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2019年6月10日 (月)

サピエンスはどこへ行く

最近、進化生物学の目覚しい進歩によりわれわれホモ・サピエンスの来し方が明らかになっている。行く末についてもいくつかの予測がされている。 

来し方は、年代に関して諸説があるがおおよそ以下のようである。250万年前にアフリカで人類が誕生し、200万年前にこの太古の人類の一部が、北アフリカ、ヨーロッパ、アジアに進出した。ホモ・サピエンスは20万年前にアフリカで誕生し、6万年前にアフリカを出て、ネアンデルタール人と交配し世界に散らばっていった。それ故、アフリカ出身以外のすべての現代人は2~4%のネアンデルタール人の遺伝子を持っている。ということは、ネアンデルタール人とホモ・サピエンスは友好関係にあったわけだ。200万年前から1万年前までは、世界にはいくつかの人類種が同時に存在していたが、生き残ったのはホモ・サピエンスだけである。ネアンデルタール人の脳容量が1550mlであったのに対し、ホモ・サピエンスは1450mlであった。ちなみに脳は他の臓器に比べ膨大なカロリーを消費する。なぜ、脳容量の多いネアンデルタール人が滅び、ホモ・サピエンスは生き残ったのか?いくつかの要因が挙げられるが、最も有力なのは、ホモ・サピエンスは目に見えないものを信じたり集団で行動できたりしたからだとされる。その後、ホモ・サピエンスは地球上の生物、ことに家畜や愛玩動物を除く大型哺乳類をことごとく絶滅に追い込んでいくことになる。
 
行く末はどうだろう。人類にとって最良の時代はすでに過去のものになったことは、多くが認めるところだろう。人類はAIに仕事をのっとられ、桁外れの財産をもつごく一部の資産家階級と、ほとんどの人びとが属する役立たず階級と、AIが不得手な仕事に従事する階級とに分かれるという説が、受け入れられている。政府は国民にベーシック・インカムとして最低限の生活を送ることができる金額を支給する。平たく言えば、ほとんどの国民が生活保護手当で暮らすことになるわけだ。そのような未来は人類にとってユートピアなのかディストピアなのか。こうした衝撃的な説を一笑に付す識者も少なくない。しかし彼らは説得力のある代替の未来予想図を提示できないでいる。

ところでビッグバン以後138.2億年を経過している宇宙の未来はどうなるのか。最近、東大などが発表した、スバル望遠鏡による暗黒物質の分析によると、宇宙は向後1400億年まで存在することがわかったという。これまで宇宙の寿命は数100億年と言われていたので、倍以上になった。宇宙の寿命が伸びたことはそれはそれでほっとする。こうした現実とはかけ離れた事象に感情移入してしまうところが、ネアンデルタール人をさしおいてホモ・サピエンスが生き残った理由かもしれない。(2018年12月)

2019年6月 5日 (水)

バーター弁当

みんなで弁当を食べることになった。
「新製品を発売したので、製品のプレゼンテーションをする機会をお願いしたい」と打診されたのだ。
「みなさまのお昼休みの貴重な時間をさいていただくことになりますので、お弁当を用意させていただきます」とおっしゃる。
この弁当はどういう性質のものかというと、魚心あれば水心的な、いわばバーター弁当である。

それで、そのプレゼンテーションは我田引水な気配のするデータが次々と示され、ライバル会社へのネガティブキャンペーンもたっぷり加えられて、新製品の有用性が喧伝されて終わるのである。
ひとしきり質疑応答があって、弁当を提供したご一行が帰ったあとに、いよいよそのブツをみんなで味わうわけだ。
食べはじめてしばらくすると弁当の値踏みがはじまる。
「これ、2000円くらいかなー」
「いやー、この材料は2000円じゃームリでしょう。カラスミが入っているし、これマスだよ」
「じゃあ、2500円?」
「2500円はすると思うよ」
「でも、3000円まではいかないでしょ」ということで、今回は2500円で決着した。

この手の弁当の評価のポイントは、値段もさることながら冷えていても美味しいかだが、そこは軽くクリアしている。皮肉なことに、弁当を食べるあいだ件の新製品の話題が挙がることはまずない。

官なら始末書ものだが、民だから多少の後ろめたさですみそうなこのバーター弁当というやつ、のちのち威力を発揮することになる。
数日たつと、「先日はプレゼンテーションの機会を、ありがとうございました」と、弁当のことなどなかったというご面相で、かの弁当提供者がおいでになって、この訪問は新製品が採用されるまで、しぶとく続くことになる。(2010/06/04)

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