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『一億総うつ社会』 片田珠美

一億総うつ社会 (ちくま新書)
片田 珠美 (Katada Tamami)
筑摩書房
2011年3月10日
740円+税
ISBN978‐4‐480‐06600‐8

著者はうつ病が激増した理由として、「精神疾患の診断マニュアルによるうつ概念の拡大」、「新しい抗うつ剤の登場」、「社会の変容」の3点を挙げている。

「精神疾患の診断マニュアルによるうつ概念の拡大」
アメリカ精神医学会は、精神疾患の診断をめぐる混乱を解決するために、診断マニュアルDSM(Diagnostic and Statistical Manual of Mental Disorders)を、1952年に作成した。このマニュアルを用いると複数の精神科医が同一の患者を独自に診断しても、同じ診断にたどりつく。
精神疾患の診断はDSMを使うことにより容易になったものの、従来行なわれた患者の人生の歴史や、根底に潜む無意識の構造に目を向ける必要が少なくなった。
DSMは改定が加えられ、1994年にはDSM‐Ⅳが作成されている。
多くの精神疾患には、うつ的な症状がみられる。
そもそもうつの概念は寄せ集めである。そのうつの特徴をDSMがさらに強めた結果、うつ病が増加したのである。

「新しい抗うつ剤の登場」
脳内伝達物質であるセロトニンの再取り込みを選択的に阻害する薬(SSRI:Selective Serotonin Reuptake Inhibitor)が、1988年にアメリカで登場し、うつ病の治療が飛躍的にしやすくなった。
SSRIは、服用すれば落ち込んだ気分が晴れ、欧米では「ハッピードラッグ」と呼ばれて、もてはやされた。
1990年には、権威のある医学雑誌『ランセット』に、<うつを取り除くのは、避妊と同じくらい簡単なことになった。薬を飲んで幸せになりなさい。p84>と掲載された。
日本でSSRIの発売に合わせて広められたキャッチフレーズは、「うつは心のかぜ」である。心の病には誰もがなります、だから精神科にいきましょう、という精神科の敷居を低くするキャンペーンでもあった。
SSRIはいまや、強迫性障害、パニック症候群、社会不安障害にまで、使われるようになった。
薬が効けばうつという経験主義は、原因論を隠蔽しがちだが、SSRIが使われるようになってうつ病は確実に増加したと、著者は分析する。

「社会の変容」
従来型のメランコリー新和型うつは自分が悪いとせめる自責型であり、新型うつは自分が不遇なのは他人のせいとする他責型である。この新型うつが増加しているという。
少子化で子どもの数が減ったため、家庭では少ない子どもを大事に育てる時代が続いてきた。子どもは挫折することなく育てられ、強い自己愛を抱く人間になっていく。自分が不遇なのは他人のせいと他人の責任にしてしまう、そして新型うつにいたる素地ができあがる。
経済不況による、給与削減、リストラ、倒産などにより社会には沈滞ムードがただよっている。そうした社会不安によって、人間関係がぎすぎすしたものになり、さらに他責的な傾向が蔓延していると指摘する。

うつに陥らないための著者の処方箋は、挫折を味わいそこから立ち直る経験をつんでおくことであるとする。
<「みんなちょっとだけ病気なんだよ」と、つぶやいみよう。p206>と結ぶ。

PS:ところで、著者は「やおい」を愛好する腐女子であると、性的嗜好をカミングアウトしている。著者が「やおい」好きかどうかは、うつを語る文脈には関連がないが、なぜ唐突に吐露するのだろうね。

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