アルゴ アントニオ・メンデス×マット・バグリオ
本書は、2012年度のアカデミー賞作品賞を受賞した、ベン・アフレック監督の同名映画『アルゴ』の原作である。
通称トニーと呼ばれる著者のアントニオ・メンデスは、CIAの偽装工作のスペシャリストである。
ノンフィクションではあるが、偽装工作のノウハウがところどころに差し込まれて描かれていて、上質のスパイ小説として読むことができる。
まさに「事実は小説より奇なり」を地で行く奇想天外な話である。
1979年、テヘランのアメリカ大使館が暴徒化した学生たちに選挙され、その後444日にわたり大使館員が拘束された事件が起こった。
この時、アメリカ大使館から逃れてカナダ大使公邸に、逃げ込んだ男女6名のアメリカ大使館員がいた。
彼らは過激派に見つかれば、アメリカ人スパイとして処刑されることは間違いがない。
1980年1月、この6名をイラン国外に脱出させるための作戦が行われた。それがアルゴ作戦である。
カナダ政府が、アメリカ大使館員6名(本書では、このあと客人と記載される)をカナダ国籍とするパスポートの偽造を承諾した。
これには、トニーは巨大化したアメリカ政府はこんな粋な決断は出来ないだろう。カナダは小回りの効く政府だと賞賛している。
トニーが思いついたシナリオは、客人をカナダ人映画ロケハンとして、脱出の前日にイラン入りしたものの、イラン当局の撮影許可が下りず、翌日にはスイスに向け出国するというもの。映画はアルゴというタイトルのSF映画である。
ハリウッドにはアルゴ用の事務所が開設された。事務所には出演希望者の問い合わせがあり、雑誌の取材を受けアルゴの記事が掲載された。こうして偽装工作は着々と進んでいく。
なぜ、映画のロケハンが選ばれたのか。ロケハンがどのようなことを行うか、普通の人は見当もつかない。しかも、「アルゴは、中東の神話と、宇宙船と、遥か彼方の世界をミックスした話」、こんな話はイラン人でなくとも理解できない。客人が自らの役割を頭に叩き込んでおけば、問い詰められて思いつきで答えてもボロは出ない。
かくして、客人プラス、トニーはチューリッヒ行きの旅客機に乗り込みイランからの脱出に成功する。
後日談は、6名がイランにいた時に思い描いたものとは異なっていた。
アメリカ国務省は、6名が脱出したことがイランに知られないように、アメリカ大使館に拘束されている人質が解放されるまで、6名の身柄をフロリダ海軍基地に拘束することにした。
しかし、モントリオールの新聞がこの事件を嗅ぎつけて公表してしまう。こうなれば隠しても無駄である。
アメリカは大統領をはじめマスコミがカナダに対して、感謝の意を繰り返し表すことになる。
しかし、CIAの関与やアルゴ作戦については、18年間、極秘事項として封印された。
アルゴ作戦が成功した理由を、著者は次のように書いている。
嘘にしてもあまりにもクレージーな話なので、チェックのしようがなかった。正気の諜報員なら誰も選択しないような架空の話だったのだ。そこにこそ、この作戦の美しさがあった。
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