バージニア・ウルフなんかこわくない
この映画を一言でいうと、真夜中に、他の夫婦を巻き込んで行われた壮絶な夫婦喧嘩の顛末である。本作は、1962年ブロードウェイにて初演された、エドワード・オールビーの戯曲をもとに作られた。
バージニア・ウルフなんかこわくない 監督:マイク・ニコルズ 脚本:アーネスト・レーマン 製作:アーネスト・レーマン アメリカ 1966年 131分 |
土曜日の真夜中に、歴史学教授のジョージ(リチャード・バートン)と年上の妻マーサ(エリザベス・テイラー)は、彼女の父である学長が開いたパーティから帰宅した。こんな夜遅くに、マーサは新任の若い生物学教授のニック(ジョージ・シーガル)とその妻ハネー(サンディ・デニス)を招待したという。「あのハンサムな夫とケツの小さい女を招待したのか?」と夫婦ならではのあけすけな会話のあとに、いつも通りの口喧嘩が始まった。ひとしきりバトルがあって、一体どこまでエスカレートするのかというところで、玄関のチャイムが鳴る。
招かれたニックとハネーは、取り込み中だし夜も遅いので失礼しようと常識的なことを言うのだが、なにしろマーサは学長の娘で常識を欠いた女、断って鼻を曲げられたら、大学での昇進に影響しかねないと考えた夫婦はひとまず腰を降ろして飲み始める。
4人はウイスキーだジンだブランデーだと、つまみもなしに恐ろしいくらいの量をカポカポ飲むのである。ジョージとマーサの喧嘩は終わったわけではなく、マーサは学長の娘と結婚したジョージが思い通りに出世しないことに嫌味を言い、ジョージはマーサの男遍歴を口にする。
そのうちにニックがジョージに妻がかつて想像妊娠したことをこっそり教え、さらに財産目当てで結婚したことを語る。そのことをジョージは皆の前で暴露したものだから、ハネーはブランデーをがぶ飲みし正体を失ってしまう。
子供がいるかいないかは、どちらの夫婦にとっても重大な関心事で、ジョージとマーサは、実際は存在しない息子の話題を挙げ、月曜日に寄宿学校から帰ってくることになっていると話す。
ジョージが外に出て行ったすきに、マーサはニックを誘惑し、ふたりは2階の寝室に消えてしまう。
外から戻ってきたジョージは、架空の息子を死んだと最悪の結末をマーサに告げ、喧嘩は終結するのだった。この辺りで、習いとなっているジョージとマーサの夫婦喧嘩のカラクリに、ニックは気づく。
そして、疲労困憊したニックとハネーは帰宅する。
夜が明け外が明るくなったころに、疲れ果てた夫婦の会話は穏やかになり、ふたりはベッドに入る。
口論は殺人が起こっても不思議ではないくらいにエスカレートするが、そこはジョージとマーサはわきまえていて、一歩手前で事なきを得るのだ。この夫婦喧嘩はふたりにとっては日常茶飯事の、ストレス解消のゲームのようなもの。
膨大な量の会話が、リチャード・バートンとエリザベス・テイラーによって交わされ、そこに紛れ込んでしまい、秘密が暴露され散々な目に遭うニックとハネー夫婦は、貧乏くじを引いてしまったというところ。
タイトルの『バージニア・ウルフなんかこわくない』は、マーサが、ディズニーの『三匹の子豚』で歌われる「大きな悪いオオカミ(The Big Bad Wolf)なんかこわくない」という歌をもじって、「バージニア・ウルフ(Virginia Woolf)なんかこわくない」と歌うシーンがあり、ここからとったもの。
タイトルの意味するところは、ふたつの説があるといわれている。
ひとつは洞察力が鋭いとされるバージニア・ウルフに、心を見透かされてしまうかもしれないと怖がらなくていいという説と、もうひとつは難解な彼女の小説を理解できなくて馬鹿にされると怖がらなくてもいいという説である。
ちなみにバージニア・ウルフは、代表作の『ダロウェー夫人』などを書いた、20世紀のはじめに活躍したイギリスの女性小説家。20世紀モダニズム文学の主要な人物である。
また、『めぐりあう時間たち』(・ダルドリー監督 2002年)で、ニコール・キッドマンが、バージニア・ウルフを演じてアカデミー賞主演女優賞を受賞している。
本作品は、第39回アカデミー賞の主演女優賞(エリベザス・テイラー)、助演女優賞(サンディ・デニス)を受賞した。なお、このほか作品賞、監督賞、主演男優賞、助演男優賞、脚色賞などにノミネートされた。
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