グルメの嘘 友里征耶
雑誌や本の飲食店を紹介する記事に、店をけなす内容が書かれているのを目にしたことがない。歯の浮くような誉め言葉が並んでいるのが常である。その理由は、店の欠点が載っている本や雑誌は売れないからだ。
テレビも同じだ。出演者が不味そうに食べたり、「旨くない」と評価したりするグルメ番組は、番組として成り立たない。
こうして批評のないグルメの世界が形作られているという。
グルメの嘘 友里 征耶 新潮新書) 2009年 |
著者は飲食店を覆面取材し、辛口の評価をブログに載せ雑誌や本に書いている。著者は業界内で恐れられあるいは目の敵にされているライターである。
本書は、今の日本のグルメ界を切って切って切りまくる、超辛口のグルメ論である。
美味しいとしか書かないフード・ライターを、著者はヨイショ・ライターと呼ぶ。グルメの世界は、このヨイショ・ライターでもっている世界だ。
雑誌に連載コラムを持つグルメ界の大御所は「私はこういうものです」と名乗って店に入る。店側は一番いい部屋を用意し、素材をえりすぐり、調理は手を抜かずにもてなす。さらに「御代は結構です」ということになる。こうなれば、大御所はその店を賛美する文章を書くことになる。
料理人の半生を書いた本に対して、著者は次のように切る。
ヨイショ・ライターは、エピソードをでっち上げ、あるいは誇大に膨らませ、料理人を努力の人や天才などと褒め称えるのだ。
グルメ関連ブログについても、手厳しい。
氾濫するブロガーの一番の問題点は、賞賛するだけで、まったく検証や疑問を書き綴っていないことであると指摘する。
身につまされる指摘だが、店の悪口はなかなか書けない。
せいぜい、旨くないと思った料理を旨いとは書かないことだろう。
グルメの世界に喧嘩を売るような過激な内容です。
要は、グルメを語るなら顔を洗って出直せってことでしょうか。
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