落語「鍋焼きうどん」
目の玉が飛び出るほど値段が高い鍋焼きうどんを食べながら、頭に浮かんだ落語を一席申し上げます。
竹野のご隠居と熊五郎がそば屋に入り、ご隠居は鍋焼きうどんを熊五郎はかけそばを頼みました。
「ご隠居はなんでも知っているんですってね」
「当たり前じゃ、森羅万象、知らないことはない」
熊五郎は鼻を明かしてやろうと、ご隠居を質問攻めにします。
「鍋焼きうどんはなにから食べるのが正しいんです?」
「昔から、鍋焼きうどんは”ネギにはじまってネギに終る”と言われておる。"礼にはじまって礼に終る"と同じようなものだ。だからネギだ」
「じゃあ、七味唐辛子は何回振るのがいいんでしょう?」
「"三々五々"といってな、3回振って足りないと思ったらもう2振り、合計5回振りなさいという教えだ。3回でだめなことは4回でもだめだから、思い切って5回やりなさいという意味である。役に立つ教えだ、覚えていて損はないぞ」
「ふにゃふにゃした丸いのははなんです?」
「麩だ。"貞女ニ夫にまみえず"といってな、夫が死んでも、貞節な妻は再婚してはならないという古くからの教えだ。夫はまみえてもいいことになっておる」
「はあ?、その天ぷらは、やけに衣が薄いですね」
「ふむ、確かに浴衣のような薄い衣だな。このエビとマイタケはことのほか暑がりなのだろう」
「あー、暑がりね」
「タケノコは知っていますよ。竹の子どもだからでしょ」
「馬鹿者、竹薮に生えるケノコを、便宜上タケノコと呼んでおるだけだ」
「えー、ケノコですかぁ。干し椎茸はどうです?」
「ドンコのことか。うどんと相性がいいから、うどん粉のウをとって、ドンコになった」
「玉子焼きは、いくらなんでもそのままでしょう」
「うつけ者、タは口をついて出ただけだ。正しくはマゴヤキという」
「えー、マゴヤキですか」
「なにを驚いておる、"事実は小説より奇なり"だ。孫のために焼いたからマゴヤキだ」
「ミツバは?」
「昔、おみつというミツバ好きの抹臭い婆さんがいてな、それでミツバと呼ぶようになった」
「エビ天の向こうの白いのはなんで?」
「今はカマボコと呼んでおるが、むかしは鎌倉と呼んだ。それがなまってカマボコになった」
「ほんとですか?」
「"いざ鎌倉"といってな、要するにだ、いざというときの食べ物だ。それが入っているから、鍋焼きうどんは値が張る」
« ピラティスってなんだ? | トップページ | 『キングの身代金』 »
コメント