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2012年3月

2012年3月31日 (土)

『三本の緑の小壜』 D・M ディヴァイン 

三本の緑の小壜 (創元推理文庫)

三本の緑の小壜

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D・M・ディヴァイン
山田 蘭 訳
創元社推理文庫
2011年
★★★☆☆

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夏の夕方、学校の友人達と泳ぎに出かけた13歳の少女ジャニスは帰ってこなかった。
翌日、近くのゴルフ場で全裸死体となって発見される。
容疑者として浮上したのは、町の診療所に勤務する若き医師テリー・ケンダルであった。
数日後、精神的に追い詰められたテリーは崖から転落死する。
警察は少女殺しを苦にしての自殺と断定し、事件は終結したと思われた。
しかし、兄の死の報せを受けてアメリカから帰国した弟のマーク・ケンダルは、死因に疑問を抱いた。
事件の真相を明らかにしようと兄の勤務先に職を得て、独自に調査を開始した。
やがてジャニスの友達であった13歳の少女が、同じように全裸で殺される。
殺されたふたりの共通点は、飛び抜けて成績が優秀で美貌も備えていることだった。

本書は5部構成になっていて、各章が一人称で書かれている。
それぞれの章の最後は、次へのプロローグとして三人称で書かれている。
一人称で描かれることよって、主人公が3人登場することになる。
こうした多視点からの描写により、登場人物の心理のひだや人間関係の細部が浮き彫りにされている。
さらに、作者の観察眼の鋭さや描写の上手さが加味されて、ミステリにとどまらない本書の魅力となっている。
さて、タイトルの『三本の緑の小壜』の謂われは、数え歌の歌詞の一節であると、後半にさりげなく明かさる。
そして、結末でその意味するところにたどり着くのである。

2012年3月29日 (木)

底抜け合衆国  町山智浩


底抜け合衆国: アメリカが最もバカだった4年間 (ちくま文庫)

底抜け合衆国: アメリカが最もバカだった4年間 (ちくま文庫)



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町山 智浩
筑摩書房
2012年

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フロリダ州での票の再集計にもつれ込んだものの、共和党が多数を占める最高裁判所により再集計は差し止められた。
ブッシュの弟のフロリダ州知事ジェブ・ブッシュは、犯罪歴のある選挙人の票を無効にしたといわれている。
そのなかには犯罪を犯したことのない人物も含まれていたという。
ここから、アメリカの狂騒は始まった。
2001年には「9.11同時多発テロ」が起こり、アメリカは愛国者法を制定し全体主義国家のようになっていった。
9.11の黒幕はフセインであると煽り、イラクには大量破壊兵器があるとしてイラクに戦争をしかけた。
2003年3月、ブッシュ批判の急先鋒に立ったマイケル・ムーアが、アカデミー賞授賞式で数日前にイラク攻撃を開始したブッシュに対して、「ブッシュよ恥をしれ」と叫んだ。
そして2004年再び大統領選挙がやってきた。
ムーアはブッシュ再選阻止を叫んで『華氏911』を公開した。
にもかかわらず、なんのことはない、内外からあれほど批判にさらされたブッシュが再選されてしまうのだ。

間違っていようが、目を覆いたくなるような悲惨なことが起きようが、人殺しが起きようが、戦争になろうが、ジョークで笑い飛ばそうとするのがアメリカである。
著者はそんなスラプスティックな大衆国家アメリカを、豊富な知識と的確な視点で伝えてくれる。
だから著者のアメリカ批評は見逃せない。→人気ブログランキング

キャプテン・アメリカはなぜ死んだか/町山智浩/文春文庫/2011年
USAカニバケツ: 超大国の三面記事的真実 /町山智浩/ちくま文庫/2011年
底抜け合衆国: アメリカが最もバカだった4年間/町山智浩/ちくま文庫/2012年

2012年3月28日 (水)

代替医療のトリック

多くの国で人口の半数以上が代替医療を利用しているという。
地球全体では、毎年400億ポンド(5兆3千億円)が代替医療に費やされていると推定され、医療支出のなかでもっとも急速に増加している分野である。
通常医療と同じ病気を治療できると主張してきた代替医療は、絶大な効果があるのか、役に立たないのか、あるいはその中間なのか、本書の目的はその真実を知ることである。
著者のひとりサイモン・シンは、インド系英国人である。
これまでに『フェルマーの最終定理』、『暗号解読』、『宇宙創成』を書き下ろしている。
いずれの著書も緻密な調査に基づいた分析と巧みな構成により、高い評価を得ている。
一方、エツァート・エルンストは代替医療の分野における世界初の教授である。
著者たちが協力することにより、代替医療に対して偏りのない視点で真実を突き止めることができるとしている。
Photo_20210219074701代替医療のトリック
サイモン・シン  エツァート・エルンスト
青木 薫 訳<
新潮社
2010年

第1章では、以下の4つの歴史的エピソードを詳しく述べている。ジョージ・ワシントンは3人の医師の数回にわたる瀉血により命を落とした。壊血病にレモン汁が有効であることが突き止められたが、予防法として直ちに広まることはなかった。クリミア戦争におけるナイチンゲールの働きが評価されたのは、彼女が統計学に精通ていていたからである。イギリスにおいて、肺がん発生率は喫煙者に多いことが、3万人の医師を対象とした前向きコホート研究により証明された。
これらのエピソードから導き出されるのは、検証されない医療行為は害であるかもしれないこと、新しい治療法を共有するための学会の必要性、医療行為における統計学の重要性、医療行為は科学的根拠に基づいていなけらばならない、である。著者たちは、代替医療は以上の4つの点から検証されるべきであるとしている。

本書では、鍼、ホメオパシー、カイロプラクティック、ハーブ療法にそれぞれ1章を使って詳しく分析している。
付録ではその他の30の療法についての分析結果が示されている。
本書が導き出した結論は、鍼はいくつかの痛みや吐き気に効果があるが、多くがプラセボ効果でしかない。
ホメオパシーはプラセボ効果である。
カイロプラクティックは腰痛に多少の効果があるが、施術により頸動脈の内壁が損傷され脳梗塞に至る危険がある。
いくつかのハーブに効果があるが、ハーブ自体の毒性、薬剤との相互作用、ハーブの汚染そして製造業者が添加するステロイド剤などの薬剤による副次的な危険があるとしている。
プラセボ効果とは、治療を受ける側の期待感や信頼感によってもたらされる見せかけの効果のことであり、代替医療の治療効果のほとんどはこのプラセボ効果である。
2000年以降、世界で代替医療に関する4000件の研究が発表された。
それらを詳細に分析した結果が上記である。

WHOは2003年に『鍼―対照臨床実験に関するレヴューと分析』と題する報告書をまとめた。
その結果、鍼は100以上の病気や症状に効果があるとしている。
しかし、鍼調査委員会は鍼の効果を信じる人たちだけで構成されており、鍼に批判的な人物は含まれていなかった。
WHOは通常医療に対しては妥当な取り組みをしてきたが、代替医療に関しては政治的な意図を重んじているようにみえると、著者たちは批判している。

思慮ある人たちがなぜ代替医療に騙されるのか。
実際に効果があったのだから、プラセボ効果であっても疑いようがないと思ってしまう。
そして、自然・伝統・全体論的(ホリスティック)という、代替医療の中心的な原理とやらをまんまと信じ込んでしまう。
通常医療を悪と位置づけ、そのカウンターパートとして、代替医療が善であるかのようなイメージを作り出しているのである。

では、プラセボ効果でしかない治療を広めることに加担してきたのは誰なのか。
代替医療に対するWHOの対応は公正とは言いがたく不可解である。
一部のセレブリティたちは、これまで代替医療の広告塔となってきた。
最も突出した人物はチャールズ皇太子である。
皇太子はさまざまな機会を通じて、代替医療に対して好意的な発言を繰り返してきた。
通常医療の研究者は代替医療に無頓着であり、その危険性を研究していない。
メディアは通常医療に対しては厳しい対応をとるが、代替医療に対しては肯定的である。
代替医療のセラピストを登場させ、科学的根拠のないセラピーを推奨する立場をとっている。
政府は代替医療の危険性に寛大すぎる。
ハーブやサプリメントに対して、危険性を証明するのは当局であって製造者ではない。
問題が起こってから規制当局は動き出すのだ。
薬剤メーカーは、何年もかけていくつのも実験や臨床試験を積みかさね当局の認可を受けて、はじめて製品を市場に送り出すことができる。
通常医療と代替医療はどちらも病人を治すという同じ望みを持っているが、一方は厳しく規制され、他方は無法なやり方がまかり通っている。
政府は何らかの理由で、代替医療産業と対立することを避けてきた。
直接的な言い方をすれば、票を失わないために手をこまねいてきたのだろう。
これは、どこの政府も同じらしい。

代替医療のセラピストの行動のうちでもっとも危険なのは、患者が通常医療を受けなければならないときに、自分の代替医療を受けるよう促すことである。
その結果、患者たちは食い物にされ健康を損なう恐れがある。こうしたことは代替医療にも通常医療に課されているような規制が行われれば、解決すると著者たちは提言している。
たとえば、タバコの箱に書かれているような健康上の警告を義務づけることがひとつの解決策である。
通常医療で行われているインフォームド・コンセントを、代替医療に求めたらどうだろう。
カイロプラクティックにより、頸動脈が損傷され脳梗塞になる危険があることを患者に告げなければならないとしたらどうなるだろう。

本書は代替医療に関する発表をつぶさに調べ、公正な視点で代替医療の抱える危うさを指摘した。
代替医療の多くが金儲けの範疇に属するものであって、取るに足りないという結論を下したのだ。
よくぞ代替医療のトリックを暴いてくれたと著者たちに拍手を贈りたい。→人気ブログランキング

本書の冒頭の献辞は「チャールズ皇太子に捧ぐ」である。
本書は代替医療を擁護する立場をとり続ける皇太子に対する批判の書でもある。→ 【2012.04.30】英国王のスピーチ

2012年3月27日 (火)

女の旅 ー幕末から明治期の11人 山本志乃

本書は江戸末期から明治期にかけて活躍した11名の女性の生き様を、旅という観点から紹介している。
のっぴきならない事情が彼女たちに旅を強いたわけである。
旅というよりは、むしろ移動と言った方がいいかもしれない。
Image_20201205170901女の旅―幕末維新から明治期の11人
山本 志乃
中公新書
2012年

それぞれの章をひと言でまとめると、俳人の全国漂流、勤王の女志士、坂本龍馬との新婚旅行、女弁士の全国遊説、米国留学、旅芸人のヨーロッパ、富士山気象観測、ハンガリー伯爵夫人としての生涯、蒙古王室の教育顧問、ブロードウェー美容修行、英国作家の日本紀行となる。
これらの11の物語のうち、唯一旅と呼べるのはイギリス人旅行作家イザベラ・バードが日本の東北地方から北海道を巡った苦難の旅である。帰国後、イザベラは『日本奧地紀行』を発刊し評判となった。
その後、日本には数回訪れ、中国や韓国にも足を伸ばしている。
本書に綴られているのは、男尊女卑の世の中にあって、女性というハンディキャップと戦いながらたくましく生きた女性たちの物語である。

余談であるが、韓国で発刊されたイザベラ・バードの『韓国紀行』は、韓国にとっての不利な箇所が削除され、ソウルは東洋一清潔な町であると改竄されているらしい。→人気ブログランキング

2012年3月24日 (土)

中二階 ニコルソン・ベイカー

入社2年目の男が、昼休みに靴ひもを購入しにドラッグストアに出かけ、公園で昼食を食べ終え、紙袋をぶら下げてエスカレーターでオフィスに戻ろうとするところから物語は始まる。
Image_20201202153501中二階
ニコルソン・ベイカー/岸本佐和子 訳
白水社
1994年

昇りのエスカレーターに乗ったときからオフィスのある中二階に着くまでのわずかな間に、思い浮かんだ日常の瑣末な物や事象について、電子顕微鏡の視点から、少しばかり宇宙的な視点から、あるいは哲学的な視点から、ニンマリとさせる考察をくり広げ、薀蓄を披露するスリリングな実験的小説である。

たてつづけに靴ひもが切れた原因を執拗に考察し、エスカレーターを氷河になぞらえその美しさをたたえ、オフィスのドアノブの変哲もない形状を憂い、コーラの缶に刺したプラスチックストローが浮き上がる現象をストローメーカーの怠慢と嘆く。
公衆トイレの便座の馬蹄形を、立って用を足す不届き者がいるからと推測し、ドラッグストアの棚に並ぶシャンプーたちの栄枯盛衰の歴史を考察する。
本文を脅かすほどのページ数の脚注が差し込まれていて、本文と同様に饒舌でありパラノイア的である。

ナノの視点で日常をユーモラスに考察している。→人気ブログランキング

→『中二階』(2013/3/24)
→『もしもし』(2016/5/16)

2012年3月22日 (木)

レーガン いかにして「アメリカの偶像」となったか 村田晃嗣

レーガンは国民に対し、「丘の上の輝く町」というアメリカ例外主義を喚起し、「アメリカの朝」を迎えると鼓舞し、「小さな政府」を目指し、外交では「強いアメリカ」を誇示しようとした。これはアメリカの保守派の姿勢そのものである。
Image_20201207093501レーガン - いかにして「アメリカの偶像」となったか
村田 晃嗣
中公新書
2011年

レーガンはアイルランドからの移民の末裔として生まれ、世界大恐慌の最中にイリノイ州のユーレカ大学を卒業した。レーガンが得た最初の仕事は、アイオワ州の地方ラジオ局のスポーツアナウンサーであった。
その後、ハリウッドで俳優となり、やがてハリウッドの労働組合委員長から1966年にカリフォルニア州知事に当選し知事を2期8年務めたのち、1981年70歳のときに第40代大統領に就任した。

レーガンの武器は当意即妙の話術であったという。それは周到に準備された演説においても発揮された。
「グレートコミニュケーター」と呼ばれた政治手法は、レーガンの楽観主義に基づくものであるという。反対派をも魅了する陽気で憎めない人柄により、多くの政治的難題を打開したという。

双子の赤字、インフレ、失業問題などの国内問題では、減税と歳出削減が骨子のレーガノミックスを貫き、赤字を膨らませたものの経済の回復を達成した。
外交では戦略防衛構想(SDI)を掲げ、グレナダ侵攻、イラン・コントラ事件などのいくつもの難題を乗り切った。
サッチャーや中曽根康弘やゴルバチョフなどの他国の有能な指導者に恵まれたことは、レーガンにとって幸いなことであったと言える。
時代は共産主義国家の終焉を徐々に迎え、米ソはレーガンの目指した軍縮に向かった。

レーガンは、知性にかける元B級俳優と軽蔑され、危険なタカ派と嫌われたこともある毀誉褒貶のギャップが激しい大統領であった。
しかし、2001年のギャラップ社の世論調査で、レーガンはケネディやリンカーンを抑えて「史上最も偉大な大統領」のトップに選ばれ、その後も人気は続いているという。
本書はアメリカがガチガチの保守の国であることを示している。→人気ブログランキング

2012年3月19日 (月)

ふしぎなキリスト教 橋爪 大三郎 × 大澤 真幸

近代化とは、西洋からキリスト教に由来するアイデアや制度やものの考え方を、西洋の外部にいた者たちが受け入れてきた過程であるとしている。今後、新たな社会を選択したり、新たな制度を作り出していくためには、キリスト教を理解しなければならないという。
多民族の国では、自然を崇拝する多神教では統率がとれず立ち行かなかった。そういう国で一神教、つまりキリスト教やイスラム教などの世界宗教が広まった。
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橋爪 大三郎 × 大澤 真幸
講談社現代新書
2011年

一神教では神は絶対である。一神教で偶像崇拝が許されないのは、偶像は人間が作るものだから。偶像を崇めることは人間が自分自身を崇めることになるという。

キリスト教は、神の子であるキリストがいることで 、一神教として不思議な状況が生まれているという。人間そのものが間違った存在であり、人間はどうやても罪(神に背くこと)を犯してしまう、それが原罪である。キリストの贖罪は、人間の罪を引き受けたということである。そこで、キリストが救い主だと受け入れた人は特別に赦されるかもしれないという。つまり裏口入学みたいなもの。キリスト(神の子)を崇めれば神エホバを崇めることになるという、なんとも、一神教らしくない解釈がされた。

キリスト教はユダヤ教の上に成り立っている二段ロケットのようなもの。イエスは、律法を廃棄して愛に置きかえた。ユダヤ教での多数の律法が、キリスト教では「主を愛しなさい、隣人を愛しなさい」のふたつになっという。

イスラム教の方がキリスト教よりも宗教として首尾一貫性があり、16世紀まではイスラム世界が有利であったという。なぜ、キリスト教が世界を牛耳っていったのか。キリスト教に、ユダヤ教やイスラム教のような律法がなかったからだろうという。律法がないから、人間が自由に法律を作ることができた。さらに、キリスト教には宗教法がないので、人間が神学や自然科学を研究する必要があったという。そうしたことにより、キリスト教世界が発展していったとしている。

日本人には神に支配されたくないという感情がある。「はまると怖い」というのが、大多数の日本人の共通感覚。マルクス主義も一神教に似た思想であるから、日本人がマルクス主義を受け入れないという感覚と似ているという。

ふたりの社会学者が対談の形式で、わかりやすくキリスト教を論じている。キリスト教には一神教として不完全な部分があり、イエス・キリストという不思議な存在がある。だからこそ、西洋社会は発展することができたのだという。→人気ブログランキング

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