京都まみれ 井上章一

東京と対抗する視点で京都を論じている。
いまだに京都人は東京を都と認めていない。文化庁の京都移転の際に、「地方再生事業」という言葉に敏感に反応した。「地方」とは何ごとか、京都は「地方」ではない、「地域」に変更しろと。
さらに、早稲田の校歌にも難癖をつける。「♪都の西北」ではない、京都からはるか東、「都の東」だと。
Photo_20200807124501京都まみれ

井上章一
朝日新書
2020年4月 9✳︎

天皇が退位されるとなったとき、京都市長が退位の後は京都でお暮らし頂きたいと発言し顰蹙をかった。
京都至上主義者が東京を首都と認めないその根拠は、がちがちの京都至上主義者である梅棹忠夫も言っているとおり、遷都令が出されていないからだという。平城京から長岡京に都を移したときは、勅令が交付された。長岡京から平安京のときも勅令が出た。明治政府は遷都令を発布していない。

蛤御門の変で焼け野原になった京都から、朝廷は東京に拉致され、公家たちもそれに続いた。人々の絶望は大きかった。そんなことから、御所のある京都の北側人びとは、天皇は東京に一時的に拉致されただけだと、いずれ帰ってきていただけると思うようになった。

京都は、都の中の都という意味である。地方都市の京都にその名がふさわしいか。その名にふさわしいのは東京だろう。あえて明治新政府は、京都に温情を加えたのではないか。
銀座は銀座2丁目ティファニーの前あたりに「銀座発祥の地」の碑があるが、銀座という地名は京都の伏見が源流であるという。見そこなうなと反発する。

寛永寺は江戸幕府が延暦寺を模して建てたもの。東叡山という山号がある。東の比叡山を自称する寺である。江戸幕府は京都の御所を真似たのだろう。明治維新でその土地は縮小されたが江戸時代はかなり広かったという。

洛中の商家の跡取り問題を論じる。京大に入るとろくなことがないと洛中ではいう。ゆくゆくは東京に行ってしまう。一方、同志社は京都の老舗を継ぐだろう子弟が少なからず通っている。いわゆるぼんぼんたちである。洛中の伝統的な商家は否定的な京大感をもっている。

西陣の人びとは、このあいだの戦争というと応仁の乱だという。第二次世界大戦でそれほどの被害がなかったが、応仁の乱では京都は破壊された。このあいだと応仁まで遡れる家はそうない。このあいだの戦争というのは、結構痛い目にあわされた人の子孫たちの言回しだ。
居酒屋で『応仁の乱』(呉座勇一著 2018年)の本について盛り上がる一団がいたという。話の内容は自分たちの先祖が登場したということだった。
応仁の乱で上京と下京に分断された。上京は公家たちが下京には商人たちが住んでいた。明治維新で公家たちは天皇について東京に移り住んだ。祇園祭は下京の町人たちが仕切ってきた。

京都が首都であったらどうなっていただろう。巨大資本に町の中心部は買い取られ、老舗は郊外や他県に出ていかざるを得なかっただろう。あるいは廃業に追い込まれたかもしれない。東京は京都から首都という重荷をおろしてくれた。感謝してもいいくらいではないのかという。京都と東京はそれぞれが譲り合って、相応の役割と立ち位置を獲得しているというところだろう。→人気ブログランキング

京都まみれ/井上章一/朝日新書/2020年
京都ぎらい 官能編/井上章一/朝日新書/2017年
京都ぎらい/井上章一/朝日新書/2015年
関西人の正体/井上章一/朝日文庫/2016年
京都はんなり暮らし/澤田瞳子/徳間文庫/2015年

新訳 アンドロメダ病原体 マイクル・クライトン

『アンドロメダ病原体』は、1969年にアメリカで出版された。現実に起こりうるテーマを、当時の最先端の知識と斬新なアイデアを駆使して描かれている。
宇宙からもたらされた猛毒の病原体に立ち向かった、科学者たちの5日間を活写した作品である。1971年に映画化されている。本書の出版から50年が経ち、IT技術が著しい進化をとげた今でも、十分に受け入れられる内容である。
なおアンドロメダの呼称は、アンドロメダ星座やアンドロメダ銀河とはなんら関連ない。

新しい生物兵器を作り出すことを目的として、宇宙空間の微生物を回収する人工衛星からのカプセルが、アリゾナ州ピードモントに落下した。カプセルを回収しようと軍用車で向かったふたりから、人々が死んでるとの連絡があったあと、通信が途絶えた。

Photo_20200805084201アンドロメダ病原体 新訳

マイクル・クライトン/朝倉久志
早川書房
2012年 10✳︎

ワイルドファイア計画のミッションは、カプセルを回収し、住民46名と軍人2名を死に至らしめた病原体の正体を突き止めめることと、病原体を封じ込めることである。
ワイルドファイア計画のメンバーは、細菌学者のストーン、微生物学者のエヴィット、病理学者のバートン、外科医のホールの4名。

4人はヘリコプターでピードモントに向かった。人々はパジャマ姿で外で死んでいた。苦しんだ様子はなく、ハゲタカがついばんだ箇所からの出血は見られない。
円錐型のカプセルの周りにペンチとタガネが転がっていた。遺体をメスで開くと血液は凝固していた。生後2か月の赤ん坊とひとりの老人が生き残っていた。

ワイルドファイア計画の建物は5レベルに分かれている。レベルが上がるごとにクリーン度が増し、外界と遮断程度も強化されていく。病原体(「アンドロメダ病株」と命名される)が漏れれば、核爆発で研究所は病原体ごと消し去られる。

ユタ州でファントム機がの墜落した。墜落寸前、パイロットはゴムが溶けていくと言った。コックピットの中のゴムがすべて溶けていた。
さらにアリゾナ州で男性巡査が疫病発生の直前にピードモント通過し、その後、発狂し銃でカフェの客を撃ち殺し自らも命を絶った。

アンドロメダ病原体についてわかったことは、病原体は2ミクロンの細菌のサイズであり、空気によって伝播される。呼吸によって肺に吸引され、そこから病原体は血液に侵入し、血液が凝固し死を引き起こす。抗凝固剤は無効。死体からは感染しない。

X線結晶構造解析から病原体は六角形の結晶であることがわかった。培地不要、炭素と酸素と日光があれば成長できる。爆弾を落としたら核爆発の膨大なエネルギーを吸収して、とんでもないことになる。すでにピードモントには核爆弾が投下され感染源を消滅させたはずだ。
ところが、不幸中の幸いか、大統領が命令を先延ばしにしていたのだ。ピードモントには核爆弾が投下されていなかった。

泣き叫ぶ赤ん坊とアスピリンを多量に服用しメチルアルコールを飲んでいた老人が助かったのはどういう理由なのか?
そんな中、研究所が汚染され自動爆破装置が作動してしまった。爆破を阻止することはできるのか。→人気ブログランキング

ザリガニの鳴くところ ディーリア・オーエンズ

1969年、海辺に立つ櫓からチェイスが転落死した。チェイスは村一番の美人と結婚したばかりだった。チェイスの死と湿地に住むカイアの成長の話が、時間を行きつ戻りつしながら語られる。そして驚きの結末が待っている。
著者は動物学と動物行動学の博士号をもつ動物学者である。69歳のときに本書を書き上げた。本書は、湿地帯の地形や気候そこに生息する生物の生態を背景に、差別問題、少女の成長の物語、恋愛小説、フーダニットのミステリと多彩な要素をもっている。2019年にアメリカで一番売れた本だという。

カイアはノースカロライナの湿地帯バークリー・コーヴにひとりで暮らしている。家族に暴力を振るう飲んだくれの夫に耐えかねて母親が家を出ていき、姉と兄が出ていった。相変わらず父親は不機嫌で、カイアは父親の顔色をうかがいながら生活している。父親の機嫌のいいときに、ボートの操り方を教えてもらった。そして父親も家に帰ってこなくなった。

Photo_20200801120201 ザリガニの鳴くところ
ディーリア・オーエンズ/友廣 純
早川書房
2020年 ✳︎9

村の人びとは、カイアを「湿地の少女」と呼び、嘲りあるいは怖がり、差別した。カイアは1日だけ学校に通ったが、そのあと無断欠席補導員がくると姿を隠すようになった。

カイアはボートを器用に操り、魚を獲って燻製にして、黒人のジャンピンに売って金を手にした。カイアは、ジャンピン妻メイべルから畑で野菜を育てる方法を訊き、種をもらった。メイベルが服や食べ物など生活に必要なの物を用意してくれた。

カイアは漁師の息子であり兄の親友であったテイトと親しくなり、読み書きを教えてもらう。聡明なカイアはテイトが持ってくる本を読み、知識を身につけていった。もともとカイアは貝殻を集めたり、鳥の羽を集めたりするのが好きだった。カモメに餌をやり、生物の生態を観察し、自然の法則を理解していった。
時には隣町の図書館に出向き、テイトが紹介してくれた生物学の専門書を読むこともあった。カイアの味方はテイトとジャンピンとメイベル、それと湿地の生物たちだった。

湿地の研究をする生物学者になる目的で、テイトはノースカロライナ大学に入学し町を離れた。約束した翌年の7月4日に、テイトは現れなかった。カイアは絶望しケイトに捨てられたと思った。
そんなカイアにチェイスは近づき、なんとかものにしようとした。結婚を餌にカイアを騙したのだ。

湿地帯の近くに連邦政府の研究所が建設され、大学を卒業したテイトはそこの常勤の科学員として雇われた。カイアとチェイスのやりとりを見て、テイトは身を引くことにした。

カイアはテイトの勧めで、バークリー・コーヴの湿地帯に生息する貝の生態に関する本を書いた。本は好評を博した。カイアは出版社の要請で、グリーンヴィルにバスで出かけ、担当者と次に出版する本の打ち合わせをすることになった。
カイアがグリーンヴィルのモーテルに一泊した夜に、チェイスが転落死したのだった。

警察はカイアを第1級殺人の容疑者として拘束し、検察側は状況証拠だけでカイアの犯行と断定するのだった。バークリー・コーヴの住民である陪審人たちは、カイアにどのような判決を下すのか。

「ザリガニの鳴くところ」とは、茂みの奥深く生き物たちが自然のままの姿で生きているところという意味である。→人気ブログランキング

ビール職人のレシピと推理 エリー・アレクザンダー

ビールの町ワシントン州レブンワースに映画クルーがやってきた。オクトーバー・フェストのドキュメンタリー映画を撮るという。オクトーバー・フェストには大勢の観光客が押し寄せる。およそ3週間にわたって、観光客は催し物に参加し、大いにビールを飲み、秋の恵みに舌鼓を打つのだ。
Photo_20200729145301ビール職人のレシピと推理

エリー・アレクザンダー/越智睦
創元社推理文庫
2020年

オクトーバー・フェストの前日、ビール製造場兼パブ〈ニトロ〉の新作ビールの開栓記念パーティがはじまった。主人公のスローンは客の応対に余念がない。
俳優のミッチェルがマイクを持って客にインタヴューし、それをカメラマンに撮るように指示している。暴君のごとき振る舞いのミッチェルに映画クルーも周りの客たちも辟易としている。

スローンは里親の間を転々として育った。高校を卒業した後、アルバイトで生計を立ながらコミュニティ・ガレッジに通った。アルバイト先で出会ったのがクラウス夫妻。夫妻はスローンの鋭い味覚を見抜き、ビール醸造場の〈デア・ケラー〉で働かないかと誘った。スローンは〈デア・ケラー〉でその才能をいかんなく発揮した。やがて長男のマックと結婚し息子を生んだ。
ところが、最近マックが尻軽女と浮気をしたために、スローンはマックを家から追い出し、新興のナノブリュワリー〈ニトロ〉で、ギャレットの元で働いている(『ビール職人の醸造と推理』)。

夜になって、カメラクルーが〈ニトロ〉に再び現れた。
飲みすぎたミッチェルがロッジのオーナーのリサにクレームをつけた。
〈ニトロ〉を後にしたミッチェルが道で倒れて急死した。ミッチェルのファンクラブ会長だと名乗る若い女性のカットが、リサが殺したと叫ぶ。
検死の結果、デートレイプによく使われる薬が検出され、頭を強く打ったことが死因だという。

ミッチェルが予約したリサ所有のロッジは、めちゃくちゃに荒らされ異様な匂いがしていた。ミッチェル殺しの犯人捜査はマイヤーズ警察署長の手に委ねられたものの、スローンは独自に調べを進める。

本書にはミッチェル殺害の犯人探しとは別に、スローンの実の親探しのテーマがある。スローンの担当だったソーシャルワーカーの女性が現れ、スローンに関する資料から数百ページが消えていたと伝えた。こちらは次作に持ち越されるテーマだ。

前作と同様に本書では、ビール作りのノウハウが披露されている。ビールの製造過程で風味づけに、ポップ以外にもサクランボやリンゴやその他の素材が使われることを知った。→人気ブログランキング

【コージー・ミステリ】
ビール職人の醸造と推理/エリー・アレクザンダー(越智睦)/創元社推理文庫/2019年
ビール職人のレシピと推理/エリー・アレクザンダー(越智睦)/創元社推理文庫/2020年
日曜の午後はミステリ作家とお茶を/ロバート・ロプレスティ(高山真由美)/創元推理文庫/2018年

世界堂書店 米澤穂信 編

発刊される本が必ずといっていいほど話題になる編者が集めた短編は、一味違う。個性的な話が集められている。巻末の各短編に対する編者の一言が効いている。
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米澤穂信 編
文春文庫
2014年

「源氏の君の最後の恋」マルグリット・ユルスナー ル 多田智満子〔訳〕フランス
老いて盲となった光源氏が寂れた庵に居を移した。
そこを訪れた 花散里は百姓女に化けて源氏に抱かれたが、実は道で迷ったのではなく、情けを受けようとの魂胆できたと打ち明けると、「立ち去れ」と帰される。次に大和国の人妻と偽って近づき、源氏と女たちとのやりとりの数々を聞き出すが、唯一話に上らなかったのが花散里との関係だった。忘れてしまったのか。あるいは。。
著者は誤解しているようだ。『源氏物語』で有力な実家を持たず美しくもないとされているのは末摘花であり、花散里ではない。

「破滅の種子」ジェラルド・カーシュ 西崎憲 〔訳〕イギリス
ジスカ氏は骨董品や宝石の小商いをしていた。扱う商品の来歴をでっち上げる才能、つまり口からまことしやかな嘘八百が泉の如く湧きでる。「破滅の種子」という尖晶石の指輪を金を払わず手に入れると、その所有者が死んでしまうとジスカ氏はいう。
骨董屋のでっち上げ噺が現実のものとなって、持ち主が変わるたびに、指輪の値段はつり上がっていく。やがて破格の金額となって、ジスカ氏の息子が父親にプレゼントしようと買う。

「私はあなたと暮らしているけれど、あなたはそれを知らない」キャロル・エムシュウィラー 畔柳和代 〔訳〕アメリカ
部屋のなかに自分の分身ともいえる人間がひっそり暮らしているという不気味な設定。その女性は分身が暮らしていることを知らない。実際は別人の存在を認知していて、知らぬふりをしていることもありうる。

「いっぷう変わった人々」レーナ・クルーン 末述弘子〔訳〕フィンランド
インカは立ち歩きをしているうちに宙に浮く。家族たちはインカが宙に浮いているところを他人に見られるのを恥ずかしく思っている。
これを自在にできるわけではないが、宙に浮くのは底抜けに気持ちがいい。医者は才能だというが、家族たちは小児病だと思っていた。
合唱隊に入るととても歌の上手いハンノがいた。ハンノは影がなかった。さらにアンテロという鏡に姿が映らない少年が登場する。そして3人は変わっている同士が集まるオリジナルクラブを設立した。3人は助け合って、大人になっていった。

以上の4編を含む15編が収録されている。→人気ブログランキング

ビール職人の醸造と推理 エリー・アレクザンダー

アメリカ・ワシントン州のレブンワースはビールの町。
1960年代に、レブンワースの主要な産業であった鉱業と材木産業が衰退したあと、町をクラフトビールの聖地にしようと町の人々が団結した。レブンワースを風光明媚な南ドイツのバイエルン地方の町に似せて再生するという考えを町民は受け入れた。

主人公のスローンは夫のマックとその両親とで、町で最大のビール製造場〈デア・ケラー〉を切盛りしていた。事務所のソファーで事務員の上に乗っかっているマックの裸の尻を目にしたスローンは、〈デア・ケラー〉の仕事から手を引き、夫を家から叩き出した。新規にオープンするビール製造所兼パブの〈ニトロ〉に勤めることにした。
〈ニトロ〉を始めようとするギャレットは、シアトルで会社勤めをしていて、大叔母からビール醸造所の建物を継いだばかりだった。レブンワースは人口2000人の小さな町だ。スローンの行動は町中の噂になる。

Image_20200720165501ビール職人の醸造と推理
エリー・アレクザンダー(越智睦)
創元社推理文庫
2019年 ✳︎9

〈ニトロ〉がオープンの日、レブンワースの町の多くの人々が訪れた。
マックが例の女を連れて現れた。そのせいで、〈ニトロ〉のグランドオープンは荒れた様相を呈した。
翌朝、スローンが、〈ニトロ〉に出向くと、マックのライターが床に落ちていた。発酵槽のタンクの中に〈ブルーインズ・ブルーイング〉のビール職人・エディが死体となって浮かんでいた。
エディは誰に殺され、なぜ遺体がタンクの中に投げ込まれたたのか?

犯人探しはさておいて、いろいろな種類のビールの醸造過程が詳細に書かれていて、ビール好きにはたまらない。読みながらついビールに手が伸びてしまう。ビールが2週間で出来上がるというのを知って、あまりの早さに驚いた。

本書は、「謎解き役が素人」、「容疑者が狭い範囲のコミュニティに属している」、「暴力表現を極力排除している」という、コージー・ミステリにぴったり当てはまる内容である。→人気ブログランキング

【コージー・ミステリ】
ビール職人の醸造と推理/エリー・アレクザンダー(越智睦)/創元社推理文庫/2019年
ビール職人のレシピと推理/エリー・アレクザンダー(越智睦)/創元社推理文庫/2020年
日曜の午後はミステリ作家とお茶を/ロバート・ロプレスティ(高山真由美)/創元推理文庫/2018年

 

パーキング・エリア テイラー・アダムス

読み出したら止まらない息つく暇がない本書のようなサスペンスを、和製英語でノンストップ・サスペンスというそうだ。本書は年末の翻訳ミステリ・ランキングでトップテンの上位にくい込むだろう。映画化も間違いなしだ。

クリスマスイブの前日、雪の降る中、母の膵臓癌の手術に駆けつけようと、女子大生のダービーが愛車のホンダ・シビックで、コロラドからユタに向った。途中、スリップしてボンネットから湯気が噴き出し、ワナパ・パーキング・エリアで足止めさせられた。パーキング・エリアの雪に埋もれたバンの中に、犬用ケージに少女が監禁されていた。ワナパとは小さい悪魔という意味だ。

Photo_20200715083801パーキング・エリア

テイラー・アダムス/東野さやか
ハヤカワ・ミステリ文庫
2020年6月 ✳10

パーキング・エリアのビジターセンターに居合わせたのは、50代後半の獣医だというエド、その妻サンディ、ソルトレーク工科大学の学生だというアシュリー、それとイタチのような顔をした口呼吸のラーズの4名。
間の悪いことに、ダービーのiPhoneはメモリがあとわずかで、しかも山の中で電波環境が著しく悪いときている。

誰が誘拐犯なのか。パーキング・エリアに、除雪車がたどり着くまで6~8時間かかると、ラジオから途切れ途切れに聞こえた。新しい情報ではトレーラーが雪で滑って道路を塞ぐという事故が起こった。一晩、ビジターセンターに閉じ込められるということだ。

ダービーは両親の離婚が決まってから生まれた。母親との間は必ずしもうまくいっていない。それはさておき、ダービーはこうと決めたらいてもたってもいられない性分だ。
早とちりや、ドジを踏んだりして窮地に追い込まれることがあるけれども、ダービーは決意した。今夜のうちに、この場で、雪に閉ざされた小さなパーキング・エリアで、夜が明けて除雪車が到着する前に、自分の力でなんとかすると。
誰が何の目的で少女を監禁しているのか。次々に驚愕の真実が明らかになっていく。

撒き餌または布石あるいはマクガフィンが散りばめられている。そういうことだったのか、そう繋がっていたのか、そことそこが結びつくのか、死んだと思ったら死んでいなかったとか、ジェットコースターのようにストーリーが展開する。星10の面白さだ。→人気ブログランキング

セル スティーヴン・キング

携帯電話により人間がゾンビになる話だ。
携帯電話の普及に納得がいかなかったりあるいは憤りを感じていた人物なら、携帯の電波は体に悪いってよく聞くし、こういうことが起こっても不思議じゃないと前から思っていたんだ、と言いそうな内容である。

主人公はメイン州に住む美術教師のクレイ。妻とは別居中で息子がいる。念願のコミックの出版が決まり、ボストンに来ている。今は10月1日の午後、気分は最高にハッピーなはずだった。

Photo_20200713123401セル
スティーヴン・キング/白石朗
新潮文庫
2007年
✳︎7
Photo_20200713123501

携帯電話を持っていないクレイが、アイスクリームの移動販売車に並んでいると、3時3分に、携帯で電話をかけていた人が気が触れて攻撃的になり、喧嘩を始めた。犬の耳を噛み切ったり、人間の喉に噛み付いたり、包丁を振り回したり、意味不明の大声で叫んだり、ホテルの窓から飛び降りたり、狂った行動をとった。車のぶつかる音が聞こえ、続いて何人もの人々の悲鳴が聞こえた。

携帯電話が人々の正気を失わせ理性を奪った。携帯狂人となった人々は、男女かまわず激しい喧嘩をはじめ、怪我をして血を流しながら歩き回る。服が汚れていようとそのまま。食べ物を奪って貪るように食べる。携帯狂人は明るいときだけ行動し、夜は寝ている。

口ひげの小男トム、15歳の少女アリスとともに、クレイは息子のいるメイン州を目指す。凶暴な携帯狂人が活動する日中を避け、夜中に行動する。もはや人間とは認められない携帯狂人たちの行動を分析し、隙をついて北上する。

携帯狂人は群れを形成するようになり、行動が進化していく。協調性のある行動をとり、空中浮遊するようになる。

クレイの描くコミックのキャラクターでもある謎の赤いフードの男は、携帯狂人たちの行動を指揮するリーダー。その男が着ているのが、ハーバード大のスウェット。ハーバード大卒のその男は、クレイたちの前に現れ、不気味な行動をとるようになる。キングはハーバード大に恨みでもあるのか?

苦言を呈する。ストーリーにキレがない。話をひき伸ばして、無理やり話を作り上げ、無理やりクライマックスにもっていく。どうにも無理やり感が拭えない。→人気ブログランキング

キャリー   キャリーDVD
ミザリー
ファインダー・キーパーズ
ミスター・メルセデス
ジョイランド
11/22/63
アンダー・ザ・ドーム1~4/文春文庫
セル 上下 新潮文庫
ダークタワー IV1/2 鍵穴を吹き抜ける風
ダークタワー IV 魔道師と水晶球 下
ダークタワー IV 魔道師と水晶球 上
ダークタワー III 荒地 下
ダークタワー III 荒地 上
ダークタワー Ⅱ 運命の3人 下
ダークタワー Ⅱ 運命の3人 上
ダークタワーⅠガンスリンガー
幸運の25セント硬貨
ビッグ・ドライバー
1922
第四解剖室
神々のワード・プロセッサ
夕暮れを過ぎて
いかしたバンドのいる街で
スタンド・バイ・ミー(DVD)
ジェラルドのゲーム
ドランのキャデラック
深夜勤務(ナイトシフト1)はしがき
深夜勤務(ナイトシフト1)

書くことについて
死の舞踏 /ちくま文庫/2017年

三体 Ⅱ 黒暗森林 劉 慈欣

『三体』三部作の第二部。
文化大革命により父親を亡くし自らも辛酸を舐めさせられ人類に絶望した葉分潔が宇宙に向けて発信したメッセージは、およそ4光年離れた三つの太陽を持つ三体世界に届いた。そして三体人が地球を侵略する計画が明らかになった。新天地を求める三体人は、千隻を超える侵略艦隊を地球へ向けて送り出す。太陽系への到達は四百数十年後。第一部はここで終わる。

Photo_20200710083201三体 Ⅱ 黒暗森林
劉 慈欣/
大森望、立原透耶、上原かおり、泊 功
早川書房
2020年6月
Photo_20200710083202 三体 Ⅱ 黒暗森林

本書の冒頭で、宇宙学者の羅輯(ルオ・ジー)は葉分潔に、宇宙社会学の公理を伝授される。それは本書の副題ともなっている「黒暗森林」という学説である。
地球よりはるかに進んだ科学技術力を持つ三体艦隊の襲来という未曾有の危機に直面した人類は、国連に惑星防衛理事会を設立し宇宙軍を創設する。だが、三体から送り込まれた、原子よりも小さい極微スーパーコンピュータ・智子(ソフォン)は地球上のあらゆる活動を察知していた。智子は人類文明の発展を阻止するために、基礎研究を妨害した。智子は目に見える思考のすべて解読する。唯一の例外は人間の頭の中にある思考である。つまり、言葉にしたり文章にしない限り智子には悟られない。こうして、地球は三体文明に監視され制御されることになった。

このままでは地球宇宙軍が三体艦隊との最終決戦に敗北することは明らかである。絶望的な状況を打開するため、国連によって前代未聞の「面壁計画」が発動される。人類の運命は4人の面壁者に託される。面壁者は作戦計画を実行する上で、一切の説明を必要としない。それゆえ、面壁者には膨大な権力が与えられる。面壁者は冬眠技術を利用して時を越えることができる。
羅輯を除く3人が秘策を実行に移そうとして自滅していくのに対し、羅輯は遊び呆け、とても面壁者としてなにかをしているとは見えなかった。5年後、羅輯は三体へ向けてへ呪文を発信した。

200年後、人工冬眠から蘇生した羅輯は、かつて自分の警護を担当していた心強い仲間の史強(シー・チアン)と再開する。200年の間に地球上では、大峡谷時代という人口を半分に減らす地獄が訪れ、人々はそれを乗り越えていた。社会は激変し、多くの人々が地下都市で生活するようになり、面壁者は忘れ去られた存在となっていた。

一方、三体艦隊は宇宙塵の斑雪(なだれゆき)によって300隻まで戦力を減らし、太陽系への到着は最初の予測よりもかなり遅れることになった。しかし先発する探査機が間もなく太陽系に到達し、その3年後には後続の探索機9機が到着する。三体艦隊はそれほど脅威ではないという甘い考えが人々の間に広がった。
そして、探査機を向かえ撃つために、2000隻余からなる太陽系艦隊が、楽勝ムードの中、海王星に向けて出撃した。

太陽系に到達したたった3.5メートルの水滴型をした探査機は、2000余隻の太陽系艦隊をまたたく間に殲滅させた。
それを知った人々は精神の崩壊をきたし、地球はカオスとなった。そして「水滴」は地球に向かっていく。
このあと完結篇の『死神永生』に続く。→人気ブログランキング

三体Ⅱ黒暗森林/劉慈欣/早川書房/2020年
三体/劉慈欣/早川書房/2019年

女帝 小池百合子 石井妙子

最初に、2016年の都知事選のエピソードが語られる。
公開討論会で鳥越俊太郎が「わたしのこと『病み上がりの人』と言いましたね」と問い詰めると、小池百合子はいけしゃーしゃーと「言ってません」と突っぱねたという。このエピソードが小池百合子を象徴している。つまり、平気で嘘をつくという性癖である。

小池百合子はカイロ大学を首席で卒業した才媛という触れ込みでテレビに登場し、経済番組のキャスターとして人気を集めた。その後、政治家に身を転じ、日本新党、新進党(自由党)、自民党と政党を渡り歩き、環境大臣、防衛大臣を歴任した。閣僚から外されると、自民党の反対を押し切って東京都知事選に立候補した。その後、自民党を除名されるも、希望の党の党首となって都知事選で圧勝し、次期首相候補といわれるまで権力の階段を登っていった。
ところが、希望の党への民主党からの入党希望者の人選をめぐって、「(安保、改憲で一致しない人は)排除する」と述べた。この「排除する」という言葉を発したことで、小池は求心力を失っていった。

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石井妙子
文藝春秋
2020年 ✳︎10

著者は、小池がカイロで過ごした5年間のうちの2年間、同居していた早川(仮名)さんを取材している。小池を訪ねてアパートにはしょっちゅう男が現れたという。
ペルシャ語は口語と文章体が異なり、文章体を読みこなすのはエジプト人でも大変なことで、日常会話がやっとできる程度の語学力ではカイロ大学の進級は不可能だという。ましてや、勉強をほとんどしなかった小池が卒業できるわけがないという。
今回の取材の後、小泉さんはカイロの地で身の危険を感じ、日常生活をまともに送られないほど怯えたことがあったという。

著者は、小池が週刊誌などで公開した卒業証書や卒業証明書について、細かく分析している。飛行機事故に2回遭遇しそうになって免れたエピソードは、事故の日時と小池が搭乗したとする飛行機とを調べてみると、時間的な齟齬があるという。また卒業を記念してピラミッドの頂上で着物を着てお茶を立てたとする2枚の写真について、疑問を投げかけている。なにしろ小池は胡散臭いことこの上ない。
小池の卒業についてカイロ大学に問い合わせると、小池が在籍した文学部ではなく日本語科の係が対応し、卒業してますと答えるという。エジプトは軍事政権下にあり、日本からODAによる無償の多額の金が入っている。小池はエジプトをしばしば訪れ要人と会っているという。そんな人物の過去をほじくり返したところでエジプトになんらメリットはない。

小池の手法はその組織のトップに近づき、その人物の承認を得たかのような言動で組織を引っ掻き回す。自分の功績はどんな小さいことでも大々的に喧伝する。選挙公約は反故にする、かけられた恩を仇で返し、被った被害は倍にして返す。同僚や部下を下に見て平気で無視したり馬鹿にしたりする。だから周りからの信頼はえられない。

著者は、緻密な取材と冷静な分析と落ち着いた確かな文章力で、小池の半生を明らかにした。小池をここまでにしたのは、小池の嘘を追求しきれなかった日本のマスコミであり、男が牛耳ってきた日本の政治構造であるという。
小池の生き様は、有吉佐和子の『悪女について』の主人公を彷彿とさせる。このような人物が都政のトップにいつまでもいていいのだろうか?というのが正直な感想である。→人気ブログランキング

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