『鬼平犯科帳』を復習する
本棚の『鬼平犯科帳』(文春文庫 1976年)は、茶色に変色してシミがつき、かび臭くなっていた。文字が小さいのを我慢して、第一巻の冒頭の「唖の十蔵」を読んだ。鼻がむずむずしてくしゃみが出た。
翌日、ブックオフで文春文庫の「決定版」の「一」を買った。文字が大きくて読みやすい。 解説は、植草甚一が担当している。『鬼平犯科帳』を復習してみようと思い立ったことについて書いていて、私とまったく同じ心境だと思った。植草は復習を思いたったとき、最初にやりたかったのは「料理屋のリストを作ること」だったという。これも同じだ。
植草は電車の中の様子を書いている。乗客の男性が読んでいる『オール讀物』に目がいく。男性が開いているページは、『鬼平犯科帳』の「泥鰌の和助始末」(第七巻に収録)で、別の席に座っているもうひとりの男性も同じところを読んでいた。ふたりは、おそらく池波正太郎のコアなファンに違いなく、自分は初心者の部類だろうと分析する。昭和51(1976)年当時、『鬼平犯科帳』が、当時のサラリーマン男性に圧倒的に人気があったことが窺われる記述だ。
『鬼平犯科帳』を読み直すにあたって、私はふたつのことを意識することした。ひとつは植草と同じように料理や料理屋について、もうひとつは季節である。「旬」とは季節と食べ物が強く結びついた言葉がであるが、『鬼平犯科帳』の食の世界はまさに「旬」に集約される。
池波正太郎は詳しい調理法を書かない。そこで、池波作品に登場する料理の解説本が登場する。佐藤隆介の『池波正太郎 鬼平料理帳』(文春文庫)は、『鬼平犯科帳』に出てくる料理を春夏秋冬に分類して、レシピを紹介している。
ところで、「唖の十蔵」の舞台は冬。十蔵は掛川の太平の手下の夫を殺した女房のおふじを匿うが、身重のおふじと男女の関係を持ってしまう。一味におふじを誘拐され強請られるが、結局、一味は一網打尽にされる。十蔵は平蔵に詫び状を残し自害する。おふじは絞殺体で発見され、生まれた娘は長谷川家の養女になった。「啞の十蔵」には蕎麦屋は出てくるが、そばは描写されていない。
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