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2013年7月26日 (金)

ホテルローヤル 桜木紫乃

湿原の釧路にラブホテルにまつわる7つの短篇の連作。
男の無謀な夢で建てられたホテルには、人々の悲喜こもごもの思いが詰まっている。役目が終わり廃墟となっても、ホテルローヤルは人を呼び寄せる。
登場人物の心のひだが、見事に表現されている秀作ぞろいだ。
文章が上手いし、話の運び方に余裕が感じられる。
第149回直木賞受賞作。
著者の実家は実際にラブホテルを経営していて、ホテル名はホテルローヤル、著者自身も部屋の掃除をさせられていたという。

「シャッターチャンス」(初出のタイトルは「ホテルローヤル」)
美雪は恋人と廃墟のラブホテルの向かう。男は深雪のヌード写真を雑誌に投稿してカメラマンとして認められたいという。撮影は進み、男はそろそろお互いの実家に顔を出そうと唐突に言う。今日に限って何でそんなことを口にするのかと美雪は戸惑う。

Image_20201105153701ホテルローヤル
桜木紫乃
集英社
2013年 ✳︎9

「本日開店」
檀家総代の男と住職の妻幹子はホテルで関係を持ち、幹子は3万円を手にする。夫は20歳年上で性的に不能、幹子が奉仕で稼いだ金を寺の運用に使っている。幹子は男のほかに、4人の老人に性的な奉仕をして金を受け取っている。そのひとりから「本日開店」と言って亡くなったホテルローヤルのオーナーの遺骨を預かった。遺骨の引き取り手がないという。
ある日幹子は檀家総代の男との最中に奉仕ではないものを感じてしまう。夫は幹子の微妙な変化に感ずいたようだ。男からのその日の3万円はご本尊のかかとにおかれたままになっている。

「えっち屋」
雅代は父親から任された30年続いたホテルローヤルを閉めることにした。売れるものは売って、残ったのはアダルトグッズ。グッズを卸しているえっち屋の宮川に引き取りにきてもらった。
ラブホテルをちゃんとした形で閉めるのは珍しい、ほとんどが倒産だの夜逃げだのだ、と宮川が言う。雅代は宮川の夫婦関係を聞き出す。そしてホテルを閉める記念にグッズを使って関係を持とうと持ちかける。

「バブルバス」
墓参りの読経を僧侶がすっぽかしたおかげで、お布施の5千円が浮いた。
恵はその金でホテルローヤルに夫を誘う。部屋がふたつしかない狭いアパートの、高校生の息子と小学生の娘が寝る二段ベッドの横で夫婦は寝ている。ホテルに入りふたりはバブルバスに浸かった。
解放感の中で恵は声をあげて満喫した。

「せんせぇ」
野島は高校時代の校長が勧める女と結婚した。妻は18歳から校長の愛人だった。野島は連休に妻に連絡せずに札幌の自宅に帰ろうと電車に乗った。電車の中で「せんせぇ」と呼びかけたのは、野島のクラスのまりあ。まりあの母親は男と駆け落ちし父親も家財道具ごといなくなった。学校を辞めてキャバ嬢になろうと思い札幌に見学に行くという。
札幌のマンションに着いた野島は、タクシーから降りる妻と校長の姿を見て怖じ気づいた。修羅場は嫌だ。仕方なく野島はまりあとビジネスホテルに泊まる。
翌日、行くところのないふたりは釧路へ向かう。

「星を見てた」
ミコは60歳。ホテルローヤルの掃除婦をしている。夫の正太郎は10才年下で今は仕事をしていない。子どもは3人とも家を出て働いている。年に1度、連絡をよこすのは左官になったはずの次男だけだ。次男は夜間高校を卒業した。
ミコは周りから優しくされてきた。それもこれも彼女が母の教えを守りもくもくと働いてきたからだ。ミコはときどき女社長のるり子から服のお下がりをもらう。そんなミコに、使って欲しいと次男から3万円が送られてきた。自慢の息子と思っている。ところが、ある日次男が新聞に載る。

「ギフト」
看板屋の大吉は儲け話にたやすく乗ろうとする。そのたびに義父に諭されてきた。
そんな大吉は20才も年の離れた団子屋の店員るり子に手を出した。
大吉にラブホテルを経営する儲け話が舞い込んでくる。妻はその話に孟反対だが、大吉は判を押して1億円の借金をしてしまう。
妻は離婚届をおいて息子と実家に戻った。大吉は妻の実家に出向き土下座するが、義父は大吉を相手にしない。
やがてるり子が妊娠して、つわりになる。大吉は夏だというのに、るり子のためにミカンを探し求めてデパートに行く。高価なミカンにはローヤルと書かれたシールが貼られていた。こうしてホテルの名前が決まった。 →人気ブログランキング

緋の河/桜木紫乃/新潮社/2019年
ホテルローヤル/桜木紫乃/集英社/2013年(直木賞受賞作)
氷平線/桜木紫乃/文春文庫/2012年
硝子の葦/桜木紫乃/新潮社/2010年

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