『半身』サラ・ウオーターズ
アン・クリーブスの『大鴉の啼く冬 』のなかで、本書が話題になるところがある。
殺された女子高生に好意をもっていた担任の女性教師が、参考人として警部の尋問をうけたときに本書が出てくる。
担任は次のように供述している。
<「・・・彼女(殺された女子校生)はサラ・ウォターズの『半身』を読み終えたところでした。作者の筆力、ヴィクトリア風の文体に、すごく感銘を受けていました。・・・」>
主人公のマーガレットは、父親似で美人ではないらしい。
神経症かなにかの病気を患っていて、ときどき医師の診察を受け、寝る前にクロラールや阿片チンキやモルヒネを服用して精神の安定を保っている。
そんなマーガレットが、テムズ河畔にそびえ建つミルバンク刑務所を、慰問する気になった。
なぜまた、暗く寒くて異臭が漂う、おぞましい刑務所を慰問する気になったのか。
そりの合わない母親の監視から、いっときでも逃れるためかもしれない。
マーガレットは、はじめての慰問のときに、19歳の女囚シライナに惹かれた。
シライナは霊媒だと看守から聞かされた。
慰問を重ねるごとにシライナの秘密が明かされ、ふたりの絆は深まっていく。
監獄や霊媒という非現実的な世界が、現実のように感じられるのは、筆者の圧倒的な筆致による。
『大鴉の啼く冬』のなかで女子校生の言ったように、<作者の筆力、ヴィクトリア風の文体に、すごく感銘を受けました。>という印象がある。
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