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『ウェブ進化論』―本当の大変化はこれから始まる by 梅田望夫

私は2000年からインターネットを始めた。2002年3月にホームページを立ち上げ、その後ランニングクラブやラーメンや書評のサイトを作った。2005年3月から当時流行りだしたブログを始め、同年11月にはグーグルアドセンスに登録した。
現在は日常の多くのやり取りをメールで済ませ、ブログに記事を書き、たまにグーグルから私の口座に広告料として100ドルが振り込まれる。というのが、私のインターネットとのかかわり方のおおよそである。

1995年からのネット社会の地殻変動とも言うべき変化によって、私たちは産業革命より重大な転換期の真っ只中にいると言われている。著者は、その変化の根底にあるのは、リアル世界では成立し得ないインターネット特有の3つの法則であると述べている。つまり「神の視点からの世界理解」、「ネット上にできた新しい経済圏」、「無限大×ゼロが価値を生み出す可能性」である。
第一法則の「神の視点からの世界理解」は、仰々しい表現だが、「全体を俯瞰する視点」のことである。ネット事業者は100万人単位、1000万人単位の顧客に対してサービスを行い、顧客の情報を管理することができる。膨大な量の情報を持つことによって、全体として何が起きているかを、「俯瞰した視点」で理解することができる。これが「神の視点からの世界理解」である。ヤフーやアマゾゾンやグーグルなどの世界規模の企業は、この「神の視点」で企業戦略をたてていると言える。人々がネットに対して漠然とした不安を感じているとすれば、こうした「神」が登場するようなネットの得体の知れないところに感じるのかも知れない。

第二法則の「ネット上にできた新しい経済圏」については、多くの例がある。そのひとつであるアマゾン・コムに代表されるネットで商品を売るビジネスは、いち早く確立された。冒頭に書いたグーグルから私の口座に100ドルが振り込まれる理由は、私のサイトがグーグルアドセンスに登録しているからである。グーグルはサイトの内容を自動的に読み取り、独自のアルゴリズム(計算式)に基づいてページごとにマッチした広告を私のサイトに掲載する。その広告掲載料などが100ドルに達すると、グーグルから口座に振り込まれる。グーグルは集まってくる企業からの広告費を、自社の取り分を確保したあと流通機構を介在させることなく、世界中の膨大な数のサイトに分配している。そのひとつに私のサイトがある。リアル世界では中間に存在する流通機構にコストがかかるが、グーグルが築き上げたビジネスモデルではそのコストは生じない。グーグルの約5000億円の年間売上の大半が広告収入だと言われている。

第三の法則「無限大×ゼロが価値を生み出す可能性」が、インターネットの本質であると著者は言う。1億人から1円ずつを集めるという発想である。わずかな金や時間をゼロに限りないコストで無限大に近い対象から集めることができたら何が起こるのか、ここにインターネットの可能性の本質があると著者は強調する。
この法則に当てはまる例のひとつにウィキペディアがある。ウィキペディアは、誰でもどの項目に対しても加筆修正ができるネット上の百科事典である。ウィキペディアの信頼性は、スタートした2001年1月からずっと槍玉に挙げられてきたが、『エンサイクロペディア・ブリタニカ』の項目数6万5千の10倍以上(英語)にも及ぶ項目の百科事典がすでに出来上がっており、それは日々更新され、さらに200の言語ごとに作られ始めている。ウィキペディアにまつわる著作権の問題はそう簡単には解決しないだろうし、素人が作り出す「知」をオーソリティー達はこれからも非難し続けるだろう。ウィキペディアの将来は、インターネットの本質がどう既存社会に受け入れられるかということであり、ネットの将来を占う重要な試金石とみることができる。

インターネットの未来は、簡単には予測できないことであるが、過去から起こっている流れが未来につながっていくことは間違いないだろう。著者はインターネットの未来について、次のように述べている。「これから始まる『本当の大変化』は、着実な技術革新を伴いながら、長い時間をかけて起こるものである。短兵急ではない本質的な変化だからこそ逆に、ゆっくりとだが確実に社会を変えていく。『気づいたときには、いろいろのことがもう大きく変わっていた』といずれ振り返ることになるだろう」。

著者は、1960年生まれ。慶大工学部、東大大学院を卒業した後、1994年からシリコンバレーに在住。2005年からは株式会社「はてな」の取締役を務める。IT分野の知的リーダーとして若者の絶大な支持を得ている人物である。 インターネットを理解するうえでの教科書の位置にあるのが、本書だと思う。
インターネットはペシミスティックな視点で論じられることが比較的多いが、カリフォルニアの青い空のように明るく陽気に捕らえているのが本書の特徴である。

→『人工知能と経済の未来 2030年雇用大崩壊 』井上智洋 2016年
→『未来型サバイバル音楽論』津田大介×牧村 憲 中公新書ラクレ 2010年
→『ウェブ進化論 本当の大変化はこれから始まる』梅田望夫 ちくま新書 2006年

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