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浮世の画家 カズオ・イシグロ

主人公の小野は戦前に活躍し、第一線を退いた画家である。
はじめは小野が成人君子のように思えるが、一人称での話が進むにつれ俗っぽさを感じるようになる。
末娘の縁談が破断になったのは自分の過去のせいではないかと考えるが、その過去は明らかにされずに話は進んでいく。
また小野の言動により、同僚が窮地に陥った事件についても、薄々承知しているらしいのだが、その事件も後半まで明らかにされない。
自分にとって不利なことは明らかにしない語り口が、小野の人間性に、決定的ではないにしろ、不誠実なものを感じさせるのである。
Image_20201129093501浮世の画家
カズオ・イシグロ
飛田茂雄 訳
ハヤカワepi文庫
2006年

小野は、日本が戦争に突き進む中、戦意を高揚させる絵を描いて、政府や軍部の支持を得、画家としての名声を勝ちとっていた。
そうした絵を書き始めたことで、恩師や同僚が離れていき、恩師たちは落ちぶれていった。
小野は己の生き様を否定したくないという心境で暮らしている。
戦前から戦中にかけてのいびつな精神風土のなかで、己の進むべき芸術家の道、つまり「浮世の画家」としての生き方を選んだことに、いくばくかの違和感を抱きながら今を生きている。
それは、確固たる意志をもって戦争に対峙したごく一部の人々を除く、大方の日本人が多かれ少なかれ抱いた違和感なのだろう。
この違和感を著者は描いたと思う。→人気ブログランキング

【カズオ・イシグロの作品】
忘れられた巨人』The Buried Giant 2015年
夜想曲集』Nocturnes 2009年
『わたしを離さないで』Never Let Me Go 2005年→DVD
『わたしたちが孤児だったころ』When We Were Orphans 2000年
『充たされざる者』The Unconsoled 1995年
日の名残り』The Remains of the Day 1989年→DVD
浮世の画家』An Artist of the Floating World 1986年
『女たちの遠い夏』(日本語版は『遠い山なみの光』と改題)A Pale View of Hills 1982年

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