美緒子 訳
白揚社
2016年8月

遺伝子組み換えの動植物を販売する際には、FDAやEU当局の許可が必要である。規制当局は遺伝子組み換え動物の販売を容易に許可しない。また、ミュータントたちが研究室から抜け出すかもしれないことにも目を光らせている。

愛するペットを亡くした飼い主にとって、クローンは福音ともいえる技術だが、成功の確率が著しく低い上に、遺伝子が同じでも表現形が同じとは限らないのだ。ペットのクローンは今のところ商売にならない。
しかし、すでに何頭かのクローン牛が、米国最大の酪農産業博覧会で優勝していて、これらは種牛として活躍している。また、2012年には、国際馬術連盟がクローン馬を許可したという。

地球上にいる哺乳動物の1/4近くが絶滅の危機に瀕し、両生類ではおよそ1/3、鳥類では1/8が同様の状態であるという。動物の個体数は、最も多かった時点に比べて89%も減少してしまった。歴史上では5回の大絶滅が知られていて、5回目の大絶滅では恐竜が消え去った。多くの科学者は今が6度目のはじまりだと確信している。
冷凍動物園と呼ばれるDNAバンクは、マイナス225度に保たれている。大惨事が襲う前に、遺伝的多様性を保存しようとしているのである。

マグロ、ウミガメ、ゾウアザラシなどの海洋生物に、情報収集機器(タグ)を取り付け、データを集めている。データの解析から動物たちの知られざる生態が明らかになっている。

肢体が不自由な動物に、人工の装具をつけるリハビリテーションの分野がある。
漁船の網にひっかかり尾をなくしたイルカに、世界初の人工の尾びれをつけた。これを映画にしたのが『イルカと少年』(2011年)。
あるいは、去勢手術を受けた犬に人工睾丸をつける。これまでに49の国で25万匹以上が、CTI社の偽の睾丸が用いられたという。

猫やラット、甲虫や蛾やゴキブリに、電子機器を移植して自在に動かそうという試みがなされている。

最終章では、動物たちの権利と福祉について、心理学者ハロルド・ハーツォグの意見を紹介している。「(悩める中間域にいる人々は、)動物を心から愛しながら、たまには資源、物体、道具としての役割を負わせることもよしとする。動物を大切に扱うべきだと確信しながら、医学研究への利用禁止は望まない。家畜を人道的に飼育してほしいと気づかいながら、肉食をすっかりやめたくない。・・・私には、悩める中間域は完璧に筋が通っているという確信がある。モラルの窮地に陥るのは、大きな脳と寛大な心をもつ種では避けられないことだからだ」
著者は、動物の福祉を追求するために最新技術を活用すべきだと結論づけている。

6度目の大絶滅/エリザベス・コルバート/NHK出版/2015年
サイボーグ化する動物たち/エミリー・アンテス/白揚舎/2016
外来種は本当に悪者か?/フレッド・ピアス/草思社/2016年
爆発的進化論/更科功/新潮新書/2016年
ゲノム編集とは何か?/小林雅一/講談社現代新書/2016
がんー4000年の歴史/シッダールタ・ムカジー/早川NF文庫/2016
破壊する創造者ーウイルスが人を進化させた/フランク・ライアン/早川NF文庫/2014
生物と無生物のあいだ/福岡伸一/講談社現代新書/2007
人はどうして死ぬのかー死の遺伝子の謎/田村靖一/幻冬舎文庫/2010
できそこないの男たち/福岡伸一/光文社新書/2008
二重らせん/ジェームス・ワトソン/講談社文庫/1986年

『秋萩の散る』澤田瞳子

著者が得意とする奈良時代を舞台とした珠玉の5話。時代を彷彿とさせる漢語の使い方が巧みで、いずれも長編に匹敵する読み応えがある。

「凱風の島」
6度目の日本渡来に挑む鑑真を乗せて4艘の帆船は、沖縄に到着した。鑑真招聘は日本(ひのもと)の大願であるが、遣唐大使・藤原清河は、玄宗皇帝の許可なく鑑真を乗せた副使・大伴古麻呂に、批判的であった。一方、唐に30年間滞在し唐で大出世した阿倍仲麻呂は、齢55歳になる。帰国しても仕官はかなわないだろう。 清河も仲麻呂も帰国後厚遇されることはないだろう。親の七光りで遣唐使となり、たった1年で帰国する藤原刷雄(よしお)は複雑な思いにかられた。

秋萩の散る (文芸書)
秋萩の散る
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澤田 瞳子
徳間書店
2016年10月

「南海の桃李」
南海の200ある島々に、漂流船に場所を知らせる目的で石碑を建てる。
吉備真備は同じ船で唐より戻った高橋牛養に、そのアイデアをもちかけた。牛養は碑を建てるべく、太宰府に赴任した。碑には、島の名、島内の水場、港の場所、大島や薩摩までの距離、が示されているはずであった。しかし、島にたどり着いた真備は碑がないことに愕然とする。牛養が碑を建てなかった理由はなにか?

「夏芒の庭」
大学寮に在学して4年目の上信(うわしな)は落ちこぼれ。日向の秀才雄依(おより)と同室となる。上信や雄依たちは権力闘争の死闘を目の当たりにする。学生たちのある者は巻き込まれ、またある者は世の不条理を学ぶのだった。

「梅の一枝」
文筆にたけた石上朝臣宅嗣(やかつぐ)は、宮中で「文人乃首(文人の筆頭)」の名をほしいままにしていた。そんな宅嗣の前に安倍女帝(孝謙天皇)の異母弟であるという久世王が現れ、母親は宅嗣の従姉であるという。久世王の存在を気性の激しい孝謙天皇に知られたら命を狙われ、自分にも類が及ぶやもしれないと宅嗣は不安にかられる。なにか手を打とうとするが。。

「秋萩の散る」
安倍女帝の寵愛により比肩する者のいない高職についた道鏡の晩年を描く。権力をほしいままに帝位にまで昇り詰めようとしたとされる道鏡であるが、女帝の崩御後、下野国薬師寺に配流された。道鏡は臆病な老僧として描かれる。

秋萩の散る/徳間書店/2016年
師走の扶持 京都鷹ヶ峰御薬園日録/徳間書店/2015年
ふたり女房 京都鷹ヶ峰御薬園日録/徳間文庫/2016年
京都はんなり暮らし/徳間文庫/2015年
与楽の飯 東大寺造仏所炊屋私記/光文社/2015年
若冲/文藝春秋/2015年
満つる月の如し 仏師・定朝/徳間文庫/2014年
泣くな道真 ―太宰府の詩―/集英社文庫/2014年

『ジャーニー・ボーイ』高橋克彦

ヴィクトリア朝時代(1837年~1901年)に活躍した英国の紀行作家イザベラ・バード(1831年~1904年)の著書『日本奥地紀行』をもとに、物語が作られている。主人公はバードに随行した通訳の伊藤鶴吉である。

明治11年(1878年)5月14日、内務卿大久保利通が不平士族に暗殺される(紀尾井町の変)という、未だ攘夷の気運がくすぶる不安定な国情の頃、バードは伊藤を従え、東京からから日光、日光から会津坂下を通り津川へ抜けて新潟まで行く。
『日本奥地紀行』ではそのあと北上し北海道に渡るが、本書では新潟までが描かれている。
あえて描かれる冒頭の「紀尾井町の変」の惨状は、攘夷派残党のバード襲撃がありうることを暗示している。

ジャーニー・ボーイ (朝日文庫)
ジャーニー・ボーイ
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高橋克彦
朝日文庫 2016年10月

大倉喜八郎と東京日日新聞主筆の岸田吟香、外務省の役人が、寿司屋の2階で伊藤を吟味する。伊藤は、上野にある政府御用達の西洋料理屋・精養軒の外国人担当という設定。小柄だが腕っ節が滅法強く、その昔ピストル・ボーイというあだ名がついていた。

日本政府としては、表向きは護衛なしで女性の一人旅ができる安全な国を、世界にアピールしたいところ。役人は、バードは50近いばあさんだから、ろくに歩けもしないだろうとたかをくくっていた。実際は47歳だった。

そんな政府の思惑とは裏腹に、世界各地への冒険旅行で頑強な体になっていたバードは、能天気そのもの。旅の目的は、東京や横浜などの洋風にかぶれた都市を見ることではなく、日本の原風景を体験し、それをもとに旅行記を書くことだという。

バードの話し相手は伊藤に限られている。
伊藤はバードに訊ねた。「ろくな食べ物もない、宿は蚤だらけで、見るべき史跡もない、きつい道で痩せた馬にゆられ尻が痛くなる。こういう旅を本当に楽しいと思うのか?」
「楽しいわよ。誰も見たことのない景色を私が一番最初に眺めるんですもの」と、バードは答えた。
ふたりの間には異文化のせめぎ合いの火花が散ることもたびたびある。
それは主に、男女同権の兆しが見えはじめた国の女性と、男尊女卑の風潮が色濃く残る国の男性との意見の対立であった。

日光の金谷邸に1週間逗留したバードは、厚遇され、この上なく満足した。
会津には、攘夷派の士族だった警察官が大勢いる。会津坂下から津川に抜ける箇所が、もっとも危険である。津川にたどり着けば、あとは新潟まで阿賀野川の舟下りだからなんとかなる。
さて、刺客や警察官たちの不穏な影がちらつくなか、バードと伊藤は無事に津川にたどり着けるのだろうか?

『関西人の正体』井上章一

本書は、『月刊 DENiM』に掲載された『関西学』(1993年1月〜95年2月)を中心にまとめられている。ベストセラー『京都ぎらい』(2015年刊)の底本といえる内容である。
およそ愚痴だらけだが、ユーモアあふれる理屈が次々と述べられるから、納得がいくのだ。そういえば、関西人ってそういうところあるわ、という「関西人あるある」を、独創的な視点で論じている。

たとえば、議論がもつれたときに、話の主導権を奪うために、関西弁を使う。絶好の武器になるという。この関西弁を、著者は「知をゆさぶる野生」と表現している。テレビのトーク番組で、関西の論客が使う常套手段だ。

関西人の正体 (朝日文庫)
関西人の正体
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井上章一
朝日文庫  2016年7月

あるいは、日本でいちばん助平な街はどこか?
東京の街頭取材で、5割強のひとびとが大阪を1位にあげた。大阪でのインタビューでは路上を行くひとびとの6割強が、大阪と答えた。大阪人自身が自覚している大阪助兵神話は根強く国民に浸透しているといえる。

関西という呼び名についての考察が面白い。
かつて、行政区分を表す用語として畿内や近畿地方が用いられた。それが最近は関西地方と呼ばれることが多くなった。その昔、関東は京から遠く離れた辺境の地という意味で使われた。辺境の地だった関東が首都圏へと格上げされたのだ。畿内から格下げされて関西地方と呼ばれている地方と、対照的であるという。

著者は、いわゆる大阪論、京都論の常套をこわすことをめざしているという。
頻回にテーマになっているのが、東京はえらい、没落した関西はえらくないという対比である。その理由を、歴史を紐解きつつ自虐的に分析している。それが、的を射ていてクスリと笑わせるのだ。

京都ぎらい
関西人の正体

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