極北
舞台は、年間10か月は極寒、残りの2か月は蝿や蚊や虻などの害虫が飛び交い土埃が舞う極北のシベリア。
地球温暖化をはじめ環境汚染や人心の荒廃を逃れて、主人公の両親は米国のシカゴからこの地に移住してきた。両親は平和な暮らしが送れるようにとの願いを込めて、生まれた子供にメイクピースと名づけた。
しかし、次々に移住してくる人々が災難をもたらした。食料が十分に生産されているわけでなく、生活必需品にも限りがあった。生き残るためには法もモラルも無視され、力のある者が武器を持つ者がそうでない者を奴隷のように支配する、町はそんな状況になっていった。
![]() マーセル・セロー/村上春樹訳 中央公論新社 2012年 |
秩序を失った町で生き残るには、無法を働く者に立ち向かう強靭な体と精神が必要だった。さらに、食料の調達と保存、極寒の冬を乗り越える燃料の確保など、サバイバルの術に長けた者だけが生き残こることができる。やがて両親も妹弟も死に、ついに町にはメイクピース以外誰もいなくなった。
ある日、メイクピースは双翼の飛行機が山の方角に飛んで行くのを目にした。飛行機が発着するところには、まだ機械文明を再興することのできる人々が暮らしているのではないかとの期待を胸に、メイクピースは放浪の旅に出ることにした。
メイクピースは、人類が生きる世界の最終章にいることを知っている。しかし、その一章がどれくらいの長さかはわからない。そんな中でメイクピースは、未来への糧をつかもうとする。そして絶望感が漂う中にわずかな明かりが灯る結末へと向かう。
次々に起こる予想を覆す展開にグイグイ引き込まれ、スケールの大きさに圧倒された。
訳者村上春樹のあとがきによれば、著者のマーセル・セローはウクライナのチェルノブイリ原発周辺やシベリアを旅しているときに、本書の構想を思いついたという。
原書は3.11以前に発刊されているが、3.11以降、本書は一段とリアリティーをもつ未来小説となった。→人気ブログランキング
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