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2013年2月

2013年2月27日 (水)

マルコヴィッチの穴

チャーリー・カウフマンの特異な世界を、スパイク・ジョーンズ監督がみごとに映像化した斬新で魅力ある作品。

Image_20201204173601マルコヴィッチの穴
Being John Malkovich
監督:スパイク・ジョーンズ
脚本:チャーリー・カウフマン
製作:マイケル・スタイプ/サンディ・スターン/スティーヴ・ゴリン/ヴィンセント・ランディ
製作総指揮:チャーリー・カウフマン/マイケル・クーン
アメリカ 1999年 112分 

人形遣いでオタクのクライグ(ジョン・キューザック)とペットショップに勤める妻のロッテ(キャメロン・ディアス)は、倦怠期にさしかかった夫婦。家の中にはチンパンジー、イヌ、イグアナ、九官鳥などがいて現実離れした空間で、だらしのない格好で日々を送っている。

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クライグが書類係として就職した会社は、7階半にあって、天井が低いため、背をかがめて歩かなければならない。
彼は、入社するとたちまち上司のマキシン(キャサリン・キーナー)に心を奪われる。
ある日、彼はオフィスの壁に空いた穴を発見する。
その穴に潜り込むと、俳優ジョン・ホレイショ・マルコヴィッチ(ジョン・マルコヴィッチ)の脳の中に15分入り込めるのだ。
このあたりで、相当奇妙な映画だなと感じるが、ストーリーが面白いので引き込まれてしまう。

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ある日、クライグに勧められてマルコヴィッチの脳を体験した妻のロッテは病みつきになり、夫が熱を上げているマキシンとマルコヴィッチを通しての性体験に喜びを感じてしまう。そして、ロッテは自らが同性愛者であることに目覚めてしまう。
一方、妻に先を越されたクライグはマルコヴィッチの脳に入り、これまたマキシンと結ばれるというややこしいことになる。
当のマルコヴィッチは自らに起こる奇妙な現象に気がついて何とかしようとするのだが、やがて、クライグがマルコヴィッチの脳の中に居座り続ける方法を見つけ、クライグはマルコビッチになりすましてしまう。
マルコヴィッチの体に住み着いたクライグは、マキシンをマネージャーにして、俳優としての名声を高めていく。

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マルコヴィッチの入ったクライヴは、マネージャになったマキシンと親密な関係になる。クライヴはマキシンにぞっこんだから思い通りになわけで、マルコヴィッチはマキシンに言い寄られて、まんざらでなかったし、一方マキシンはマルコヴィッチに熱を上げていたので、思いの丈を遂げたわけだ。自らがレスビアンであることを知ったロッテだけが、仲間ハズレになった形だ。

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マルコヴィッチの身体は単なる器でしかない。
器を何世代にもわたり移り住んできた人たちがいて、その人たちからクライグは、マルコヴィッチの体を出ないと取り返しのつかないことになると脅さるのだった。
仕方なくマルコヴィッチから出たクライグは、もとの冴えない男に逆戻りする。という混沌としたなかにも、キレと新鮮さが感じられるなんとも不思議な作品だ。

ドーキンス博士の利己的遺伝子の理論を彷彿とさせるストーリーだ。
つまり、生物は遺伝子の単なる器であり、進化の道筋を決めているのは遺伝子であるというもの。
マルコヴィッチが器で、マルコヴィッチに入り込む人たちが遺伝子ということになる。
本作は、人間は何かに拘束され、限られた狭い世界でしか生きていけないはかない存在であることを暗示している。
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【チャーリー・カウフマンの作品】
『脳内ニューヨーク/Synecdoche, New York』(08年)監督・脚本
アダプテーション』(02年)脚本
エターナル・サンシャイン/Eternal Sunshine of the Spotless Mind 』(04年)脚本
マルコヴィッチの穴/Being John Malkovich』(99年)脚本

2013年2月25日 (月)

エターナル・サンシャイン

『マルコヴィッチの穴』(99年)脚本、『脳内ニューヨーク』(08年)の監督・脚本で、異才を放ったチャーリー・カウフマンが、本作ではアカデミー賞脚本賞を受賞した。
また、ケイト・ウィンスレットが、アカデミー賞主演女優賞ノミネートされた。
消す必要のない記憶を消そうとすることで騒動が巻き起こる異色のラブストーリー。

Image_20210103094701エターナル・サンシャイン
Eternal Sunshine of the Spotless Mind
監督:ミシェル・ゴンドリー
脚本:チャーリー・カウフマン
原案:チャーリー・カウフマン/ミシェル・ゴンドリー/ピエール・ビスマス
音楽:ジョン・ブライオン
アメリカ  2004年  107分

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ジョエル(ジム・キャリー)は決断力がなく消極的で平凡な男。
一方のクレメンタイン(クレム/ケイト・ウィンスレット)は気まぐれでひっきりなしに喋っている女。髪の毛の色を「青い廃墟」「アカの脅威」「緑の革命」「枯葉剤色」などと名付けて、しょっ中替えている。
ふたりはバレンタインの日を前に別れてしまう。

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クレムにすげなくされたジョエルは、彼女がクリニックで記憶消去の処置を受けたことを知る。それならばと、彼もクレムを忘れるために記憶消去の処置を受けることを決意する。
相手に関わる思い出の品物やエピソードを脳からひとつずつ消していく方法で、記憶消去は行われる。

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ジョエルの記憶消去は、彼が無意識に記憶を消し去ることに抵抗しているのか、スムースにいかない。
記憶を消す処置を行うスタン(マーク・ラファロ)にも問題があった。スタンとクリニックの受付嬢メアリー(キルスティン・ダンスト)は、ジョエルが消却の処置を受けて寝ているベッドの上で、酒を飲んで踊りマリファナを吸ってセックスをするというデタラメさなのだ。
そんな、いい加減なことで処置がうまくいくはずがなく、ジュエルの脳のどこかにクレムについての記憶が紛れ込んでしまう。
どうにも手に負えなくなったスタンは、真夜中にハワード博士(トム・ウィルキンソン)を呼び出すことにした。博士が現れると、マリファナの影響が抜けないメアリーは、前から思いを寄せていた博士に言い寄ってキスをせがんでしまう。メアリーには、ハワード博士のことを忘れるために記憶消去を受けた過去があった。
ここで、博士を追いかけてきた妻が、博士とメアリーがキスをするところを目撃して逆上するのだった。

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記憶を消す過程をどう映像化するかが、この映画の難しいところだが、そこに今ひとつ説得力がない。

もうひとりの助手パトリック(イライジャ・ウッド)は、クレムに記憶消却の処置をしているときに一目惚れをしてしまい、不届きにも彼女のパンティを盗んだり言い寄ったりするのだ。

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こんなドタバタするなか、振り出しに戻ったふたりは、それぞれの欠点を認め合いながら、やり直そうとするのだった。
見終わった直後は不可解さに戸惑うが、時間が経ってストーリーを思い返す と、どこか救われるような気持ちになる、不思議な魅力がある映画だ。

ちなみに、原題の「Eternal Sunshine of the Spotless Mind/汚れなき心の永遠の陽光」は、作中メリーが口ずさむ、18世紀前半の英国詩人アレクサンダー・ポープの詩の一節からきている。
How happy is the blameless vestal’s lot !
The world forgetting, by the world forgot.
Eternal sunshine of the spotless mind !
Each pray’r accepted, and each wish resign’d.

【チャーリー・カウフマンの作品】
『脳内ニューヨーク/Synecdoche, New York』(08年)監督・脚本
アダプテーション』(02年)脚本
エターナル・サンシャイン/Eternal Sunshine of the Spotless Mind 』(04年)脚本
マルコヴィッチの穴/Being John Malkovich』(99年)脚本

【ケイト・ウィンスレット出演作品】
おとなのけんか』Carnage/2011年
『コンテイジョン』Contagion/2011年
『ミルドレッド・ピアース 幸せの代償』Mildred Pierce /2011年
愛を読むひと』The Reader/2008年
リトル・チルドレン』Little Children/2006年
エターナル・サンシャイン』Eternal Sunshine of the Spotless Mind/2004年
ライフ・オブ・デビッド・ゲイル』The Life of David Gale/2003年 
アイリス』Iris/2001年
『エニグマ』Enigma/2001年
『タイタニック』Titanic/1997年
いつか晴れた日に』Sense and Sensibility/1995年
『乙女の祈り』Heavenly Creatures/1994年

2013年2月23日 (土)

シスタースマイル ドミニクの歌

本作品は実話をもとに作られた。
主人公のジャニーヌは、両親の束縛から逃れるために修道院に入り、『ドミニク』を歌い一世を風靡するシンガーソングライターになる。そのあと、修道院から自由になるために環俗し、一転してカソリック教会を批判する歌を歌うが、世間には振り向かれず行き詰まってしまう。そんな頑固で純粋な生き方をした女性をセシル・ド・フランスが、好演している。

Image_20201130094301シスタースマイル ドミニクの歌
Sister Smile Soeur  Sourire
監督:ステイン・コニンクス
脚本:クリス・ヴァン・デル・スタッペン/ステイン・コニンクス/アリアン・フェート
音楽:ブリュノ・フォンテーヌ
製作国:仏・ベルギー   2009年 124分 

1950年代末のベルギー。
ジャニーヌの家業はパン屋、両親と従姉妹の4人で暮らしていた。
両親はジャニーヌが平凡な結婚をして、パン屋を継いでくれることを望んでいた。しかし、ジャニーヌは折り合いの悪い母親から逃れ、大切なギターとエルヴィス・プレスリーのプロマイドをもって、ドミニコ会フィシェルモン修道院に入り修道女になる道を選んだ。

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修道院では、愛用のギターを取り上げられてしまう。修道女になるには6年間もの修行が必要であることがわかる。
彼女は、修道院の厳格な規律に縛られる生活に反発するが、修道会の聖人ドミニコを讃える『ドミニク』を作って歌ったところ、修道女たちに絶賛される。

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この歌がレコードになると、瞬く間に全米のヒットチャート入りし、ジャニーヌはシスター・スマイルと名乗り、一夜にして国際的な人気歌手となった。『ドミニク』はエルヴィス・プレスリーのレコードをも凌ぐ300万枚の大ヒットとなり、彼女は印税の大半を修道院に寄付していた。
世間は謎のシスターの素顔を知りたがり、教会にマスコミが押し寄せ、ファンも教会に大挙して訪れるようになる。さらに音信不通だった両親も、スターになった彼女のサインをもらいに、修道院に面会に来るのだった。

子供の頃、「♪ドミニク、ニク、ニク♪」と、意味も考えずにピクニックの歌だろうと思って口ずさんだ歌に、こんなドラマがあったとは驚きである。

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やがて、修道院を出たジャニーヌは、カトリック教会の保守的な体質に批判的な行動をとるようになる。1967年には、産児制限を指示する歌『黄金のピルのために神の栄光あれ』を発売したものの、まったく売れなかった。環俗したシスターに、世間は振り向かなかったのだ。
ドミニクはいわばカソリックを賛辞する歌、一方『黄金のピルのために神の栄光あれ』はカソリックの保守性を批判する歌である。このギャップをファンが受け入れるのは難しい。

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失意のジャニーヌは、かつての親友アニー(サンドリーヌ・ブランク)を訪ね、2人は新しい家を借りて共同生活を始める。このことがスキャンダルとして新聞に載り、母親からは恥知らずと罵られるのだった。

悪いことは続くものだ。
その後、ベルギー政府から彼女に対して5万米ドルの追徴税が課せられる。これに対してジャニーヌは、金は修道院に寄付したと主張したが、寄付であったことを示す領収書が存在しなかった。まともなマネージメントが行われなかったのだ。彼女の言い分は認められず、惨憺たる経済状態に陥ってしまう。
やがて、生きる希望を失った、ジャニーヌはアニーとともに自ら命を絶った。セシル・ド・フランスは存在感のある、訳ありの女性を演じたらぴか一です。→人気ブログランキング

【セシル・ド・フランス出演作品】
少年と自転車』(12年)
ヒアアフター』(10年)
シスタースマイル ドミニクの歌』(09年)
ある秘密 ~愛に焦がれて~』(07年)
モンテーニュー通りのカフェ』(06年)
スパニッシュアパートメント』(02年)

2013年2月21日 (木)

少年と自転車

ベルギーのダルデンヌ兄弟が、日本で開催された少年犯罪のシンポジウムからヒントを得て作ったといわれる作品。
主人公の少年役は、オーディションで100人の中から選ばれたというトマ・ドレ。少年の里親役サマンサは『ヒア アフター』(2010年)のaセシル・ドゥ・フランス、少年の父親は『約束の葡萄畑 あるワイン醸造家の物語』 (2009年)のジェレミー・レニエが演じている。
本作品は、カンヌ国際映画祭 審査委員特別グランプリ受賞を受賞している。
Image_20201228122401少年と自転車
Le gamin au vélo
監督:ジャン=ピエール・ダルデンヌ/リュック・ダルデンヌ
脚本:ジャン=ピエール・ダルデンヌ/リュック・ダルデンヌ
製作総指揮:デルフィーヌ・トムソン
製作国:ベルギー フランス イタリア  2011年  87分  

父親がシリルを児童養護施設に預けて行方不明になった。
シリルは父親が自分を捨てるはずがないと信じて、父親を必死に探す。
シリルが学校から抜け出して父親を探しているときに、追ってきた教師に捕まりそうになり女性の後に身を隠した。彼をかばってくれた女性は美容師のサマンサだった。
シリルは、自転車を取り戻してくれたサマンサに、週末だけの里親になってくれるよう願い出る。
こうしてシリルとサマンサの生活が始まる。

少年が唐突に里親になって欲しいと女性に申し出るところは、フランスらしい。週末だけの里親は、フランスならではの柔軟な結婚観や親子関係によるのかもしれない。

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週末だけ里親になったサマンサはシリルの父親の職場を突き止め、ふたりで会いに出かける。父親はレストランの厨房で働いていた。
父親は子供がいると雇い主に嫌がられるので、シリルを置き去りにして姿を消したという。週末には電話をするとシリルに答えた父親だが、サマンサにはもうシリルに会わないという。父親は金を作るためにシリルの大事な自転車も売ったのだ。

麻薬の売人の若い男が、シリルのブルドッグのような性格を買って、強盗の話を持ちかける。シリルは売人の台本どおりにバットを振り回し強盗を働き、金を手にする。そして、分け前の金を持って父親のところに行くが、父親は金を受け取らず、もう来るなとシリルを拒絶するのだった。こうしてシリルは父親から完全に見放されたことを知る。

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必死にシリルの面倒をみるサマンサの変わりように恋人は、自分とシリルのどちらを取るのかとサマンサに迫る。彼女はシリルを取るのだった。

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シリルにとって縛られるよりは自由がいい。しかし、自由を選べばサマンサを裏切ることになる。サマンサはシリルが無謀な行動に走っても見放さなかった。愛情を求めるシリルに、サマンサは母性愛で応えた。
そしてシリルはサマンサに週末だけでなく、本当の里親になってほしいと願う。サマンサは承諾するのだった。

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父親に拒絶されたシリルの張り裂けんばかりの切ない気持ちと、それを包み込むサマンサの母性愛が画面から伝わってくる、心が温まる一本。→人気ブログランキング

【セシル・ド・フランス出演作品】
少年と自転車』(12年)
ヒアアフター』(10年)
シスタースマイル ドミニクの歌』(09年)
ある秘密 ~愛に焦がれて~』(07年)
モンテーニュー通りのカフェ』(06年)
スパニッシュアパートメント』(02年)

2013年2月20日 (水)

シェフ! ~三つ星レストランの舞台裏にようこそ~

パリの高級三ツ星レストラン「カルゴ・ラガルド」のシェフ、アレクサンドル(ジャン・レノ)は、20年間三つ星を守ってきた。しかし、春の新作メニューのアイデアが浮かばない。
オーナーからはメニューが時代遅れと批判され、有能な助手たちは引き抜かれて店を去っていく。そんな中、オーナーはひとつでも星を失うことになれば、アレクサンドルを解雇すると言い渡した。
130220__2シェフ! ~三つ星レストランの舞台裏にようこそ~
監督:ダニエル・コーエン
脚本:ダニエル・コーエン
音楽:ニコラ・ピオヴァーニ
フランス  2012年   85分 

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一方、ジャッキー(ミカエル・ユーン)は、天才的な舌を持ち有名シェフの数あるレシピを暗記しているものの、レストランに勤めても直ぐに辞めてしまう。その原因は彼が料理に関して妥協しないため、周りとぶつかってしまうからだ。
彼は安定した収入を得るために、料理人を諦めペンキ塗りの仕事につく。なにしろ美人の婚約者ベアトリス(ラファエル・アゴゲ)は妊娠しているので、稼がなくてはならない。

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ところで、婚約者が妊娠していて臨月も近いというのに結婚していないというのが、いかにもフランスらしい自由な結婚感である。ベアトリスの親は、妊娠している娘が結婚しないからと気を揉むわけでもなく、いたって鷹揚なのだ。

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ある日、老人ホームの料理を見るに見兼ねたジャッキーは、厨房に現れあれこれ口を出した。たまたま、前オーナーを訪ねて老人ホームに来ていたアレクサンドルが、ジャッキーの作ったスープを口にして、その美味しさに驚き、見習いとして雇うことにする。

そして、アレクサンドルとジャッキーは新しいメニューの開発に取りかかる。審査員の好みが、分子料理であるとの情報を得たふたりは、変装して分子料理の店に入るのだった。

日本びいきのジャン・レノは日本人に変装するが、アレキサンダーが武士でジャッキーが芸者というベタないでたちで店に現れる。BGMは「竹田の子守唄」。いまだにパロディーで日本人がこんな風に描かれるのには、ぶっ飛んだ。

 分子料理とは、分子ガストロノミー(Molecular Gastronomy)を取り入れた料理のこと。分子ガストロノミーは、調理を物理的、化学的に解析した学問で、分子美食学と訳されることもある。
分子ガストロノミーによって、何世代にもわたる料理に関する迷信が払拭され、科学的に正しい知識がもたらされた。
そこから生まれてくる料理は、液体窒素を使って食感をカリカリに変化させたり、低い温度で調理することで組織を壊さず調理したりするような、エル・ブリのフェラン・アドリアが提供した実験料理的なものと思われがちだが、実際は分子ガストロノミーの考え方を踏まえた料理であれば、分子料理である。
例えば、分子ガストロノミーを応用した料理とは、卵の黄身と白身の固まる時間の差を利用して、新しい卵料理を作るなどのことである。
見た目や味が以前と変わらないこともあるわけだ。

そうしてむかえた、秘密審査員がレストランに現れる日。
人生には愛が大切であると気づいたアレクサンドルは、厨房をジャッキーに任せ、最愛の娘の論文審査に付き添って出掛けてしまう。

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一方、厨房のジャッキーは、オーナーの嫌がらせで食材が店に届かないという事態になり頭を抱える。しかし、彼らは材料を街角のスーパーで揃えて料理に取り掛かるのだった。
ジャッキーはが作り出した料理は、伝統的な料理に彼なりの新しいアイデアを加えたもの。これが秘密審査員の絶賛を浴びてしまう。

本作は、美味しそうな一流の料理の数々、その調理の様子などが見ることができて、食べ物や料理好きにはたまらない魅力がある。本作には、奇を衒い過ぎる分子料理に対する痛烈な批判が込められている。→人気ブログランキング

2013年2月16日 (土)

ノッティングヒルの恋人

きらびやかで贅沢な生活を送っているハリウッドの売れっ子女優が、ロンドンのロケ先で恋に落ちる。相手の男の家族や友人と過ごすことで、女優は普通の市民のありふれた生活を経験する。もともと自分の住んでいる世界に違和感を感じていた女優にとって、心が安らぐ時間だった。そして再び、ロンドンを訪れた女優に、男は果敢にプロポーズして、ふたりはめでたく結ばれるという逆玉の輿物語である。
ストーリーに強引さはなく、自然な成り行きと感じさせるところが、この作品の優れたところだ。
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監督:ロジャー・ミッシェル
脚本:リチャード・カーティス音楽:トレヴァー・ジョーンズ
製作国:イギリス  アメリカ  1999年  123分 

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バツイチのウィリアム(ヒュー・グラント)は、ロンドン西部のノッティング・ヒルで旅行書の書店を営んでいる。その店に、ハリウッドのスター女優、アナ(ジュリア・ロバーツ)が訪れる。本を買ってアナは店を出るが、そのすぐ後に飲み物を買いに出たウィリアムと街角で衝突して、アナの服がオレンジジュースで汚れてしまう。

慌てたウィリアムは服の汚れをどうにかしようと、アナを家に招き入れる。服を洗って乾かして何とか彼女を送り出して、少しすると、彼女が戻って来てウィリアムにキスをして立ち去る。

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このあと、ウィリアムは妹の誕生日パーティにアナを誘い、彼女は誘いに応じて、彼の家族や友人たちと楽しいひと時を過ごす。
ある夜、デートの後にふたりがアナの部屋に戻ってくると、そこには有名俳優が彼女の帰りを待っていた。恋人の存在にショックを受けたウィリアムは、アナから去っていく。

そして半年後、アナがマスコミを逃れて家に置いて欲しいと突然やって来る。だが同居人スパイク(リス・エヴァンス)が口を滑らせたことで、ウィリアムの家にマスコミが押しかけてしまう。そのことに腹を立てたアナはウィリアムに二度と会わないと言い残し、マスコミをかき分けて立ち去って行った。

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一年後に、アナが再びロンドンを訪れる。
友人たちは、ウィリアムをアナの記者会見のホテルに強引に連れていく。記者になりすましたウィリアムは、突如アナにプロポーズし、会見は結婚会見に早代わりするのだった。

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そっち側の派手な世界に飽き飽きしているなら、こっち側に来たらどうでしょう。こっち側には、贅沢ではないけれど結構面白いことがあって捨てたもんじゃないよ、とウィイアムが誘った。強引になんとかしようという素振りがなかった。
アナはその誘いの乗ってこちら側の気楽さに身を委ねることにした。
そうしたストーリーが清々しく感じられる作品である。→人気ブログランキング

2013年2月14日 (木)

バージニア・ウルフなんかこわくない

この映画を一言でいうと、真夜中に、他の夫婦を巻き込んで行われた壮絶な夫婦喧嘩の顛末である。本作は、1962年ブロードウェイにて初演された、エドワード・オールビーの戯曲をもとに作られた。
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監督:マイク・ニコルズ
脚本:アーネスト・レーマン
製作:アーネスト・レーマン
アメリカ  1966年  131分 

土曜日の真夜中に、歴史学教授のジョージ(リチャード・バートン)と年上の妻マーサ(エリザベス・テイラー)は、彼女の父である学長が開いたパーティから帰宅した。こんな夜遅くに、マーサは新任の若い生物学教授のニック(ジョージ・シーガル)とその妻ハネー(サンディ・デニス)を招待したという。「あのハンサムな夫とケツの小さい女を招待したのか?」と夫婦ならではのあけすけな会話のあとに、いつも通りの口喧嘩が始まった。ひとしきりバトルがあって、一体どこまでエスカレートするのかというところで、玄関のチャイムが鳴る。

招かれたニックとハネーは、取り込み中だし夜も遅いので失礼しようと常識的なことを言うのだが、なにしろマーサは学長の娘で常識を欠いた女、断って鼻を曲げられたら、大学での昇進に影響しかねないと考えた夫婦はひとまず腰を降ろして飲み始める。

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4人はウイスキーだジンだブランデーだと、つまみもなしに恐ろしいくらいの量をカポカポ飲むのである。ジョージとマーサの喧嘩は終わったわけではなく、マーサは学長の娘と結婚したジョージが思い通りに出世しないことに嫌味を言い、ジョージはマーサの男遍歴を口にする。

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そのうちにニックがジョージに妻がかつて想像妊娠したことをこっそり教え、さらに財産目当てで結婚したことを語る。そのことをジョージは皆の前で暴露したものだから、ハネーはブランデーをがぶ飲みし正体を失ってしまう。
子供がいるかいないかは、どちらの夫婦にとっても重大な関心事で、ジョージとマーサは、実際は存在しない息子の話題を挙げ、月曜日に寄宿学校から帰ってくることになっていると話す。

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ジョージが外に出て行ったすきに、マーサはニックを誘惑し、ふたりは2階の寝室に消えてしまう。
外から戻ってきたジョージは、架空の息子を死んだと最悪の結末をマーサに告げ、喧嘩は終結するのだった。この辺りで、習いとなっているジョージとマーサの夫婦喧嘩のカラクリに、ニックは気づく。
そして、疲労困憊したニックとハネーは帰宅する。
夜が明け外が明るくなったころに、疲れ果てた夫婦の会話は穏やかになり、ふたりはベッドに入る。

口論は殺人が起こっても不思議ではないくらいにエスカレートするが、そこはジョージとマーサはわきまえていて、一歩手前で事なきを得るのだ。この夫婦喧嘩はふたりにとっては日常茶飯事の、ストレス解消のゲームのようなもの。
膨大な量の会話が、リチャード・バートンとエリザベス・テイラーによって交わされ、そこに紛れ込んでしまい、秘密が暴露され散々な目に遭うニックとハネー夫婦は、貧乏くじを引いてしまったというところ。

タイトルの『バージニア・ウルフなんかこわくない』は、マーサが、ディズニーの『三匹の子豚』で歌われる「大きな悪いオオカミ(The Big Bad Wolf)なんかこわくない」という歌をもじって、「バージニア・ウルフ(Virginia Woolf)なんかこわくない」と歌うシーンがあり、ここからとったもの。
タイトルの意味するところは、ふたつの説があるといわれている。
ひとつは洞察力が鋭いとされるバージニア・ウルフに、心を見透かされてしまうかもしれないと怖がらなくていいという説と、もうひとつは難解な彼女の小説を理解できなくて馬鹿にされると怖がらなくてもいいという説である。
ちなみにバージニア・ウルフは、代表作の『ダロウェー夫人』などを書いた、20世紀のはじめに活躍したイギリスの女性小説家。20世紀モダニズム文学の主要な人物である。
また、『めぐりあう時間たち』(・ダルドリー監督 2002年)で、ニコール・キッドマンが、バージニア・ウルフを演じてアカデミー賞主演女優賞を受賞している。

本作品は、第39回アカデミー賞の主演女優賞(エリベザス・テイラー)、助演女優賞(サンディ・デニス)を受賞した。なお、このほか作品賞、監督賞、主演男優賞、助演男優賞、脚色賞などにノミネートされた。
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→ ダロウェイ夫人/ヴァージニア・ウルフ/丹治 愛/集英社文庫/2007年

2013年2月13日 (水)

テルマ&ルイーズ

本作品は、シャーリーズ・セロンが主役を演じた『モンスター』(2003年)と同じように、連続殺人犯アイリーン・ウォーノスとその恋人ティリア・ムーアの逃避行がモデルとされている。災難が雪だるま式に膨れ上がり収集がつかなくなってしまう、女性ふたりが主人公のロードムービーである。
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Thelma and Louise
監督:リドリー・スコット
脚本:カーリー・クーリ
製作:リドリー・スコット/ミミ・ポーク
音楽:ハンス・ジマー
アメリカ  1991年  129分 

アーカンソー州のとある小さな町、独身のウェートレスのルイーズ(スーザン・サランドン)と専業主婦のテルマ(ジーナ・デイヴィス>)は、2日間の休暇を上司の別荘を借りて釣りをしながらのんびり過ごすつもりだったが、それがとんでもない事態になってしまう。

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ふたりは、ルイーズのサンダーバードのオープンカーで意気揚々と出かけた。
別荘につく前に腹ごしらえしようと立ち寄ったバーで、テルマは羽目を外しすぎて悪酔いしてしまう。駐車場で風に当たって酔いを醒ましているテルマに、店の男が言いよって来て、強姦しようとした。
そこにルイーズが銃を持って現れ、いったんは事なきを得るが、男が口にした言葉にかっとなり引き金を引いて殺してしまう。

テルマはルイーズに自首を促すが、チークダンスを踊っていた相手に強姦されたと訴えても信じてもらえないと、ルイーズは取り合わない。

ルイーズが、逆上したのには理由があった。
詳しくは明らかにされないが、かつて彼女はテキサスで暮らしていたときに、テルマと同じような目にあったらしい。ふたりは、メキシコに高飛びすることにするが、ルイーズはテキサツ州に入ることを頑なに拒むのだった。

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資金を調達するため、ルイーズは別れた恋人にオクラホマシティーの郵便局留めに送金して欲しいと電話をする。
途中で、大学生と名乗るDJ(>ブラッド・ピット)に、オクラホマシティーまで車に乗せて欲しいと頼まれるのだが、ルイーズは断る。しかし雨が降ってきて、結局乗せることになる。
オクラホマシティーの郵便局に着くと、そこにはルイーズの恋人が金を持って待っていた。
まだ、駆け出しだったブラッド・ピットの役柄は、女ったらしのケチな強盗である。

話が弾んでテルマはDJをすっかり信用してしまい、ふたりはモーテルで一夜を共にする。翌朝、朝食を摂りに部屋を空けたすきに、DJは金を持って行方をくらましてしまう。
金がなくなってどうすることもできないと落胆するルイーズに対し、テルマは楽天的に構えている。テルマは一人でスーパーマーケットに押し入り、DJから寝物語で聞いた方法で強盗を働いて金を手にするのだった。
それまでルイーズに頼りっきりでどちらかというと優柔不断なテルマだったが、この事件をきっかけに、俄然大胆になっていく。

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アーカンソー州警察のハルはすでにテルマ宅に入り込んで、夫ダリルに協力を要請していた。テルマが働いた強盗の一部始終が防犯カメラに撮られていて、ふたりは殺人犯と強盗犯として、ハルとFBIに追われることになってしまう。
ハルは、たまたま降りかかった災難がこうした不幸な結果を招いたと温情のある見方をしている。一方、FBI捜査官は凶悪犯として逮捕しなければならないと思っている。

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やがて、ふたりが乗ったサンダーバードは何台ものパトカーとのカーチェイスの末、行き止まりの崖の手前で完全に包囲される。
ふたりは「少し脱線したけれど、最高のバカンスだった」と満面の笑みを浮かべ、サンダーバードは谷底へダイビングするのだった。

女性の友情が観ている者の共感を呼び起こし、ここまできたら引き返すことはできない、アクセルを踏むしかないと思わせる、そんな痛快なクライムロードムービーである。
特典映像で、監督は崖の向こう側に長いスロープを作り、そのままメキシコに逃げ去ってしまうという結末も考えたと語っているが、その結末も悪くない。本作は、第64回アカデミー賞の脚本賞、監督賞、主演女優賞(サランドン、デイヴィスともに)、撮影賞、編集賞にノミネートされ、脚本賞を受賞した。→人気ブログランキング

2013年2月 9日 (土)

ニュースの天才

本作は、1998年にアメリカで実際に起こった記事捏造事件に基づいて作られている。登場人物や雑誌名、会社名などは実名が使われているという。
Photo_20210524075701ニュースの天才
Shattered Glass
監督:ビリー・レイ脚本:ビリー・レイ
製作総指揮:トム・クルーズ
アメリカ   2003年  94分 

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25歳の主人公のスティーブ・グラス(ヘイデン・クリステンセン)は、アメリカを代表する政治論説週刊誌『ニューパブリック』の新進気鋭のジャーナリスト。
彼が書く記事は、着眼点もさることながら分析が巧みで、なにしろ面白い。記事が次々に当たり、若手の売れっこジャーナリストととして注目を集めている。

スティーブが会議で書こうとしている記事の要約を説明すると、上司も同僚も賞賛の声をあげる。そんなスティーブは、強気になるどころか、同僚たちに気を遣っているから、周りは彼を暖かい目で見ている。
今のところ、スティーブは会社の宝だ。

Shatteredglass1

『ニューパブリック』は、実際に大統領専用機にただ1冊備え付けられている雑誌。厳重に管理された質の高い記事が載せられていることになっていて、記者たちのプライドは高い。本作中、この大統領専用機に置かれていることがたびたび話題に上がる。

ことの発端はスティーブの記事『ハッカー天国』である。
この記事の内容は、あるソフトウェア会社のホームページに侵入した少年ハッカーを、会社は告発せずにコンピュータのセキュリティ要員として、高額の報酬で雇ったという、どこかで聞いたことがあるような話。
この記事がインターネット雑誌社の編集長の目に留まり、部下になぜ特ダネを見逃したのか調査を命じた。その結果、会社もハッカーも存在せず、スティーブが作り上げた架空のものであることが判明した。
『ハッカー天国』と似た内容がヘニング・マンケルの『ファイヤー・ウォール』にも出ていた。警察がハッカー少年を極秘で雇い、セキュリティをかいくぐって犯人のコンピュータに忍び込む話。

この捏造が暴かれたあと、ケイトリル(クロエ・セヴィニー)をはじめ同僚たちがスティーブに冷たい応対をすると思いきや、意外なことに、いたって同情的なのだ。
そんなとき、新しい編集長に抜擢されたのは、同僚から人気のないチャック(ピーター・サースガード)。彼はスティーブの記事を徹底的に調べることにした。そうしたチャックは同僚の反発を買う。
アメリカも日本とかわらず、いい人に弱く身内に甘い。
チャックの考えは、あくまでも真実を明らかににし会社を救うことだ。

Shatteredglass3

スティーブの取材資料はすべて手書きのノートに収められていて、追求されると、ノートを調べてみないと何とも言えないと時間稼ぎをして、工作を繰り返すのだった。しかしそうした工作も次々にばれ、スティーブの化けの皮が剥がされていく。
調査の結果、彼の書いた記事はほとんどがでっち上げたものだった。

一流誌の記事が公にされるまでに、複数の人間の目でかなり厳重にチェックされているように描かれている。そんなやり方のなかをスティーブはかいくぐったのだから、アメリカの一流出版社といえども、どこか杜撰なところがあったのだろう。
眠たそうな目のサースガードは、何か心に秘めたものがある人物にぴったりである。
原題の『Shattered Glass』「粉々になったグラス」は、主人公のスティーブ・グラスにかけているが、邦題の『ニュースの天才』の方が味がある。→人気ブログランキング

2013年2月 7日 (木)

星の旅人たち

息子をなくした失意の父親が、キリスト教三大聖地のひとつ、スペイン北西部サンティアゴ・デ・コンポステーラへの巡礼の道すがら、知り合った仲間たちと友好を深めていく。
800キロ、徒歩で数ヶ月に及ぶ道のりの巡礼を、主人公たちとともに味うことができるロードムービー。
Image_20201211093201星の旅人たち
The Way
監督:エミリオ・エステヴェス
脚本:エミリオ・エステヴェス
製作国:アメリカ/スペイン  2010年  128分 

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カリフォルニアに住むトム(マーティン・シーン)は還暦を超えた眼科医。
音信がなかった息子が、サンジェゴ巡礼の途中でピレーネ山脈で遭難したとの訃報が届く。
トムは遺体を引き取るためにスペインに向かった。
彼は息子の遺灰をバックパックに詰めて、命を落とした息子の気持ちを理解しようと、周囲が止めるのも聞かずにサンジェゴ巡礼の旅に出かける決意をした。

道すがら、痩せるために参加したオランダ人のヨハン(ヨリック・ヴァン・ヴァーヘニンゲン)、禁煙が目的のカナダ人女性のサラ(デボラ・カーラ・アンガー)、スランプに陥っている旅行ライター・アイルランド人のジャック(ジェームズ・ネスビット)と一緒になる。

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なにしろトムは気分が晴れない。
音信のなかった、うまくいっていなかった息子と、このような形で会わねばならないことを、自身のなかで消化できないでいる。彼は巡礼を始めた理由を聞かれると答えを拒否した。
しかし、ヨストはトムが遺灰を所々で撒いていることを知り、ジャックに話すと、それをジャックはサラに話した。
サラはトムに、かつて夫から暴力を受けていたこと、離婚して娘を手放したことなど、自分の過去を打ち明けた。

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しかし、ある日、ランチでワインを飲んだトムは、自身の秘密が広まったことに腹をたて、鬱積していた怒りが爆発して、3人に悪態をついて警察に拘束されてしまう。
その窮地を救ったのは3人だった。保釈金を肩代わりしてくれたジャックに、トムは旅の目的と息子のことを話し始め、旅行誌に自身のことを書いても構わないと言うのだった。こうして4 人は家族のように親密に結ばれていった。

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ところが、トムのバックパックが遺灰ごと少年に盗まれてしまう。トムたちは必死に追いかけるが、盗んだ少年が逃げ込んだのはジプシー居住区。諦めかけていると、父親に伴われて少年がバックパックを返しにきた。
父親は謝罪の意を表すために親戚のパティーにトムたちを誘ってくれた。
バッグパックは2度災難にあっている。1度目は巡礼の旅を始めた頃、トムが橋の欄干に寄りかかって担いでいたバックパックを降ろそうとしたときに、川に落としてしまったのだ。河原に降りて冷たい川に入り、泳いでバックパックを捕まえた。パックの中身は金で買えるが、遺灰が失われてしまえば、旅の目的が失われてしまう。

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そして、観ている者をあたかも巡礼を達成したようなスピリチュアルな気分にさせてくれるラストシーンが待っている。
監督のエミリオ・エステヴェスは、亡くなった息子のダニエルを演じている。主人公役のマーティン・シーンは監督の実父である。→人気ブログランキング

2013年2月 6日 (水)

幸せの教室

監督のトム・ハンクスとジュリア・ロバーツは気が合うらしい。
緩いラブコメディーだ。
Photo_20210528082401幸せの教室
Larry Crowne
監督:トム・ハンクス
脚本:トム・ハンクス/ニア・ヴァルダロス
音楽:ジェームズ・ニュートン・ハワード
アメリカ 2011年 99分

スーパーマーケットの優秀な販売員であるラリー(トム・ハンクス)は、高卒であることを理由に解雇される。
こんなことが理由で解雇されるとは、なんという非情なことだと思うが、大卒の上司たちが有無を言わさずそう決めた。
彼の経歴は、高校を卒業して海軍に入隊し、17年間調理を担当してきた。バツイチで、ローンは家を売っても借金が残るくらいに、たっぷり残っている。そんな彼は一念発起して、再就職のためにイーストバレー短期大学に入学する。

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まずは、燃費を節約するため通学用のスクーターを購入した。
そして、学長の勧めでスピーチと経済学の授業をとることにした。なかなか思いやりのあるいい学長だ。

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スピーチの授業を担当するメルセデス(ジュリア・ロバーツ)と、ものを書かないライターの夫との結婚生活は、すでに破綻している。
メルセデス自身は、アルコールに溺れて、スキあらば自らの講義を休講にしようと思っていくらい、教師としての情熱を失っている。

ある日、「今日は定員割れで休講」と生徒たちに伝えて教室を出ようとしたメルセデスの前に、ラリーが現れる。生徒が10人に達したので、彼女はイヤイヤ授業を始めた。

しかし、何日か経つと、明るくやる気のあるラリーが生徒に加わったことで、教室は活気づき、メルセデスも他の生徒たちも俄然真剣になる。
和気あいあいの楽しい教室になっていくのだった。

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ラリーは、スクーターのサークルに入っている女子学生・タリア(ググ・バサ=ロー)と友だちになる。タリアの影響でオシャレに気を使うようになったラリーは、メルセデスといい関係になっていく。
経済学のマツタニ教授は、授業中にピコピコ鳴るラリーの携帯電話をしばしば没収している。そんなラリーだが、スピーチの授業だけでなく、経済学の授業でも良好な成績をあげる。
そして、ストーリーはハッピーエンドに向かう。

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アカデミー賞受賞の2大スターのラブコメディということで期待したが、次はどうなるんだろうというワクワク感に欠ける。
それでも、しおらしい演技をするジュリア・ロバーツを観ることができるし、ググ・バサ=ローは魅力的だし、トム・ハンクスが陽気にふるまっているので、良しとしよう。→人気ブログランキング

2013年2月 5日 (火)

ゴーン・ベイビー・ゴーン

本作、『ザ・タウン』(10年)、『アルゴ』(12年)と、一作ごとに類稀な実力を見せつけてきたベン・アフレック監督のデビュー作である。原作はデニス・レヘインの『愛しき者はすべて去りゆく』。ボストンのドーチェスター地区を舞台に描かれいる。
監督と監督の弟である主人公のケイシー・アフレック はボストン出身であり、脇役やエキストラを地元で雇い撮影も同地区で行い、リアリティーを追求したという。監督は『ザ・タウン』でも同じように地元に密着して撮影を行った。
誘拐された娘の母親役を演じたエイミー・ライアンが、アカデミー賞助演女優賞にノミネートされた。
日本では劇場未公開。

Photo_20210215083001ゴーン・ベイビー・ゴーン 
Gone Baby Gone
監督:ベン・アフレック
脚本:ベン・アフレック/アーロン・ストッカード
原作:デニス・レヘイン『愛しき者はすべて去りゆく』
音楽:ハリー・グレッグソン=ウィリアムズ
アメリカ  2007年  114分 

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ある日、シングルマザーのヘリーン(エイミー・ライアン)が留守をした隙に、4歳の娘アマンダが誘拐された。
事件発生から3日後、警察の捜索に限界を感じたへリーンの兄夫婦は、街の裏側に精通する私立探偵のパトリック(ケイシー・アフレック)とアンジー(ミシェル・モナハン)に捜索を依頼する。

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ヘリーンは子供なぞ構わない自分勝手な生き方をしてきた。
さっそくふたりは、独自の人脈をたどって事件の真相を探り始める。
なにしろ、小さな街なので、住人たちは同じ高校の出身で顔
を見ればどこの誰かわかるような人間関係である。裏社会にはパトリックたちの高校の先輩後輩が多数いて、事件の真相が少しずつわかってくる。
小さな街を強調するためか、シークエンスが変わるたびに街の俯瞰映像が映し出される。

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ボストン市警のジャック・ドイル警部(モーガン・フリーマン)は、警察だけではこの事件を解決できないとみて、部下のレミー・ブレサント刑事(エド・ハリス)、ニック・プール刑事(ジョンアシュトン)に、パトリックたちと協力して捜査にあたるよう命令するのだった。

やがて、麻薬の元締めチーズからヘリーンの男友達が13万ドル金を横取りしたことが分かる。へリーンはその金の隠し場所をたやすく吐いてしまい、パトリックたちは13万ドルを手にする。
パトリックはアマンダと引き換えに金を返すとチーズに持ちかけるが、パトリックらのこの計画はドイル警部の知るところとなり、警部の責任のもとにアマンダ奪還作戦が敢行される。
しかし、肝腎のアマンダが湖の中に落ちて行方不明となる大失態に至ってしまう。警部は失敗の責任をとって、あっさり辞職してしまうのだ。この時点で、ストーリーはまだ半分くらいのところ。
ここからストーリーは意外な方向に展開していく。

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最後に、パトリックは重大な決断を迫られる。彼の選択は、まわりの期待とは裏腹なもの。その結果、まさに原作の邦題『愛しき者はすべて去りゆく』通りのやるせない結果となる。
タフさと純真さを兼ね備えたパトリックを、ケイシー・アフレックが見事に演じている。→人気ブログランキング

2013年2月 4日 (月)

ヴァイブレータ

心を病んだ女が、コンビニで出会ったトラック運転手に惹かれ、トラックに乗って道連れするうちに癒されていくロードムービー。
登場人物は、ほとんどこのふたりだけである。
Image_20201205091101ヴァイブレータ
Vibrator
監督:廣木隆一
脚本:荒井晴彦
原作:赤坂真理『ヴァイブレータ』(講談社文庫)
製作:高橋紀成
プロデューサー:森重晃 /青島武
音楽プロデューサー:石川光
日本  2003年  95分

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早川玲(寺島しのぶ)は、フリーのルポライター。
頭の中で聞こえてくる「自分の声」と「昔聞いた他人の声」に悩まされ、過食症のような「食べ吐き」を繰り返してきた。
雪の散らつく冬の夜に、彼女がコンビニでブツブツ言いながらワインを物色していて、店に入ってきた長靴を履いた金髪の男(大森南朋)に惹かれてしまう。
玲は男に触りたいと感じた。
そして、玲はその男のトラックに乗り込み、勧められた焼酎を飲み始める。やがて2人は、アイドリングのヴァイブレーションを感じながら肌を重ねる。朝になり、冷は一度はトラックを降りるが、いつものように無理やり吐いた後に戻ってきて、「道連れにして」と頼み、ふたりの旅が始まる。廃タイヤを積んだトラックは東京から新潟へ向けて走り出す。

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男は岡部希寿、28歳、結婚していて娘がひとりいて、ストーカー女に手を焼いていると話す。
中学をまともに卒業しておらず、15歳のときに工場で働き始め数年で辞め、その後はヤクザのようなことをやっていたという。そんな生活に嫌気がさし、自分で仕事を始めようとフリーのトラック運転手になったと話す。

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そうして、ふたりは3日間、寝食を共にする。
玲はもっぱら岡部の話の聞き役、彼女は岡部を本能的に優しいと感じ、癒されていくのだった。
いつものように、玲に声が聞こえてきて吐き気の発作に襲われそうになったときに、困っている彼女を介抱しようと岡本が慌ててくれることが嬉しいと感じた。

ふたりのやり取りだけが延々と続き、玲の心情が字幕で表現される。トラックの中という狭い空間で交わされる言葉は、どことなく相手を気遣ったものになり、観ている者は癒される。
映画初出演となる寺島しのぶが大胆な演技を披露している。大森南朋が放つバイタリティーあふれる存在感がいい。→人気ブログランキング

2013年2月 3日 (日)

トイレット

もたいまさこ以外は、外国人というキャスティングで言葉はすべて英語という設定が、なんともユニークだ。
荻上直子監督が描く独特のゆるゆる作品。癒されること間違いありません。

Photo_20211026142301 トイレット
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監督:荻上直子
脚本:荻上直子
製作国:日本/カナダ  2010年 109分 

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企業の研究所に勤めるレイはロボット型プラモデルにとり憑かれているオタク。
母親が亡くなり、アパートが火事になり、住むところがなくなったレイは、日本からやってきたばーちゃんと、引き籠もりのピアニストの兄モーリーと、生意気な大学生の妹リサと暮らすことになった。
ばーちゃんは、毎朝トイレから出ると深いため息をつく。そのことが、レイは気になって仕方がない。
ばーちゃんを喜ばせようと、レイは寿司を買ってくるのだが、ばーちゃんはさっぱり箸をつけない。

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そんなばーちゃんだが、レイには夜食にビールつきのギョウザライスを作ってくれた。
タバコを吸うばーちゃんに、「タバコは洗練されていない人が吸うものだよ」とレイが言うが、ばーちゃんはお構いなし。何しろ英語がわからない。
モーリーにはミシンの使い方を教えくれた。
リサにはエアギターの世界大会出場のための旅費を、ヘビ皮の財布からポンと出した。

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ある日、レイはばーちゃんは自分たちの本当の祖母なのかと疑い始め、髪の毛をとってDNA鑑定に出した。その結果、全員が他人という結果に愕然とする。
しかし、皆と折り紙を折ったり餃子を作ったりして、言葉は通じなくとも伝わってくるばーちゃんの優しさに、少しずつ家族の絆を深めていくのだった。

レイは、インド人から日本式トイレの素晴らしい教えられる。
その話を聞いて、彼はばーちゃんが望んでいるのはウォシュレットに違いないと閃いた。
ある日、ばーちゃんが入院し、レイはその間にウォシュレットを取り付ける。

ピアノの演奏会、舞台に立ったモーリーは緊張のあまり金縛りにあったようになるが、ばーちゃんが「モーリー」と大声を出して親指を立てると、緊張の糸がほどけたのか見事な演奏を披露した。

そして、ついに、ばーちゃんは亡くなる。
レイはウォシュレットにまたがって、うひょっとなり、その快適さに酔いしれるのだった。

ウォシュレットは、ジャパニーズテクノロジーが世界に誇る偉大なる発明品だ。ばーちゃんは、彼らにとって、痒い所に手が届く日本文化の伝道師だった。
傑作です。→人気ブログランキング
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→『世界一のトイレ ウォシュレット開発物語
→『レンタネコ』荻上直子 監督

2013年2月 1日 (金)

マーゴット・ウェディング

神経質そうで高慢そうなマーゴットは、ニコール・キッドマンにぴったりの役柄。
一方、『ショートカッツ』(93年)『カンザスシティ』(96年)『イン・ザ・カット』(04年)で、ジェニファー・ジェイソン・リーが、姉に振り回される妹役を自然体で演じている。彼女は本作の監督ノア・バームバックと2005年に結婚している。
本作は日本では劇場未公開である。

Photo_20210130082701マーゴット・ウェディング
[Margot at the Wedding 
監督:ノア・バームバック
脚本:ノア・ボーンバック
製作:スコット・ルーディン
アメリカ合衆国   2007年  92分 

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小説家のマーゴットが、妹ポーリンの私生活をネタに小説に書いたことが原因で、ふたりは気まずくなり、長い間疎遠になっていた。
そんな妹から再婚の知らせが届き、結婚式に出席するために、マーゴットは息子クロード(ゼイン・パイス)を連れて生家を訪れた。
ポーリンはマーゴットの小説が引き金となって離婚に至ったと思っているが、自己中のマーゴットは「私が妹との縁を切った。今は許しているけれど」と息子に話していて罪の意識はない。

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表面上は再会を喜ぶ姉妹だが、再婚相手のマルコム(ジャック・ブラック)が、売れない画家でおまけにマザコンで粗野な男であることを知ったマーゴットは、結婚に露骨に不快感を表すようになる。

わがままで、冷たくて傲慢、それでいて妙な正義感があるマーゴットは、周りとの摩擦が絶えない。
息子はアスペルガー症候群でおたくっぽい。
夫ジム(ジョン・タトゥーロ)とは冷え切っていて、おまけに不倫相手の小説家(キーラン・ハインズ)ともぶつかってしまう。

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隣の住人は変人一家で、木を切るように迫ったり、ゴミを投げ入れたり、子供を虐待したり、かなり危ない。」
そうしたことを見兼ねたマーゴットは、隣に関わろうとするが、隣との間に波風を立てて欲しくないポーリンたちにとって、マーゴットの行動は迷惑なのだ。
子供の頃、木登りが得意だったマーゴットは、妹に木に登るように促され、登ったはいいが降りてこれず、はしご車の世話になる。負けず嫌いで先のことを考えないマーゴットらしい事件を起こす。

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マーゴットとポーリンには、疎遠になっている姉妹がひとりいるらしいが、詳しくは語られない。またマーゴットには、ジョシュという息子もいて、その子の説明もない。詳しく知らされないことで、観ている方は落ち着かない気持ちになる。
うまくいっていない人間関係の中で生きていくという誰もが経験しそうなシチュエーションで、物語は進む。ちょっと紗がかかった映像で、そうしたモヤモヤ感を演出しているようだ。

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筋らしい筋がなく、マーゴットの周りで起こるゴタゴタで物語は進むけれど、最後には、気まぐれな彼女らしいやり方で、息子に対して親愛の情を見せる。
邦題の『マーゴット ウェディング』は乱暴だね。→人気ブログランキング

高級ショコラのすべて 小椋三嘉 

桜が開花する前には桜関連本が、梅干を漬ける頃には梅干関連本が発刊されてきたように、ヴァレンタインデーが近づけばチョコレート関連本が出るのは、出版業界のごく自然ななりゆきである。そんなわけで、ヴァレンタインデーも間近だから、本書が出版された(2010年のことです)。
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小椋 三嘉
PHP研究所
2010年

最近は、チョコレートがショコラと小粋に呼ばれるようになった。今世紀の始めころから、フランス語圏の高級チョコレートが日本で売られるようになり、ショコラという言葉が浸透していったそうだ。著者は、ショコラ研究家として、その一翼を担っている。
そう言えば、雅子様のご実家小和田家の愛犬は、ショコラという名前だった。

チョコ業界は、ヴァレンタインデーの2匹目のドジョウを狙っている。
<日本では新たに、五節句として知られる七月七日の七夕(しちせき)を、冬のヴァレンタインの夏バージョンとして、ショコラを送る日にしようという動きがあるようです。七夕伝説ははかなく切ない恋愛物語。漢詩や『万葉集』などによって若干の違いがあるものの、天の川のそれぞれ両岸にいる織姫と彦星が年に一度、七夕の日に出会うというのは共通しています。たしかに愛の日に相応しい気がします。P57>
なかなかいいアイデアだ。そうなると、チョコで賑わう日が年2日になる。
それに、最近はヴァレンタインデーとは関係なく、頑張っている自分に対するご褒美として、このフレーズは鳥肌ものだが、高級ショコラを買い求める若い女性がいるらしいから、日本の高級ショコラの未来は明るいかもしれない。

ヴァレンタインデー近くになると、にわか高級チョコ愛好家になり、いただいたチョコをあーでもないこーでもないと見当違いの批評し、チョコを食べつくすとチョコとはまったく関係のない生活を送るというのが、ここ何年かのチョコとの付き合い方であった。
本書を入手したことであるし、今年からはチョコとの付き合いをもう少し濃密なものにしたいと思う。→人気ブログランキング

高級ショコラのすべて』小椋三嘉
チョコレートの世界史』武田尚子

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