犯罪 フェルディナント・フォン・シーラッハ
弁護士の「私」が依頼された11の事件からなる短篇集。
犯罪 フェルディナント・フォン・シーラッハ 酒寄進一 訳 東京創元社 2011年 |
主観を排して淡々と綴られ冷徹な印象を受けるが、作者の容疑者たちを見守る視線はどことなく暖かい。
「私」は、 依頼人の権利を守るという弁護士の立場で、検察や警察や依頼人たちと接している。
謎解きやどんでん返しを意図した、いわゆるミステリではない。むしろ純文学に近い。
それぞれが読み応えのある連作短篇集。
『エチオピアの男』には泣かされた。
『フェーナー氏』一生愛し続けると医師は妻に誓った。妻は夫を罵り続けたが、夫は誓いを守り隠居生活に入った。
『タナタ氏の茶碗』金庫を盗んだチンピラたちに脅しをかけた顔役たちが惨殺される。
『チェロ』資産家に生まれた姉弟の残酷な愛。
『ハリネズミ』容疑者の弟の巧妙な証言に法廷は翻弄される。
『幸運』娼婦の目の前で突然死した男の遺体を隠す娼婦の恋人と娼婦の運命。
『サマータイム』高名な実業家がホテルで娼婦と過ごしたあとに、その娼婦が惨殺された。実業家は容疑者として拘留された。
『正当防衛』ふたりのネオナチに絡まれた男がふたりとも殺した。正当防衛か過剰防衛か。男は黙秘を続ける。
『緑』羊の眼をくり抜いた少年の殺意の真相。
『棘』美術館警備員の孤独、それは警備員の出勤カードが紛失したことから始まった。
『愛情』恋人の背中をナイフで切りつけた大学生の動機。
『エチオピアの男』エチオピアの貧しい村に住み着いた銀行強盗は、村を豊かにし名士になった。
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