『舟を編む』 三浦しをん
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大手総合出版社のに勤務する27歳の馬締光也(まじめみつや)は、ある日、辞書編集部に転属を命じられる。
営業部では変人として持て余されていたが、言葉にこだわる非凡な能力を買われて、辞書編集部に迎え入れられたのだ。
辞書編集部は馬締を加えて4名と小所帯であるというのに、2カ月後には上司が定年になる。
不景気で採算性のよくない辞書編集部に、人員の補充は望めない。
無謀なことに、定年になる上司が中心になって、広辞苑や大辞林クラスの中規模の辞書、20万余の項目を収録する『大渡海』の出版がすでに計画されている。
『大渡海』は、「辞書は言葉の海を渡る舟、海を渡るにふさわしい舟を編む」という思いを込めて上司たちが名付けた。
その責任者を馬締が引き受けることになる。
辞書を作る作業は、編纂に携わるそれぞれが日々の暮らしの中で拾い集めた言葉を、用例採集カードにメモし蓄積しておくという単純な作業の積み重ねからなりたつ。
その言葉の語源を調べ、関連図書を探り、メモに書き込んでいく。
辞書を作る段になって、それらのカードのなかからどの言葉を採用すべきかを検討する。
ひとつの言葉の持つあらゆる意味を拾い、それを深く掘り下げ、そして最小限の言葉で表す(語釈)という作業が、延々と行われるのだ。
それぞれの分野の専門家にも専門用語の執筆を依頼する。
こうした作業は、馬締の執念によって13年の間に少しずつ進んでいた。
本書は、辞書の編纂が、いかに膨大な労力と時間そして資金がかかる作業であるかを教えてくれる。
辞書を作り上げる過程の舞台裏が、人間味豊かにそして面白く書かれている。著者の意図するところは十分に満喫できるけれど、コミック風の軽さが漂っているのは否めない。
→映画『舟を編む』2013年/The Great Passage/石井裕也
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