闇の列車、光の旅
主人公が所属するギャング組織のマラ・サルバトルチャは実在する。本組織について、『アメリカンデモクラシーの逆説』(渡辺靖 著 岩波新書 2010年)に、わかりやすく記載されている。
あまたのギャング組織の中で、現在最も勢力を拡大しているのはヒスパニック系のMS-13(マラ・サルバトルチャ=「エルサルバドルの軍隊蟻」の意、数字の13は「南カリフォルニア」を示すギャング組織の番号)とされている。1980年にエルサルバドル内戦から逃れ、ロサンゼルスに渡った孤児や難民を中心に組織化が進み、2005年の時点で全米33州に1万人の構成員が存在している。さらにエルサルバドルを中心に、カナダ、メキシコ、グアテマラ、コロンビア、スペイン、オーストラリア、イギリス、ドイツなどでも存在が確認されており、その総数は全世界で10万人に達するといわれている。
入会儀式で男性は他のメンバーから13秒間無抵抗のまま暴行を受け、女性はメンバーにレイプされることが慣例になっている。9歳でギャングに入り、わずか11歳で人を殺めた者もいる。メンバー歴4年の17歳の女の子が内部事情をテレビ局に暴露したところ、数カ月後、友人であるメンバーに刺殺されてしまったこともある。「監獄、病院、墓場」を意味する3つのマークの入れ墨を彫った手でさまざまなハンドサインを交わしながら、彼らはドラッグの密輸販売、闇市での銃取引、窃盗および治安当局職員への暴行を繰り広げている。エルサルバドル内戦に資金や武器を供給していたのがレーガン政権下のアメリカであることを想起すると、何とも皮肉な話である。
闇の列車、光の旅 監督:キャリー・ジョージ・フクナガ 脚本:キャリー・ジョージ・フクナガ 音楽:マルセロ・サルボス アメリカ メキシコ 2010年 96分 |
マラ・サルバトルチャのメンバーになると入れ墨を入れ、人をひとり殺さないと一人前のメンバーとは認められない。入れ墨が多くなればなるほど組織における地位が高くなる。組織のトップの男は身体中が入れ墨だらけだ。
そんなマラ・サルバトルチャに所属するカスペルが、メンバー入りを望む少年のスマイリーを連れてくる。少年は13秒間他のメンバーから暴行を受け入会の儀式を終える。
カスペルの恋人はメンバー以外の少女、それがリーダーの知るところとなり、リーダーに少女は殺されてしまう。
一方、 ホンジュラスの少女サイラは、極貧生活から逃れるため故郷を捨て、父親とオジの3人でガテマラからメキシコを縦断してアメリカへ渡ろうとしていた。アメリカ行きの列車の屋根に居場所を確保すると、ギャング団が乗り込んできてサイラがリーダーに暴行されそうになる。それを許せないカスペルはリーダーを殺してしまう。
ギャング団からリーダーの仇をうつようカスペル殺しを命じられたのは、皮肉にも、かつてカスペルが連れてきたスマイリーだった。
サイラと父親たちはアメリカを目指し、そこにギャング団の追っ手から逃げるカスペルが加わる。カスペルはサイラを巻き込まないように列車を降りるが、サイラはカスペルについて行く。カスペルは自分の命がどうなるか推測がついているが、サイラがアメリカに渡ることを手助けするのだった。
貧困や治安の悪さ、そこから抜け出そうとする違法移民など、中南米諸国が抱える厳しい現実が、ひしひしと伝わってくる。そうした殺伐とした現実を背景に描かれた、あまりにも切ない恋愛物語である。→人気ブログランキング
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