経済・政治・国際

2022年2月27日 (日)

気候変動対策

「地球温暖化を予測する気候モデルの開発」により、プリンストン大学上級研究員の真鍋淑郎氏がノーベル物理学賞を受賞した。50年前に今の気候変動を予測したのだ。IPCC (気候変動に関する政府間パネル)は1988年に設立され、1990年に第1回の報告書を出した。その最初の報告書の基礎データとなったのが真壁氏の研究である。 

多くの研究者は、1997年に京都で行われたCOP(国連気候変動枠組条約締約国会議)2でとりかわされた京都議定書に、期待と希望を抱いた。その京都議定書の第1約束期間が終わる直前の2010年に、アメリカ、カナダ、ロシアなどとともに、日本は京都議定書の延長に反対した。電気産業や鉄鋼産業、自動車産業などが温暖化対策に対し消極的だったからである。環境立国になりえた日本は、あえてリーダーシップを取らない普通の国になった。日本は1990年ごろまでは省エネルギー技術の分野で先頭を走っていたが、今や先進国の中で最低レベルになってしまった。温暖化対策においても先進国には程遠い。

気候正義は日本ではあまり聞き慣れない言葉だが、ヨーロッパでは毎日のようにマスコミに登場するという。気候正義とは、先進国が化石燃料を大量に消費してきたことで引き起こした気候変動への責任を取ることで、これまで化石燃料をあまり使ってこなかった途上国が被害を受ける不公平を正そうという考え方である。被害を受ける側には将来世代も含まれる。

アメリカのエネルギー産業のトップが化石燃料を扱う会社からクリーンエネルギーを扱う会社にとって代わった。欧州や米国では、産業界にエネルギー転換は避けられないという覚悟がある。脱炭素という概念を積極的に取り入れた成長戦略をとらなければならない。日本政府はクリーンエネルギー政策の舵取りを誤ったといえるだろう。それは、英国グラスゴーで行われたCOP26で露呈した日本の政策の歯切れの悪さで明らかだ。

眞鍋氏のノーベル賞受賞を機に、気候変動に目を向け地球温暖化が切羽詰まった状況にあることを認識すべきだ。また「口ばかりで実行しない人たちには、本当にイライラしますよね」と、エリザベス女王に不誠実さを揶揄された各国の指導者たちには、汚名を返上する政策を実行していただきたい。

 

2022年2月14日 (月)

SDGs

SDGs(持続可能な開発目標)は、2015年9月に、国連で193か国の首脳の合意のもとで採択された「2030アジェンダ」の主要部分を占める。SDGsの目指すところは、世界から貧困をなくすことと持続可能な社会・経済・環境へと変革することが主な柱である。SDGsは、17のゴール、169のターゲット、232の指標からなる。その内容をみると、「誰一人取り残さない」という全員参加型の理想主義が貫かれていて、総花的である。

なぜこのような総花的な内容で合意に至ることができたのか。SDGsには何ら法的な拘束力はない。それゆえゴールとターゲットのうち、自国に都合の悪いものは無視して、いいとこ取りができる。すべての国連加盟国が合意に達したことは、多国間外交史上稀有なことだという。

2019年に、SDGsの進捗状況を評価する「SDGサミット」が開かれた。その結果、国内・国家間で富の不平等が拡大しており、飢餓人口が増え、ジェンダー平等の実現もままならない。貧困をなくすには、IMFの試算によれば2.5兆ドルもの膨大な資金が必要であるという。これを受けて国連はSDGsの達成に黄信号を投げかけ、2030年までの「行動の10年」を提起した。昨年から今年にかけて、マスコミにSDGsという言葉が頻繁に現れるようになり、TVにSDGsをテーマにしたクイズ番組やバラエティ番組が登場したのは、そうした経緯による。 

現在、人類は地球の資源再生能力の1.69倍を使っているという。資源再生能力とは化石燃料や金属あるいは森林などのことである。持続可能な開発を続けるためには、資源の消費を1以下にしなければならない。満身創痍の地球をなんとか回復基調にもっていき、その状態を次の世代さらにその次の世代へと引き継ぐことが、SDGsのキーワード 「持続可能な」の意味するところである。SDGs に対しては反対意見も多いが、是非はともかく、SDGsは帝国型生活様式にどっぷり浸っている私たちが、産み出さなければならなかった処方箋であると認識すべきだ。

 

2021年10月 5日 (火)

カーボンニュートラル

最近、先人が残した天候に関する慣用句が通用しなくなった。今年、日本列島は早めに梅雨が明けた。新潟市は8月2日に36℃を超えその後も晴天が続き、「梅雨明け10日」どころか、20日以上も晴天の日が続いている。

2015年、パリの国連気候変動枠組条約締約国会議(通称COP)において、「世界の平均気温の上昇を産業革命以前に比べて2℃より十分低く保ち、1.5℃以下にする努力をする」と合意された。そのためには、CO2排出量を2030年には半減、2050年にはゼロにしなければならないという。
環境省のホームページによると、日本の年間のCO2排出量は2012年の12億9215万トンをピークに年々減少し、2020年には10億2685万トンまで下がっている。林野庁は、日本の森林が1年間に蓄えるCO2の量は約8300万トン程度であるとしている。この数字はここ何年間も横ばいである。大まかに言えば、この膨大な差を、2050年までにゼロにするのが、カーボンニュートラルである。2050年にカーボンニュートラルを達成すると宣言した国は、日本を含めて120余国ある。これだけ世界の国々の足並みが揃うのは歓迎すべきことだが、達成までのロードマップは全く示されていない。30年後だから何とかなるだろうというのが各国の思惑なのだ。

そもそもCO2排出量をゼロにすることは可能なのかと疑問に思っていたところ、『ドローダウン 地球温暖化を逆転させる100の方法』(ポール・ホーケン編著 山と渓谷社 2021年)という本に出会った。風力や太陽光などを利用するグリーン技術、斬新でチャレンジングな方法、到底CO2削減とは結びつきそうにない方法などが、含意のある鮮明な写真とともに掲載されている。各項目はCO2の予測削減量によるランクづけとコストが計算されていて、カーボンニュートラルを達成できそうな気配がある。

灼熱の日は、地球温暖化の深刻さを痛切に感じる。8月6日、新潟市秋葉区は39.2℃だった。(2021年8月)

 

2020年8月 1日 (土)

中国の新型コロナ対策

中国は、春節の直前の1月23日に人口1100万人の武漢市をロックダウンした。中国全土の人が集まる場所を公共・民間を問わず閉鎖し、新型コロナウイルス感染症(以下、新型コロナ)の封じ込めに成功した。中国を「隠蔽により初動が遅れ、ウイルスをばらまいた、情報があてにならない」というマイナスの面のみでとらえるべきではない。

新型コロナウイルスは12月31日に武漢市で確認され、1月3日にはワクチン株が分離され、1月7日に国連に提供されたという。中国が感染の中心だった頃は、強権的なロックダウンやテクノロジーによる人々の行動監視システムに対し、人権のない国だからできると揶揄されたが、その後は多くの国で中国方式を取り入れた。

突貫工事でコンテナ病院が建設され、5Gを用いた通信システムによる遠隔診断が行われ、医療用ロボットが体温測定や消毒、医療品の運搬を行った。PCR検査なしでもCT画像から新型コロナを診断してもよいとし、アリババ・グループが、CT画像から20秒で診断するシステムを作り、その的中率は96%だという。3月上旬までに中国の160の病院で採用された。

2月11日、アリババ提供の行動監視アプリ「ヘルスコード」が杭州で導入された。感染の危険性が赤・黄・緑で表示され、緑であれば自由に行動ができ、黄は1週間、赤は2週間の自宅待機が要請される。日本の厚生労働省が「新型コロナウイルス接触確認アプリ」を提供したのは6月19日。腹立たしいくらい遅い。中国では多くの企業が新型コロナ対策に協力した。決済アプリ「アリペイ」に、医療関係者に相談できる無料医療相談機能が設けられた。中国のIT企業は、武漢市の医療関係者に宿泊施設を提供し食料を手配し無料送迎を行うなど、無償で協力を行った。中国では人々は政府を信用していない。医師をはじめとする医療人と企業を信用したのである。

中国での感染が落ち着き、感染が世界に広がると、中国はこれを機にとばかりに、感染拡大国に救援物資を送るマスク外交を展開した。まったくもってしたたかである。

4月22日、武漢市が解放された。市民は「ヘルスコード」で管理されている。5月中旬には観光地の70%が再開した。最近では、6月28日に北京郊外で感染者が出ると、政府は50万人が住むその地区をロックダウンした。単純明快な中国の新型コロナ対策から、引延し作戦をとる日本は学ぶことが確実にある。