ヒトはどうして死ぬのか―死の遺伝子の謎 田沼 靖一
「死」を研究する意味は、「生きている」ことの現象がよりはっきりとらえられるようになること、さらに遺伝子を起点とした新しい死生観を教えてくれるのではないかと、著者は指摘する。
ヒトはどうして死ぬのか―死の遺伝子の謎 田沼 靖一(Tanuma Seiichi) 幻冬舎文庫 2010年 |
細胞の死には3つタイプがある。
それは、アポトーシス、アポビオーシス、ネクローシス(壊死)である。
アポトーシスは再生系細胞の制御された死、アポビオーシスは再生しない細胞の自然死、ネクローシスは細胞の事故死つまりケガや疾患によってもたらされる細胞の死である。
分裂・増殖する機能を持つ細胞は「再生系」と呼ばれ、増殖せずに生き続ける細胞は「非再生系」である。
ほとんどの細胞が再生系細胞である。
非再生系の細胞の代表として挙げられるのは、脳の中枢神経細胞や心臓の心筋細胞である。
人間の非再生系細胞の寿命はおおよそ100年、人間の寿命に一致している。
人間の再生系細胞は細胞分裂を50~60回繰り返すと、それ以上は分裂ができなくなり死を迎える(ヘイフリック限界)。
DNAの末端には、テロメアと呼ばれる「TTAGGG」の6文字の配列が1000~2000回繰り返し続いている。
細胞分裂のたびにこの配列の20個分ずつがなくなり、細胞分裂を繰り返しテロメアが半分くらいの長さになると、その細胞はアポトーシスを迎える。つまりテロメアは、細胞分裂のカウンターと考えられている。
成人の身体は約60兆個の細胞でできていて、1日に死ぬ細胞の数は3000億~4000億個、約200分の1が死んでいることになる。その重さは約200グラム、毎日ステーキ1枚分の細胞が死に、新しい細胞に置き換わっている。
<オスとメスの染色体が、ランダムな遺伝子の組み換えによって新しい遺伝子組成を持った受精卵は、・・・・・・2倍、4倍、8倍と分裂して8細胞期になったあたりで、・・・・・・“不良品”である場合、アポトーシスのスイッチを入れることで、その有害な遺伝子組成を除去しているのです。P143>
つまり受精卵には、自らが生きるべきか死ぬべきかの判別能力が備わっているということである。
生物の進化は遺伝子の突然変異によったもたらされる。
その突然変異がその種にとって望ましくない突然変異を起こした場合、その遺伝子を持つ受精卵が自ら死んでいく必要がある。アポトーシスにより、その種にとって都合のよい突然変異を選別して進化を調整しているのである。
<地球の環境が変わりゆくなか、生物の個体を通してしか存続できない遺伝子にとって、生物を環境に適応させていくには「性=遺伝子の組み換え」と「死=遺伝子の消去」を伴う仕組み以上によい方法はないのかもしれません。P148>
地球上の生物は、死によって生を更新することにより、生命を遺して伝えることができるのである。
アポトーシスという面から見ると、ガンとはどういうものなのか。
<実は日々、みなさんの身体のなかでもガン細胞はできています。ガン細胞がひとつやふたつあるだけでガンを発症するわけではありませ。ガン細胞にアポトーシスを起こす力が残っていれば、異常な細胞として免疫細胞によってアポトーシスが起こされ、消去されます。
・・・・・・腫瘍には良性のものと悪性のものがあり、良性のものはガンとは呼びません。
では良性と悪性を分けるものは何かと言えば、「アポトーシスを回避して“不死化”できるかどうか」。ガンには必要条件として「細胞が異常に増殖できること」、十分条件として「細胞がアポトーシスを抑制できること」が挙げられ、必要十分条件がそろった場合に初めてガンになるわけです。P84>
細胞死をコントロールする薬を研究することにより、ガン、アルツハイマー病、AIDS、糖尿病などの治療薬が開発につながる可能性がある。→人気ブログランキング
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