背後の足音 ヘニング・マンケル
イースタ警察署に娘を捜して欲しいという母親の訴えが出された。
夏至前夜に友人と出かけて以来、行方がわからないという。
旅先から絵はがきが届いているが、筆跡は娘のものではないと母親は訴える。
事件として扱うべきなのか釈然としないものの母親の熱意に動かされて、クルト・ヴァランダーは捜査会議を招集した。
背後の足音 上 ヘニング・マンケル 柳沢由実子 |
背後の足音 下 創元推理文庫 2011年 |
ところが几帳面な同僚刑事のスヴェードベリが無断で会議を欠席した。
不審に思ってアパートを訪ねたヴァランダーたちは、スヴェードベリの射殺死体を発見する。
どうやら彼は、若者たちが失踪した事件をひとりで調べていたらしい。
やがて、行方不明だった3人の若者の遺体が18世紀の衣装をまとったままの姿で発見された。
ヴァランダーら捜査陣の焦燥感がつのるなか、今度は新婚カップルが殺される。
いずれの犠牲者も額を一発で撃ち抜かれていた。
8人の殺害はシリアルキラーの仕業なのか、犯人は複数なのか、操作の手掛かりが見つからないまま堂々巡りを繰り返す。
スヴェードベリの個人生活を追っていくと、写真に映った謎の女性の影がちらつく。
やがて、スヴェードベリの隠された素顔が明らかになっていくにつれて、捜査の手掛かりらしきものがかすかに見えてくる。
不規則な生活と不摂生がたたって、ヴァランダーは50歳を前にして糖尿病と高血圧を宣告される。喉は渇くし疲れやすい。車を運転していて眠くなる。夜中にふくらはぎがひき攣り、悪い夢も見る。
ラトビアの恋人とは別れたようだ。
ヴァランダーと和解することのなかった父親が亡くなって2年が過ぎ、別れた妻は再婚した。
これらのことに、吹っ切れない思いを引きずっている。
唯一の心のよりどころの娘は遠く離れて暮らしているし、友人と言える人間は数えるほどしかいない。
そんなミドルエイジ・クライシスのまったただ中に、ヴァランダーはいる。
若者たちが、格差社会のなかで確固たる基盤を失っているという先進国の抱える共通の問題が、本書の背景にある。
シリーズ第7作(原著は1997年刊)。→人気ブログランキング
2016.03.19『霜の降りる前に』
2014.09.19『北京からきた男』
2013.04.10『ファイアーウォール』
2012.01.02『リガの犬たち』
2011.12.20『背後の足音』
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