2005年

『SAYURI』

SAYURI [DVD]
SAYURI [DVD]
posted with amazlet at 13.08.22
Memoirs of a Geisha
監督:ロブ・マーシャル
脚本:ロビン・スウィコード(英語版)/ダグ・ライト
原作:アーサー・ゴールデン『さゆり』
音楽:ジョン・ウィリアムズ
アメリカ 日本  中国  2005年 146分  ★★★*

日本の芸者の物語であるにもかかわらず、主人公の芸者を中国系に割り当てたところが、WAPS(White Anglo-Saxon Protestant)の発想だと思う。中国系女優が演じる芸者はジャポニズムを摩訶不思議なものにして、それがかえって、彼女らの魅力を引き出しているのかもしれない。日本的過ぎないことが、かえって受け入れられたと思う。
本作は第78回アカデミー賞で、撮影賞、美術賞、衣装デザイン賞、作曲賞、録音賞、音響編集賞という「裏方部門の賞」を多く獲得している。

貧しい漁村に生まれた千代(大後寿々花)は、9歳の時に借金の形に置屋に売り飛ばされた。世界恐慌の頃である。
置屋はおかあさん(桃井かおり)と呼ばれる強欲なお女将が仕切っていて、千代は苛酷な下働きに明け暮れる。
千代は、先輩芸者の初桃(コン・リー)からいじめられれる日々を送っていた。それは初桃が幼い千代の芸者としての才能を見抜きそれに嫉妬していたからだ。

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ある日、彼女は街で会長(渡辺謙)と呼ばれる紳士に優しく声をかけられ、かき氷を食べさせてもらいハンカチをもらった。そのことが忘れられず、千代は会長にもう一度会うために、芸者になりたいと思うようになる。

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そして千代が15歳のときに、芸者の中の芸者と称えられる豆葉(ミシェル・ヨー)が、彼女を一流の芸者に育てたいと、お母さんに申し出る。豆葉は、流し目だけで旦那集をその気にさせる術を千代に伝授するのだった。豆葉の見込み通り、千代は芸者さゆり(チャン・ツーイー)として一流の芸者となり、数多くの男たちを虜にしていった。
やがてさゆりは、客として現われた会長と再会する。だが会長の親友である延(役所広司)がさゆりに魅了され、さゆりの思いとは裏腹に、水揚げは延が落札する。

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そして、日本は太平洋戦争に巻き込まれる。
世の中は芸者遊びどころではなくなった。さゆりは芸者を引退し、田舎に疎開することになった。そして日本は敗戦する。
さゆりは他の芸妓より上に行こうと思っていただろうし、ゆくゆくはおかあさんの置屋を継いで、安泰な生活を送りたいと思っていただろう。
敗戦で何もかもがめちゃくちゃになった。

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終戦後、延がさゆりを迎えにくる。延は、さゆりと豆葉を芸者として復活させ、アメリカ人を接待させ、商売を有利に運ぼうと考えていた。延の考え通り商売は順調に運ぶ。しかし、いざ彼がさゆりへの思いをぶつけると、彼女はそれを頑なに拒否した。
やがて、さゆりのもとへ会長が現れる。ふたりはお互いに抱いていた長年の恋心を、そこで初めて打ち明けるのだった。

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男は妻帯者、芸者はあくまで夜の女としての立場。これが純愛の物語となのだから、昭和は寛容な時代だった。
メインの芸者を演ずるチャン・ツーイーコン・リーは中国人女優、ミシェル・ヨーはマレーシア人であるが、中国系である。本作が封切られた頃、中国国内では中国人に芸者を演じさせるとは何事だとの騒動が起こった。芸者が売春婦であると誤解していたらしい。
もうひとつ、脇役には桃井かおり、工藤夕貴と日本人女優を当てている。それはいいとして、「メインの芸者にひとり日本人を起用すると、微妙な化学変化が起こり、もっといいものになったのではないか」というのは私の意見。→ブログランキングへ

『イン・ハー・シューズ』

イン・ハー・シューズ [DVD]
In Her Shoes
監督:カーティス・ハンソン
脚本:スザンナ・グラント
音楽:マーク・アイシャム
アメリカ 2005年 131分 ★★★★★

仲の良い姉と妹の仲違いが、素行の悪い妹の更生を促し姉の婚約の引き金になり、ひいては父と祖母の積年の不仲を解消し、家族の絆を取り戻すという、瓢箪から駒のヒューマンドラマ。靴が、姉と妹そして祖母を結びつけ、詩で締めくくられるストーリー。

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弁護士の姉(トニ・コレット)は、ストレスの解消に履きもしない靴を何足も買い込んでいて、太り気味を気にするキャリアウーマン。一方、妹(キャメロン・ディアス)は、スタイル抜群で女を武器に生きてきところがあり、未だに定職に就けないでいる不良娘。正反対の姉妹だが、共通点は自分に自信が持てないことと、靴のサイズが同じこと。姉妹の母親は早くに亡くなり、父親は後妻と暮らしている。

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継母から実家を追い出された妹は、フィラデルフィアの姉のアパートに転がり込む。姉の服や靴を無断借用する妹は、案の定、恋人も借用してしまい、それを知った姉は妹をアパートから追い出してしまう。

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行き場を失った妹は、祖母(シャーリー・マックレーン)を訪ねてマイアミの高齢者用住宅に向かう。ここから画面の色調は明るくなり、ストーリーも少しずつ好転しはじめる。色気を振りまいて老人男たちを悩殺する妹の受けはいい。妹は、祖母の勧めで老人の介護に携わるようになり、アルコールやタバコと縁を切り、まっとうな生き方に目覚めていく。彼女は自らが介護を担当する盲目の元大学教授の勧めで詩の朗読を練習し、コンプレックスである識字障害を克服するのだった。

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識字障害(ディスレクシア、Dyslexia)は、知的能力に異常がないにもかかわらず、文字の読み書きに困難をきたす障害とのこと。アメリカでは15%の人がこの障害を持つという驚きのデータがある。

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一方、姉は人間らしさを取り戻そうと仕事を辞め、犬の散歩のアルバイトをはじめる。そんな姉に、かつての法律事務所の同僚が声をかけ、ふたりの関係は婚約するまでに発展する。ところが、トラブルメーカーの妹の話題を避け完全には心を開かない姉に男は戸惑い、婚約は暗礁に乗り上げてしまう。ここで祖母が一役買い、ストーリーはハッピーエンドに向かう。
コメディー、ラブストーリー、ヒューマンドラマが入り混じった不思議な魅力を醸し出す作品である。→映画(全般) ブログランキングへ

『アメリカ、家族のいる風景』

アメリカ、家族のいる風景 [DVD]
Don't Come Knocking
監督:ヴィム・ヴェンダース
脚本:サム・シェパード
音楽:T・ボーン・バーネット
アメリカ   ドイツ  フランス  2005年 124分  ★★★★☆

初老のカウボーイ俳優が、ふと自分の人生はなんだったのか思う。そして、言いようのない寂しさと不安に苛まれ、何年も連絡をとっていない母親のもとを訪れる。自らに子供がいると母親から知らされた男は、家族を探しに出かけていく。家族愛に目覚めていく男が、アメリカの原風景の中に描かれている。アメリカの原風景とは、ニューヨークやロサンゼルスなどの大都市ではなく、赤茶けた地面に真っ青な空、そして埃っぽい、そんなのんびりした田舎町のことである。

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かつてはカウボーイ俳優として鳴らしたハワード・スペンスは、アルコールだクスリだ女だケンカだと、勝手気ままに暮らしてきた。そんなハワードは、突然ロケ現場のユタ州モアブからカウボーイ姿のまま馬に乗って行方不明になった。
今までもハワードが姿を消したことがあったので、監督もスタッフもそのうち戻ってくるだろうと高をくくっていた。ところが今回は違った。彼が向かったところは、30年もの間連絡をとっていないネバダの母親のもとだった。

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母は突然の帰郷した息子を温かくむかえる。
彼女はハワードに、20数年前に若い女性からハワードの子供を身ごもったとの電話があったと衝撃の事実を伝える。子供の存在を知ったハワードは、いても立ってもいられなくなり、亡くなった父親のボロ車でモンタナ州ビュートへ向かった。

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彼は、かつてロケ中に関係を持ったウェイトレスのドリーン(ジェシカ・ラング)を訪ねる。ドリーンは、はじめは今更なんだと取り付く島はがなかったが、やがてバーで歌っているアール(ガブリエル・マン)が、ハワードの息子であることを告げる。
一方、アールは突然現れた父親に戸惑う。

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そんなアールを、骨壷を持った女性スカイ(サラ・ポーリー)が訪ねてくる。このスカイもハワードの娘だった。スカイは父親のハワードに会って感激するが、アールは冷静さを失い恋人のアンバー(フェアルーザ・バーク)と喧嘩をしてしまう。娘は父親を簡単に受け入れるが、息子はそうはいかない。娘と息子のの父親に対する思いの違いが、映し出されている。
ハワードはドリーンに結婚を申し込むが、何を今さら調子のいいことをと拒絶される。

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とりあえず家族に会えたから、これからは今までとは違うと、仕事場のモアブへと戻っていくハワードは、ロケ現場を逃走した時とは異なるハツラツとした表情になったように見える。映画(全般) ブログランキングへ

『ウォーク・ザ・ライン 君につづく道』

ウォーク・ザ・ライン/君につづく道 [DVD]
Walk the Line
監督:ジェームズ・マンゴールド
脚本:ジェームズ・マンゴールド/ギル・デニス
音楽:T.ボーン・バーネット
アメリカ 2005年 136分 ★★★*☆

カントリーおよびロック・ミュージシャンのジョニー・キャッシュ(1932年2月26日~2003年9月12日)の自伝をもとにした伝記映画。
ジョニー役のホアキン・フェニックスとジェーン・カーター役のリース・ウィザースプーンは、映画中の歌をすべてを吹き替えなしで歌っている。ふたりとも歌手として十分に通用する歌声である。
本作品は、アカデミー賞の主演男優賞、主演女優賞などにノミネートされ、ウィザースプーンが主演女優賞を受賞した。
音楽を担当したT.ボーン・バーネットは、アカデミー賞やグラミー賞の常連。
最近ではダイアナ・クラールの『Glad Rag Doll』(12年)をプロデュースしている。

主人公のジョニーは、綿花栽培の小作人農家で育った。
兄は優等生タイプ。綿花を摘むのも早いし、本をよく読んでいて物知り、ジョニーの憧れだった。ジョニーはラジオで音楽ばかり聴いていた。両親にとって兄は自慢の息子、ジョニーはみそっかす、怒られてばかりいた。
ある日、兄が電気ノコギリで材木を切っているときに、機械に巻き込まれて命を失ってしまう。家族は悲嘆にくれ、父のジョニーに対する風当たりはますます強くなっていく。
この兄への思いと父親のジョニーへの対応が、その後のジョニーのコンプレックスとなり彼を苦しめる。

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高校を卒業すると1950年に、ジョニーは空軍に入隊しヨーロッパに配属される。故郷から離れて暮らす寂しさを、彼は作曲することで紛らわせていた。
空軍を除隊した彼は、初恋のヴィヴィアン(ジニファー・グッドウィン)と結婚し、訪問セールスの仕事を始める。
しかし、セールスマンの仕事に身が入らず、心はいつもうわの空。バンド仲間と好きな曲を弾いて歌っているときだけが幸せだった。
ある日、ジョニーはレコード屋に飛び込んでオーディションの約束を取りつける。
空軍時代に書いた曲をバンド仲間と歌った彼は合格し、ミュージシャンとして活動を始めることになるのだった。

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その後は徐々に人気が出て、プロのミュージシャンととしてツアーに出るようになる。
そんなツアーで、少年時代からの憧れの的だったタレントのジューン・カーターと共演したジョニーは、彼女にぞっこん惚れ込んでしまう。
その後、ジョニーは妻との関係が悪化して、アルコールとドラッグでストレスを紛らわす生活を送るようになる。そして、彼はギターのボディに覚醒剤を隠して密輸した罪で逮捕され、どん底へ落ちてしまう。
ファンからも、仕事仲間からも、家族からも見離され、生きる希望を失っていた彼に、ジューンは手を差し延べ、ふたりで歌うようになる。これを機会にジョニーは復活をかけ再起しようとする

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1968年に、ジョニーは刑務所でのコンサートを成功させて復活を果たす。
ジョニーはジェーンに会うたびに求婚し続けた。
そしてカナダのステージ上で、ジョニーはジューンに40回目のプロポーズをし、ついに彼女の承諾を受けるのだった。
執念深さに脱帽。

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この作品は、ふたりが歌うシーンがたっぷり出てきて、歌いっぷりが堂に入っていて、聴き応え見応えがある。→映画(全般) ブログランキングへ

『奥様は魔女』

奥さまは魔女 [DVD]
奥さまは魔女 [DVD]
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Bewhiched
監督:ノーラ・エフロン
脚本:ノーラ・エフロン /デリア・エフロン/アダム・マッケイ
音楽:ジョージ・フェントン
製作国:アメリカ  2005年  103分  ★★★*

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かつて、日本のお茶の間でも人気を博したアメリカのテレビ番組のリメイク版。
もう亡くなってしまったけれど、エリザベス・モンゴメリーが演じるサマンサの鼻ぴくぴくは、鼻だけが動く特殊技能と思っていた。ところが、作中にテレビ番組『奥様は魔女』が流れるのを観ると、鼻ぴくぴくは口も一緒に動く大雑把なものである。周りに確かめてみると、鼻だけが動くと思っていた人がほとんどである。
ところで、サマンサ役は鼻がちょっと上向き加減で、鼻の穴が見えないといけない。そこは、とりあえずニコール・キッドマンはクリアしている。

ストーリーは、落ち目の男優ジャック(ウィル・フェレル)が、かつての人気テレビ番組『奥様は魔女』のリメイク版でダーリンを演じて、人気を挽回しようとするところから始まる。サマンサ役には無名の新人を起用して、ダーリン役のジャック自身が目立とうという魂胆だ。
リメイク版のストーリーがリメイク版を作るという内容だから、文章にするとややっこしいが、映画はややっこしいことはない。

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ニコール・キドマンが演じるイザベラは、人間社会でひとり暮らしを始めようとしている魔女。魔術を封印しようと決意するものの、つい使ってしまう。なにはともあれ生活していくためには、仕事につかなくてはならない。
そんなイザベラが本屋で鼻ぴくぴくをするところをジャックが見かけ、白羽の矢を当てる。

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サマンサ役に抜擢されたイザベラは、またたく間に茶の間の人気者になる。ところがジャックの好感度は犬より低いというもの。怒り心頭に発したジャックは、自分が目立つように脚本を書き換えさせる。
ジャックに好意を寄せていたイザベラは、そんなジャックの横暴さに腹を立て、番組を降りてしまう。

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見かねたイザベルの叔母さんがジャックに呪いをかけると、魔法が効きすぎて、ジャックはイザベルに心を奪われ追い掛け回すようになってしまう。そしてジャックのたっての願いで、イザベラは番組に復帰する。

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ニコールキッドマンを取り囲むのは父親のナイジェル(マイケル・ケイン)。娘に恋路をあれこれ忠告するが、ナイジェル自身は女とみれば言い寄る浮気男。
テレビの上での母親役のアイリス(シャーリー・マクレーン)に、ナイジェルはちょっかいを出している。隣のおばさん(クリスティン・チェノウェス)がイザベルの家にちょくちょく現れて、なんやかにやとイザベラを応援する役目。
周りはこうした味のある俳優で固められている。

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イザベラはニコール・キッドマンにぴったりの役柄である。ジャック役はコメディアンだというが、今ひとつぱっとせず、異議あり。

それはおいて、サントラがまあいい。
フランク・シナトラ、エラ・フィッチジェラルド、ナタリー・コール、ポリス、ピング・クロスビー、ルイ・アームストロングといったところが歌っている。

奥さまは魔女
奥さまは魔女
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サントラ
R.E.M. ルイ・アームストロング ザ・ポリス ビング・クロスビー ペルセフォネズ・ビー トーキング・ヘッズ フランク・シナトラ ルパート・ホルムズ スティーブ・ローレンス エラ・フィッツジェラルド
1. シティ・オブ・ラヴ(パースフォーンズ・ビーズ)
2. アンド・シー・ワズ(トーキング・ヘッズ)
3. 魔女のささやき(クリスティン・チェノウィス)
4. ウィッチクラフト(フランク・シナトラ)
5. エスケイプ(ピニャコラーダ・ソング)(ルパート・ホームズ)
6. ビィウィッチド(スティーヴ・ローレンス)
7. ディン・ドン!ザ・ウィッチ・イズ・デッド(エラ・フィッツジェラルド)
8. L-O-V-E(ナタリー・コール)
9. ダンシング・オン・ザ・パラメーター(ジ・アクチュアル)
10. エヴリバディ・ハーツ(R.E.M.)
11. バウト・タイム(ルイ・アームストロング)
12. マジック(ポリス)
13. 愛しのサマンサ(ビング・クロスビー&ルイ・アームストロング)


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『マッチポイント』

マッチポイント [DVD]
マッチポイント [DVD]
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Match Point
監督:ウディ・アレン
脚本:ウディ・アレン
製作国:英・米  2005年 124分 ★★★★☆

野心を抱く男が上流階級に成り上がろうとする話。

ロンドンの会員制テニスクラブのコーチ、元プロテニスプレーヤーのクリス(ジョナサン・リース=マイヤーズ)は、資産家の息子トムと仲良くなる。
トムの妹クロエはクリスに好意を抱き、父親の会社への就職を斡旋する。野心家のクリスにとっては、願ったり叶ったりの展開となる。
上流階級の優雅な生活は、レストランで豪華な食事をして、ダンスやオペラ行ったり、狩りに出かけたり、クリスはそんな生活に足を踏み入れる。

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トムの恋人ノラ(スカーレット・ヨハンソン)はクリスに挑発的な態度をとり、ふたりは関係を結んでしまう。
クリスは貧困の代名詞アイルランド出身。ジョナサン・リース=マイヤーズ自身がアイルランド出身だから、ウッディ・アレン監督は訛りも計算に入れたのだろう。
ノラは米国のコロラド出身で、母親はアル中、姉は薬物中毒。おまけに本人はバツイチ。クリスとノラを貧困層の出身とすることで、ふたりが手に入れようとしている上流階級の生活とのギャップを際立たせようとしているのが監督の意図だろう。
監督は、作中、ノラに「私はセクシー、姉はブロンドで正統派の美人」と言わせていて、その通りスカーレット・ヨハンソンの妖艶な魅力が見所のひとつだ。
トムの母親にすれば、そんな素性の知れない女と大事な息子が結婚することなど、許せない。トムは母親の反対でノラと別れさせられる。

やがて、クリスはトムの父親の会社に入り仕事を始める。仕事でのクリスの評価は上々、やがてクロエと結婚し、義父から与えられた高級マンションで暮らし始める。トントン拍子だ。

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そんなおり、クリスはアメリカから戻ってきたノラと再会し、強引に性的関係を続ける。
クリスは妻には愛をノラには愛欲を感じると、身勝手なことを言うのであった。
そして、ノラが妊娠してしまう。クリスは絶対に生むと言い張るノラの殺害を画策する。

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BGMは最初から最後までオペラが流れていて、ロンドンの上流階級「らしい」雰囲気が醸し出されている。

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テニスネットに引っかかったボールが、こっちのコートに落ちるのか相手コートに転がるのかの、そんな一瞬息を呑む結末が用意されている。捻りの効いた結末に、「監督のコント趣味にやられてしまった」という印象が残る作品である。
本作は、ウディ・アレンの最高傑作と評されているとのこと。

121214_2「マッチポイント」オリジナル・サウンドトラック

「マッチポイント」オリジナル・サウンドトラック


1. ヴェルディ:オペラ『イル・トロヴァトーレ』より「激しく襲いかかり」 1910年の録音
2. ヴェルディ:オペラ『椿姫』より「思い出の日から」
3.カルロス・ゴメス:オペラ『サルヴァトール・ローザ』より「私のかわいい人」 1919年録音
4. ヴェルディ:オペラ『リゴレット』より「慕わしい人の名は」
5. ビゼー:オペラ『真珠採り』より「耳に残る君の歌声」 1904年録音
6. ロッシーニ:オペラ『ウィリアム・テル』より「何に気をとられて」
7. ヴェルディ:オペラ『マクベス』より「ああ、父の手は」 1916年録音
8. ヴェルディ:オペラ『オテロ』より「罪を犯したデスデモーナ」
9. ドニゼッティ:オペラ『愛の妙薬』より「人知れぬ涙」 1911年録音

サウンドトラックに収録されたオペラのいくつかは、なんと100年前に録音されたもの。映画では処理されているのか気づかなかったが、サウンドトラックを聴くとプツプツという雑音が耳に触る。そこまで監督が思い入れるエンリコ・カルーソー(1873~1921年)は、イタリアが誇る不出世のテノール歌手だそうだ。


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『スタンドアップ』

スタンドアップ [DVD]
スタンドアップ [DVD]
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North Countory
監督:ニキ・カーロ
原作:クララ・ビンガム/ローラ・リーディ・ガンスラー
脚本:マイケル・サイツマン
音楽:グスタボ・サンタオラヤ
製作国:2005年 アメリカ合衆国 126分 ★★★★☆

炭坑で働くシングルマザーを演技派の美人女優シャーリーズ・セロン(『ヤング≒アダルト』11年、『告発のとき』07年、『モンスター』03年)が熱演している。
アメリカで、初めてセクハラ訴訟に勝利した女性の実話に基づく話。
フランシス・マクドーマンド(『真実の行方』96年、『あの頃ペニー・レインと』00年、『ブラッド・シンプル』85年)が同僚のグローリーを演じて脇を固め、セロンの父親役のリチャード・ジェンキンス(『扉をたたく人』08年、『目撃』97年)と母親役のシシー・スペイセク(『スリーウィメンズ~あの壁が話せたら』05年、『イン・ザ・ベッドルーム』01年、『ヘルプ~心がつなぐストーリー』11年)、弁護士のウディ・ハレルソン(『ノー・カントリー』07年、『ワグザドッグ/噂の真相』97年)、高校の同級生のジェレミー・レナー(『ハート・ロッカー』09年)、それぞれが味のある演技を披露している。

夫のたび重なるDVから逃れ実家に戻ってきたジョージーは、仕事に就いてふたりの子供を養わなければならない。父親が働いている炭鉱で働こうと思い立つ。

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炭鉱を経営する社長も上司も現場で働く同僚の男たちも、ジョージーの父親ですら、炭鉱の仕事は、女には体力的に無理な仕事であると思っているし、そもそも女に仕事を奪われるという危機感がある。

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男たちは、同僚の女に対して言葉による暴力や嫌がらせをして、セクハラを繰り返している。女たちは仕事を続け報酬を得るために、セクハラに耐えてきた。
しかし、ジョージーに対する嫌がらせは度が過ぎていた。

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おりしも、テレビでは、かの有名な「アニタ・ヒル事件」の公聴会が放映されている。

「アニタ・ヒル事件」は、アメリカの連邦最高裁判事のクラレンス・トーマスが、雇用平等委員会委員長時代に、部下のアニタ・ヒルにセクハラを行ったというもの。1991年に、上院で公聴会が開かれ、全米にテレビ中継された。

嫌がらせは息子にも及び、アイスホッケーの試合中、ジョージーの息子にパスを出すと父親に殴られるというのだ。
そのホッケーの試合で、弁護士のビルとジョージーが観客席で話をしていると、突然女が大声で「アバズレ」と罵しり大騒ぎになる。これを見た息子は、母親に強い嫌悪感を抱いてしまう。

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ジョージーはセクハラを放置する会社を訴えようと女たちに働きかけるが、誰一人として協力しない。組合の委員長であったグローリーですらのってこない。仕方なく一人で戦うことにした。

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会社側弁護士は、ジョージーが「わからない」と答えるのを承知で、長男の父親が誰かと訊く。ジョージーは、高校生のときに妊娠し長男を生んだ。相手を明かさなかったことで、誰とでも寝るふしだらな女というレッテルが貼られている。

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しかし、弁護をかって出たビルが、ジョージーと高校時代に付き合っていた証人のボビーを問い詰めると、意外な事実が明らかになる。そのことをきっかけに、傍聴席の女たち、そして一部の男たちも、セクハラの告発に立ち上がるのだった。

原題の「North Country」より、邦題の「スタンドアップ」の方がぴたりとくる。


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『グッドナイト&グッドラック』

グッドナイト&グッドラック 通常版 [DVD]
Good Night, and Good Luck.
監督:ジョージ・クルーニー
脚本:ジョージ・クルーニー/グラント・ヘスロヴ
製作総指揮:マーク・バダン/・ソダーバーグ
製作国:アメリカ合衆国  2005年 93分 ★★★*

マッカーシズム(赤狩り)は、アメリカ史の汚点と言われている。
赤狩りは、1950年2月に共和党のジョセフ・マッカーシー上院議員が国務省内に205人の共産党員が入り込み、スパイのネットワークが作られているという、ショッキングな演説を行ったことから始まった。そして、共産党員、共産党シンパの摘発が、大々的に行われた。
背景にはソ連との核戦争に対する民衆の恐怖があったと言われている。
たとえ共産主義と関わりがなくとも、自分たちの意に沿わなければ、重箱の隅をつつくように、あることないことをでっち上げ、共産主義とかかわっているとして、職を追われ社会的に抹殺されるような風潮があった。
そうしたマッカーシー派の手法に疑問を抱いても、自分自身が標的にされることを恐れ、表だって批判できなかった。
しかし、赤狩りがエスカレートするにつれ、偽の「共産主義者リスト」が作られたり、事実の歪曲、自白の強要、協力者の告発や密告が奨励されるようになり、そうした強引な手法は次第に民衆の反感を買うようになった。

本作は、マッカーシズムが吹き荒れるなか、それが終焉をするきっかけを作ったCBSのドキュメンタリー番組「See it Now」の製作にかかわったエド・マロー(デヴィット・ストラザーン)やディレクター(ジョージ・クルーニー)達のおよそ1年間の及ぶ闘いを描いたものである。
登場人物や企業はすべて実在する。

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マローは、「See it Now」の番組で、ミシガン州空軍予備役の中尉が、父親と妹が共産主義者という内部告発で、空軍からの除隊勧告を受けたことを番組で取り上げ、公然と批判した。企業体としてのテレビ局の上層部は、政治権力と闘うことに難色を示すが、マローたちは引き下がらない。

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生放送の番組作りは真剣勝負だ。机の下に隠れたプロデューサーが、マローの脛に触れて番組のスタートを合図するユーモラスなシーンが何回か出てくる。緊張感の続く中で和むシーンだ。

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そうしたなか、マッカーシー上院議員(本人の実際の映像)が出演したCBSのテレビ番組の中で、マローをいかにも共産主義者のシンパであるかのようにでっち上げた。これに対してマローはひとつひとつ反論して、マッカーシーの嘘を暴いたのだった。

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そしてマローはこう結んだ。「私は成熟したアメリカ人なら、核爆弾や洗脳に頼らず共産主義者と渡り合えると信じています。われわれの信念や決意は彼らよりも強く、武力によらずとも勝てることを、思想によって打ち勝てると信じています」。
いつもタバコをくゆらせながら、静かな物腰の中に強靭な意志を感じさせるマローを演じたデヴィット・ストラザーンの演技は見事だ。

なお、タイトルの「Good Night, and Good Luck.」は、番組の最後で、マローが必ず口にするセリフ。
映画はドキュメンタリー風のクラシックな映像スタイルで、現実にあったことを淡々と映し出している。マッカーシーの演説などの肉声の映像がところどころに差し込まれれ、マッカシー陣営とマロー達の闘いの緊迫感が、ひしひしと伝わってくる。

マローたちが集うバーで歌うダイアン・リーブスの歌声が素晴らしい。
本作は、第78回(2005年)アカデミー賞では6部門(作品賞、監督賞、主演男優賞、脚本賞、撮影賞、美術賞)にノミネートされた。
またサウンドトラック版でダイアン・リーヴスが第48回グラミー賞ベスト・ジャズ・ヴォーカル賞を受賞した。


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『フライトプラン』

フライトプラン [DVD]
フライトプラン [DVD]
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Flightplan
監督:ロベルト・シュヴェンケ
脚本:ピーター・A・ダウリング/ビリー・レイ
製作:ブライアン・グレイザー
製作総指揮:ロバート・ディノッツィ/チャールズ・J・D・シュリッセル
音楽:ジェームズ・ホーナー
製作国:2005年  アメリカ合衆国  98分 ★★★★☆

仕事先のベルリンのアパートで、1週間前に夫が転落死した。カイル(ジョディ・フォスター)は6歳の娘のジュリアとともに、夫の遺体をベルリンから故郷のニューヨークまで飛行機で運ぶことになった。
ジュリアは父親の死以来、人目を避けるようにしている。タクシーに乗るときに、カイルのスカートの中に隠れたくらいである。

この人に見られたくないジュリアの行動は、航空機内で起こるジュリア行方不明への布石である。

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ジュリアの質問に、「飛行機はE474型、世界最大のジャンボジェット、私が作ったのよ」と航空機設計士のカイルは答える。

カイルの職業が、本作の鍵になる。

カイルとジュリアは飛行機に一番乗りして、次々に乗り込んでくる乗客を眺めていた。
離陸して3時間が経ちカイルが仮眠をとっている間に、ジュリアがいなくなった。客席を隈なく探しまわるが、ジュリアは見つからない。
ジュリアを見たという搭乗員も客もおらず、バッグに入れたはずのジュリアの搭乗券は見当たらない。
さらに、搭乗記録にはジュリアの名前はないと告げられる。

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そんな筈はないと、航空保安官のカーソン(ピーター・サースガード)が制止するのも聞かず、機長のリッチ(ショーン・ビーン)に捜索を迫る。機長の指示の下、乗客を客に座席に座らせ徹底的な捜索が行なわれるがジュリアは発見されない。
やがて乗務員から、ジュリアは夫と共に6日前に死亡したという信じがたい知らせがもたらされる。

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パニックに陥りそうなカイルに、機長は「睡眠薬は飲んでいるか、精神安定剤は常用しているか」と訊く。カイルは「ときに睡眠薬を飲むし、1週間前に夫が死んで安定剤を処方してもらった」と答える。
すべてはカイルの妄想だと判断され、彼女は機長から逮捕命令を下された。カイルは手錠をかけられ、カーソンの監視下におかれることしなる。
しかし、カイルは諦めず孤独な戦いを開始する。

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このあとのスケールの大きな展開が本作の見どころである。
航空機設計士であるカイルだからこそ、トイレの天井に貨物室があることを知っているし、そこへはどうやったら行けるかも頭の中に入っている。
犯人との壮絶な戦いで、ジャンボ機の構造を知り尽くしていることが、彼女に有利に働くのである。

神経質そうでいて大胆なジョディ・フォスターの演技は、サスペンス映画によく似合う。

【ジョディー・フォスター出演作品】(サイト内リンク)
おとなのけんか(11年)
フライトプラン(05年)
告発の行方(88年)
タクシー・ドライバー(76年)

【ピーター・サーズガード出演作品】
17歳の肖像(2009年)
エレジー(2008年)
フライトプラン(2005年)
ニュースの天才(2003年)


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『サンキュー・スモーキング』

アーロン・エッカート演じるニックことニコラス・ネイラーは、タバコ研究アカデミーに所属するロビイスト。タバコを擁護するためならばどんな詭弁も弄する。彼は「情報操作の王」と呼ばれ、世間に嫌われている。自らは「1日1200人を殺す業界の代弁者」「ニコチンのカーネルサンダース」と呼ぶ。
そんなニックはタバコ業界にとっては得難い人材であり、業界の黒幕であるキャプテンに目をかけられている。

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サンキュー・スモーキング (特別編) [DVD]
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Thank You for Smoking
監督:ジェイソン・ライトマン
脚本:ジェイソン・ライトマン
原作:クリストファー・バックリー 『ニコチン・ウォーズ』
製作:デイヴィッド・O・サックス
音楽:ロルフ・ケント
主題歌:テックス・ウィリアムズ「Smoke! Smoke! Smoke! (That Cigarette)」
製作国:米国 2005年 93分 ★★★★☆

タイトルの『サンキュースモーキング』は、「Thank You for No Smoking」を皮肉ったもの。

よく訊かれる「何でそんな仕事をしているのか?」という質問に、「ローン返済のため」と答えるのがニックの口癖である。それは本音だ。実際はタバコの害について十分に認識していて、ロビイストとしての仕事にジレンマを感じている。業界のためなら己の心を欺かなくてはならない、ロビイストの辛いところだ。

私生活では、バツイチで一人暮らし、ひとり息子のジョーイは元妻夫婦と暮らしている。
ジョーイ役のキャメロン・ブライト(1993年生まれ)は、ニコール・キッドマンと共演した『記憶の棘』(04年)で、難しい役を見事にこなした。本作でも重要な役回りを演じている。

ニックは、嫌煙派のフィニスター上院議員が、タバコのパッケージにドクロマークの添付を義務付けることを画策しているとの情報をつかむ。これを阻止するために、彼はハリウッドに出向き、映画に喫煙シーンを盛り込むようプロデューサーに働きかける。

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さらに、初代マルボロ・マンとしてタバコ業界に貢献した男優が、今や肺がんを患い、タバコの健康被害を訴える急先鋒になっている。ニックはその男に、キャプテンから預かった大金を受け取らせ口封じの工作をするのだった。これらの仕事に同行したジョーイは、ニックの仕事ぶりを目の当たりにして、尊敬の念を抱くようになる。

そんなニックの息抜きといえば、銃産業を擁護する団体のスポークスマン(デヴィット・ケックナー)とアルコール業界のロビイスト(マリア・ベロ)との、「モッズ特捜隊(the Mods squad)」と呼ぶ飲み会である。この会では、言いたいことが言い合える。「モッズ特捜隊」のモッズとは、自虐的な意味を込めた「Marchant of Death(死の商人)」の略。

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ある日、『ワシントン・プローブ』紙にタバコ業界に関する暴露記事が載る。内容は、ニックが女友達の記者へザー(ケイティ・フォームズ)に、ベッドで語った裏話であった。なぜ記事にしたのかと詰め寄るニックに、ヘザーは「ローン返済のため」と、ニックの常套句で答えるのだった。
この大失態が致命傷となって、ニックはアカデミーを解雇され世間からのバッシングを受けてしまう。絶望感に打ちひしがれ家に引きこもった彼に、息子は励ましの言葉をかけるのだった。

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フェニスター上院議員が議長を務める公聴会で追求されたニックは、作戦を変えてタバコの健康被害との関連性を認めた。そこに追い打ちをかけるように、議員が「健康被害のあるタバコを吸いたいと息子が言ったらどうするか」との問いに、「あくまで、本人の意志を尊重する」と答え、公聴会を乗り切るのだった。

父子の関係を丁寧に描くことにより、ニックの人間らしい面が垣間見えて、ヒステリックな禁煙ファッショへのアイロニーだけに終わらない物語になっている。

ジェイソン・ライトマン監督の作品
ヤング≒アダルト』11年
マイレージ・マイライフ』09年
JUNO/ジュノ』07年
サンキュー・スモーキング』05年


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