わたし出すわ
故郷に帰ってきた摩耶(小雪)は高校時代の友人と会い、「わたし出すわ」と言って金をばらまく。その額が途方もないのだ。金をもらったことで友人のそれぞれの人生は大なり小なりの波風が立つというストーリー。
わたし出すわ It's on Me 監督:森田芳光 脚本:森田芳光 公開:2009年 日本 110分 |
東京から函館のマンションに引っ越してきた山吹摩耶は、ふたりの運送業者に10万円ずつチップを渡す。面食らった運送屋に、摩耶は「いい思い出を作ってください」と言う。
摩耶がかかわる友人は5人。
路面電車の運転手の道上保(井坂俊哉)は、世界中の路面電車に乗りたいという夢を持っている。その夢を実現させるための費用が、ダンボールに入って保の家に送りつけられる。
かつて華々しい活躍をした長距離ランナーの 川上淳(山中宗)は、故障に苦しめられている。ケガの治療にはアメリカでの手術とリハビリが必要だという。その費用を摩耶がぽんと出す。
特に欲しいものはないという平場さくら(小池栄子)には、寝室に置く小型冷蔵庫をプレゼントする。箱庭作りが趣味の夫(ピエール瀧)の望みは箱庭協会の会長になること。それには多少の金が必要で、それを摩耶にお願いできないかと夫はさくらに言う。もちろん摩耶は出す。
保利満(小澤征悦)は、特殊な電波を流し魚を誘導する実験を行っている。その研究費を出してやる。
高校時代ライバルだった魚住サキ(黒谷友香)は、社長夫人におさまっていた。ところが夫が急死してしまう。クラブのホステスとなり再起をはかろうとするサキには、金の延べ棒5本を渡すのだった。しかし、サキは何者かに殺されてしまう。その殺人事件の捜査で、摩耶のマンションに刑事が現れ、摩耶がサキに渡した金塊について追求するが、金の出どころは不明のまま。
いまひとつ盛り上がらないストーリーのなかで、期待が持てたのは、道上の妻かえで(小山田サユリ)が送られてきた大金を、ホストつぎ込みにつぎ込み使い果たしてしまうところ。起こりそうなことが起こったわけで、いよいよここから面白くなるぞと期待したものの、切羽詰まったかえでが摩耶のマンションに怒鳴り込み、摩耶をナイフで刺そうとする。たまたま居合わせた警官ふたりにかえでは取り押さえられてしまい、そんなコントのような展開に期待はしぼむ。
【このあとネタバレです。】
おりしも函館には、金塊が投げ込まれる「ゴールドバー」なる怪事件が起きていて、「実は私が犯人なの」とさくらは麻耶に打ち明ける。3000円のくじで1億円が当たったという。夫が箱庭協会の会長になるための金が工面できなかったはずなのに、つじつまが合わない。ここまでくると、ストーリーは破壊され悪夢を見ているような気分だ。
謎の仲介人(仲村トオル)が現れて、麻耶が大金を手にしたその才能を活用したいという。この仲介人の調査によれば、摩耶が大金を手にしたのはどうも株らしい。しかし、詳細は不明。
そんななか、ついにお騒がせ摩耶が東京に帰る段になる。
冒頭の引越し業者が見積もりに現れて、摩耶に言われたとおり、思い出作りにチップの10万円を使ってタイに行き、そこで知り合ったタイ人女性と結婚した。それから運が向いてきて、主任に昇格したというのだ。だから引っ越し代金はただでいいと言う。なかなかいい展開になったのだが、もはや最後のシークエンスである。
麻耶が大金を配る理由は何なのか判然としない。しかも友人がいとも簡単に金を受け取ってしまうのは違和感がある。「わたし出すわ」の肝心の大金はどうやって手に入れたのか、観ている方はどうしても知りたいところだ。 何かに挑もうとした監督の意気込みは感じられるものの、その意図は伝わらない。 |
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