フェルメール 光の王国 福岡伸一
本書にはふたつのテーマがある。
ひとつはフェルメールに関する多くの本がそうであるように、光の使い方についてである。
著者はそれを「光の粒だち」と呼んでいる。
もうひとつは、著者が登場させる歴史上の人物たちについてである。
著者の独自の視点でフェルメールと彼らを結びつけ、フェルメールの人物像や絵の分析を試みている。
![]() 福岡伸一 木楽舎 2011年 |
ヨハネス・フェルメール、アントニー・ファン・レーウェンフック、バールーフ・デ・スピノザ、マウリッツ・コルネリス・エッシャー、野口英世、夭折の天才数学者エヴァリスト・ガロア、DNAの2重らせん構造の発見者のワトソンとクリック、著者が動的平衡の拠り所としているルドルフ・シェーンハイマー、地動説のガリレオ・ガリレイ、土星の輪の発見者ジョヴァンニ・カッシーニ、ロゼッタストーンを解読したトマス・ヤング、そしてポール・マカットニー。
マッカートニーはロンドンのケンウッドハウスにある『ギターを弾く女』がお気に入りでときどきお忍び現れるとのこと。
時代も場所もかけ離れた接点のない人物の逸話を挟み込んで、話は分裂することなく広がりを見せている。
フェルメールの絵には、"フェルメールの部屋" と呼ばれる構図で描かれているものがある。
光が左の窓から差し込む構図である。
人物の向こう側の壁には絵画や地図などが描かれる。
切り取られた日常のひとこまが、光に照らされる部分と影により、物語性が表現されている。
フェルメールはカメラで捉えたように写実的に描きながらも、人工的な変化を加えて、ある意図を表現している。
有名な『真珠の耳飾りの少女』に見られるように、真珠の耳飾りや少女の眼差しや唇に「白」を加え、さらに眼差しは故意に視点をずらして、神秘的な表情にしている。
最終章では、再びフェルメールとレーフェンフックの関係に触れ、フェルメールがレーフェンフックの顕微鏡にうつる画像を写生したのではないかと、大胆な推理を立てている。
現存するフェルメールの絵は37点とされているが、真贋の決着を見ていない作品があり、さらに盗難にあい未だ行方不明の作品もある。
こうした未解決のことも含め、絵にもフェルメール自身についても解明されていない謎がある。著者は、それらの謎にいくつかの独自の仮説を披露している。→人気ブログランキング
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