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2012年4月

2012年4月30日 (月)

『英国王のスピーチ』

英国王のスピーチ コレクターズ・エディション(2枚組) [DVD]

英国王のスピーチ

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監督:トム・フーパー
原題:The King's Speech
製作国:イギリス・オーストラリア 2010

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のちにジョージ6世(コリン・ファース)となるアルバート王子は幼いころから吃音症で、人前でしゃべることが苦手だった。厳格な英国王ジョージ5世は、そんな息子を鍛えようと様々な式典でスピーチをさせた。ジョージの妻エリザベス(ヘレナ・ボナム=カーター)は、いろいろな治療を夫に勧めるが、効き目はまったくない。そして、エリザベスは評判を聞きつけてスピーチ矯正のセラピスト、ライオネル(ジェフリー・ラッシュ)のもとに夫を連れていった。ライオネルはオーストラリア出身の俳優志望の中年男。ライオネルが治療を行うにあたりアルバートに突きつけた条件は、診療中は「お互い敬語を使わない」「バーディ、ライオネルと愛称で呼び合う」「禁煙」というもの。そのやり方に、アルバートはプライドが傷つき一旦は治療を拒否するのだが、やがてライオネルのところに戻ってくる。そして、ライオネルとアルバートの二人三脚での奮闘が始まる。

 

父親が亡くなり、アルバートはジョージ6世として王位を継承するとになる。
おりしも、ドイツではナチス国民党が台頭し、ヒットラーの演説の画像を観たジョージはその迫力に感心するのであった。
そして、全国民を前に王の尊厳と誇りをかけたラジオ演説が始まるのである。
ジョージ6世は、長じるに、国民から「善良王」と慕われるようになった。

この作品では、医学は、カビ臭い、権威だけ振りかざす、大して効果のないものとされている。チャールズ皇太子の異常なまでの代替医療への肩入れは、このスピーチセラピストの活躍が根底にあるのだろうかと、ふと思った。(→【2012.03.28】『代替医療のトリック』

2012年4月29日 (日)

『夜想曲集  音楽と夕暮れをめぐる五つの物語』カズオイシグロ

夜想曲集: 音楽と夕暮れをめぐる五つの物語 (ハヤカワepi文庫)

夜想曲集: 音楽と夕暮れをめぐる五つの物語 (ハヤカワepi文庫)

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カズオ イシグロ
土屋政雄 訳
2011年2月
★★★★★

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音楽は才能がなければ話にならない。
才能があっても認められない、ない才能をあると思い込む、才能がないことを悔やむ、他人の才能を羨む、才能がなくとものし上がるなど、才能はなにかと物議を醸し出す代物なのだ。
その才能のあるなしから人間関係の機微も生まれてくる。
悲しいがどこかコメディタッチの期待に違わない珠玉の物語が並んでいる。

「老歌手」老歌手は往年の大歌手であった。ゴンドラの上で歌う夫の歌を、妻は窓を開けて聴いて泣いた。その理由を老歌手は語る。

「降っても晴れても」レイは大学の同級生夫婦の家に泊めてもらうことになった。夫から留守にするので妻と一緒に過ごし、夫婦関係を修復するために一役買ってくれと頼まれた。人のいいレイは提案に従うのだった。

「モールバンヒルズ」カフェにミュージシャン夫婦が現れ、芽が出ない主人公の曲を褒めた。
夫婦は目指す音楽の違いから、うまくいっていない。姉夫婦のカフェに居候する主人公は、届かぬ夢に苛立っている。

「夜想曲」才能豊かなテナーサックス奏者が醜男とおさらばするために美容手術を受けた。術後の療養先のホテルで、能天気な大女優のセレブと意気投合する。ふたりは退屈しのぎにホテル内の探索に出てドタバタ劇が始まる。

「チェリスト」ティボールはカフェで年上の女性に話しかけられた。その女は同じチェリストだという。ホテルの女の部屋でチェロの個人指導を受けるようになる。女の辛辣な批評が貴重なものに思えてくるのだった。ある日、女は自身の人生について告白する。

【2012.04.29】『夜想曲集  音楽と夕暮れをめぐる五つの物語』 カズオイシグロ
【2012.04.14】『日の名残り』 カズオイシグロ
【2012.04.12】『浮世の画家』 カズオイシグロ

2012年4月28日 (土)

『Undercurrent』 ビルエヴァンス&ジムホール (CD)

アンダーカレント
アンダーカレント
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ビル・エヴァンス&ジム・ホール
EMIミュージックジャパン (2010-09-22)
売り上げランキング: 1638

ピアノとギターのデュオ。ベース、ドラムなし。
ひっそりと会話を楽しんでいるような、そんな感じのアルバム。
ともすれば饒舌になりがちな演奏に抑制を効かせ、あるときは早口になり、やや大声になるものの、決して興奮することなく会話が進む。
どこかでドラムが加わるんだろうなと思っていると、期待は裏切られるのだが、そのあとドラムなしに納得がいく。
このデュオにはドラムは無用と思えてくる。
最後の曲にはブラシが入るけれど。
同じように、ベースがどこかで入ってくるんじゃないかと、耳を傾けていると、それも見事にかわされる。
ベースもないほうがいいことに納得する。
つい身をゆだねてしまいたくなる。
1962年録音。

1. MY FUNNY VALENTINE
2. I HEAR A RHAPSODY
3. DREAM GYPSY
4. ROMAIN
5. SKATING IN CENTRAL PARK
6. DARN THAT DREAM
7. STAIRWAY TO THE STARS
8. I'M GETTING SENTIMENTAL OVER YOU
9. MY FUNNY VALENTINE  (alternate take)
10. ROMAIN  (alternate take)

2012年4月26日 (木)

『ロング・グッドバイ』

真夜中に愛猫の餌がなくなり、私立探偵フィリップ・マーロー(エリオット・グールド)がキャットフードを買いに出かけるところから始まる。
資産家の妻を殺した容疑がかけられている友人のテリー(ジム・バウトン)から、空港まで至急送ってくれと頼まれる。
翌朝、テリーの逃亡幇助の容疑で警察に踏み込まれ拘束される。
マーローは警察の尋問をのらりくらりと尋問をかわしていた。
ところが、テリーがメキシコで自殺したとのことで急遽釈放される。

それにしても、マーローは、よくタバコを吸う。
チェーンスモーカーを通り越して、取り憑かれたようにタバコを吸い続ける。

一方、失踪したベストセラー作家ロジャー(スターリング・ヘイドン)を探して連れ戻して欲しいと作家の妻アイリーン(ニーナ・バン・バラント)から依頼される。
病院に監禁されていたロジャーを助け出しアイリーンのもとに届けた。
ロジャーは書くことができず酒浸りになり、医者から借金をしていたのだ。
やがて、マーローはアイリーンがテリーの妻の死について重要な鍵を握っていることを知るのである。
そして、マーローはテリーの自殺の真相を確かめるためメキシコに向う。

レイモンド・チャンドラーのハードボイルド小説の映画化である。
原作では猫は出てこない。
結末は、原作への敬意は微塵もなくズタズタに変えられている。
映画界の反逆児ロバート・アルトマンだからこその成せる技か。

ロング・グッドバイ (Raymond Chandler Collection)

ロング・グッドバイ (Raymond Chandler Collection)

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レイモンド・チャンドラー 村上春樹 訳
早川書房

Amazon.co.jp で詳細を見る

2012年4月24日 (火)

『ヘルプ~心がつなぐストーリー~』

120422ヘルプ ~心がつなぐストーリー~
原題:The Help
監督:テイト・テイラー
原作:キャスリン・ストケット
製作国: 2011年アメリカ
日本公開:2012年3月31日
★★★★

 

人種分離法のもとに人種差別が公然と行われていた1960年代のミシシッピ州ジャクソンが舞台。おりしも、マーチン・ルーサー・キング牧師の公民権運動が活発になり始めた頃である。
大学を卒業して故郷に戻ったスキーター(エマ・ストーン)は、地元新聞社に職を得て、家庭欄のコラムを担当するようになった。
かつての友人たちは結婚して子供を持ち、黒人の家政婦に家事や育児を任せて優雅そうに暮らしていた。
スキーター自身も上流階級に生まれ、当たり前のように黒人家政婦に育てられたのだ。
そんな中、友人のひとりである婦人会のリーダー(ジェシカ・チャステイン)が、白人と黒人家政婦のトイレを別にする衛生法の制定を画策し、スキーターに記事の掲載を依頼した。
スキーターは、黒人家政婦たちに対して公然と差別が行われていることに愕然とする。そして家政婦たちの虐げられた実態を伝える本を書こうと決意するが、白人たちの報復を恐れる家政婦たちはなかなか協力してくれなかった。
そんな中、エイビリーン(ヴィオラ・デイヴィス)がインタビューに応じたことから、ジャクソンの町全体を巻き込んだ事態へと進展していくのだった。

 

 

本映画の人種差別問題の扱いは、女性の視点からである。そのせいか、暴力的なシーンはない。
ストーリーはベタな感動あり涙ありの人間ドラマ。

第84回アカデミー賞助演女優賞に、家政婦たちの中で中心的な役割を果たすミニー役のオクタヴィア・スペンサーが選ばれている。アクの強い役柄をこなす演技力がみごと。
エイビリーン役のヴィオラ・デイビスは同賞の主演女優賞にノミネートされた。
公式サイト

2012年4月23日 (月)

インスタントラーメン読本

あくなき食の追及者、いまや暴走老人の異名を持つ嵐山光三郎が、編者かつ著者。
実体験食日記「5泊6日インスタントラーメン101食」は壮絶な試みだ。
101÷6≒16.83だから、一日にインスタントラーメン約17食を食べることになる。
食べたのは嵐山光三郎。
Photo_20201114080501 インスタントラーメン読本
嵐山光三郎 編著
新潮文庫
1985年

最近のテレビ番組には、ゲーム仕様の暴飲暴食番組があるが、今どきのそんな出演者の食べっぷりを凌駕する凄さだ。
対談陣、論文執筆陣は、いまでは各界の重鎮として輝く人たちであり、充実している。
松村友視、中沢新一、渡辺えり子、中村えい子、橋本治、糸井重里の顔ぶれ。
下積み時代、インスタントラーメンで生き延びた面々だろうね、多分。
20年以上前に発刊された本なので、インスタントラーメンの銘柄に今とのギャップはあるが、ユーモアと機知に富んだ内容である。
ラーメン界の古典と呼ぶに相応しい名著である。
本書はすでに絶版になっているが、ネットで古書が手に入る。→人気ブログランキング

2012年4月21日 (土)

『日の名残り』

ダーリントン邸の新しい主人ルイス(クリストファー・リーヴ)は、執事のス(アンソニー・ホプキンス)に車での旅行をすすめた。

日の名残り コレクターズ・エディション [DVD]
日の名残り [DVD]
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原題:The Remains of The Day
監督:ジェームス・アイヴォリー
原作:カズオ・イシグロ
製作国:アメリカ  1993
★★★★★

かつてのダーリントン邸では、国際的な会合や政府要人の会合が瀕回に行われ、ダーリントン卿(ジェームズ・フォックス)のもとで、スがそれらをとり仕切っていた。
そんな中、堅実なスと勝気な女中頭のミス・ケントン(エマ・トンプソン)は、対立を繰り返しながらも惹かれあっていった。しかし、仕事を優先するスは、ミス・ケントンの思いに応えようとしなかった。
自己抑制することで執事として役目を全うしようとした。
やがて、ミス・ケントンに結婚話が持ち上がり、邸を去って行った。

20年が経ち、スは元女中頭が夫とうまくいっていないことを手紙で知った。今回の旅行の目的は彼女に会うことである。あわよくば、仕事に戻ってもらえるかもしれないと考えるのであった。

元女中頭と再開し、「人生を誤ったと思うことがある」と彼女が告白すると、スは「人は皆人生に後悔があるものだ」と自己を弁護することを言うのである。彼は最後まで心情を明らかにする言葉を吐けなかったのだ。

原作よりも、スとミス・ケントンの関係に焦点が当たり、大人の恋愛ものになっている。
影の存在に徹する執事の役柄を、アンソニー・パーキンスが見事に演じている。威厳がありそうで、どこか滑稽で、慇懃すぎず、浮世離れした独特の味が、醸し出されている。
それにしても、スにハンニバル・レクター博士の影がちらついて困った。
【2012.04.14】『日の名残り』 カズオ イシグロ

2012年4月19日 (木)

『ねじれた文字、ねじれた路』  トム フランクリン

ねじれた文字、ねじれた路 (ハヤカワ・ポケット・ミステリ)

ねじれた文字、ねじれた路 (ハヤカワ・ポケット・ミステリ)

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トム フランクリン著  伏見威蕃 訳
早川書房
2011年
★★★★★

Amazon.co.jp で詳細を見る

 

しかし、あることをきっかけに、ふたりは付き合うことがなくなってしまう。
そして、同じ高校の女子生徒が失踪し行方不明となった。
ラリーは女子生徒の失踪に関与したと疑われたが、何の手がかりがかりもなく迷宮入りの事件となった。
ラリーは高校を卒業したあと軍に入隊し、自動車整備の技術を身につけて町に戻ってきた。父親の自動車修理工場をついで、ひっそりと暮らしていた。
しかし、何年経っても町の人々はラリーを潔白と認めなかった。
一方、サイラスは大学に進み野球を続け、名内野手として活躍した。
そして、25年後治安官となって町に戻ってきた。
町では、新たな女子大学生の失踪事件が起こっていた。

ある日、家に訪ねてきた何者かにラリーは撃たれ救急病院に運ばれ意識が戻らない状態となった。
そして、サイラスがラリーの事件を担当することになり、ふたりは顔を合わせざるを得なくなるのだった。

一章ごとにラリーとサイラスの視点で、過去を振り返り現在の状況を語るというを手法により、物語が進んでいく。
貧困や人種差別や父親の暴力など、ふたりの少年は抗えないねじれた運命に翻弄されてきた。そして、後半になってそのねじれが少しずつ解かれていく。
謎解きやどんでん返しがあるわけではないが、読ませる見事な筆さばきだ。

2012年4月17日 (火)

『シャーロック・ホームズ シャドウ ゲーム』

シャーロック・ホームズ シャドウ ゲーム Blu-ray & DVDセット(初回限定生産)

シャーロック・ホームズ シャドウ ゲーム Blu-ray & DVDセット(初回限定生産)

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ワーナー・ホーム・ビデオ (2012-07-04)
原題:Sherlock Holmes A Game of Shadows
監督:ガイ・リッチー
制作国:アメリカ  2011年
ジャンル:アクション アドベンチャー  ミステリ
公開:2012年3月10日
★★★★

ガイ・リッチー監督の『シャーロック・ホームズ』シリーズ第2弾。

 

 

1891年、ヨーロッパでは連続爆破事件が起こっていた。
新聞はアーナキストの仕業と書きたてるが、ホームズ(ロバート・ダウニー・Jr)は、モリアティー教授(ジャレッド・ハリス)の企てであると推理していた。
折しも、ワトソン(ジュード・ロウ)の結婚式を控えた前日、社交クラブに潜入したホームズは占い師の女シム(ノオミ・ラパス)と出会う。シムは事件の鍵を握っていて命を狙われていた。
ホームズはワトソン夫妻のフランスへの新婚旅行に同伴するが、新婚旅行とは名ばかりで、ワトソン夫妻の命が狙われ、助けようとするホームズも危機一発の目に合う。
捜査を進めるホームズはワトソンとシムとともに、イギリス、フランス、ドイツ、そしてスイスへと次々に国をめぐり、事件の核心に迫っていく。
モリアーティ教授は、ヨーロッパの歴史を変えてしまうほどの悪巧みを画策していたのだった。
天才的な頭脳を持つホームズの頭の中で謎解きは行われていく。
武闘派でもあるホームズは超人的身体能力で敵を蹴散らす。
ミステリよりは、アドベンチャー・アクションもののカテゴリーに入る。
2009年の『ミレミアム ドラゴン・タトゥーの女』のリスベット・サランデル役でブレークしたスウェーデン出身のノオミ・ラパスのジプシー女がいい。エキジチックで、ヤンキー風でどこか健気な役柄にピタリとはまっている。

→ 【2012.05.17】『シャ-ロック・ホームズ』

2012年4月14日 (土)

日の名残り カズオ イシグロ

館の新しい主人のアメリカ人が、スにイギリス旅行をすすめた。
旅の細々が語られ、スの過去が織り込まれる。
大戦の間に館では、国際会議や政府要人の会合が瀕回に行われ、スはそれらをとり仕切ってきた。
誇らしい充実した日々を送ってきたと思い返す。
かつて仕えた主人は品格のある貴族であるとスは敬服している、あるいは思い込もうとしている。
その主人はナチの協力者とマスコミや周囲から叩かれ、汚名を挽回することなく生涯を終えた。
E8005bc726394491b1a960ab8a8fa249日の名残り
カズオ イシグロ
ハヤカワepi文庫
2001年

感情を表に出そうとしないスは、女中頭のミス・ケントンに「どうしてあなたはいつも嘘をついていなければならないの」と言われる唐変木なのだ。
再三、語られる品格とは、自己抑制することで執事として役目を全うしてきたことだった。
元女中頭からの手紙で、彼女が不幸な状況にあるのではないかと思い込み、あわよくば仕事に戻ってもらえるかもしれないなどと、都合のいいことを考えるのである。
その女性と巡り会い打ち明け話を聞き、自分の生き方を嘆く。
執事としての人生が、欺瞞に満ちていたことを気づいくのだった。
イギリスの古き良き貴族文化が衰退していくなか、主人公が従ったのは古い因習でありやがて社会から消えていくものであった。そこに主人公の人生も重ね合わされている。

この旅行の目的は元女中頭に会うことにほかならず、とすれば本書のテーマのひとつは恋愛である。
著者の端正な筆さばきにより上等な作品になっている。→人気ブログランキング
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【カズオ・イシグロの作品】
『クララとお日さま』Klara and the Sun 早川書房 2021年
忘れられた巨人』The Buried Giant 2015年
夜想曲集』Nocturnes 2009年
『わたしを離さないで』Never Let Me Go 2005年→DVD
『わたしたちが孤児だったころ』When We Were Orphans 2000年
『充たされざる者』The Unconsoled 1995年
日の名残り』The Remains of the Day 1989年→DVD
浮世の画家』An Artist of the Floating World 1986年
『女たちの遠い夏』(日本語版は『遠い山なみの光』と改題)A Pale View of Hills 1982年

2012年4月12日 (木)

浮世の画家 カズオ・イシグロ

主人公の小野は戦前に活躍し、第一線を退いた画家である。
はじめは小野が成人君子のように思えるが、一人称での話が進むにつれ俗っぽさを感じるようになる。
末娘の縁談が破断になったのは自分の過去のせいではないかと考えるが、その過去は明らかにされずに話は進んでいく。
また小野の言動により、同僚が窮地に陥った事件についても、薄々承知しているらしいのだが、その事件も後半まで明らかにされない。
自分にとって不利なことは明らかにしない語り口が、小野の人間性に、決定的ではないにしろ、不誠実なものを感じさせるのである。
Image_20201129093501浮世の画家
カズオ・イシグロ
飛田茂雄 訳
ハヤカワepi文庫
2006年

小野は、日本が戦争に突き進む中、戦意を高揚させる絵を描いて、政府や軍部の支持を得、画家としての名声を勝ちとっていた。
そうした絵を書き始めたことで、恩師や同僚が離れていき、恩師たちは落ちぶれていった。
小野は己の生き様を否定したくないという心境で暮らしている。
戦前から戦中にかけてのいびつな精神風土のなかで、己の進むべき芸術家の道、つまり「浮世の画家」としての生き方を選んだことに、いくばくかの違和感を抱きながら今を生きている。
それは、確固たる意志をもって戦争に対峙したごく一部の人々を除く、大方の日本人が多かれ少なかれ抱いた違和感なのだろう。
この違和感を著者は描いたと思う。→人気ブログランキング

【カズオ・イシグロの作品】
忘れられた巨人』The Buried Giant 2015年
夜想曲集』Nocturnes 2009年
『わたしを離さないで』Never Let Me Go 2005年→DVD
『わたしたちが孤児だったころ』When We Were Orphans 2000年
『充たされざる者』The Unconsoled 1995年
日の名残り』The Remains of the Day 1989年→DVD
浮世の画家』An Artist of the Floating World 1986年
『女たちの遠い夏』(日本語版は『遠い山なみの光』と改題)A Pale View of Hills 1982年

2012年4月10日 (火)

清水ミチコ物語(CD)

バッタもん歴25年の集大成なんだそうだ。
のび太の夏休み(『ドラえもん』)という設定で、CDは始まる。
Photo_20210115083101清水ミチコ物語
清水ミチコ
ソニー・ミュージックダイレクト
2012年

『謎の中華三昧』は、ルート66の出だしの単調なリズムに乗って、アグネス・チャンと欧陽韮韮とジュディ・オングが、中華料理店でラーメンを頼むというもの、らしくって、爆笑だ。
やけくそに気味に歌う『テネシーワルツ』は大阪のオバちゃん綾戸智恵のマネ。
『イェル・ケ・クク』は、小学生が明日のテストに備えて九九を暗記するというシチュエーションでシャンソンを歌う。九九は、フランス語に似てる。
野球を知らない人間には、ラジオの野球中継って支離滅裂に聞こえるらしい。
「三遊間で打った」「デッドボールのサインだったんではないでしょうか」「本日の試合は有終の美を持ちましてすべて終了いたしました」なんてことになる、それが『野球中継』。
『欲望』は、井上陽水がいかにも作りそうな曲に歌詞をつけて、陽水の声で歌っている。それが見事に陽水らしいのだ。

似てるー、すげえー、なんだこりゃー、たいしたもんだ、などとつい合いの手を入れてしまう。
悔しいのは、誰の真似なんだかわからない数カ所。名前が出てこないのが、なんとももどかしい。
単なるモノマネだけでなく、歌唱力、それとピアノの弾き語りの才があるところが、清水ミチコの強みだ。
本物の「バッタもん」のシュルな世界が広がる。→人気ブログランキング

清水ミチコ物語清水ミチコ/ソニー・ミュージックダイレクト/2012年
趣味の演芸/清水 ミチコ /ソニー・ミュージックダイレクト/2014年

2012年4月 9日 (月)

『アーティスト』

120407tアーティスト
原題:The Artist
監督:ミシェル・アザナビシウス
音楽:ルドビック・ブールス
製作国:2011年 フランス映画 100分
★★★★★

舞台は1927年のハリウッド。
あるきっかけで、サイレント映画の大物俳優ジョージ(ジャン・ジャルダン)が、女優志願のペピー(ベレニス・ペジョ)に目をかけるようになる。
ちょうどサイレント映画からトーキー映画と変わりゆく時代である。
サイレント映画に固執するジョージは落ちぶれて行く。
一方、ペピーはトーキー映画の隆盛と共に人気女優になっていく。
ふたりはお互いに惹かれあっていて、ペピーがジョージを立ち直らせようとするが、うまくいかない。
という、話としてはベタな恋愛もの、それがなんとも心地い。
どこに行くにもジョージのそばから離れない愛犬(アギー)の演技も見もの。 白黒のサイレント映画で話は進んでいく。
どこかで、いずれサイレントではなくなるだろう、どこかでしゃべり出すはずだ。
白黒で終わるはずがない、いつカラーになるだろうと余計なことを考えていると、期待は次々に裏切られていく。

サイレント映画はセリフがないから、観客は想像力を駆使して作品を理解しようとする。
そこで大きな役目を果たすのが、それぞれの場面の雰囲気にピタリとくる音楽だ。
それと、そこかしこで布石がうたれていること。
あのシーンがこの状況を暗示していたんだと、思わずうなずく箇所がいくつもある。
分かりやすい構成になっているのだ。

映画人ならば、応援したくなる作品だと思った。
だから、2012年のアカデミー作品賞、監督賞、主演男優賞ほか5部門を受賞したのだろう。
フランス映画として初の米アカデミー作品賞受賞作。
公式サイト

2012年4月 8日 (日)

クスクスの謎―人と人をつなげる粒パスタの魅力  にむら じゅんこ

現在、クスクスが主食として日常的に食べられている地域は、いわゆる「マグレブ5国」。アルジェリア、モロッコ、チュニジア、モーリタリア、リビアの西部である。
さらに、フランスでは国民食となりつつあるとのこと。
590c36f4cc44413a9c5e063e940d4d26クスクスの謎―人と人をつなげる粒パスタの魅力
にむら じゅんこ
平凡社
2012年

 日本ではほとんど人口に膾炙していないクスクスはどんなものなのか。
『トレゾーフランス語辞典』によると、
《蒸された硬質小麦をベースに作られるアフリカ料理。肉(羊、鶏、ラクダなど)と野菜類、豆類、時には干し葡萄などを煮込んだスープが一緒に添えられる。》

クスクスの起源は定かではないが、一般的には北アフリカが有力だ。
いつ頃発明されたかも諸説がある。
いずれにしても、ユダヤ教徒もイスラム教徒もキリスト教徒も食べてきた異文化融合の食べ物であるとする。クスクスには歴史が染み込んでいる。

クスクスの材料は小麦ばかりでなく、キビ、アワ、モロコシ、キャッサバ、芋類、タピオカ、ドングリ、米などと多彩である。
粒の大きさもいろいろあり、ポロポロした粒状のものもあり、パスタのようなひも状のものもある。
味付けも、加える食材も、バリエーションは無数である。
スープをかけたり、スープにいれたり、スープを添えたり、千変万化なのである。
クスクスは、ダイエット食にも、健康食にも、デザートにも変貌する。
妊婦の滋養、強壮、お祭りの料理、結婚式の料理、貧民救済の食事、恋愛に効くクスクス、呪術用など、その多様性は限りない。

本書は、クスクスを愛する著者の明快な筆さばきによって、クスクスを食べたことがなくとも引き込まれてしまう秀逸な食文化論になっている。→人気ブログランキング
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2012年4月 7日 (土)

USAカニバケツ 超大国の三面記事的真実 町山智浩  


USAカニバケツ: 超大国の三面記事的真実 (ちくま文庫)

USAカニバケツ: 超大国の三面記事的真実 (ちくま文庫)



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町山 智浩
筑摩書房
2011年
★★★★☆

Amazon.co.jp で詳細を見る

日本社会の例えによく使われるというのだが。。
いや、むしろ著者が紹介するアメリカの社会を象徴するのにぴったりの言葉だ。
足の引っ張り合い。アメリカンドリームをつかんだのもつかの間、またもとのバケツの中に舞い戻る。
中庸なんてことには収まらない、極端なことだらけのアメリカが紹介されている。
ドラッグ、セックス、金、暴力、殺人、人種差別、男女差別、成り上がろうと企む男女、本音と建前の違う社会など、三面記事から集めた話題となれば、「いくらんなんでもそりゃーやりすぎだろう」というような限度を超えたことばかりだ。ハチャメチャなエネルギーに満ちたアメリカが伝わってくる。
気の利いたジョークで、不幸も幸福も笑い飛ばしてしまう。
憚れるようなえげつないジョークも飛び出して、三面記事のアメリカはまさにカニバケツだ。
抜群の情報収集力と分析力をもとに、たんたんとした語り口で書かれたコラムは読み応え十分。あとがきで著者は「底の方から見ている」と書いている。つまりバケツの底からだ。
著者の紹介するスラップスティックなアメリカは、なにはともあれ大いに魅力的だ。→人気ブログランキング

キャプテン・アメリカはなぜ死んだか/町山智浩/文春文庫/2011年
USAカニバケツ: 超大国の三面記事的真実 /町山智浩/ちくま文庫/2011年
底抜け合衆国: アメリカが最もバカだった4年間/町山智浩/ちくま文庫/2012年

2012年4月 4日 (水)

ニッポンの書評 豊崎由美

書評は情報だけでいいとか、作品へのオマージュになっていればいいという意見があるが、著者はどちらも大事であり、面白みも必要と考えている。
批評と書評の違いは、書評は読む前に、批評は読んだあとに読むものとする。
批評は小説の構造を精査するにあたって、その作品のキモにも触れなくてはならない。つまりネタばらしは仕方がない。
一方、書評は読者の初読の興をなるべく削がないような細心の注意をもって書かれるべきとしている。したがって、ネタをバラしてはいけない。書評は8割は読者のため、2割が作家のためとは著者の考え。
例えば1600字の書評とすると、600字くらいは粗筋を書いて残りは自分の意見を書くのが一般的だった。いまは、読ませる粗筋それだけでけでも、書評として成り立つ思うと著者。
もう少し書評が評価されてもいいのではないだろうかという。
Image_20201129195301ニッポンの書評
豊崎 由美
光文社新書
2011年

では、プロの書評と素人の感想文の違いはなにか。「背景」があるかどうかということ。書評するのはその一冊でも、プロの書評家には本を読むたびに蓄積してきた語彙、物語のパターン認識、個々の本が持っている様々な要素を他の本の要素と結びつけ、星座のようなものを作り上げる力があるあると、著者は今のところ思っているそうだ。
あるいは800字の書評なら2000字書いて削っていくようなことをする。素人は、はじめから800字のものを書く。

ネットにおける劣悪なブロガーたちによる、小説を貶める行為は許し難いという。返り血を浴びる覚悟はあるのかと著者は迫る。
自分が理解できないだけなのに難しいとかつまらないとする、読み違え、登場人物の名前を間違え、論理性のかけらもなく、文章自体がめちゃくちゃ、取り上げた本に対する愛情もリスペクトのかけらもない、匿名という安全地帯から小説という芸術に悪意に満ちた感想文のアップするのは止めて欲しいという。中川淳一郎の 『ウェブはバカと暇人のもの』(光文社新書 2009年)にも、同様の指摘がある。

日本の書評は800~1200字が多い。英仏独米などのG8の国では、書評に十分な字数4000字くらいが与えられている。
外国の書評は長いし、批評と書評がさほど判然と別れていない。また書評、批評の地位が高いという。
日本では書評と批評が分かれて発達してきた。このあたりが、いい意味で日本のガラパゴス的なところと指摘する。→人気ブログランキング

2012年4月 2日 (月)

マーガレット・サッチャー 鉄の女の涙

政界引退後に認知症の症状が現れたサッチャー(メリル・ストリープ)は、亡くなった夫デニス(ジム・ブロードベント)の幻影とともに日常を送っている。そうした老人としての生活のなかに、生い立ちから首相を引退するまでのエピソードをフラッシュバックさせ、挟み込んでいく構成になっている。控えめに妻を支え続けおそらく唯一無二の相談相手であったろうデニスの存在が、大きく描かれている。
70ff4d6f17d44aa186524f75110b2de3マーガレット・サッチャー 鉄の女の涙
原題:The Iron Lady
監督:フィリダ・ロイド
製作国:イギリス 2011年

映画で実在の人物を描く場合、似ていることは必須の条件だが、よくぞここまで似せて演じれるものだとサッチャー役のメリル・ストリープに脱帽した。
議員なりたての頃のサッチャーの甲高い声に、「サッチャーの声ってこんなに耳障りだったか?この声を最後まで聞かされるのは辛いぞ」と思ったのもつかの間だった。
保守党の党首に立候補する段になって、ファッションから身のこなし、声の質まで変えるようにアドバイスされレッスンを受けた。
その後は低い声で話すようになり、ファッションも身のこなしも説得力のある落ち着いたものとなっていった。
サッチャーといえば、断固たる姿勢が売り物だが、まさにそうした自信みなぎるサッチャーの強い意志が伝わってくるような演技が見事だ。そして、引退してから認知症を患い不安に苛まれている姿には真に迫るものがある。
メルリ・ストリープの演技にただただ感服した。
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