アメリカの食卓 本間千枝子
メリル・ストリープが演じるジュリア・チャイルドの映画を観ていて、以前に読んだことがある話だと思った。
チャイルド夫人は一般向けのフランス料理の本を書き、テレビの料理番組に出演し、アメリカの家庭料理に革命をもたらしたと言われる人物である。
アメリカの食卓 本間千枝子 文春文庫 1984年 |
料理番組の箇所は、次のように書かれている。
<彼女(ジュリア・チャイルド)の悠々迫らざるモノローグの説明はごく自然で、役者ぶりはまさに天下一品、まるでカメラを意識していない。動作の方も、失敗するまい、より良く見せようという、背伸びしたこせこせしたところがまるでない。何かを落としたり、置き忘れたり、見る方の側があれはミスだな、と気付くことをしでかしても、決してあわてたりしたことがなかった。私はいつしか彼女のスケールの大きな物腰や人柄に魅かれ、ファンになった。>
まさに著者が書いている通りのことを、映画のなかの白黒のテレビの画面に映っているメリル・ストリープが演じていた。
本書は、著者が1940年代後半からから70年代にかけて通算7年にわたるアメリカ生活で経験したアメリカ食文化についてのエッセイ集である。エッセイとはいっても、あとがきにあるように、アメリカの食を肌でとらえた著者ならではの視点に基づいた「アメリカ料理開拓史」のニュアンスがある。
ラフカディオ・ハーンの料理本を捜し求めるくだりや、その時代の随一の散文家と著者が折り紙をつけるM・F・K フィッシャー夫人に直接会いに行くくだりに、著者の何事に対してもとことん追求する姿勢がうかがわれる。
さりげなく引用される先人の箴言や食に対する言葉の数々、そして横溢せんばかりの著者の知識が、本書を格調高くしている。→人気ブログランキング
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