アメリカン・デモクラシーの逆説 渡辺 靖
オバマが目指したのは、古き良き時代のアメリカに「回帰」することによって「変革」を成し遂げることであった。
いまアメリカが陥っている行き過ぎた新自由主義がもたらした破綻、つまりアメリカン・デモクラシーの影の部分(逆説)を、著者は丹念なフィールドワークで検分する。
アメリカン・デモクラシーの逆説 渡辺 靖 岩波新書 2010年 |
ハリケーン「カトリーナ」に襲われ、政治的に見捨てれらてたニューオリンズ。
政治への不信、ビジネス化する大統領選挙。
ゲーテッドコミュニティー、メガチャーチによる中世化。
精神疾患患者の著しい増加。
監獄収監者の増大、地方都市の生き残りをかけた監獄誘致。
ストリートギャングや犯罪組織としての結社。(→映画『闇の列車、光の旅』)
人種差別、マイノリティ問題。
貧困と肥満の問題。
アメリカには「丘の上の町」「明白の天命」「地上で最後で最良の希望」といったメタファーで称される、一種の選民思想に近い伝統がある。歴代の大統領はこのアメリカ例外主義に訴えることで国民統合を図ってきた。
オバマが唱えるのは、このような右派勢力が打算を持って唱える懐古主義ではなく、民主党や共和党も乗り超えた、より根源的意味での懐古である。
著者はあくまでオバマの理念に好意的である。
本書では、19世紀のフランスの思想家・外交官アレクシス・ド・トクヴィル著書『アメリカのデモクラシー』に記載されrていることが、取り上げられている。
<アメリカ人の偉大な特典は、他の諸国民よりも文化的に啓蒙されていることではなく、欠点を自ら矯正する能力を持っていることにある。>
トクヴィルが指摘する、この自己修正力こそが、アメリカが世界の先頭を走ってきた原動力である。
自己修正しようとする姿勢を、オバマは国民に訴えている。
著者のフィールドワークは、その自己修正の萌芽、アメリカン・デモクラシーの光の部分を紹介している。→人気ブログランキング
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