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2011年11月18日 (金)

グレン・グールド シークレット・ライフ マイケル・クラークスン

著者のマイケル・クラークスンは、J・Dサリンジャーの取材記事が評価されピューリッツアー賞にノミネートされたことで名を馳せたジャーナリストである。
本書を執筆するに当たり、グレン・グールドの関係者約100人に取材をしている。
Photo_20201214082901グレン・グールド シークレット・ライフ
マイケル・クラークスン
岩田佳代子 訳
道出版
2011年<

生前グールドの女性関係が公になることはなかった。
その理由は、グールドは私生活について詮索されるようなことがあれば、その人たちと縁を切った。
その結果、人々はグールドがゲイかバイセクシャルではないかと考えるようになった。
芸術家にはありがちなこととして、それはなんとなく受け入れられていた。
グールドのファンにとって、暗黙の了解事項だった。
グールド自身はあえて誤解を否定しなかった。

1950年から60年代にかけてグールドと親しい関係にあった作家の質問に、グールドはウラジミール・ホロヴィッツの有名な言葉を逆手にとって、次のように答えている。
<「人々から、ゲイかと問われたら何と返事するのか」との問いに、グールドは答えた。「僕はいつもホロヴィッツの言葉を引き合いに出しているんだ、曰く、ピアニストには3種類いて、両性愛者とユダヤ人とたちの悪いピアニストだって。で、僕はそこにもう1種類加えるんだ、ホロヴィッツよりうまいピアニスト、っていうのをね」>
いかにもグールドらしい気の利いた返答をしている。
グールドは多くのピアニストに好意的に接したと言われるが、ホロヴィッツに対してだけは、ホロヴィッツがグールドに対してそうだったように、辛辣であったという。

2007年8月25日づけの『トロント・スター』紙に、グールドと有名な音楽家の妻であった画家コーネリア・フォスの関係について、著者による特集記事が掲載された。グールドとフォスは1960年代から約8年間、不倫関係にあった。
この記事が出たことで、それまでの伝記作家たちがグールドの女性関係に踏み込まなかったことは怠慢であるとの批判の記事が、他紙に掲載されたという。

グールドが親密になった女性は他にも何人かいた。そして求婚もしている。
グールドは、様々なことに秘密主義を貫いた。
『グレン・グールドのピアノ』(ケイティ・ハフナー著)によると、
グールドが愛用したスタインウェイ社のピアノCD318を専門的に調律したのはヴァーン・エドクィストであったが、エドクィスト以外にも、グールドが調律を依頼した調律師が数人いたとされている。
しかしそれぞれの調律師たちは、他の調律師の存在を聞かされていなかった。また他の調律師が調律したことを知らなかったという。
女性との交際においても同様のことがあったと記載されている。
つまり今風にいえば、二股も三股もかけていたということになるのだろうか。

本書はグールドのロマンスを中心に書かれている。今年10月に公開された映画『グレングールド 天才ピアニストの愛と孤独』のテーマのひとつは、グールドをめぐる女性たちである。
本書が原作であり、著者が脚本を担当している。→人気ブログランキング

『グレン・グールドのピアノ』 ケイティ・ハフナー

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