2023年9月13日 (水)

ハンチバック 市川沙央

2023年上半期、第169回芥川賞受賞作。

主人公の井沢釈華は先天性の筋肉疾患をかかえる40代の重度身障者である。
14歳のときに気管切開を受け、それ以来人工呼吸器の世話になっている。
こだわりのある身障者の性が描写される。
極度に湾曲したS字の背骨はだから、ベッドは左側からしか降りられない。右を見ようとしても首が動かない。冷蔵庫の上段にも下段にも手を伸ばせない。右足はつま先だけが床につくから、跛行にも程がある歩き方になる。
ハンチバックとは背骨が曲がった「せむし」という意味。
Img_0306 ハンチバック
市川沙央 
文藝春秋 
2023年6月 96頁

住まいはグループホームの10畳の自室で、両親はグループホームのほか数棟のマンションと多額の資産を残してくれた。したがって経済的には至って裕福である。
食事は食堂で他の身障者と一緒に摂る。日常生活は介護人の世話が必要である。

釈華はコタツ記事ライターで、週に何本かの記事を納入している。
コタツ記事とは、取材せずに、ほとんどネット上の情報のつぎはぎで粗製濫造された記事。1記事3000円で、稼いだ金は全額寄付している。

生まれ変わったら高級娼婦になりたいと呟くアカウントには誰からも「いいね」がつかない。学歴は中卒だが通信大学は2校目に在籍しているから、40歳過ぎても大学生だ。

紙の本を1冊読むと、本の重さと姿勢の関係で体に著しく負担がかかる。
背骨は曲がり肺を潰し頭をぶつけて体は生きるために壊れてきた。生きていれば生きるほど体はいびつに壊れていく。

そんな釈華の望みは妊娠してそして堕胎すること。出産は体が持たないし育てることができないからだという。
そして望みをかなえようと行動に出る。→人気ブログランキング
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2023年9月 5日 (火)

成瀬は天下を取りにいく 宮島三奈 

新潮社主催新人賞で史上初の三冠に輝いた圧巻のデビュー作だ。
成瀬あかりは優秀で物おじしない。200歳まで生きると言っている。
成瀬は中学2年までに様々な賞を獲得している。
西武デパート大津店の閉店が各編に底通している。
成瀬あかりの中2から高3までを描く。
Img_0305成瀬は天下を取りにいく
宮島三奈
新潮社
2023年3月 201頁

「ありがとう西武大津店」
「島崎、わたしはこの夏を西武に捧げようと思う」と成瀬あかりが言う。相手の島崎みゆきは同じマンションに生まれついた。成瀬とは幼稚園から一緒だ。
大津市の唯一のデパート西武が閉店することになった。びわテレビの番組「ぐるりんワイド」に、西武のユニフォームを着ている成瀬が映った。
島崎は成瀬にユニフォームを渡されそれを着て、西武に行った。テレビクルーが来ていて鳴瀬は映るような位置に移動した。
そして西武の閉店日前になった。

「膳所から来ました」
成瀬がまた変なことを言いだした。M-1グランプリに出ると言いだした。相手はわたし島崎で、コンビ名は「ゼゼカラ」、1回戦は3週後だという。
ネタ合わせをするが、そうそう思い通りにはいかない。高校3年になるまで出場を続けるが、思い通りにはいかない。

「階段は走らない」「線がつながる」「レッツゴーミシガン」と続く。

「ときめき江州音頭」
成瀬あかりは高校3年の夏休みを迎えた。
成瀬は朝5時に起きて、4キロのランニングをしてシャワーを浴び、洗濯機を回して、両親と3人分の目玉焼きを作る。志望校は京大で、成績は常にA判定である。
そして、中学2年から続けてきた、「ときめき夏祭り」の実行委員の仕事が回ってきた。
ゼゼカラとしての最後の出番だ。相手の島崎みゆきとは意思の疎通が取りづらくなったと感じている。
家族とともに東京に引っ越すことになった島崎との間をなんとかしようとするが、成瀬の思い過ごしであった。→人気ブログランキング
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2023年7月20日 (木)

ティラノサウルス解体新書 小林快次

恐竜の王者といわれるティラノサウルス・レックス(暴君トカゲの王)を頂点とする、ティラノサウルスについて、最新の研究結果を解説している。ここ10年間でティラノサウルスの研究は目覚ましく発展した。

恐竜は三畳紀の始め2億5190万年前に登場し、ジュラ紀を経て白亜紀の6600万年前に忽然と姿を消している。それは巨大惑星がユカタン半島沖のメキシコ湾に衝突したことによる。
恐竜は中生代の1億6000万年の間、繁栄 していた。そのなかで、ティラノサウルスは6800万年前から6600万年前の約200万年の間生存した。
4065313155 ティラノサウルス解体新書
小林快次 
講談社 
2023年3月 319ページ

ティラノサウルスは18種いて、1軍、2軍、3軍に分ける。3軍はティラノサウルスの中でも古い時代に生きた原始的な特徴を持つティラノサウルスの仲間で、比較的小さいグループである。前足の指は3本で、トサカがある。1軍はティラノサウルス・レックスを含む体が大きい進化型である。頭だけでも1メートルあり、指は2本、体重は6トンもある。なかでもティラノサウルス・レックスは超肉食恐竜と呼ばれる。
2軍は1軍と3軍の間の特徴を備えている。トサカはなく、指は3本、体は中位である。3軍(プロケラトサウルス科と呼ぶ)が1軍へと進化していく過程で生まれたのが2軍である。これら1軍から3軍までを、「ティラノサウルス上科」と呼ぶ。

地殻変動による大陸の変化が恐竜の進化に影響を与えた。
三畳紀後半の超大陸パンゲアの時代には、アメリカ合衆国の東海岸はアフリカ大陸のモロッコと接していた。ジュラ紀後半になって大西洋ができ始めても北アメリカからヨーロッパへ行くのは大変距離があった。イギリス・ドーセットとアメリカ・ユタ州で発見されたストケソサウルス(2軍)は、北アメリカとヨーロッパを行き来していた。

ティラノサウルスの進化と体の大きさについては、3軍から1軍にかけて体は大きくなっている。3軍に属しているユティラヌスやシノティラヌスは体は大きいが、顎は小さく歯も薄い。ティラノサウルスの巨大化は3軍の時に一度起こるが、その後1軍になるまで巨大化は起こらなかった。

ティムルレンギア(2軍)は進化は頭から起こることを示してくれた。ティムルレンギアは、体が小さく他の肉食恐竜に怯えながら暮らしていたが、ティラノ軍団1軍にしか見られない、脳や聴覚の発達が確認できる。

南米、オーストラリアにもティラノザウルスの軍団がいた可能性がある。ティラノサウルス軍団は自らの足で世界中に広がったのである。

ティラノ軍団(ティラノサウルス上科)は、3軍と2軍以上に分ける。3軍はプロケトサウルス科を意味し、2軍以上はパンティラノサウルス類と名付けられた。3軍はヨーロッパとアジアに生息し、2軍以上は世界に生息はにを広げていったという考えに基づいている。

ティラノ軍団以外の大型肉食恐竜には、ケラトサウルス982キロ、アロサウルス2396キロ、サウロファガナクス3591キロ、アクロカントサウルス5250キロなどがいる。ちなみにティラノサウルスは6168キロ。
ティラノ軍団はおそらく、アロサウルス類が絶滅に追いやられるまで、陰で息を潜めて生きていたに違いない。地球温暖化で海面が上昇し、平地が少なくなったことでアロサウルス類が絶滅し、自分たちの出番を得た。

トリケラトプスの骨盤にティラノサウルスの歯の跡がついた化石が発見された。肉食恐竜のティラノサウルスが、植物食恐竜のトリケラトプスを食べていた証拠である。

肉食恐竜が植物食恐竜を捕食しようとしている決闘恐竜の化石が見つかっている。

今のところ、ティラノサウルスの卵の化石は見つかっていない。
産みっぱなしか抱卵か。著者の説は、産んで穴の中に入れ植物で覆い、生まれてくるまで卵を見守っていたというものである。

年齢を知るためには成長停止線を探し、その状態から年齢を推定する。
ティラノサウルスは30歳で怪我や痛風結節や、細菌感染などの跡が見られる。その頃に寿命をむかえたと考えられる。→人気ブログランキング
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2023年7月 5日 (水)

チャットGPT vs.人類 平和博

GPTとは、生成事前学習トランスフォーマーGenerative Pretrained Transformer)の略である。トラスフォーマーは、グーグルの研究者たちが2017年に発表した深層学習モデルのこと。
チャットGPTは、一般の人にとって最先端のAIを利用するハードルを劇的に下げた。
Gpt-vsチャットGPTvs.人類
平和博
文春新書 
2023年6月 222頁

チャットGPTは、もっともらしいデタラメを吐き、それは「幻覚」と呼ばれている。正しさや適正さで判断しているわけではない。人間が持っている常識がないからだ。
しかしデタラメな回答が悲劇を招くこともある。グーグルは生成AIのバードの誤った回答を表示したことで、親会社アルファベットの株価が急落し、1日で総額1000億ドルが消失した。

論文における剽窃検知ツールを試みようとしている。
オープンAI社が提供しているAIによる生成テキストの検知ソフト「AIテキスト分類器」は、テキストがAIによって生成されている可能性を、非常に低い、低い、不明、やや高い、高いの5段階で評価している。チャットGPTは、参考文献すら捏造してしまう。
「電子透かし」も使われているが、決め手となるような効果的な対策はない。

チャットGPTの5大リスク、プライバシーの侵害、企業秘密の漏洩、雇用の喪失、サイバー犯罪、そして制御不能な進化への懸念について、それぞれの事例を提示している。

某画家の作品として生成AIが作成した画像を、グーグル検索が取り込み、それが某画家の代表作と表示してしまった。
ある収賄事件についてチャットGPTに回答を求めると、内部告発者が被告となっていた。
チャットGPTに、氏名、メールアドレス、住所、クレジットカードの下4桁の番号が表示されたことがあった。
企業秘密が漏れる。アマゾンの社内データとチャットGPTの回答とが類似する事例があったため、社内の機密情報をチャットGPTに入力しないよう警告を出したという。

AIの進出によって効率化の影響を受ける職業は何か。
全面的に影響を受ける職業として数学者、税理士、財務定量アナリスト、ライター・作家、ウェブデザイナー。GPT自身による評価では、公認会計士・監査人、ニュースアナリスト・記者・ジャーナリスト、弁護士秘書・事務スタッフ、臨床データマネジャー、気象変動アナリストなど84職種が挙げられた。
身体活動が中心となるアスリートや料理人、電線設置・修理工などは影響なし。

米IBMのCEOは従業員の採用を一時停止するという。そうすると約7800人の雇用が喪失するハリウッドの脚本家たちは映画、テレビにおける脚本をAIの学習データとして使うことの制限を掲げた。

大規模言語モデルによってフィッシングやオンライン詐欺は、より迅速に、ずっと本物らしく、そして極めて大規模にできるようになった。
米大統領戦においてフェイクニュースが問題になったが、より巧妙に、ローコストで行いうるだろう。
「街の声」や「ネットの声」が捏造されるかもしれない。

チョムスキーらは、AIには知性が欠落していると指摘した。
極めて深刻な欠陥は、知性の最も重要な能力を欠いているということだ。その事象がどんなことかとか、過去にどうだったか、今後どうなるのか、という記述と予測の能力だけでなく、何がその事象ではないのか、そしてその事象の可能性のあるものとは何か、可能性のないものは何かということを説明する能力がないのだ。それらは説明という能力の構成要素であり、真の知性の証だ。

チャットGPT、は、万能さが喧伝され、そこに知性を投影してしまいがちだ。知性の中核となる価値判断応力の部分は空洞だ。チョムスキーらの指摘は、知性よりも、むしろ思考の欠如、規範への隷属の姿が浮かんでくるとする。生成AIの広がりは事実関係や倫理を逸脱した情報が膨張していくリスクも意味する。チョムスキーはそれらを疑似科学と呼び、そのような事態に警鐘を鳴らす。

タイムは、2023年1月18日の記事で、オープンAIがチャットGPTで有害な内容を抑制するためのデータ加工を、サンフランシスコのアウトソーシング会社「サマ」に委託し、実際の作業はケニアの労働者が担ったと報じている。
現地の労働者が受け取った賃金は、時給1.32ドルから2ドル。オープンAI社は時給12.50ドル総額20万ドルで契約を結んだという。どんでもない搾取が行われていた。

チャットGPTのデータの収集には、問題のあるサイトも含まれていた。ロシアの国営メディア「RT」はフェイクニュースの発信源であると、EUは配信を全面禁止している。RTやヘイトスピーチの温床とされる「4chan」や白人至上主義のサイト、反トランスジェンダーのサイトが含まれていた。

AI覇権競争では米国、中国が抜きん出ている。日本ははるかに遅れている。→人気ブログランキング
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2023年6月19日 (月)

壬生の女たち 藤本儀一

新選組の隊士に関わった女たちの目線で、物語が構成されている。
実在の女性も架空の女性も登場する。
Img_0293_20230619114101壬生の女たち
藤本儀一 
徳間文庫 
1985年 283頁

血の花が散る
菱屋の女お梅は、新撰組局長の芹沢鴨に借金を返してもらうようにと、菱屋の旦那に言いつけられる。壬生の八木の屯所を訪れたお梅は芹沢鴨の犯されてしまう。そして芹沢の愛妾になる。
芹沢は酒癖も女癖も悪い。新撰組の若手藩士の佐々木愛次郎がつきあっている17歳のあぐりを狙っている。その2人を新撰組から逃げるように佐伯又三郎が手引きした。 その佐伯が千本通の朱雀野に出たときに、不意に愛次郎に斬りつけ、あぐりを犯した。ところがその佐伯もその場で背後から斬りつけられて殺された。
雨の夜、祇園から芹沢と平山五郎と桔梗屋の吉栄、平間重助は輪違屋の糸里と酔っ払って帰ってきた。そして、芹沢以下3人は寝込みを襲われて惨殺された。

→史実では、深夜、数人の男たち(試衛館派の土方歳三、山南敬助敬助、沖田総司、原田左之助という説が有力)が奥の部屋へ踏み込み、芹沢・平山・お梅を殺害して立ち去った。
お梅は芹沢鴨とともに惨殺されたとなっている。
→ 新選組興亡録 歴史・時代アンソロジー 網田一男編 角川文庫 2003年 
「降りしきる」北原亞以子
もこの事件を書いている。

風ぐるまの恋
お糸であるのに、あの人はお琴と呼んだ子守女のお糸が沖田総司に恋をする。
山南敬助の逃亡を、喀血しながら追いかける沖田に同行する。
山上は俳句趣味だ。芭蕉と木曾義仲の墓が背中合わせになっている、琵琶湖畔ある義仲寺を訪れると、沖田総司は読んだ。
沖田とお糸は山南を先回りして、屯所に連れ戻す。

尻まくりお伊都
お伊都は幾松姉さんと桂小五郎先生の使い走りをしていた。
新選組ではいつの頃から尊攘派をゴリと呼んでいた。川魚のゴリである。
新選組隊士13名がゴリ狩りにやってきた。桂小五郎を逃すためにお伊都は百姓の持ってきた担桶に立ち小便をするというのだ。その隙に桂小五郎に逃げてもらった。
お伊都の独り住いの家に、新撰組四番隊組長・松原忠司が訪ねてきた。
松原は相談事があるという。喧嘩の相手を五条河原で斬って、その遺体を妻女の元に持って行って、素性のわからぬ浪人に斬られたと嘘をついた。ところが妻のお房といい仲になってしまった。そこで今日のきっぷのいいお伊都の振る舞いを見て打ち明けようと思ったと、突拍子もないことをいう。お伊都はお房に会ってみると言った。
お伊都はお房と松原の壮絶な最期を目にする。

吹く風の中に生きた
まさは17歳のときに原田左之助と夫婦になると決めた。
原田左之助は腹には十字の傷がある。若気の至りで切腹の真似事をした。そのあと縦に創をつけて傷痕は十字になった
まさは男の子を産み茂と名付けた。
二人目を妊娠した。原田は片付けなければならないことがあると言った。
それで寺田屋で龍馬を襲ったのだが、逃げられてしまった。原田は敵でも味方でも自分より偉いと思う人には尊敬の念を抱くという。
この年の11月に坂本龍馬が暗殺されて、現場に原田左之助の刀の鞘が落ちていたという。原田は隊の中で刀を盗まれたと、手柄を譲った謙虚な男という評価になった。

赤い風に舞う
山崎丞の妻になったお鈴の話。11歳のとき、京から37里離れた出石町の広戸甚介様のお屋敷に奉公に上がった。広戸様は豪商でこのお屋敷に奉公するだけで幼馴染から羨ましがられた。いい嫁入りの口が見つかったと言われたものだ。御当主様の妹、八重様がいらしゃった。甚介様は桂小五郎に心酔されいた。甚介様から桂小五郎の命を守るようにと命じられた。
ある日、慌ただしくなった。新撰組が桂小五郎を探しにやってくるというのだ。
桂小五郎は必ずで出石に立ち寄るはずだとの見込みで捜索に来た。八戸様と桂小五郎様が西念寺に隠れていて、そこに二人の着物を届けた。山﨑丞に呼び止められた。窯にいる陶工の父に朝ご飯を届けたと答えた。
桂小五郎は、京都をどんどん焼きにした男だという。焼けた家27513、橋が41、寺社は253、堂上邸18、諸家屋敷51。
山崎から聞いた話を、甚介様に打ち明けた。新選組は、永倉新八、斎藤一、藤堂平助、山崎丞、川島勝司、谷三十郎の6人が来ているという。
桂小五郎は名を変えて八重と金物屋を営んでいる。その金物屋がおかしいと新選組は気づいたようだが、お鈴は備前の行商人だと答えて山崎を騙した。お鈴は山崎と夫婦の契りを交わした。京の騒ぎが静まったら、隊士は散らばる。そうしたら迎えにくるという。山崎は、慶応4年の春先に傷が悪化して亡くなった。

あてを過ぎた男
若大夫の深雪を近藤勇は貰い受けようとする。
トロフィー愛妾ということだ。
淀川を下って大坂に行けと近藤様はいう。島原に連れ戻されないように俺がするという。
1ヶ月後、木津屋の御主人から、大坂の新町にある識屋という妓楼に行くようにいわれた。
秋口になって近藤勇が現れたのだ。そして証文を見せて目の前で破り捨てた。
仏光寺下屋敷に住む手筈を整えていた。
それが近藤が深雪の妹お考と、絡まっているのを見てしまったのだ。
近藤から二百両の手切金が支払われた。
そして、斎藤一と男と女の仲になった。
斉藤とも別れ、木津屋に相談すると、大坂の薬問屋の後妻におさまった。
明治になって、鴻池のご当主が紹介してくれた斎藤一こと藤田五郎に会った。警視局警部補という役職で士族になっていた。

夕焼けの中に消えた
西本願寺の床屋「床伝」の店主は新撰組の諜報役だった。店主の娘おみのは山崎烝と横倉甚五郎のどちらかに操を捧げようと思っていた矢先に、攘夷派の4人の侍に強姦された。おみのは開き直り、反幕派の情報を身体で集めた。
反幕派に父親もおみのも正体がバレ、父親は絞首刑、おみのは10人に犯された。→人気ブログランキング
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新選組の料理人/門井慶喜/光文社/2018年
五郎治殿御始末/浅田次郎/中公文庫/2021年
一刀斎夢録/浅田次郎/新潮文庫/2013年
壬生義士伝/浅田次郎/文春文庫2012年
輪違屋糸里/浅田次郎/文春文庫/2007年
壬生の女たち/藤本儀一/徳間文庫/1985年
燃えよ剣 上/司馬遼太郎/新潮文庫/1972年
燃えよ剣 下/司馬遼太郎/新潮文庫/1972年

2023年6月 1日 (木)

編集者の読書論 面白い本の見つけ方、教えます 駒井稔

本を作る立場の編集者が書いた読書案内だから、幅広く深くて、なにより面白い。書籍全般の土台の部分から攻めている。海外の図書館や書店、ブックフェアなどにも足繁く通う。
欧米では編集者の地位は作家と同等であるが、日本では編集者は黒子あれと当たり前のようにいわれてきた。そのことについて、〈「編集者は黒子である」という抽象性から抜け出して、職業人としての編集者像を明確に提示できるようにすることが私の狙いでした。敢えていまどきの言葉でいえば、編集者は「クリエイター」なのだということを強調したかったのです。〉と書いている。著者は、編集者の資質とは第一級の批評眼をもち、ビジネスパーソンであらねばならないとしている。
Photo_20230601084001編集者の読書論 面白い本の見つけ方、教えます
駒井稔 
光文社新書 
2023年 339頁

本書の特徴的なところは、ある作家が別の作家の作品について触れていることを紹介したり、つまり本同士のつながりや作家同士の縦や横のつながりについて書いていることである。具体的には、マルクスの『資本論』に、ロビンソン・クルーソーが登場するという、なんとも意外なエピソードである。
シルヴィア・ビーチの『シェイクスピア・アンド・カンパニイ書店』に、ヘミングウェイとの交流が書いてあって、ヘミングウェイの『移動祝祭日』に「シェイクスピア書店」というエッセイがあるというようなことである。幅広い知識に裏付けされた本の紹介は、読んでみようという気にさせる。

各章は、次のような項目で成り立っている。
Ⅰ、世界の〈編集者の〉読者論、Ⅱ、世界の魅力的な読書論、Ⅲ、世界の書店と図書館を巡る旅、Ⅳ、「短編小説」から始める世界の古典文学、Ⅴ、自伝文学の読書論、Ⅵ、児童文学のすすめ。

ロシアの編集者イワン・スイチンの『本のための生涯』には、スイチンは当時のトルストイやチェーホフなどおよそあらゆるロシアの小説家とつながりがあり、政府関係者との豊富な人脈があったことが書かれている。

NRF出版部は、プルーストの『失われた時を求めて』の原稿をボツにする。原稿審査会でのジッドの発言で一度はボツになった。後にジッドは、その過ちをプルーストに謝罪する手紙を送っている。

『パブリッシャー―出版に恋をした男』(トム・マシュラー著)。ブッカー賞を創設した編集者である。
ジョン・レノンの本を2冊出版して売れ行きがよかった。レノンから本を出したがっている人物がいると、オノ・ヨーコを紹介されたが、ユーモアを介さないオノ・ヨーコがレノンの恋する相手だというのが信じられなかったという。出版は断った。亡くなった時に駆けつけると、45分待たされ、自己紹介を求められ帰ってきたという。

毛沢東は若い頃から猛烈な読書家であった。
『毛沢東の読書生活―秘書がみた思想の源泉』の著者は16年もの年月を毛沢東の秘書として過ごした。毛沢東は、読書をしていて昼寝を忘れるとか食事を忘れるのはしょっちゅうであったという。

本の中には鈍器本(鈍器となるような分厚い本)と呼ばれる本が何冊かあるが、最も厚い本は、サモセット・モームの『読書案内』である。

夏目漱石は「予の愛読書」でロビンソン・クルーソーの作者であるスティーヴンソンの文章を褒めているということを知ると、スティーヴンソンの作品を俄然読みたくなる。(宝島/スティーヴンソン/村上博基訳/光文社古典新訳文庫)

『アメリカのベストセラー』(武田勝彦/研究社出版/1967年)には、「ベストセラー」という言葉が誕生した経緯が書いてある。日本のベストセラー誕生についても触れている。
〈江戸時代には「千部振舞」という言葉があった。(中略)発行部数が千部になると、書店主と従業員がうちそろって氏神様にお詣りにゆく。そしてお祝いの宴を開く。(中略)江戸時代も末期になり町人の文化が発展すると文学物は大いに愛読された。柳亭種彦の『偽紫田舎源氏』4篇38巻(1820〜40)は、1万5千部が売りさばかれたと記録されている。この数字は当時の印刷技術を考慮すると信じ難いほどの数といえよう。〉→人気ブログランキング
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2023年5月23日 (火)

半導体有事 湯乃上隆 

有事は2つある。
一つは、台湾有事。中国は台湾の半導体企業TSMCを喉から手が出るほど欲しい。
もう一つは、2021年の半導体不足によって誘発された、常軌を逸した各国各社の半導体への投資である。世界中で狂気的な半導体製造能力構築競争が起きている。その反動で半導体不況がやってくるのではないか。
Photo_20230523143001半導体有事 
湯乃上隆 
文春新書 
2023年 255頁

2022年10月7日、米国商務省は、先端半導体や半導体製造装置の中国への輸出規制を発表した。この輸出規制は、中国半導体産業の息の根が止めるような厳しいものだ。

それ以前の、2020年5月14日、米国はTSMCの5nmの最先端製造技術を手に入れることになったばかりでなく、5G通信基地局で世界を制覇しかけていたファーウェイの野望を叩き潰すことに成功した。TSMCが中国ではなくアメリカ側についた日である。
米国は、台湾有事の際は、台湾自らがTSMCの半導体工場を破壊すべきであると提案しているという。

TSMCは10.7が発表されると、米国・日本・ドイツ・シンガポールの4か国にファウンドリー工場を建設することにした。

また、2022年8月に日本の主要企業8社が出資してロジック半導体などの国産化に向けて「ラピダス」が設立された。2027年までに2nmのチップを作るという。著者は逆立ちしたって無理だという。

半導体はトランジスタという素子を集積することにより形成されている。そのトランジスタを微細化すると高速に動作するなど高性能になる。半導体とは半導体集積回路のことを指している。半導体集積回路はシリコンという半導体基盤上に形成したトランジスタという素子を集積して電子回路を構成したものである。トランジスタとは電流が流れたり流れなかったりするスイッチのようなものである。流れる流れないを2進法としてとらえ、コンピュータの演算になる。トランジスタを微細化すればトランジスタが高速で動き、消費する電力が削減できる。結果的にコストが削減できる。

2019年に、ASMLはEUV(極端紫外線)を使った半導体製造装置リソブラフィを完成させた。TSMCは1年間で100万回の練習を行なって、2019年に7nmの生産にロジック半導体の量産にEVUを使った。

日本の日立や東芝が伸びなかったのは設計から完成まで垂直統合型だったからだ。そのため両社の製品には互換性がない。

ASMLの出荷する1台100億円するEUVリソグラフィは生産が間に合わない。TSMCは毎年20〜30台購入している。ASMLとTSMCの売り上げグラフは共進している。

アメリカのクリスマス商戦は凄まじい。
TSMCはアップルの受注に照準を合わせて高速化を強いられている。
アップルは毎年春から夏に新型アイフォンを発表し12月のクリスマス商戦にターゲットを合わせて約1億台の大量生産を行う。これに合わせてTSMCは最低1億個のアプリケーションプロセッサを製造しなくてはならない。

2021年から、各地域各社の半導体投資は常軌を逸しているという。半導体不況がやってくるのではないか。なぜこのような、ことが起きているのか。7nm以降の半導体の製造がTSMCに偏在しているからだという。

2014年から中国が世界最大の半導体市場であることが確認された。
中国は世界の1/3の半導体を必要としているにもかかわらず、自給率が低い。中国において原油を抜いて貿易赤字の元凶が半導体になっている。
2015年5月に「中国製造2025」を制定し、半導体自給率を2020年に40%、2025年に70%に引き上げる目標を立てた。しかし、米国の調査会社の予測では、2026年でも中国の半導体自給率は21 .2%にとどまるとしている。
中国のファウンドリーSMICが7nm開発に成功した。そして、米国は「10.7」の規制を課すことになった。インテルは10〜7nm以上に進めていない。
紫光集団はM&Aによって半導体会社を買いまくろうとしたが、うまくいかなかった。
爆買いに失敗した中国は、自国に半導体ファウンドリーを爆建設するようになった。

米国も韓国も政府主導で半導体工場を建てようとしている。、半導体工場をどんどん立てている2021年初頭に起きた半導体不足がきっかけとなって、世界中で狂気的な半導体製造能力構築競争が起きている。

日本の半導体産業はなぜ凋落したのか。「過剰技術で過剰品質を作ってしまう」
メインフレーム(汎用の大型コンピュータ)からPCの時代にパラダイムシフトが起きた。DRAMは25年持つ必要はない。そこで、韓国に負けた。

2022年12月末の時点で、TSMCが3nmに到達し、サムソンは3nmの歩留まりが上がらず、5/4nmに留まっており、インテルが10nm〜7nmから先に進めずにいる。そして日本は40nmレベルで停滞したままだ。

日本の半導体産業は挽回不能である。日本のメーカーは2010年頃40nmあたりで止まり脱落してしまった。いったん微細化競争から脱落すると、先頭に追いつくのは不可能である。
①日本の希望の光は、ウエハ、レジスト、スラリ(研磨剤)、薬液半導体材料。
②前工程で10数種類のある製造装置のうち、5〜7種類において日本がトップ。
③製造装置の数千〜十万のうち、6〜8割が日本製である。
日本は半導体製造装置、半導体材料の7〜8割が日本製である。これらの日本優位は徐々に脅かされている。

半道程製造に欠かせない希ガスの供給に暗雲が立ち込めている。ウクライナはネオン、アルゴン、クリプトン、キセノンなどの希ガスの供給国である。
ロシアはC4F6の供給国であり、アメリカは年間8トン消費しているという。
希ガスもC4F6も半導体の微細加工に必要不可欠なガスである。
2025年に3M社のPFAS製造から撤退してしまう。(環境問題や訴訟の問題から)
代替冷媒を探さなくてはならない。

インテルの共同創業者のゴードン・ムーアが1965年に、トランジスタの集積回路は2年で2倍になると発表した。この経験則は「ムーアの法則」と呼ばれている。
ムーアの法則の本質。①トランジスタを微細化することにより、より高性能な半導体が安く実現できる。②微細化により、利潤をうることができる。③その利潤を微細化の研究開発や設備投資に使う。ムーアの法則の本質はこのサイクルを循環させることであり、循環させることによって、ムーアの法則は60年以上続いてきた。このサイクルを守ることが重要。→人気ブログランキング
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半導体有事/湯乃上隆/文春新書/2023年
半導体戦争 世界最重要テクノロジーをめぐる国家間の攻防/クリス・ミラー/千葉敏生/ダイヤモンド社/2023年

 

2023年5月10日 (水)

半導体戦争 世界最重要テクノロジーをめぐる国家間の攻防 クリス・ミラー

チップウォー(半導体戦争)はどのような状況なのか? 現在、最先端の半導体を大量に生産することができる企業は、台湾積体電路製造(TSMC)、サムソン、インテルの3社である。そのうち、先端ロジック製品の90%をTSMCが押さえている。なぜこのような偏った状況にあるのか?
本書には、1940年代の真空管から始まり現在に至る半導体の歴史を詳細に描かれていて、それらの疑問に答えてくれる。ちなみにロジック半導体は、スマートフォンやパソコンに搭載され電子機器の頭脳の役割を担う。
51psz2v9pl_sx351_bo1204203200_ 半導体戦争 世界最重要テクノロジーをめぐる国家間の攻防
クリス・ミラー/千葉敏生
ダイヤモンド社
2023年 552頁

半導体産業の初期、米国の半導体を使った電化製品を日本が作り米国に売るという構図のうちは、競合関係はなかった。日本は半導体産業に力を入れ、半導体の生産が急速に伸びていった。その後、データの一時的な保持に使われるDRAM (Dynamic Random Access Memory ディーラム)の生産をめぐって、日米は半導体戦争に突入する。その結果日本は厳しい制裁を課され、さらに日本の金融危機と相まって、1992年にDRAMの生産で日本はトップの座から引きずり下ろされた。敵の敵は友という考え方のもとに、米国は韓国のサムソンを支援した。

インテル創業者の一人であるゴードン・ムーアは、1965年に自らの論文に「半導体の集積率は18か月で2倍になる」と書いた。この経験則は「ムーアの法則」として、2010年代まで通用し、半導体の性能は目覚ましい進歩を遂げることになる。1990年代以降、半導体の製造だけを専門に行う企業の「ファウンドリ」と、工場を持たずに設計だけを行い生産を完全に他社にアウトソーシングする企業の「ファブレス」が、隆盛するようになる。ムーアの法則を成し遂げるには、微細な形状をチップに刻み込めるより高い精度のリソグラフィ装置がもとめられた。米国企業はオランダのリソグラフィ装置メーカー のASMLを、ニコンやキャノンに変わる信頼できる取引先として扱った。今や、世界の主な半導体製造会社の80%がASML社のリソグラフィ装置を使っている。半導体の設計や製造には莫大な資金とイノベーションが必要であるため、半導体の水平分業化が進みサプライチェーンは複雑化していった。

米国の半導体会社テキサス・インスツルメンツでキャリアを積んだモリス・チャンは、1985年に台湾政府から招聘され、TSMCを設立した。TSMCは中国と価格で競争しても勝ち目がないので、最先端の半導体を製造する選択肢しかなかった。ファウンドリとしてのTSMCの成功は、米国の半導体産業とのつながりが決定的な要因であった。

最先端の半導体を設計するだけでも、コストは1億ドルを超えることがある。最先端のロジック半導体の製造工場を建築するには200億ドルの費用がかかるが、数年で時代遅れになってしまう。

中国の半導体は、その大半が別の国でも製造できる。ロジック半導体などの先進的な半導体に関していえば、中国は米国のソフトウェアや設計、米国・オランダ・日本の装置、韓国や台湾の製造にまるまる依存している。中国政府は「中国製造2025」を打ち出した。中国の半導体輸入率を、2015年の85%から2025年までに30%まで減らす構想だ。つまり中国は半導体の自給自足を目標に掲げた。オバマ政権は、半導体産業を私物化するために、1500億ドル(およそ20兆円)の産業政策を認めないと中国指導部に主張するといった。しかし、そんな苦言が通用するはずもない。多国籍で複雑なサプライチェーンで成り立っている産業において、技術的な自立を実現することは、世界最大の半導体大国である米国にとってさえ、絵に描いた餅である。しかし中国はそれを達成しようと目論んでいる。

今やチップウォーは、中国対、米国・台湾・韓国・日本・オランダなどの自由主義国家という構図になっている。中国は技術的にも生産設備にも、設計に必要なソフト面でも大いに遅れをとっている。中国が追いつこうにも非常に厳しい道のりが待っている。劣勢を一挙に覆すために、中国は喉から手が出るほど台湾の半導体産業を手に入れたい。最悪のシナリオであるが、台湾有事についても本書は触れている。

本書は言及していないが、2022年8月に日本の主要企業8社が出資してロジック半導体などの国産化に向けて「ラピダス」が設立された。TSMC、サムソン、インテルに割って入ろうとしている。→人気ブログランキング
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2023年4月13日 (木)

夫婦善哉 織田作之助

織田作之助の『夫婦善哉』は、青空文庫で読むことができる。
粗筋は、甲斐性なしの男とくっつくと女は苦労するが、いずれは落ち着くところに落ち着いたという話である。

芸者の下地ッ子の蝶子は、妻子持ちの柳吉とくっついてしまう。柳吉は理髪店の小物を扱う卸問屋の若旦那であった。床に臥す柳吉の父親は柳吉を勘当する。
やがて妹が養子と結婚して店を継いだ。柳吉は廃嫡となった。
夫婦善哉
織田作之助
青空文庫
1940年

蝶子はヤトナ芸者となって働きだした。ヤトナとは臨時雇で宴会や婚礼に出張する有芸仲居のことで、芸者の花代よりは随分安上りだから、けちくさい宴会からの需要が多く、儲けも少なかった。ヤトナ芸者の仕事は体力を使ったが、蝶子はもともと陽気な性格だったから、さほど苦にはならなかった。

柳吉は仕事に就いても3ヶ月で辞めてくるし、昔取った杵柄で理髪店の小物を扱う店を始めるが、まったく流行らず閉店する。
やがて、二人の名前からとった「蝶柳」という関東煮屋をはじめ、それなりに繁盛していたものの、柳吉が遊びはじめ店を閉めることになった。次は果物やをやったが、うまくいかなかった。

柳吉が腎結核にかかり、蝶子の母親が子宮癌にかかってどちらも入院した。柳吉は手術を受けたが、母親は亡くなった。
柳吉は湯崎温泉で出養生した。蝶子は実家に帰ってヤトナで稼ぎ柳吉に仕送りした。近所の金持ちから妾にならないかとの打診があった。

芸妓仲間が鉱山の社長夫人になっていた。1000円を期限なしで貸してくれるという。その金でカフェを開いた。それなりに順調だったが、女給たちが売春を始め、一旦全員を辞めさせて、おとなしそうな女を雇い直した。
そんな折、親父の具合が悪いと柳吉の娘が伝えにきた。親父は死んだが、蝶子は葬式に出ることを許されなかった。柳吉から蝶子の父親に蝶子と別れて九州で暮らすとの手紙が送られてきた。あまりのショックで蝶子はカフェの2階でガス自殺未遂を起こした。
10日後、柳吉がカフェに現れて、養子を騙すために蝶子と別れたように見せかけて、遺産を手に入れたという。

ふたりで「夫婦善哉」という店に入って、ぜんざいを啜った。
蝶子と柳吉は義太夫に凝りだした。蝶子が三味線を弾いて柳吉が浄瑠璃を唸り、素人義大会で二等賞をもらった。賞品は大きな座布団で蝶子の大きな尻の下に敷かれている。→人気ブログランキング
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2023年3月28日 (火)

野獣死すべし 伊達邦彦全集1 大藪春彦

1958年に発表された、大藪春彦のデビュー作。
「野獣死すべし」の他に、「復讐篇」「渡米篇」が収録されている。
勧善懲悪の要素なく、金を手に入れる目的のために人殺しを行う。このようなただただバイオレンスの物語が早稲田大学の同人誌に載った。それを江戸川乱歩が新感覚のハードボイルド小説として雑誌『宝石』に掲載した。
〈「野獣死すべし」は、フランク・ケーンの「特ダネは俺に任せろ」の盗作〉と指摘されている。
B07b746f5a2340e8ab28fcfa96ae86c1野獣死すべし 伊達邦彦全集1
大藪春彦 
光文社文庫 
1997年 362頁

主人公の伊達邦彦はハルピンで生まれた。父は製油会社を経営。ところが会社を乗っ取られ、建設関係の官吏となった。一家は、北京、奉天、新京と移り住み、戦争が始まった頃は平壌にいた。その後、父は兵士として駆り出され、南方の戦地に向かった。
敗戰となると、ロシア兵がやってきて狼藉の限りを尽くした。邦彦は母と妹と仁川に向かい、帰国しようとする。

日本に着いてからは、大阪の名門高校に入る。マルクス・エンゲルス全集を貪り読む。し ょっちゅう職員室に呼びだされ教師から脅される。天皇批判する学生新聞を発行し、新聞は焼かれる。父が死に金庫には株券と現金があった。
私立大学に入り、ボクシング部射撃部に加わる。
防衛大学からコルトの自動拳銃を盗み出す。翻訳の仕事をしたりして大学生活を送りながら、犯罪に手を染めているようになる。

最初は、警視庁捜査一課の警部の額を撃ち抜いて殺した。身元につながるものをはぎ取り、拳銃を奪う。やり終えて自宅に戻り、ウィスキーのトリスを3杯あおる。トリスはサントリー・ウィスキーの格付で最低のもの。

次は、警察官を装って夜の繁華街で幅を効かせる陳と徹を職務質問して、殴り倒し金を奪う。さらに、タクシーを襲ってタクシーを操り、現金輸送車を襲い、2人を銃で殺して金を奪う。タクシー運転手はブラックジャックで撲殺する。

彼の野望は一般に「悪」とされていることをやってのけ、うまく逃げ通す事にあった。
彼にとって悪とは己の行手を阻む障害物でしかなかったし、悪を行うことは追い詰められた人間の行う必然であった。

その秋、修士論文を書き上げた。ハーバード大学の大学院から9月から入学を許可する旨の通知が届いた。
そして大学入学金強奪計画を、余命いくばくもない同級生に持ちかける。→人気ブログランキング
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