『夕暮れをすぎて』スティーヴン・キング

著者自身が書いている巻末の「サンセット・ノート」によると、著者は「ウィラ」がお気に入りだという。本書はキングの短編集の中でも珠玉選といえる。

「ウィラ」
恋人のウィラがデイヴィットの前から消えた。
ウィラはネオンが恋しくなったんだよという周りの言葉に、銀行投資マンのデイヴィットは、そうかもしれないと思った。
国道26号を歩いて、安酒屋(ホンキー・トンク)に行くと、フィラがいた。
そこで一時を過ごし、酒屋から出て月明かりのもと皆が待っている駅に2人は戻った。
列車事故で亡くなった霊たちがダンスを踊っている。
レイ・ブラッドベリーの作品や、デヴィット・リンチの映画『マルホランド・ドライブ』を彷彿とさせる、夢と現実の間のあやふやな世界を描いたホラー。

夕暮れをすぎて (文春文庫)
夕暮れをすぎて
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スティーヴン・キング グ/白石朗
文春文庫 2009年9月

「ジンジャーブレッド・ガール」
赤ん坊が乳児突然死症候群で亡くなってから、エミリーは走り出した。ジョギングではなくて、かなりハードに。夫婦喧嘩がエスカレートし、エミリーは夫と別居して、父親の別荘にしばらく住むことにした。
エミリーはピカリングの家の横を通った時、車のトランクに数十箇所も刺された女の遺体を目にした。
殺人鬼ピカリングとエミリーとの壮絶な格闘劇が読ませどころ。

「ハーヴィーの夢」
夢を人に話すと正夢にならないと言われている。悪夢が現実にならぬよう願って夫は夢の話をする。

「パーキングエリア」
用を足そうと、真夜中のパーキングエリアに入ると、1台の車が停めてあった。
紳士用トイレに入ると、婦人用トイレで男に女が殴られている様子。リーと呼ばれる男は、決まり文句の「この売女が」と叫びながら、女を壁に打ちつけたようだ。仲裁を買って出るべきか悩んだ末に。。

「エアロバイク」
医者はコレステロールが高いという。
イラストレーターはエアロバイクを購入し、地下の壁面に設置した。壁面にサイクリング用の道路を描き、はじめは15分しかこげなかったが、やがて2時間こぐようになった。本物の道路でサイクリングをしていると思い込むようになり、ついにはトラックに追いかけられる妄想を抱くようになる。

「彼らが残したもの」
会社をずる休みしたことで9.11のテロから免れたものの、同僚を失った男は、生存者罪悪感に悩まされていた。

「卒業の午後」
卒業の日ののどかな午後、ニューヨークの方を見ると大変なことが起こりつつあった。着弾したのだ。卒業生のそれぞれが予定していたことは中止になるだろう。→人気ブログランキング

ダークタワー Ⅱ 運命の3人 下
ダークタワー Ⅱ 運命の3人 上
ダークタワーⅠガンスリンガー
神々のワード・プロセッサ
ミスター・メルセデス
ジョイランド
11/22/63
書くことについて
幸運の25セント硬貨
1922
ビッグ・ドライバー
夕暮れを過ぎて
スタンド・バイ・ミー』(DVD)
キャリー』(DVD

『幸せをつかむ歌』

サンフランシスコの小さなライブハウスで、ロックバンド「リッキー&ザ・フラッシュ」のボーカル兼ギター担当のリッキー(メリル・ストリープ)は、かつて夫と3人の幼い子どもを捨てて、ミュージシャンの道を選んだ。
離婚の後、夫のピートはアフリカ系アメリカ人の女性と結婚し、3人の子どもを育てた。
子どもたちはリッキーを恨んでいる。
リッキーは経済的にどん底の状態で破産を申請している最中。

メリル・ストリープは才能が豊かな役者だと、改めて感じさせる作品である。
ギターの扱い(コードが主だが)が堂にいっていて、歌も上手い。本映画に備えて、ラリー・サルツマンやニール・ヤングらのもとでギターのレッスンを受けたという。
メリルは何をやっても様になるプロ中のプロだ。

幸せをつかむ歌 [DVD]
幸せをつかむ歌
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監督:ジョナサン・デミ
脚本:ディアブロ・ゴディ
原題:Ricki and the Flash
アメリカ 2015年 101分
★★★★

インディアナポリスで暮らすピートからリッキーに電話がかかってくる。
娘のジュリー(メイミー・ガマー、メリル・ストリープの実娘)の夫が家を出て行ってしまい、ジュリーが心身ともに参っているので力になって欲しいとのこと。ピートの妻はアルツハイマー病の父親の介護で留守にしている。

なけなしの金をはたいて、リッキーはインディアナポリスに向かった。
豪華な邸宅が立ち並ぶゲート・コミュニティの入り口で、リッキーは身分証明書の提示を求められる。貧乏ロッカーが訪れるようなところではないというわけだ。

ジュリーは、風呂に入らず着替えもせず、食事もまともに摂らないほど落ち込んでいた。
最初は反抗的な態度をとるジュリーだったが、陽気に優しく接するリッキーに次第に心を開いていく。

サンフランシスコに帰ると、相も変わらぬ貧乏暮らしが待っていた。ある日、リッキーは、バンドのギタリスト・グレッグから求婚され、戸惑いながらも承諾した。
そんな折、リッキーのもとに息子の結婚披露パーティーの招待状が届いた。
お金がないリッキーは欠席しようとするが、グレッグが愛用のギターを質に入れて、お金を工面してくれた。

いよいよリッキーがスピーチに立った。リッキーからの新郎新婦へのプレゼントは歌うこと。ステージには「リッキー&ザ・フラッシュ」のメンバーがスタンバイしていた。→人気ブログランキング

『女の機嫌の直し方』 黒川伊保子

本書は脳からみた「目から鱗」の女性論であり、女性とうまくやっていくための男性向け指南書である。女性との付き合い方に悩んでいる男性諸氏にオススメ。星は6つ。
冒頭の一文、〈女は何が厄介って、些細なことで、いきなりキレることだよな。それと、すでに謝った過去の失態を、何度も蒸し返して、なじること。〉は、男が「何で?」と、つねづね思っていることだ。

カバーの著者紹介によれば、著者はAIの研究開発に従事したあと、「感性リサーチ」社を設立し、現在は取締役社長。人工知能研究者、脳科学コメンテーター。

女の機嫌の直し方 (インターナショナル新書)
女の機嫌の直し方
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黒川 伊保子
集英社インターナショナル新書
2017年4月 ✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎

女性脳は、ことの発端から時系列に経緯を語りながら、そこに潜む真実や心理を探り出している。共感によって話を聞いてもらうと、この作業の質が上がるという。
女性脳には共感が必要だという。

一方男性は、相手が状況を語りだしたら、その対話の意図を探り、素早く解決すべき問題点を洗いだそうとする。優秀な男性脳ほど省エネ型で、枝葉末節にこだわらず、全体をシンプルに捉えようとしているという。これは狩りを行っていた男の性であるという。

女の「地下鉄の階段で転びそうになって転ばなかった話」に、男性は情報量ゼロの話題を取り上げて長々と話すことが、理解できない。
女性脳は「怖い」「ひどい」「辛い」などのストレスを伴う感情が起こるとき、そのストレス信号は男性脳の何十倍も大きく働き、何百倍も長くのこるという。共感されるとその余剰な信号が沈静化するという。共感を得るために話題にあげるのだ。

〈男性は、遠くと近くを交互に見て距離感をつかむ。ものの輪郭をいち早くつかみ、その構造を理解する。女性は、比較的近くにあるものの表面をなめるように見て、針の先ほどの変化も見逃さない。〉長らく狩をしてきた性と、子育てをしてきた性に振り分けられた男女のビューセンサーの違いは、ドライブデートで喧嘩の原因になる。
助手席に乗った女性が「そこ右」と言ったとき、彼女は20m先の脇道を見ているのに、運転席の男性は50メートル先の交差点を見ている。そこで指示に従わなかったとキレる。確かにそういうこともあった。

女性は、交尾さえ遂行すればすぐ死んででもいいオスとは、自分の快適(それは子育てにつながる)に対する責任が違うという。女性が感情的になるのであればそれはその脳にとって必要なことだからだ、とまでいう。
女は共感されたい、男は解決したいのだから、解決したいのであれば、共感するほうがスムーズにいく。
本書のキーワードは「共感」である。→人気ブログランキング

『ハドソン川の軌跡』

2009年1月15日、実際にニューヨークで起きた航空機事故を、クリント・イーストウッドが、登場人物を実名で登場させて、事故を装飾せず忠実に伝えた作品。

ニューヨークのラガーディア空港を飛び立った直後の旅客機が、鳥の大群に突っ込み両方のエンジンが停止した。ビルが林立するマンハッタンの上空で旅客機の高度はどんどん下がっていく。管制官の「空港に引き返せ」という指示に従わず、サレンバーガー機長(通称サリー/トム・ハンクス)は旅客機をハドソン川に不時着水させた。その結果、乗員乗客155人は全員無事に生還し、機長は英雄として世界に報じられた。

さすがアメリカと思ったものだった。
ところが、機長と副操縦士が、米国家運輸安全委員会の厳しい調査を受け苦悩していたことは、まったく知らなかった。
事故後間もない頃に、登場人物を実名で映画にすることは、日本ではありえないことだ。航空会社も映画製作に協力してるという。真実を忠実に伝えようとする姿勢はハリウッドならではものだ。

ハドソン川の奇跡(字幕版)
原題:Sully
監督:クリント・イーストウッド
音楽:クリスチャン・ジャイコブ、ティアニー・サットン・バンド、クリント・イーストウッド
制作国:アメリカ 2016年 96分 ✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎

もし空港に戻ることが可能だとしたら、誤った判断により乗員・乗客を危険にさらし航空機に損傷を与えたとして、機長は英雄から一転ペテン師の汚名を着せられる。
機長は苦しい胸の内を何回も妻(ローラ・リニー)に電話で話す。

いよいよ、公聴会が始まった。
エンジンが止まってからハドソン川に着水するまでの時間は208秒。
まるでテレビゲームのようなシミュレーションの様子が、リアルタイムに公聴会会場に映し出され、ラガーディア空港に無事着陸できることが映し出した。

機長は調査委員会のメンバーに、「シミュレーションは何回練習したのか」と質問する。
「17回」とメンバーが答える。
「事故に直面したとき、チャンスは1回きりしかない。ゲームとは違う。事故の後、状況を分析して判断を下すまでの時間がかかる」と機長と副操縦士は主張した。
事故から決断までの時間35秒を差し引いて、再度シミュレーションが行われると、旅客機は建物に衝突して爆発した。
公聴会会場には、機長と副操縦士の偉業を讃える拍手が起こった。

DVDのボーナス・トラックには、サレンバーガー機長夫妻と副操縦士や乗員・乗客たちのインタビューが収録されている。
人命を左右する仕事であるから当たり前といえばそれまでだが、機長の仕事に対する真面目な取り組みには脱帽する。
たとえば、機長はこれまでの航空機事故をすべて記憶しているという。さらに操縦中に到着地点の空港の気象を1時間ごとにチェックし、データを修正することを常としていることなどである。
サレンバーガー機長の、42年間に培った高度な操縦術と事故に対する豊富な知識、冷静沈着な判断があり、さらに乗員の的確な指示や対処があったからこそ、全員が無事で生還できたのだ。→人気ブログランキング

『なぜメリル・ストリープはトランプに噛みつき、オリバー・ストーンは期待するのか ハリウッドからアメリカが見える』 藤えりか

本書は、朝日新聞の別刷り『GLOBE』に連載されたコラムをまとめたもの。
コラムが執筆された期間に、アメリカ大統領選挙戦があったため、トランプ政権とハリウッドについて所々で触れている。政治、宗教、戦争、人種差別、移民問題、ジェンダーやマイノリティーの問題、貧困問題など、世界が抱える諸問題を映画を通じて浮かび上がらせ、世の不条理を読者に問いかける。饒舌で硬派な内容だ。

ゴールデン・グローブ賞授賞式(2017年1月8日)で、メリル・ストリープは、トランプの人種差別発言や身障者のしぐさを真似したこと批判した。これに対してトランプはツイッターで「ハリウッドで最も過大評価された女優のひとり」「大敗したヒラリーのおべっか使いだ」と中傷した。このあたりのことはニュースで伝えられた。
ところが、トランプを擁護する発言こそなかったが、メリルの発言には賛否が巻き起こったという。さらに、共和党の重鎮ジョン・マケイン上院議員の娘で、FOXニュースの番組ホスト、メーガン・マケインは、 次のようにツイートした。
「メリル・ストリープのこのスピーチこそ、トランプを勝たせた要因。それがなぜなのかハリウッドが認識できなければ、彼の再選を助けることになる」と、意味深長なことをつぶやいたという。

『スノーデン』(2016年)を製作したオリバー・ストーン監督のインタビューで、監督は、ヒラリー・クリントンの介入主義の危うさ、トランプへの期待(ビジネスマンは戦争を好まないとオリバーは言っている)、CIAの腐敗や堕落を嘆いている。

2014年、2015年、2016年に公開された映画を中心に語っている。
ハリウッド映画にとどまらず、ヨーロッパ、トルコ、ブラジル、日本、ニュージーランドなど映画にも言及している。
著者は監督やプロデューサーや出演者に、いとも簡単に、電話でスカイプであるい直接インタービューをすることができる。著者の人脈の広さ、交渉能力の巧みさはどこからくるのだろう。ネットでは、著者は「朝日新聞の噂の女」などと揶揄されていて、フットワークの軽い凄腕ジャーナリストに対する、同業者のやっかみともとれる内容の記事が投稿されている。 →人気ブログランキング

取り上げられている映画は、以下。
『沈黙ーサイレンス』(16年)、『トランボ ハリウッドに最も嫌われた男』(15年)、『ニュースの真相』(15年)、『ハドソン川の軌跡』(16年)、『ジェイソン・ボーン』(16年)、『マダム・フローレンス! 夢見るふたり』(16年)、『バース・オブ・ネイション』(16年)、『タンジェリン』(15年)、『ホームレス ニューヨークと寝た男』(14年)、『ラ・ラ・ランド』(16年)、『スノーデン』(16年)、『アリス・イン・ワンダーランド/時間の旅』(16年)、『ハリウッドがひれ伏した銀行マン』(14年)、『ジャングル・ブック』(16年)、『シーモアさんと、大人のための人生入門』(14年)、『ジャック・リーチャー  NEBER GO BACK』(16年)、『ダム・キーパー』(14年)、『ブルーに生まれついて』(15年)、『MILES AHEAD/マイルス・デイヴィス空白の5年間』(15年)、『ニュートン・ナイト 自由の旗を掲げた男』(16年)、『海は燃えている~イタリア最南端の小さな島~』(16年)、『帰ってきたヒトラー』(15年)、『裸足の季節』(15年)、『ストリート・オーケストラ』(15年)、『健さん』(16年)、『はじまりはヒップホップ』(14年)『アンナとアントワーヌ 愛の前奏曲』(15年)、「将軍様、あなたのために映画を撮ります』(16年)、『ダゲレオタイプの女」(16年)、『彷徨える河』(15年)、『ヒトラーの忘れ物』(15年)、『アイ・イン・ザ・スカイ 世界一安全な戦場』(15年)、『太陽の下で―真実の北朝鮮』(15年)、『未来を花束にして』(15年)、『世界でいちばんのイチゴミルクのつくり方』(14年)

『ファング一家の奇想天外な秘密』

アニー(ニコール・キッドマン)とバクスター(ジェイソン・ベイトマン)の姉弟は、前衛芸術家の両親に育てられた。一家は、銀行強盗を仕掛け銀行に居合わせた人々の反応をビデオに収めたり、写真スタジオで一家の写真を撮るさいに4人が口から血を流してみたり、他人を巻き込んでのパフォーマンスを行ってきた。人騒がせな一家だ。
姉弟が中学生のときに『ロメオとジュリエット』を学校で演ずることになり、父親が裏で手を回して、観客の前で姉弟がキスする場面を仕組んだこともあった。
両親はそうしたことが芸術であるとの信念を持っているが、姉弟は理解できなかった。
前衛芸術の世界ではファング一家はそれなりに有名であった。

ファング一家の奇想天外な秘密 [DVD]
監督:ジェイソン・ベイトマン
原題:The Family Fang
原作:ケヴィン・ウィルソン
制作年:2015年
制作国:アメリカ  107分  ✳︎✳︎✳︎

姉弟は大人になって両親と決別し、アニーは三流の女優として、バクスターは小説家として暮らしていた。
そんなとき、ゲガでバクスターが入院し、アニーが病院に呼び出された。病院からの連絡で両親も病院にかけつけ、久しぶりに一家4人がそろった。

アニーは子供時代を振り返り「普通の家族の生活」を送りたかったと打ち明けた。父親はそれなりに楽しかったはずだと言い返した。
父親は再び4人でパフォーマンスをやろうと提案するが、アニーとバクスターは拒否する。パフォーマンスは思い通りにいかず失敗に終わるが、父親がわざと失敗するように仕組んだのかもしれない。

旅行に出かけた両親が行方不明となり、父親の車には血痕が残されていたと警察から連絡が入った。警察は誘拐事件と断定したが、アニーは狂言に違いないと警察の判断を信じない。姉弟は両親の居場所を突き止めようとする。→人気ブログランキング

原作は、全米でベストセラーになった『The Family Fang』(ケヴィン・ウィルソン)だが、日本語には翻訳されていない。
ドッグヴィル』(2003年)、『記憶の棘』(2004年)、『マーゴット・ウェディング』(2007年)『ラビット・ホール』(2010年)など、ニコール・キッドマンはヒットしそうにない一風変わったストーリーの作品に出演することがあるが、本作もその手の作品だ。日本では公開されていない。

『サイコパス』 中野信子

サイコパスとはどんな人物か?
ありえないウソをつき、不正を働いても平然としている。ウソがばれても、恥じるそぶりを見せない。殺人や詐欺事件をおかしたにもかかわらず、まったく反省の色を見せない。外見は魅力的で社交的で、トークやプレゼンテーションは立て板に水で、抜群に面白い。だが、関わった人は騙されてひどい目にあう。性的にも奔放であるため、色恋沙汰のトラブルも絶えない。経歴を詐称したり、過去に語ったことと反対のことを平気で主張する。矛盾を指摘されると、「そんなこと言っていない」と涼しい顔で言い張る。というような厄介な人物のことである。

サイコパス (文春新書)
サイコパス
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中野信子
文春新書 2016年11月
売り上げランキング: 73

サイコパス(Psychopathy)とは、連続殺人犯などの反社会的な人格を説明するために開発された診断上の概念であり、日本語では「精神病質者」と訳されている。『精神障害の診断と統計マニュアル』では、「反社会性パーソナリティ障害」に相当する。
カナダの犯罪心理学者ロバート・ヘアによれば、男性では0.75%、アメリカの研究者によれば、人口の4%。この差は診断基準の違いによる。

サイコパスは顔の横幅が広い。ある集団実験で、顔の横の比率が大きいほどズルをする確率が高かった。テストステロンの濃度が高いほど顔は横に広くなる傾向があるという。
心拍数が低くしかも上がりにくい人の方が、反社会的行動をとりやすいとされる(→『言ってはいけない』>橘 玲 新潮文庫 2016年 )。
サイコパスは『羊たちの沈黙』のハンニバル・レクター博士のようにIQが高いと思われがちだが、平均ではそういうことはなくむしろ低い。

サイコパスにも種類がある。「捕まりやすいサイコパス」、つまり危険でも不安を感じない「負け組サイコパス」と、「捕まりにくいサイコパス」、いよいよ危険というレベルになると不安を感じる「勝ち組サイコパス」に分けることができる。
「負け組サイコパス」は、犯罪を犯し刑務所に収監されリストアップされる。「勝ち組サイコパス」をどうやって見つけ出すかが問題である。
『暴力の解剖学』の著者・エイドリアン・レインは、臨時職業紹介所に頻回にやってくる人に狙いをつけた。サイコパスは刺激を求め、あるいは組織の中でうまくやっていけずに、短期間に仕事を転々としているはずだと推測した。臨時職業紹介所に頻回にやってくる人のうち、24.1%が反社会性パーソナリティ障害であり、そのうち1/3がサイコパスの傾向の強い人だったという。

脳の血流動態を調べることができるfMRI(核磁気共鳴機能画像法)によると、サイコパスは海馬に機能低下を認め、また、後帯状回の機能不全が認められるという。後帯状回は悲しかった嬉しかったといった情緒的経験を蓄積するところ。脳梁にも一般人と形状の違いがあるという。

家庭環境が安定していようと不安定であろうと、サイコパスが最初に姿を現すのはほぼ14歳であり、健全な家庭環境に育っても、サイコパスは環境が歯止めにならないという。
アメリカの犯罪学者ロバート・マーティソンがそれまでに実施された200以上の犯罪者治療についての論文をレビューし、「サイコパスには何をやっても効果がない」と結論を下した。

著者は、サイコパスは人類の歴史に貢献したとしている。
人類はアフリカで誕生後、短期間に急速に分布域を広げた。リスクを恐れず、未開の地への移住を試みた先祖たちの中には、サイコパスがいただろう。大航海時代の探検家やアメリカ西部を開拓していった人たちのなかにも、恐怖や不安を知らないサイコパスがいただろう。率先して危険を顧みずに行動したサイコパスがいたからこそ、普通の人たちが鼓舞され、追従できたのだろうという。
著者がサイコパスとしてあげる著名な人物は、織田信長、毛沢東、ピョートル大帝、ジョン・F・ケネディ、ビル・クリントン、スティーブ・ジョブス、マザー・テレサ、ドナルド・トランプなどである。

女性のサイコパスには、か弱さをアピールするタイプがいる。
たとえば、漫画研究会やアニメ同好会のようなオタク系サークルに、一見清楚そうで汚れのなさそうに見える女の子が入ってくることがよくあるという。これが「オタサーの姫」。
「サークルクラッシャー」は、サークルの中で複数の男と性的関係や精神的依存関係を持ち、それが原因でトラブルを起こし、集団を崩壊させてしまう女の子のこと。
「オタサーの姫/サークルクラッシャー」は必ずしもイコールではないが、弱者であることを演出をする。金品や物品、様々な便益を得るためのこともあれば、男が騙されて転んでいくのが楽しがるというケースもあるという。やっていることは詐欺師と変わらない。→人気ブログランキング

最近の脳科学分野の劇的な進歩により、さまざまなことが明らかにされている。
たとえばフロイトの業績は科学的に証明できない。いまではトンデモ科学呼ばわりする人もいるという。


『ルポ トランプ王国 ーもう一つのアメリカを行く』 金成隆一

著者は朝日新聞社ニューヨーク支局の特派員。2015年から1年間かけて、14州150人にインタビューを行って書き上げた。

トランプは発言がめちゃくちゃで、見ている分にはおもしろい。アメリカの識者やメディアが指摘したように、年内には人気が陰って選挙戦から脱落するというのが、大方の識者というか世界中の見方だった。それが、蓋を開けたら下馬評を覆したのだ。

インタビューの中でペンシルベニア州のフェンス工場で働くシングル・ファーザー(38)の言葉が、トランプに投票した人たちの本音を表わしている。
彼はオバマとは正反対で下品なやつだ。でも思っていることを正直に言う。これが魅力なんだ。・・・あいつは権威のあるやつにもひるまず、やりかえすカウボーイ。本音むき出し。エリートが支配するワシントンを壊すには、それぐらいの大バカ野郎が必要だ。1期4年だけやらせてみたい。

ルポ トランプ王国――もう一つのアメリカを行く (岩波新書)
金成 隆一
岩波新書 2017年2月
売り上げランキング: 1,976

2016年と2012年の大統領選挙の選挙結果を比較すると、前回民主党が勝利し、今回トランプが勝った州が6つある。オハイオ、ペンシルベニア、ウィスコンシン、ミシガン、アイオア、フロリダ、である。このうちフロリダ以外の5州は、5大湖周辺の通称「ラストベルト(錆びついた工業地帯)」に全体もしくは部分的に含まれる州である。
従来型の製鉄業や製造業が栄え、高卒のブルーカラー労働者たちが、ミドルクラスの生活ができたエリアである。なにも考えず、民主党を支持してきた人たちだったが、今回トランプ支持に回った。これがトランプ勝利の原動力となった。

真面目に働いてもミドルクラスから滑り落ちる。そんな不安や不満は、ラストベルトだけのものではない。NAFTA(北米自由貿易協定)により企業が工場を外国に移す。
学歴がなくとも真面目に働けば食べていけた社会であるはずなのに、後からやってきたヒスパニックが低賃金を武器に仕事を奪っていく。さらに製造業では、不法労働者に職を奪われる。

トランプの公約は、イスラム圏からの入国規制、TPPからの離脱、オバマケアの撤廃、メキシコ国境の壁建設、大規模減税やインフラ投資である。このうち、イスラム国からの入国禁止は裁判所が差し止めし係争中である。オバマケアの撤廃は身内の共和党員の反対で実現不可能となった。メキシコとの壁、減税・インフラ整備は予算の問題で実現は難しいとみられている。唯一、TTPからの離脱だけが実現している。

トランプは選挙期間中、人種だけでなく、イスラム教や女性、身体障害者など、自分と異なるあらゆる属性の人々を侮辱する言動を繰り返した。さらにKKKに対する非難を拒否した。

著者はトランプ政権の政策の行き詰まりによって支持者離れが起こったときに、トランプのこの反知性主義や白人至上主義により、アメリカが危うい方向に進むのではないかと危惧している。最悪の場合、どこかの国と戦争を始めるということもありうるとしている。このことは世界中が密かに懸念していることだ。→人気ブログランキング

ルポ トランプ王国 ーもう一つのアメリカを行く 金成隆一 岩波新書 2017年2月
沈みゆく大国アメリカ 堤 未果 集英社新書 2014年
レーガンーいかにして「アメリカの偶像」となったか 村田 晃嗣 中公新書 2011年
アメリカン・デモクラシーの逆説 渡辺 靖 岩波新書 2010年
ルポ 貧困大陸アメリカⅡ 堤 未果 岩波新書 2010年
現代アメリカ宗教地図 藤原聖子 平凡社新書 2009年
ルート66をゆく アメリカの「保守」を訪ねて 松尾理也 新潮社新書 2006年

『言ってはいけない 残酷すぎる真実』 橘 玲

ベールをかぶされてうやむやにされていること、誤解されて認識されていること、有名な学説が間違いであったこと、宗教などによってねじ曲げられていること。
これらについて、遺伝進化学、進化心理学、認知心理学、犯罪心理学、統計学、脳科学などの分野の論文や著作を紹介し、タブーを表沙汰にしたのが本書である。
扱っているテーマは広範囲わたり、データに対する解説が明快でわかりやすい。

言ってはいけない 残酷すぎる真実 (新潮新書)
橘 玲
新潮文庫  2016年4月
売り上げランキング: 386

知能や容姿、犯罪者としての素因や病気(精神病も含む)、性格(こころ)までもが、遺伝子で決まるという、身も蓋もない現実を見せられる。
この現実を突きつけられて動揺するのは、教育関係者とフェミニストと子育て中の親たちだろう。

解説されたテーマを列挙すると、
・3歳児を対象とした調査で、刺激により脈拍数が増加しない子どもは反社会的な素因がある。
・同じく発汗しない子どもは良心を学習しない。
・黒人は平均より1SDくらいIQが低い。
・アシュケナージ系ユダヤ人(ドイツあたりに住んでいた)は知能が高い。
・繰り返し性犯罪を犯す人物や遺伝的に犯罪者の素因を持つ人物が特定できる。
・顔の横幅が広い人は面長の人より攻撃的である。(→『サイコパス』)
・美人はブスに比べ生涯3600万円多く稼ぐ。ブスは平均的な女性に比べ1200万円損をする (『美貌格差』ダニエル・S.ハマーメッシュ 東洋経済新報社 2015年)
・ボーヴォワールは「人は女に生まれるのではない。女になるのだ」と書いたが、この仮説は社会実験によって否定されている。
・フロイトのエディプス・コンプレックスはデタラメ。
・旧石器時代の人類は集団内の女を男たちで共有する乱婚だった。彼らは別の部族と出会うと女を交換し、新しく集団に迎い入れた女は乱行によって歓迎される。
・男性が、短時間で射精するのは、女性が大きな声を上げる性交が危険だからだ。
女は大きな声をあげることで他の男たちを興奮させ呼び寄せる。女は一度に複数の男と効率的に性交し多数の精子を膣内で競争させることができた。その為には、よがり声だけでなく、連続的なオルガスムが進化の適応になる。
・別の家庭で育てられた一卵性双生児の類似性から、心における遺伝の影響は極めて大きい。
・別々の家庭で育った一卵性双生児はなぜ同じ家庭で育ったと同様によく似ているのか、子育ては子どもの人格形成にほとんど影響を与えない。子どもたちは、友だちのなかでグループの掟に従いながら遺伝的要素を土台として自分のキャラを決めていく→人気ブログランキング

『夫のちんぽが入らない』 こだま

テレビで、今やベストセラーとなった本書のタイトルが「あり」か「なし」かという討論をやっていた。出版に際しこのタイトルでは売れないという出版社内部の意見があったが、あえて踏み切ったという。本書は、著者が同人誌に書いた同名のエッセイを私小説にしたもので、タイトルをそのままにした賭けは大正解となった。番組での小説自体の評価はいたって好評だった。
早速、本屋で探したが見当たらない。店員に声をかけるのは憚れられたので、アマゾンに注文したら翌日に届いた。
本書を読んでいるときに「なに読んでいるの?」と不意に訊かれても、タイトルがたやすくバレない気配りがされた装丁になっている。この堂々としていないところが、小説の内容とマッチしていていい。

主人公は、大学時代から同棲していた1学年上の男性と結婚した。
夫は高校の教師、主人公は小学校の教諭になった。夫とのセックスは、はじめからうまくいかなかった。何度試みても入らない。この「夫のちんぽが入らない」問題をずっと引きずっていく。

夫のちんぽが入らない
こだま
扶桑社 2017年1月
売り上げランキング: 36

夫は風俗に通い家ではポルノビデオを観ていたが、自分に負い目を感じている主人公は見て見ぬふりをし、結婚4年までは平穏だった。

受け持ったクラスが学級崩壊し、精神的に追い詰められた頃から、歯車が狂いだした。
主人公は崩壊したクラスを立て直すことができず、精神的に限界に達し退職した。
日記サイト(実は出会い系サイトだった)で知り合った男たちとつきあい、不思議なことに、その男たちとのセックスはうまくいった。
身体の節々が痛くなり、自己免疫疾患と診断され、薬物治療がはじまった。
子どもの頃からの母親との確執は解決されず、自殺を考えるような心境に追い込まれてしまう。
やがて、夫がパニック障害となり「やる気の出る薬」を飲みはじめた。
夫との間に性的な関係はまったくなくなった。

夫との出会いから20年経った今、大学生の時に周りから言われたように「兄妹のような関係」で、暮らしていくことになったところで終わる。
子どもを産もうと医療機関を訪れたにもかかわらず、「ちんぽが入らない」ことを医師に相談しなかったのは納得がいかないが、筆の力でねじ伏せられてしまう。 →人気ブログランキング

本書は、学資保険を勧める保険外交員と母親に言いたいことで、締めくくられている。〈私は目の前の人がさんざん考え、悩み抜いた末に出した決断を、そう生きようとした決意を、それは違うよなんて軽々しく言いたくはないのです。人に見せていない部分の、育ちや背景全部ひっくるめて、その人が現在あるのだから。それがわかっただけでも、私は生きてきた意味があったと思うのです。〉
普通でない夫婦の奮闘記である。

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