キングの身代金 エド・マクベイン
エド・マクベインの87分署シリーズを読んでみようと思い立った。
前に数冊を読んでいたけれど、なにしろ50冊あまりもあるシリーズなので、どういう順番で読むか迷う。
まずは第1作の『警官嫌い 』を読んだところで、『ミステリ・ハンドブック 』(1991年)をめくって、次の候補を探した。
黒澤明が『天国と地獄 』のヒントにしたのが、エド・マクベインの『キングの身代金』であることがわかった。
ミステリファンなら、誰もが知っていることらしい。
アメリカのB級ミステリからヒントをえて、『天国と地獄』が作られたと聞いたか読んだことがあって、なんという本なのか長い間解決されないままになっていた。それが、ここへきて胸のつかえが下りた。
そうなると次は『キングの身代金』だな。
![]() エド・マクベイン/井上一夫 早川書房 1977年 |
主人公のダグラス・キングは、自らが重役を務めるグレンジャー製靴会社の社長に就任しようと企み、自社株の買い占めを画策している。
キングは全財産をかき集め、75万ドルを株買い占めに投入しようとしている。
キングとお抱え運転手の息子はどちらも8歳で、双子と見紛うくらいに似ている。
二人がインデイアンごっこをして家の周りで遊んでいるときにひとりが誘拐され、50万ドルの身代金を要求される。
しかし、誘拐されたのは運転手の子供だった。
キングは葛藤する、自分の子供でないのだから身代金を払わないと言い出した。
キングの会社乗っ取りの企みは、敵対する取締役たちの知るところとなり、身代金を払えば資金が足りなくなりキングが失脚することが目に見える状況になった。
最終的には犯人の指示に従おうとする。
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『キングの身代金』は、血縁関係でなくとも誘拐が成り立つことを、世間に知らしめたのである。
ひょっとすると誘拐の対象は人間である必要もない。
『天国と地獄』では、特急こだまのトイレの窓から、現金の詰まったカバンを河川敷に投下させ、誘拐犯は身代金を手にする。
大学病院のインターンが主犯の設定である。
警察はカバンに発煙剤を仕込んでいた。
カバンを焼却炉で燃やしたさいに、特殊な煙が出るしかけである。
黒澤監督は誘拐犯を厳罰にすべきであるという考えで、罠をしかけて逮捕するという結末を用意した。
原作は、身代金の引き渡しのあたりから話が失速した感がある。
誘拐犯にハッピーエンドはどうかと思うが、それは今の感覚だからである。
その頃までは、誘拐はそれほど思い罪には問われなかったという。
先進国では、誘拐犯は厳罰に処すべきという考え方が広まっていった頃だった。
時代を先取りした『天国と地獄』と比較すると『キングの身代金』は見劣りするが、アイデアに満ちていて決してB級などというものではない。
むしろ黒澤明の先見の明を賞賛すべきだと思う。→人気ブログランキング
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