スノーボール・アース 生命大進化をもたらした全地球凍結
こんなに刺激的でワクワクさせる科学ノンフィクションには、そうお目にかかれない。
地球が誕生したのは46億年前、生物が生まれたのが35億年前、先カンブリア時代は地球が生まれてからの40億年間である。
地球の歴史の90%を占めるこの時代に、何の変化も起こらなかったとされる。
つまり、生命の進化の歴史にとって暗黒の時代である。
藻類やアメーバーのような単細胞生物が進化することなく地球上に生存していた。
カンブリア紀に入ると、多細胞生物が爆発的に出現して、凄まじい速度で進化が始まった。
なぜ、前カンブリア時代には進化が起こらなかったのか。そして、カンブリア紀になって爆発的進化が起こったのはなぜか。
![]() ガブリエル ウォーカー 川上紳一 監修 渡会圭子 訳 早川ノンフィクション文庫 2011年 |
この謎を解く鍵は、先カンブリア時代に潜んでいるのではないかと、本書の主人公ポール・ホフマンは考えた。
その鍵とは、ポールが提唱する「スノーボールアース説(全地球凍結仮説)」である。
前カンブリア時代は地球が氷で覆われていた時代がかなり長くあったという説である。
最近あった何回かの短い氷河期のことではない。
本書は、スノーボールアース説を信念をもって提唱し続けるポールとその先駆者たち、そして同時代のこの仮説に反対の立場をとる人たち、あるいは賛同する人たちのノンフィクションドラマである。いずれも強い個性の持ち主ばかりだ。
スノーボールアース説は、主に「ドロップストーン」「炭酸塩石」「石に含まれる磁性物質」についての研究に基づいて構築されている。
ドロップストーンは氷河にえぐり取られた石であり、前カンブリア時代のドロップストーンが赤道付近で発見されている。
炭酸塩石は温かい海で作られる。炭酸塩石の層のあいだにアイスロックがあれば、その地層はある時期に氷に覆われていたことになる。
石は生まれた場所に固有の地球の磁場の特性を帯びているので、磁性を調べればその石の素姓がわかる。
先カンブリア時代の終わりに磁性の強い鉄鉱石が世界中に見られる。この原因は氷、海が凍っていれば空気から遮断される。そのあいだに海底火山から鉄分が海に溶け出し、氷が溶けて海水が空気に触れれば、一気にさびて鉄鉱石の層が生まれる。
巨大隕石の衝突による恐竜滅亡説も大陸移動説(プレートテクトニクス)も、はじめは馬鹿げたものだと思われていたが、今や受け入れられているように、スノーボールアース説もやがて受け入れられるだろうと著者はいう。→人気ブログランキング
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