メヌードを作る
レイモンドカーヴァーの短編集『象』に収録されている『メヌード』には、パーティが終わったあとにメヌードを作る友人の様子が次のように描かれている。
<メヌード、牛の胃(トライプ)。トライプと1ガロンの水で始まった。それから彼は玉葱を刻んで、それを沸騰しはじめていた湯の中に放り込んだ。チョリソ・ソーセージを鍋の中にいれた。そのあとで干した胡椒の実を沸騰した湯の中にいれ、チリ・パウダーをさっさっと振った。次はオリーブ・オイルだ。大きなトマトソースの缶を開け、それをどぼどぼと注ぎ入れた。にんにくのかたまりと、ホワイト・ブレッドのスライスと、塩と、レモン・ジュースを加えた。彼は別の缶を開けー皮むきとうもろこしだーそれも鍋の中にいれた。それを全部入れてしまうと彼は火を弱め、鍋に蓋をした。>
パーティに集まった客たちがメヌードすべて食べてしまい、主人公は食べそびれてしまう。
そのことを主人公は悔やむ。
読んでいてたいそう旨そうに思えたので、ぜひ作ってみようという気になった。
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さて、ハチノス(牛の胃)はどこで売っているのだろう。
古町の肉屋で訊いたら
「牛と豚は扱っていますが、蜂の巣はないですよ」と、とぼけた答えが返ってきた。
前途多難だ。
スーパーの肉コーナーにいくと、白コロホルモン、センマイ、ハツ、モツなどがあったが、ハチノスはなかった。
譲歩して、これらをハチノスの代用として使うことにした。
欧米では内蔵肉のことをバラエティミートというそうだ。
そのバラエティミートのうちハチノスが一番おいしいとどこかに書いてあったが、ないのだからしょうがない。
さらに、レモン、セロリ、にんにく、ピュア・レモン汁、トマト・ピュレ、ホール・トマトの缶詰、乾燥オレガノ、粒胡椒も購入した。
これで買い忘れたものはないだろう。
大鍋のたっぷりの湯に内蔵を入れセロリの葉の部分も入れて、吹きこぼす。
そのあと内臓をザルにあげで洗ったのち適当な大きさに切る。
切った内蔵どもを再び沸騰した湯の中にいれ、玉葱みじん切り、セロリみじん切り、にんにくふたかけら、鷹の爪5本、粒胡椒を適量いれ、こっそりローリエも2枚いれ、じっくり煮込む。
そのあと、水に浸しておいたレンズ豆をぶち込んで、ホール・トマトの缶詰をひと缶いれ、トマト・ピュレ、レモン汁、塩を加えて、さらにグツグツ煮込んだ。
さて、味見だ。
ヒリヒリするほど辛いが、予想通りさっぱり旨味がない。
おまけに油が層をなしてたっぷり浮かんでいる。
ローリエと鷹の爪を取り出し、油の元凶の白コロホルモンも取り出し、表面の油をすくいとって捨て、固形のコンソメを4個入れた。
3日間は食べ続けなければならない量を作ってしまった。
食べるときは、レモンを絞り、乾燥オレガノをふりかける。
家族の評価は良好だったが、コンソメを入れた時点で、このメキシコ風煮込みスープは敗北だと思った。SBの固形コンソメの投入は、化学調味料に頼ったということで、わが料理規範に反する行為なのだ。
ところで、メキシコではメヌードは宿酔の朝にはもってこいの料理とされ、男性にはそこそこ人気だが、女性にはさっぱりだそうだ。
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