『夜想曲集 音楽と夕暮れをめぐる五つの物語』カズオイシグロ
音楽は才能がなければ話にならない。
才能があっても認められない、ない才能をあると思い込む、才能がないことを悔やむ、他人の才能を羨む、才能がなくとものし上がるなど、才能はなにかと物議を醸し出す代物なのだ。
その才能のあるなしから人間関係の機微も生まれてくる。
悲しいがどこかコメディタッチの期待に違わない珠玉の物語が並んでいる。
「老歌手」老歌手は往年の大歌手であった。ゴンドラの上で歌う夫の歌を、妻は窓を開けて聴いて泣いた。その理由を老歌手は語る。
「降っても晴れても」レイは大学の同級生夫婦の家に泊めてもらうことになった。夫から留守にするので妻と一緒に過ごし、夫婦関係を修復するために一役買ってくれと頼まれた。人のいいレイは提案に従うのだった。
「モールバンヒルズ」カフェにミュージシャン夫婦が現れ、芽が出ない主人公の曲を褒めた。
夫婦は目指す音楽の違いから、うまくいっていない。姉夫婦のカフェに居候する主人公は、届かぬ夢に苛立っている。
「夜想曲」才能豊かなテナーサックス奏者が醜男とおさらばするために美容手術を受けた。術後の療養先のホテルで、能天気な大女優のセレブと意気投合する。ふたりは退屈しのぎにホテル内の探索に出てドタバタ劇が始まる。
「チェリスト」ティボールはカフェで年上の女性に話しかけられた。その女は同じチェリストだという。ホテルの女の部屋でチェロの個人指導を受けるようになる。女の辛辣な批評が貴重なものに思えてくるのだった。ある日、女は自身の人生について告白する。
【2012.04.29】『夜想曲集 音楽と夕暮れをめぐる五つの物語』 カズオイシグロ
【2012.04.14】『日の名残り』 カズオイシグロ
【2012.04.12】『浮世の画家』 カズオイシグロ
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