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『沈黙の時代に書くということ』 ポスト9・11を生きる作家の選択 サラ・パレツキー

本書は、女性私立探偵Ⅴ・Ⅰ・ウォーショスキー・シリーズ(ヴィック・シリーズ)の著者であるサラ・パレツキーの自伝的エッセイ集である。本書のテーマは三つ、著者の生い立ち、Ⅴ・Ⅰ・ウォーショスキーが誕生するまでの過程、著者の政治との関わりである。

ユダヤ系アメリカ人であることが、著者の主張や行動に大きな影響を及ぼしていることは明らかである。
ヴァージニア・ウルフ以来、<手に負えない女たち>は不当な性差別に抵抗してきた。著者もその流れの中にいる。いまだに、米国における女流ミステリ作家の地位は低いという。

沈黙の時代に書くということ―ポスト9・11を生きる作家の選択

沈黙の時代に書くということ―ポスト9・11を生きる作家の選択

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サラ・パレツキー 山本やよい訳
早川書房
2010年

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著者の次の文章に、米国の変容に対しもはや黙っていられないという強い意志が込められている。
<秘密主義の侵略好きな政府になにをされるかわからないという恐怖から国民がささやき声で話すような国へと、わが愛する祖国が変貌しつつあるときに、何もせずに傍観などしていられない。p212>

9・11のあとの熱に浮かされたような数週間に、大した議論も交わされず、米国愛国者法が可決された。議会は浮き足立っていた。
愛国者法は、テロを未然に防ぐという大義名分のもとに、次のような強権的な内容をもつ法律である。
<愛国者法のもとでは、警察は令状を申請する理由を説明する必要はない。州検事にたいして、テロと関連があるかもしれない犯罪の捜査線上にわたしの名前が浮かんできた、と主張するだけでよく、それ以上はひと言の説明もいらない。令状をとるために、“相当な理由”を述べる必要もない。どのような証拠であれ、提示する必要もない。わたしを連行し、弁護士に連絡する許可も与えず、私自身に弁明を強要することができる。送検しないまま無制限拘留することもできる。家族に居場所を連絡するのを妨げることもできる。p190>
この米国愛国者法に基づく不当な逮捕者があとを絶たないという。

自由の国であったアメリカは、まるで全体主義国家になってしまったようだ。
本書は、常に敗者の側に立って行動しようとする著者の力強い意志が貫かれている。行間からは著者の怒りがひしひしと伝わってくる。

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