マルコヴィッチの穴
チャーリー・カウフマンの特異な世界を、スパイク・ジョーンズ監督がみごとに映像化した斬新で魅力ある作品。
マルコヴィッチの穴 Being John Malkovich 監督:スパイク・ジョーンズ 脚本:チャーリー・カウフマン 製作:マイケル・スタイプ/サンディ・スターン/スティーヴ・ゴリン/ヴィンセント・ランディ 製作総指揮:チャーリー・カウフマン/マイケル・クーン アメリカ 1999年 112分 |
人形遣いでオタクのクライグ(ジョン・キューザック)とペットショップに勤める妻のロッテ(キャメロン・ディアス)は、倦怠期にさしかかった夫婦。家の中にはチンパンジー、イヌ、イグアナ、九官鳥などがいて現実離れした空間で、だらしのない格好で日々を送っている。
クライグが書類係として就職した会社は、7階半にあって、天井が低いため、背をかがめて歩かなければならない。
彼は、入社するとたちまち上司のマキシン(キャサリン・キーナー)に心を奪われる。
ある日、彼はオフィスの壁に空いた穴を発見する。
その穴に潜り込むと、俳優ジョン・ホレイショ・マルコヴィッチ(ジョン・マルコヴィッチ)の脳の中に15分入り込めるのだ。
このあたりで、相当奇妙な映画だなと感じるが、ストーリーが面白いので引き込まれてしまう。
ある日、クライグに勧められてマルコヴィッチの脳を体験した妻のロッテは病みつきになり、夫が熱を上げているマキシンとマルコヴィッチを通しての性体験に喜びを感じてしまう。そして、ロッテは自らが同性愛者であることに目覚めてしまう。
一方、妻に先を越されたクライグはマルコヴィッチの脳に入り、これまたマキシンと結ばれるというややこしいことになる。
当のマルコヴィッチは自らに起こる奇妙な現象に気がついて何とかしようとするのだが、やがて、クライグがマルコヴィッチの脳の中に居座り続ける方法を見つけ、クライグはマルコビッチになりすましてしまう。
マルコヴィッチの体に住み着いたクライグは、マキシンをマネージャーにして、俳優としての名声を高めていく。
マルコヴィッチの入ったクライヴは、マネージャになったマキシンと親密な関係になる。クライヴはマキシンにぞっこんだから思い通りになわけで、マルコヴィッチはマキシンに言い寄られて、まんざらでなかったし、一方マキシンはマルコヴィッチに熱を上げていたので、思いの丈を遂げたわけだ。自らがレスビアンであることを知ったロッテだけが、仲間ハズレになった形だ。
マルコヴィッチの身体は単なる器でしかない。
器を何世代にもわたり移り住んできた人たちがいて、その人たちからクライグは、マルコヴィッチの体を出ないと取り返しのつかないことになると脅さるのだった。
仕方なくマルコヴィッチから出たクライグは、もとの冴えない男に逆戻りする。という混沌としたなかにも、キレと新鮮さが感じられるなんとも不思議な作品だ。
ドーキンス博士の利己的遺伝子の理論を彷彿とさせるストーリーだ。
つまり、生物は遺伝子の単なる器であり、進化の道筋を決めているのは遺伝子であるというもの。
マルコヴィッチが器で、マルコヴィッチに入り込む人たちが遺伝子ということになる。
本作は、人間は何かに拘束され、限られた狭い世界でしか生きていけないはかない存在であることを暗示している。
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【チャーリー・カウフマンの作品】
『脳内ニューヨーク/Synecdoche, New York』(08年)監督・脚本
『アダプテーション』(02年)脚本
『エターナル・サンシャイン/Eternal Sunshine of the Spotless Mind 』(04年)脚本
『マルコヴィッチの穴/Being John Malkovich』(99年)脚本