2007年

『アイム・ノット・ゼア』

ボブ・ディランは、時代の変遷とともに自らの音楽性を変化させてきた。その強引とも思える変貌ぶりはファンを戸惑わせたりあるいは怒らせたりした。
初期には、プロテスト・ソングを歌うフォーク・シンガーとして脚光を浴び、脱皮してロックン・ローラーになり、あるいは映画俳優として活動し、リズム&ブルースを歌い、ゴスペルに傾倒したりもした。一時は歌わなくなったこともあった。才能が豊かすぎる飽きっぽい人なのだろう。自分のイメージが固定してしまうのを嫌い、次々とイメージチェンジし、しがみつくファンに揺さぶって振り落とし、熱狂的なファンだけが残った。

アイム・ノット・ゼア [DVD]
I'm Not There
監督:トッド・ヘインズ
脚本:トッド・ヘインズ/オーレン・ムーヴァーマン
音楽:ボブ・ディラン
アメリカ 2007年 136分

数日前の新聞に、「天国への扉」と名付けた鉄の彫刻の展覧会をロンドンで開いたと載っていた。「アイオワの鉄鉱山の町で育ち、毎日鉄の匂いを嗅いでいんだ」とインタビューに答えた。ともかく多才なのだ。表現のスタイルを変えただけでディラン自身の本質はおそらく変わっていないのだろう。
『アイム・ノット・ゼア』は、『千の風になって』の歌詞のようなタイトルだ。

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本作では、ボブ・ディランという固有名詞をまったく使わずに、6つのエピソードを別の人物が演じていて、それぞれがひとつのストーリーとして成り立つ構成になっている。変幻自在なディランを描くには、こうした手法がふさわしいかもしれない。

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映画は、19世紀フランスの詩人アルチュール・ランボー(ベン・ウィショー)が「なぜプロテスト・ミュージックをやめたのか?」という質問を受けている場面から始まる。このランボーが詩的な的を射たようなあるいははぐらかしたようなことをごたごた話し、いかにもディランらしい話の内容なのだが、彼は6つのエピソードをつなぐ役割を担う。

1959年、憧れのウディ・ガスリーに会いに行こうと「ファシストを殺すマシン」と書かれたギターケースを持つ黒人少年ウディ(マーカス・カール・フランクリン)は、貨物列車に乗り込み、ある黒人ブルース・シンガーの家に転がり込む。そこで「今の世界のことを歌いなさい」と女主人に助言を受け、再び旅に出る。そして入院しているウディ・ガスリーの病室にたどり着き、ギターを弾きながら歌うのだった。望みがかなったのだ。

60年代後半、プロテストソングを歌うジャック・ロリンズ(クリスチャン・ベール)は時代の寵児として脚光を浴びていた。しかしパーティでJFKの殺害犯を称えるようなことを語り、反感を買い身を隠すことになる。
約20年後、彼は教会でジョン牧師と名乗ってゴスペルを歌っていた。

ベトナム戦争が本格化した1965年、俳優のロビー(ヒース・レジャー)は、美大生のクレア(シャルロット・ゲンズブール)と出会い結婚する。しかし2人の間は次第にぎくしゃくし始める。8年後、1973年、ベトナム戦争からの米軍撤退のニュースをテレビで見ていたクレアは離婚を決意する。

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1965年、ジュード(ケイト・ブランシェット)はロックバンドを率いてフォーク・フェスティバルに出演しブーイングにさらされる。その後、彼はバンドと共にロンドンに向かい、ライブで再びロックを演奏する。
このケイト・ブランシェットが演じるディランが、もっともディラン本人に似ているところに、監督の遊び心と目の確かさ表れている。

西部の町リドルでビリー(リチャード・ギア)はひっそり暮らしていた。道路建設のため町民に立ち退き命令が下る。ビリーはその黒幕がギャレットであることを突き止め、ギャレットの演説会で彼の悪行を批判する。町民たちはその言葉で一斉に蜂起する。
そしてビリーは安住の地を求めて放浪の旅に出る。彼のギターケースには「ファシストを殺すマシン」と書かれていた。少年ウディが持っていたギターである。

ボブ・ディラン解体新書
アイム・ノット・ゼア』(DVD)

『1408号室』

ホテルのいわくつきの部屋への入室をめぐる、個性派俳優ジョン・キューザックとサミエル・L・ジョンソンの丁々発止のやり取りが見もの。
原作はスティーヴン・キングの同名の短編ホラー小説である。

ライターのエズリンのもとに、「ドルフィン・ホテル1408号室には入るな」と書かれたハガキが届く。
今までどれだけの超常現象というやつを取材してきたことか。ヒヨッコ・ライターと一緒にしてもらっては困るというのが、エズリンの矜持。
彼はそもそも超常現象など信じていない。

1408号室 [DVD]
1408号室 [DVD]
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監督:ミカエル・ハフストローム
脚本:マット・グリーンバーグ/スコット・アレクサンダー/ラリー・カラゼウスキー
原作:スティーヴン・キング
音楽:ガブリエル・ヤレド
アメリカ 2007年 106分 ★★★★

エズリンはハガキを手にニューヨークのドルフィン・ホテルに出かけて行く。
そして、1408号室への入室を思いとどまらせようとする支配人のオリンとの攻防が始まる。

気の利いた高級ウィスキーを振舞われ、エズリンはオリンの忠告に相槌を打ち聞いているふりをしている。
オリンは、1978年以降、1408号室には誰も泊まっていない、つまり20年以上泊めていないと言う。
部屋にはホルターガイスト現象を引き起こす力が備わっていて、泊まった客が不幸な死をとげているという。かつての宿泊客の無残な姿を撮った写真や新聞記事を見せられても、入室はすでに決定事項であるエズリンにとって泊まらない選択はあり得ない。
そんないわくつきの部屋ならばなおのこと、支配人の忠告など余計なお世話で、前戯にもならないとエズリンは思った。
そして、オリン支配人の懇願にも似た説得を振り切って、エズリンは1408号室に向かう。

1408号室に入ると、拍子抜けしたように部屋はおとなしい。ラジオからはカーペンターズの『愛のプレリュード』が流れている。
「それ」はちょっとしたことから始まり、エズリンが取り繕うとすると部屋は牙をむき、彼をあざ笑うかのように事態はエスカレートしてゆく。
ホラーは、辻褄が合っていれば強引さが許される。→ブログランキングへ

→『幸運の25セント硬貨

『美しすぎる母』

本作は実話に基づいて作られているとのこと。
1942年、「男(カネ)を見つけなさい」という母の教えにしたがい、バーバラ(ジュリアン・ムーア)は、大富豪ベークランド家の跡取りブルックス(スティーヴン・ディレイン)と結婚し、息子アントニーを産む。
ちなみに、1907年にレオ・ヘンドリック・ベークランドが、世界初のプラスチック「ベークライト」をフェノールとホルマリンから作り出した。この発明によりベークランド家は大富豪となる。
ブルックスはレオの孫に当たる。

美しすぎる母 [DVD]
美しすぎる母 [DVD]
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Savage Grace
監督:トム・ケイリン
脚本:ハワード・A・ロッドマン
音楽:フェルナンド・ベラスケス
スペイン フランス アメリカ 2007年 97分  ★★★★*

一家はアントニーが物心つく頃までは順風満帆であった。
ところが、ブルックスはアントニーが凡庸とみるや、冷ややかな態度で接するようになる。
その反動でバーバラはアントニーを異常なくらい溺愛し、こうしたいびつな家族関係がアントニーにいい影響を及ぼすはずがない。上昇志向の強い成り上がりのバーバラとブルックスは次第にうまくゆかなくなる。

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ブルックスは家を出て愛人と生活し、一方バーバラは情事に身を委ね、それを後悔して自殺未遂を繰り返すような破滅的な生活を送るようになってしまう。
バーバラにとって唯一の心の拠り所はアントニー(エディ・レッドメイン)であり、アントニーは父の代わりに母を愛し守ろうとするのだが、アントニーも自堕落で奔放な生活を送っていた。

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母子はニューヨーク、パリ、カダケス、マジョルカ、ロンドンと当てもなくさまよう生活を送る。
アントニーは同性愛に走り、その相手の男とバーバラが関係を持つという、もはやソドムのような状況に至ってしまう。ここまでくれば、あとは坂を転げ落ちるように悲惨な状況がエスカレートしていく。

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しまいには、母子は性的な関係に陥り、アントニーは精神に異常をきたすようになる。
そして、1972年11月、バーバラは愛する息子アントニーに殺害される。まるでギリシャ神話の世界だ。
社交的で明るいもののやがて壊れていく美貌の女バーバラは、ジュリアン・ムーアにぴったりの役柄である。

ここから、画面に字幕スーパーが流れる。
その後のアントニーは、心神耗弱状態での殺人で有罪となり精神医療刑務所に収監される。1980年に釈放されバーバラの母親に引き取られるが、1週間も経たないうちに、 口論の末、祖母をナイフで刺し逮捕される。
その後、アントニーはNYのライカーズ島に送られた。1981年、島の刑務所でビニール袋を頭からかぶり自ら命を絶った。→ブログランキングへ

【ジュリアン・ムーア出演作】
『キャリー』Carrie 2013年
『メイジーの瞳 』What Maisie Knew 2012年
『ゲーム・チェンジ 大統領選を駆け抜けた女』Game Change 2012年
*『ラブ・アゲイン 』Crazy, Stupid, Love. 2011年
*『 キッズ・オールライト』The Kids Are All Right 2010年
*『シェルター』Shelter 2010年
*『CHLOE/クロエ』Chloe 2009年
*『シングルマン』A Single Man 2009年
『50歳の恋愛白書』 The Private Lives of Pippa Lee 2009年
*『美しすぎる母』Savage Grace 2008年
『ブラインドネス』Blindness  2008年
*『アイム・ノット・ゼア』 I'm Not There 2007年
『NEXT -ネクスト-』Next 2007年
『フリーダムランド』Freedomland 2006年
*『NOセックス、NOライフ! 』Trust the Man 2006年
『トゥモロー・ワールド』Children of Men 2006年
『フォーガットン』The Forgotten 2004年
*『エデンより彼方に』Far from Heaven 2002年
*『めぐりあう時間たち』The Hours 2002年
*『ハンニバル』Hannibal 2001年
『エボリューション』Evolution 2001年
*『シッピング・ニュース』The Shipping News 2001年
*『クッキー・フォーチュン』Cookie's Fortune 1999年
『理想の結婚』An Ideal Husband 1999年
『マップ・オブ・ザ・ワールド』A Map of the World 1999年
*『ことの終わり』The End of the Affair 1999年
*『マグノリア』Magnolia 1999年
*『ビッグ・リボウスキ』The Big Lebowski 1998年
『サイコ』Psycho 1998年
*『ジュラシック・パーク』Jurassic Park 1997年
『家族という名の他人』The Myth of Fingerprints 1997年
*『ブギーナイツ』Boogie Nights 1997年
『SAFE』Safe 1996年
『9か月』Nine Months 1996年
『暗殺者』Assassins 1996年
『サバイビング・ピカソ』Surviving Picasso 1996年
*『ショート・カッツ』Short Cuts 1994年
『42丁目のワーニャ』Vanya on 42nd Street 1994年
『ボディ』Body of Evidence 1993年
『妹の恋人』Benny & Joon 1993
『逃亡者』The Fugitive 1993年
*『ゆりかごを揺らす手』The Hand That Rocks The Cradle 1992年

『パッチギ! Love & Peace』

パッチギ!LOVE&PEACE スタンダード・エディション [DVD]
監督:井筒和幸
脚本:羽原大介/井筒和幸
音楽:加藤和彦
日本  2007年  127分  ★★★☆☆

前作『パッチギ!』 (05年)の1969年から5年後、田中角栄の『列島改造論』が出版され(72年)、モハメド・アリがヘビー級王座を奪還し(74年)、佐藤栄作がノーベル平和賞を受賞し(74年)、ベトナム戦争が終結を向かえる(75年)頃の話。差別のなかで家族愛で結ばれる在日朝鮮人の生き様がテーマ。

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在日2世のアンソン(井坂俊哉)は息子チャンスの病気の治療のため、一家で京都から江東区枝川に引っ越してくる。アンソンは駅のフォームで京都時代の宿敵近藤が率いる大学応援団と朝鮮高校の乱闘にいあわせ、それに加わって大暴れする。電車の運転手・佐藤(藤井隆)の仲裁で乱闘は収まるが、そのことが原因で佐藤は国鉄をクビになってしまう。

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これをきっかけに佐藤はアンソン一家と親しくなり、アンソンの妹キョンジャ(中村ゆり)に思いを寄せるようになる。


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一方、キョンジャはアルバイトのホルモン焼き屋で弱小芸能プロダクションのスカウトを受け、芸能界に入ることを決意する。
芸能界のしきたりに馴染めず苦悩するキョンジャに淡々と接する先輩俳優の野村(西島秀俊)に次第に心を許していくが、そんな野村さえも朝鮮人に対する差別意識があることを知って、キョンジャは愕然とする。

戦争中、済州島で日本軍に徴兵されヤップ島に送られたアンソンの父親の回想シーンが、所々に差し挟まれている。これは結末への伏線である。

医師からアメリカでの治療しかチャンスを助けることができないとないと告げられたアンソンは、金を工面するために、佐藤を誘って韓国のヤクザに金塊を売る仕事に手を出すのだった。

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キョンジャは芸能界での実績を重ね、特攻隊の映画のオーデションを受けることになる。彼女はプロデューサー(ラサール石井)に気に入られるが、国籍がネックになってしまう。しかし彼女は覚悟を決めてプロデューサーが逗留しているホテルの部屋を訪れ、ヒロイン役を手にする。

映画のプレミアム試写会で、家族が見守るなか、キョンジャは映画と自らの父親の戦争体験とを重ね合わせ、自らが在日であることをカミングアウトする。会場は罵声が飛び交い騒然となり、2階に陣取っていた近藤率いる応援団とアリソンたちの大乱闘が始まるのだった。

場面が変わって、一家団欒で過ごすアリソンやキョンジャたちは、ベトナム戦争終結ののニュースを耳にして、「次はわれわれの番だ」というのだった。

在日への日本人社会の差別を強調しすぎていて白けてしまう。→ブログランキングへ

『ある秘密』

ある秘密 [DVD]
Un secret
監督:クロード・ミレール
原作:フィリップ・グランベール『ある秘密』(新潮クレストブック)
脚本:クロード・ミレール/ナタリー・カルテル
音楽:ズビグニエフ・プレイスネル
フランス   2007年 110分  ★★★★☆

フィリップ・グランベールの同名小説の映画化。
本作は、パリに暮らすユダヤ人一家の運命を、第二次世界大戦中、戦後の落ち着きを取り戻した頃、そして1985年の現在の三つの時代で描いた物語である。

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父親のマキシムが家からいなくなったと、フランソワ(マチュー・アマルリック)に連絡が入る。フランソワは父親を探しに向かう途中で、自らの幼い頃を回想する。

マキシムの回想シーンはモノクロになっている。
第二次世界大戦が終結しヨーロッパの政情が落ち着きを見せ始めた頃のパリ。ひとりっ子で病弱なフランソワは、体を鍛えることが趣味の父親マキシム(パトリック・ブリュエル)と水泳が得意でモデルだった母親タニア(セシル・ド・フランス)とパリで暮らしていた。

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両親は再婚同士。そうした両親の血筋を引いているにもかかわらず、虚弱なフランソワは、父親からは疎ましく思われていることを敏感に感じとっている。それゆえ、フランソワ自身にしか見えないスポーツ万能の兄の幻影を作り出していた。

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フランソワが心を許せるのは、家の向かいでマッサージ店を営む優しいルイズ(ジュリー・ドパルデュー)だった。
ある日、彼は屋根裏部屋でぬいぐるみを発見する。そのぬいぐるみに両親が動揺する姿を見て、彼はルイズから両親の過去を聞き出すのだった。

両親の過去とは戦時下のパリで起ったことである。
第二次世界大戦中、タニアと結婚する前に、マキシムはユダヤ人のアンナ(リュディヴィーヌ・サニエ)と結婚していた。マキシムもユダヤ人であるが、むしろフランス人として生きていこうとしていた。そんなマキシムに対しアンナの両親は批判的であった。
アンナとマキシムの間に生まれたシモンは、スポーツ万能で誰もが一目おく両親自慢の息子であった。

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マキシムは、こともあろうか、二人の結婚式で出会ったアンナの弟の妻タニアの健康美に惹かれた。このマキシムの邪念が、悲劇を引き起こしたそもそもの元凶である。
ナチスのユダヤ人弾圧が日に日に激しくなっていくなか、タニアの夫は戦地に赴く。一方、夫に疑惑を持ち始めたアンナは、情緒不安定になっていく。

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いよいよ、パリでユダヤ人として暮らすことが困難になり、マキシムたちはナチスの目の届かない田舎に脱出することになった。ところがマキシムたちに遅れてパリを経ったアンナとシモンの身に、取り返しがつかないことが起こってしまう。
アンナは夫とタニアが睦まじくすることに耐えられなかった。そんな生き地獄で暮らすよりは、いっそナチスに捕まった方がまだましと考えたかもしれない。また夫が溺愛するシモンを巻き込んでしまうことは夫への復讐であったかもしれない。

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ぬいぐるみはタニアが誕生日プレゼントとしてシモンに贈ったものだった。
一家を襲った悲劇は、マキシムの抑えきれない欲望が引き金になった。→映画(全般) ブログランキングへ

【セシル・ド・フランス出演作品】
少年と自転車』(12年)
ヒアアフター』(10年)
シスタースマイル ドミニクの歌』(09年)
ある秘密 ~愛に焦がれて~』(07年)
モンテーニュー通りのカフェ』(06年)
スパニッシュアパートメント』(02年)

『幸せのレシピ』

幸せのレシピ 特別版 [DVD]
幸せのレシピ [DVD]
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No Reservations
監督:スコット・ヒックス
脚本:キャロル・フックス
音楽:フィリップ・グラス
アメリカ 2007年 104分 ★★★☆☆

ドイツ映画『マーサの幸せレシピ/Bella Martha/Mostly Martha』(01年)のリメイク版。
主人公の姪ゾーイ役は、『リトル・ミス・サンシャイン』(06年)で、少女ミスコンに出場する元気いっぱいのオリーブを演じたアビゲイル・ブレスリン。この作品では、沈み込んで反抗的な態度をとったり騒動を巻き起こしたりするが、愛のキューピットである。
『リトル・ミス・サンシャイン』でアカデミー賞助演女優賞にノミネートされただけある演技だ。

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ニューヨークの一流レストランの雇われシェフであるケイト(キャサリン・ゼタ=ジョーンズ)はいつもイライラして、部下に威圧的な態度で接している。パワハラだ。
そんなケイトを見かねた、オーナーのポーラ(パトリシア・クラークソン)は、ケイトをセラピーに通わせた。
ある日、姉が交通事故で亡くなり、ケイトは母を亡くした姪ゾーイを引き取ることになった。

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姉のことが一段落し、ケイトがレストランに戻ると、ニック(アーロン・エッカート)が臨時の副料理長として雇われていた。自分の城に入り込んだニックに、ケイトはなにかとつっかかる。ニックはどこ吹く風と軽く受け流すのだった。

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一方、家に帰ると、心を開かず食事をまともに摂らないゾーイに、ケイトは手こずっていた。ゾーイを仕事場へ連れて行くと、ニックの機転のきいた対応で彼の作る料理は口にするのだった。
そのことをきっかけに、ゾーイは徐々に心を開き、彼女の要望でニックを家に招いたことから、ケイトとニックは親密になっていく。

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しかし、ポーラがニックに正式に専属シェフにならないか打診したことを知ったケイトは、怒り心頭に発しニックに「自分の城を奪うな、自分の城は自分で見つけろ」と怒鳴ったのだった。
翌日、ニックが家に来ることはもうないと知らされたゾーイは、ショックのあまり家出をしてしまう。
慌てたケイトは、ニックとふたりでゾーイを探すと、彼女は母の墓にいた。

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しばらくして、ケイトとニックのレストランが開店する。
というたわいのないハッピーエンドの話。食べ物の話は、罪がなくて緩い方へいきがちだというが、本作もそのような内容だった。

オーナーのポーラーを演じたパトリシア・クラークソンは、『ドッグヴィル/Dogville』(03年)、『グッドナイト&グッドラック/Good Night,and Good Luck.』(05年)、『エレジー/Eleagy』(08年)、『シャッター・アイランド/Shatter Island』(10年)、『ワンデイ 23年のラブストーリー/One Day』(11年)などに出演している。冷たくて凛々しそうな女性役は、彼女のはまり役だ。→ブログランキングへ

【料理に関係する映画】(サイト内リンク)
シェフ! ~三つ星レストランの舞台裏にようこそ~』(12年)
洋菓子店 コアンドル』(11年)
エル・ブリの秘密  世界一予約の取れないレストラン』(11年)
トースト~幸せになるためのレシピ~』(10年)
再会の食卓』(10年)
食堂かたつむり』(10年)
女と銃と荒野の麺屋』(09年)
ジュリー&ジュリア』(09年)
ミラノ、愛に生きる』(09年)
幸せのレシピ』(07年)
UDON』(06年)
サイドウェイ』(04年)
フライド・グリーン・トマト』(91年)
料理長(シェフ)殿、ご用心』(78年)

『ゴーン・ベイビー・ゴーン』

ゴーン・ベイビー・ゴーン [Blu-ray]
Gone Baby Gone
監督:ベン・アフレック
脚本:ベン・アフレック/アーロン・ストッカード
原作:デニス・レヘイン『愛しき者はすべて去りゆく』
音楽:ハリー・グレッグソン=ウィリアムズ
アメリカ  2007年  114分 ★★★★☆

本作、『ザ・タウン』(10年)、『アルゴ』(12年)と、一作ごとに類稀な実力を見せつけてきたベン・アフレック監督のデビュー作である。原作はデニス・レヘインの『愛しき者はすべて去りゆく』。ボストンのドーチェスター地区を舞台に描かれいる。
監督と監督の弟である主人公のケイシー・アフレック はボストン出身であり、脇役やエキストラを地元で雇い撮影も同地区で行い、リアリティーを追求したという。監督は『ザ・タウン』でも同じように地元に密着して撮影を行った。
誘拐された娘の母親役を演じたエイミー・ライアンが、アカデミー賞助演女優賞にノミネートされた。
日本では劇場未公開。

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ある日、シングルマザーのヘリーン(エイミー・ライアン)が留守をした隙に、4歳の娘アマンダが誘拐された。
事件発生から3日後、警察の捜索に限界を感じたへリーンの兄夫婦は、街の裏側に精通する私立探偵のパトリック(ケイシー・アフレック)とアンジー(ミシェル・モナハン)に捜索を依頼する。

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ヘリーンは子供なぞ構わない自分勝手な生き方をしてきた。
さっそくふたりは、独自の人脈をたどって事件の真相を探り始める。
なにしろ、小さな街なので、住人たちは同じ高校の出身で顔 を見ればどこの誰かわかるような人間関係である。裏社会にはパトリックたちの高校の先輩後輩が多数いて、事件の真相が少しずつわかってくる。
小さな街を強調するためか、シークエンスが変わるたびに街の俯瞰映像が映し出される。

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ボストン市警のジャック・ドイル警部(モーガン・フリーマン)は、警察だけではこの事件を解決できないとみて、部下のレミー・ブレサント刑事(エド・ハリス)、ニック・プール刑事(ジョンアシュトン)に、パトリックたちと協力して捜査にあたるよう命令するのだった。

やがて、麻薬の元締めチーズからヘリーンの男友達が13万ドル金を横取りしたことが分かる。へリーンはその金の隠し場所をたやすく吐いてしまい、パトリックたちは13万ドルを手にする。
パトリックはアマンダと引き換えに金を返すとチーズに持ちかけるが、パトリックらのこの計画はドイル警部の知るところとなり、警部の責任のもとにアマンダ奪還作戦が敢行される。
しかし、肝腎のアマンダが湖の中に落ちて行方不明となる大失態に至ってしまう。警部は失敗の責任をとって、あっさり辞職してしまうのだ。この時点で、ストーリーはまだ半分くらいのところ。
ここからストーリーは意外な方向に展開していく。

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最後に、パトリックは重大な決断を迫られる。彼の選択は、まわりの期待とは裏腹なもの。その結果、まさに原作の邦題『愛しき者はすべて去りゆく』通りのやるせない結果となる。
タフさと純真さを兼ね備えたパトリックを、ケイシー・アフレックが見事に演じている。

【ベンアフレック関連作品】
監督
アルゴ』Argo/2012年/第85回アカデミー賞作品賞受賞
ザ・タウン』The Town/2010年
ゴーン・ベービー・ゴーン』Gone Baby Gone/2007年
脚本
グッド・ウィル・ハンティング/旅立ち』Good Will Hunting/1997年
(アカデミー賞オリジナル脚本賞をマット・デーモンとともに受賞)


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『マーゴット・ウェディング』

マーゴット・ウェディング [DVD]
Margot at the Wedding 
監督:ノア・バームバック
脚本:ノア・ボーンバック
製作:スコット・ルーディン
アメリカ合衆国   2007年  92分  ★★★*☆

神経質そうで高慢そうなマーゴットは、ニコール・キッドマンにぴったりの役柄。
一方、『ショートカッツ』(93年)『カンザスシティ』(96年)『イン・ザ・カット』(04年)で、くせのある役柄を演じたジェニファー・ジェイソン・リーが、姉に振り回される妹役を自然体で演じている。彼女は本作の監督ノア・バームバックと2005年に結婚している。
本作は日本では劇場未公開である。

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小説家のマーゴットが、妹ポーリンの私生活をネタに小説に書いたことが原因で、ふたりは気まずくなり、長い間疎遠になっていた。
そんな妹から再婚の知らせが届き、結婚式に出席するために、マーゴットは息子クロード(ゼイン・パイス)を連れて生家を訪れた。
ポーリンはマーゴットの小説が引き金となって離婚に至ったと思っているが、自己中のマーゴットは「私が妹との縁を切った。今は許しているけれど」と息子に話していて罪の意識はない。

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表面上は再会を喜ぶ姉妹だが、再婚相手のマルコム(ジャック・ブラック)が、売れない画家でおまけにマザコンで粗野な男であることを知ったマーゴットは、結婚に露骨に不快感を表すようになる。

わがままで、冷たくて傲慢、それでいて妙な正義感があるマーゴットは、周りとの摩擦が絶えない。
息子はアスペルガー症候群でおたくっぽい。
夫ジム(ジョン・タトゥーロ)とは冷え切っていて、おまけに不倫相手の小説家(キーラン・ハインズ)ともぶつかってしまう。

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隣の住人は変人一家で、木を切るように迫ったり、ゴミを投げ入れたり、子供を虐待したり、Hu_003かなり危ない。→「牛飼いとアイコンの部屋
そうしたことを見兼ねたマーゴットは、隣に関わろうとするが、隣との間に波風を立てて欲しくないポーリンたちにとって、マーゴットの行動は迷惑なのだ。
子供の頃、木登りが得意だったマーゴットは、妹に木に登るように促され、登ったはいいが降りてこれず、はしご車の世話になる。負けず嫌いで先のことを考えないマーゴットらしい事件を起こす。

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マーゴットとポーリンには、疎遠になっている姉妹がひとりいるらしいが、詳しくは語られない。またマーゴットには、ジョシュという息子もいて、その子の説明もない。詳しく知らされないことで、観ている方は落ち着かない気持ちになる。
うまくいっていない人間関係の中で生きていくという誰もが経験しそうなシチュエーションで、物語は進む。ちょっと紗がかかった映像で、そうしたモヤモヤ感を演出しているようだ。

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筋らしい筋がなく、マーゴットの周りで起こるゴタゴタで物語は進むけれど、最後には、気まぐれな彼女らしいやり方で、息子に対して親愛の情を見せる。
邦題の『マーゴット ウェディング』は乱暴だね。

【ニコール・キッドマン主演作品】
ラビット・ホール』Rabitt Hole/2010年
マーゴット・ウェディング』Margot at the Wedding/2007年
インベージョン』The Invasion/2007年
奥さまは魔女』Bewhiched/2005年
ザ・インタープリター』The Interpreter/2005年
記憶の棘』Birth/2004年
ステップフォード・ワイフ』The Stepford Wivwes/2004年
コールド・マウンテン』Cold Mountain/2003年
白いカラス』The Human Stain/2003年
ドッグヴィル』Dogville/2003年
バースデイ・ガール』Birthday Girl/2002年
めぐりあう時間たち』The Hours/2002年
アイズ・ワイド・シャット』Eyes Wide Shut/1999年
ある貴婦人の肖像』The Portrait of a Lady/1996年
誘う女』To Die For/1995年


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『それでもボクはやってない』

それでもボクはやってない スタンダード・エディション [DVD]
I Just Didn't Do It
監督:周防正行
脚本:周防正行
音楽:周防義和
製作国:日本 2007年 143分

日本の裁判の有罪率は99.9%。この数字には被告が犯行を認めた場合も含まれている。被告が否認した場合、無罪を勝ち取れるのは3%だという。この数字から警察や検察の力がいかに強いかが分かる。

金子徹平(加瀬亮)は、就職試験を受けに朝の満員電車に乗った。スーツの上着の後ろが電車のドアに挟まれた。それを引き抜こうとゴソゴソやっていると右側にいる女性に手が当たり目が合い、徹平は「済みません」と言って頭を下げた。

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下車する駅の近くになって「止めて下さい」と目の前の女子中学生が言い、フォームに降りたところで、「触りましたよね」とその中学生に徹平は言われた。サラリーマン風の男が、反論する徹平を駅の事務所に連れいった。
駅の事務所には、先ほど徹平と言葉を交わした女性がついてきて、「この人は痴漢をやっていません」と証言してくれたものの、事務所の入り口でその女性は追い返されてしまった。これで徹平は孤立無援となってしまう。
痴漢はやってないと徹平は主張するものの、「中学生はあなたがやったと言っている」と、駅員に取り合わない。
警察に引き渡され警官(大森南朋)が徹平に対し、「やったといえばすぐに出られる」と高圧的な態度で言った。濡れ衣を晴らそうするが、主張は認めらず、徹平は逮捕される。
検察でも、やっていないとの徹平の主張は認められず、ついには起訴されることとなる。
起訴の根拠は被害者の証言だけである。

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いよいよ裁判が始まると、ベテラン弁護士の荒川(役所広司)の追求で、警察の杜撰な捜査内容が明らかにされ、公判の4回目までは被告の撤兵にとって有利に進んでいると思われた。
ところが、第5回目の公判から裁判官が交代した。
それまでの担当裁判官が無罪とした2つの裁判が上告審で有罪となり、裁判官は転勤を命じられたというのだ。
裁判官の交代で雲行きは変わった。

日本の法廷では、検察は証拠をすべて開示する必要はなく、自分たちに有利なものだけつまり被告の有罪に結びつくものだけを証拠とすればいいという。
被告弁護士が証拠の提示を求め、裁判官が提示を指示した場合は提示しなければならない。

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多くの痴漢事件には証拠がないため、無罪主張する場合、それを証明しなくてはならないという。
そこで、現場を再現しビデオに収め、徹平が痴漢をしていないことを証明する。
さらに、徹平が言葉を交わした女性が見つかり、証言台に立ち徹平の無罪を訴えたのだが、裁判官(小日向文世)はその証言を取り上げない。
荒川は最初に徹平に接見した弁護士を証人に立てようとするが、裁判官に却下されてしまう。

徹平の拘留は4ヶ月に及び保釈金は200万円だった。痴漢を認めた場合は、拘留は数日で罰金は50万円ほどだそうだ。
かくして、判決が言い渡される。結果は有罪。直ちに徹平は判決を不服として控訴した。

痴漢冤罪を晴らすことの難しさが描かれている。
さらに、日本の裁判のあり方の問題点が見えてくる。


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『眉山』

眉山-びざん- (2枚組) [DVD]
眉山 [DVD]
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Bizan  The Mountain of Mother's Love
監督:犬童一心
脚本:山室有紀子
原作:さだまさし
音楽:大島ミチル
主題歌:レミオロメン『蛍』
公開:日本  2007年  120分   ★★*☆☆

東京の旅行代理店に勤める咲子(松嶋菜々子)は、知人の知らせで母親の龍子(宮本信子)が入院したことを知り、徳島に帰省する。主治医(永島敏行)の説明によると膵臓がんが肝臓と肺に転移していて、長くはもたないという。

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「神田のお龍」と呼ばれた龍子は、曲がったことが許せないたちの江戸っ子、お龍さんが怒ったら怒られている方が悪いと周りは言うくらいだ。
龍子は小料理屋をたたんでケアハウスに入居したときも、今回の入院も咲子には知らせなかった。咲子にすればなぜ知らせてくれないのかと思っている。
咲子は母親の付き添いをしているうちに若い小児科医(大沢たかお)と親しくなる。

母娘の人間関係は、ややもすると互いに依存した関係になりがちで、それが原因で母娘間に問題が起こることがあると言われている。(→ 『母は娘の人生を支配する』なぜ「母殺し」は難しいのか
しかし、龍子がサバサバした男気質であったから、あるいは小料理屋が忙しくて娘に手を掛けていられなかったから、母娘はそれぞれがインディーな生活を送らなければならなかった。ふたりともベタベタするようなタイプではない。

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咲子は龍子から父親は死んだと聞かされていたが、墓も遺骨もない。
そのことで龍子に詰め寄ると、主治医から知らされた病状を教えなかったことと、父親について嘘をついていたことでおあいこだと、龍子ははぐらかす。

咲子は自分の出自を知りたかった。龍子にすればそのことを知らせれば母娘の間に亀裂が入るような気がしたのかもしれない。この母娘の感情の機微が本作の重要なテーマである。この点をもっと掘り下げた方が良かったのではないか。

知人が咲子に龍子から預かったという風呂敷包みを渡した。そこには、父親と思われる人物からの龍子へのラブレターと咲子の誕生日ごとに送られてきた現金書留の封筒が入っていた。さらに、眉山を背景に撮った若き日の龍子と父親のスナップ写真が入っていた。父親には妻がいて、龍子は引き下がらざるを得なかったのだという。
このあと、咲子は手紙に書かれている東京本郷の住所を訪ねる。

咲子は父(夏八木勲)の診療所に患者を装って受診する。
ふたりは娘とも父とも名乗り出せないまま、咲子が「徳島の祭にお出でください」と言い残して、診療所をあとにするのだった。

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龍子は毎年楽しみにしている阿波踊りを見たいと言い出した。
主治医の制止に対し、「阿波踊りを見にいかなければ良くなるのですか?」と咲子は反論して、龍子を連れ出すのであった。
阿波踊りの桟敷席には父親が現れる。
という当たり障りのないベタなストーリーだ。

その2年後。
龍子は献体に登録していた。
献体とは医学生の解剖実習に遺体を提供することである。それゆえ、家族の元に遺体が戻ってくるのは、解剖実習が終わってからになり、死後半年から2年くらいかかる。そして、献体を登録した人は、学生に対して一言書き残すことができる。
龍子が書いたのは、「咲子は私の宝でした」であった。


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