たそがれ清兵衞
庄内地方の海坂藩(うなさかはん 架空の藩)の下級武士、50石の井口清兵衛は、妻をなくし痴呆の母親の面倒をみながら娘ふたりを育て、ぎりぎりの貧乏生活を送っていた。仕事が終わると黄昏時にまっすぐ家に帰る清兵衛を、回りは「たそがれ清兵衛」と呼んでいる。
![]() 監督:山田洋次 脚本:山田洋次/朝間義隆 製作:大谷信義/萩原敏雄/岡素之/宮川智雄/菅徹夫/石川富康 音楽:冨田勲 主題歌:井上陽水「決められたリズム」 公開:2002年 日本 129分 |
清兵衛の年収50石は、現在どれくらいの金額なのか。
50石といっても、「お借り米」つまり借金の返済で20石差し引かれていた。手元に残るのは30石。1石を1両、1両を4~5万円と換算すると、年収は120万~150万円。かなり深刻なワーキングプアである。
鶏を飼い、裏庭には野菜を栽培し、虫かご作りの内職をしているが、焼け石に水。生活は赤貧洗うがごとくである。
清兵衛の幼馴染みの朋江(宮沢りえ)が甲田豊太郎(大杉漣)に嫁いだものの、酒乱で暴力夫の甲田を恐れて、離縁して逃げ帰ってきた。ある夜、朋江のもとに酒に酔った甲田が現れて朋江に絡む。それを静止する清兵衛に腹を立てた甲田は、清兵衛に果し合いを申し出るのだった。
よく日、真剣を振り回す甲田に、清兵衛は木刀の小太刀で立ち向かい、気絶させてしまう。
ここで清兵衛がただものでないことがわかる。かつて師範代を務めたこともある、小太刀の遣い手であった。
藩主が亡くなり跡目争いの結果、反体制側は粛清され、一刀流の遣い手である余呉善右衛門(田中泯)は切腹を命ぜられた。余呉は藩命に従わず、自宅に立て籠もった。清兵衛に余呉を斬るようにと家老から命じられる。余呉を斬れば禄高を上げるとの甘い言葉にも、惑わされず断るのだった。しかし、家老の命令に逆らうわけにはいかず、引き受けざるを得ない。
清兵衛は朋江を呼んで事情を説明し、生きて帰ったら一緒になってくれるように、清兵衛は思いの丈を伝える。
さて、余呉の家に入った清兵衛に、余呉は逃がしてくれるように頼む。ところが、余呉が立て籠もったいきさつを聞いているうちに、清兵衛はつい気を許してしまう。妻の葬式で出費が嵩み、大太刀を売ったので、いま腰にさしているのは竹光であると、信じられないこと口走ってしまう。それを聞いた余呉は、自らの剣の実力を見くびったと怒り、清兵衛に挑みかかろうとする。清兵衛は、自分が修行した流派は小太刀で戦う流派だと言い訳しても、余呉の怒りは収まらない。当たり前だ。そこで壮絶な斬り合いが始まる。→人気ブログランキング
【ここからネタバレです。】
狭い家屋の中での斬り合いは、小太刀が有利なのは定説。
案の定、余呉の上段から清兵衛めがけて振り下ろした大太刀が鴨居に食い込み、そこを清兵衛の小太刀が余呉の胴を払い決着がつく。
かくして満身創痍ながら生還した清兵衛を朋江たちが迎えるのだった。
数十年が経った。
清兵衛の娘(岸恵子、ナレーター)が月山を望む父母の墓に線香をあげている。
生還した清兵衛は朋江と結ばれ仲睦まじく暮らした。
しかし、3年後に明治維新となり、戊辰戦争で幕府軍として戦った清兵衛は、新政府軍の銃弾に倒れ命を落とす。
そして、残された朋江と清兵衛の娘ふたりは東京に出た。
娘は「短い人生だったが、好きな朋江さんと一緒になれて、清兵衛は幸せだったと思う」と述懐するのだった。
監督の几帳面さが現れているような、起承転結がぴたりと決まった作品だ。 「起」は始まりの部分、「承」は朋江が出戻りしたところ、「転」は清兵衛が余呉討ちを命じられたところ、「結」は清兵衛の娘の墓参りの場面。 なお、原作は藤沢周平の3篇の短篇からなっている。「たそがれ清兵衛」「祝い人助八」(『たそがれ清兵衛(新潮文庫)』収録)、「竹光始末」(『竹光始末(新潮文庫)』収録)。 |
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