『色彩を持たない多崎つくると、彼の巡礼の年』 村上春樹
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Colorless Tatsuru Tazaki and His Years of Pilgrimage
村上春樹 文藝春秋 2013年4月 売り上げランキング: 1 |
ゲーム機やスマートホンやタブレット型コンピュータの新機種が発売されるたびに繰り返される騒動のように、本書の発売にさいし長蛇の行列ができたことをマスコミが取り上げた。根っからのミーハーだから遅れをとってはいけないと、その日に本書を購入した。翌日、蔦屋を覗くと売り切れ御免となっていた。発売3日で60万部が売れてしまう出版界の常識を覆す次元の違う現象が起こっている。これからどれだけ売れることやら。
すでにマスコミで指摘されているように、本書は分かりやすく読みやすい。
ネタバレしない程度のあらすじを書くと、主人公の多崎つくるは34歳、鉄道会社の社駅を設計管理する部署に勤務している。彼は自分自身が向かうべき場所も帰るべき場所もみいだせないでいる。。
つくるとつき合いはじめた木元沙羅は彼より2歳年上、大手の旅行会社に勤務している。
彼女はつくるが心に抱えている問題は、彼がその気になって行動を起こせば解決できると助言する。
つくるが名古屋の公立高校の2年生のときに、ボランティア活動を通して5人は友人になった。男3人女2人のグループの誰もが、永遠に友情が続くと思っていた。つくる以外の4人は、苗字に色を表す漢字が入っていた。いつも自分のペースを守る彼は、グループに必要とされているのかどうか確信が持てずにいた。
高校を卒業すると、5人の中で彼だけが東京の大学に進んだ。彼は鉄道の駅が好きで、駅舎建築の第一人者の教授がその大学にいたからだ。ほかの4人は、地元名古屋の大学に進んだ。
大学に入ってからも、つくるが名古屋に帰省するたびに5人は集まって仲良く過ごした。
そして大学2年生の夏休みに、そのことは起こった。
名古屋の実家に帰ったつくるが4人に連絡をとると、もうお前とは付き合わない4人とも同じ意見だと、つくるには心当たりがまったくないまま、突然4人に拒絶されたのだ。
東京に帰ったつくるは、毎日自殺を考えるようになった。そして、6か月経ってやっと自殺願望から脱却したつくるは、人相が変わるくらいに痩せ、ストイックに生きることを決意した。
その後、彼は沙羅に出会うまで、拒絶された理由を突き止めることも、4人に会うこともしなかった。
沙羅に背中を押され、つくるは拒絶された理由を突き止め、自らの居場所を見つけ出そうと決意する。
アポなしで。前持って連絡して居留守を使われたんじゃたまらない。
4人に会いに行き彼らの歩んできた人生を知ることが、タイトルの『彼の巡礼の年』である。
途中に挟み込まれる大学時代の友人の父親についてのエピソードは、画家が温泉宿で過ごす日々を描いた夏目漱石の『草枕』を思い起こさせる。無理やり挟み込まれた感がする。年下の友人と絡むくだりはなくてもいいように思える。
苗字に色の漢字が入っているかどうかで、色のないつくると4人を隔て、カラフルな4人の生き様がつくるを再生させるタイトル通りのストーリーは、あざとさを感じさせるくらいに巧みだ。色彩をもたない自らは存在が希薄というのは多崎の思い込みで、周りは彼のハブのような存在感に頼ってきたのだ。
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