ファーゴ
冒頭に「この物語は実話である。1987年にミネソタで起きたある事件を、描いている。関係者の要望により人物の名前を変えてあるが、死者への敬意を込めて、事件の経緯は忠実に再現している」とテロップが流れる。コーエン兄弟はインタビューでも実話に基づいていると答えているとのことだが、実は彼らが作り上げたフィクションであった。
物語の舞台は、凍てつく冬のミネアポリス。
アメリカの入植者の開拓神話に登場する巨人、ポール・バニアンの巨像が映し出される。この映像がのちの事件を暗示している。
ファーゴ Fargo 監督:ジョエル・コーエン 脚本:ジョエル・コーエン/イーサン・コーエン 音楽:カーター・バーウェル アメリカ 1996年 98分 |
自動車ディーラーのジェリー(ウィリアム・H・メイシー)は多額の借金を抱えていた。ジェリーは妻ジーンを誘拐させ、金持ちの義父から多額の身代金をせしめることを思いつく。
ノースダコタ州ファーゴで、ジェリーはカール(スティーヴ・ブシェミ)とゲア(ピーター・ストーメア)のふたりのチンピラに話を持ちかけ、販売店から持ってきた車をふたりに与える。
ジーンを誘拐したカールとゲアは、逃げる途中でパトロール中の警官と偶然通りかかったふたりの目撃者を殺害してしまう。
翌日、雪原の中で3人の遺体が発見され、妊娠中の女性署長マージ(フランシス・マクドーマンド)が捜査に乗りだす。
マージの話し方は、語尾のイントネーションを上げ、「Ya」と「Uh-huh」を多用する、なんとも素朴に聞こえるもの。おまけに妊娠で下腹部がせり出しているから動作が緩慢で、これで犯人を逮捕できるだろうかと不安を抱かせる。
彼女の演技が、殺伐とした連続殺人事件の中に、時折り安らぎを感じさせてくれる。
ジェリーは、誘拐犯たちが身代金を彼自身が持ってくるように要求してきたと、義父のウェイドに告げるが、義父は甲斐性のないジェリーを鼻から信用していない。
身代金引き渡しの場所に現れたウェイドを見て、約束が違うと逆上したカールは彼を射殺して、大金の入ったカバンを奪って逃走する。
カールは100万ドルのうち8万ドルだけを手元に残し、残りを雪原に埋める。カールがアジトに戻ったときには、すでに人質のジーンはゲアに殺されていた。
ふたりは8万ドルを山分けするが、誘拐に使った車をどちらがもらうかで口論になり、その結果カールはゲアに斧で殺害されてしまう。
マージが誘拐犯たちのアジトにたどり着くと、カールの死体を木材破砕機でミンチにしているゲアの姿があった。マージは雪原に向かって逃げようとするゲアの脚を撃ち、彼を逮捕する。
警察署へ向かう途中、マージは後部座席のゲアに向かって、「なんでこれぽっちのお金のために人を殺したの? 人生にはお金よりもっと大切なことがあるはずよ。なんて馬鹿なことをしたの・・・・・・こんないい日のになのに」と語りかけるが、ゲアは何も答えず窓越しに斧を担いだポール・バニアンの巨像を見上げた。
コーエン兄弟の作品には、ひとつの事象をきっかけに、事件がドミノ倒しのように連鎖して取り返しがつかなくなるというパターンが特徴である。本作もはじめは、ちょっとした狂言誘拐のつもりだったものが、何人もが殺されてしまう惨事に発展していく。
本作は第69回アカデミー賞の作品賞、監督賞、脚本賞、主演女優賞(フランシス・マクドーマンド)、助演男優賞(ウィリアム・H・メイシー)、撮影賞にノミネートされ、脚本賞、主演女優賞を受賞した。
なお、フランシス・マクドーマンドは、ジョエル・コーエン監督の夫人である。→人気ブログランキング
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