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2013年8月

2013年8月29日 (木)

存在の耐えられない軽さ

1968年のチェコ事件を背景に、ミラン・クンデナが書いた同名の世界的ベストセラー小説の映画化。 激動の時代に翻弄された若い男女が描かれている。「チェコ事件」は、チェコスロバキアの民主化、自由主義化運動「プラハの春」に対して、ソ連が指揮するワルシャワ条約機構軍がプラハに侵攻して、やがてチェコ全土を占領し民主化が制圧された事件である。

Image_20201230171201存在の耐えられない軽さ
The Unbearable Lightness of Being
監督:フィリップ・カウフマン
脚本:ジャン=クロード・カリエール/フィリップ・カウフマン
原作:ミラン・クンデラ
音楽:レオシュ・ヤナーチェク
アメリカ  1988年  171分

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腕のいい脳外科医のトマシュ(ダニエル・デイ=ルイス)は、女にすぐ手を出すプレーボーイである。画家のザビーナと深い関係にある。
そのトマシュは郊外の病院へ出張に出かけたときに、ウェートレスのテレーザ(ジュリエット・ビノシュ)に話しかける。それがきっかで、トマシュとテレーザは結婚する。原作では、トマシュがテレーザに一目惚れしたことになっている。

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ふたりは犬を飼い、テレーザが読んでいた『アンナ・カレーニナ』にちなんで、犬にはカレーニンと名付けた。

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やがてワルシャワ条約機構軍がプラハに侵攻してくる。
チェコ語でカヴァーされたビートルズの『ヘイ・ジュード』が流れる中、戦車が人々の抵抗を抑え込んでいく場面が描かれる。当時チェコでは『ヘイ・ジュード』が自由主義化運動のシンボリックな曲として歌われていた。

テレーザは、侵攻の様子を写真に撮りネガを外国人に手渡し、世界に知らせようする。人々の抵抗にもかかわらず、ソ連の締めつけは厳しくなり反対する者は弾圧された。
そんな状況にたまりかねたサビーニはジュネーブに逃れ、やがてトマシュとテレーザも続いた。

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「存在の耐えられない軽さ」というフレーズは、疎開先のジュネーブでも変わらず女を追いかけ回し、刹那的に生きるトマシュに対して、テレーザがぶつけたフレーズである。そうした軽い夫に、テレーザは将来が不安だといって、疎開先のスイスからソ連監視下のプラハにカレーニンを連れて舞い戻ってしまう。
それを追いかけてトマシュもプラハに戻るが、かつてオイディプスの神話にひっかけて書いた共産主義批判の論文がソ連当局の目に留まり、内容を撤回するよう圧力がかかる。しかし、腹をくくったトマシュは拒否する。トマシュは重い選択をしたのだった。このことで、脳外科医としての仕事が奪われてしまう。
ふたりは田舎に引っ越して自然の中でゆったりとした農家の暮らしをする。

一方、ザビーナは妻と離縁して彼女に求愛する大学教授を振り払って、アメリカに渡った。人とのしがらみを避けて、軽い生き方を選択したわけである。ある日、カリフォルニアで芸術活動を続けるザビーナのもとに、プラハから悲報が届く。トマシュとテレーザが事故死したと書かれてあった。→人気ブログランキング

2013年8月26日 (月)

九月が永遠に続けば 沼田まほかる

はじめは、ホラー小説にありがちな唐突なストーリー展開に、つじつまが合わなくなるのではと不安を抱かせるが、話が進むに連れてそれぞれが糸で繋がっていてほころぶことなく集約されていく。主人公の微妙な心の動きが実によく描写されている。なにしろ文章が上手い。
ホラーというジャンルを超えて良質な文学に到達している作品である。第5回(2004年)ホラーサスペンス大賞受賞作。
Ee8ac047b10d41789e13ab5eef28088a九月が永遠に続けば 
沼田 まほかる
新潮社
2008年(単行本→2005年)

主人公佐和子の一人称の形で語られる。
彼女は8年前に精神科医の雄一郎と離婚した。今は高校3年生の息子文彦とマンションで暮らしている。別れた2カ月後に、雄一郎から亜沙実を入籍したと連絡があった。
彼女は自動車教習所の教官犀田と関係を持ってしまう。そのこと自体は、お互いが独身だからなんら問題はない。しかし雄一郎から、犀田が雄一郎の再婚相手亜沙実の娘である15歳の冬子とも付き合っていることを知らされると、佐和子は罪を犯しているような気持ちになる。

ある夜、ゴミを捨てに出たまま文彦が戻ってこなかい。サンダルをつっかけたまま財布も持たずに行方不明となったのだ。文彦の机を探ると、ポルノ雑誌に混じって、佐和子にとって見るも憚れる女性虐待のポルノ雑誌があった。このことについては、彼女には思い当たるふしがあった。

亜沙実が蒙ったおぞましい過去、冬子の出生の秘密、雄一郎と佐和子の理由、雄一郎と亜沙実はなぜ結婚したのか、これらの過去の出来事と現在の事件つながっている。おどろおどろしい中に面妖な美しさが描かれ、複雑に絡んだ人間関係が明らかにされ、謎が解かれていく。
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2013年8月25日 (日)

アザーズ

ホラー映画は辻褄が合わなくても、ある程度話の筋が通っていれば通用する。矛盾に目を瞑るくらいの鷹揚さが、ホラー映画を観る者には必要だ。本作は王道のゴシックホラーであるから、血や残虐な暴力などのグロテスクな描写はない。観ている者が、ぞくぞくする恐怖を感じれば、それで映画として成功である。本作はホラーの名作と言える。
Image_20201226193801アザーズ
The Others
監督:アレハンドロ・アメナーバル
脚本:アレハンドロ・アメナーバル
音楽:アレハンドロ・アメナーバル
スペイン  フランス  アメリカ  2001年 104分 

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1945年、英国の島。
グレース(ニコール・キッドマン)には、光過敏症の娘アンと息子ニコラスがいて、広大な屋敷の中で暮らしている。厄介なことに、ふたりを日光から守るために、日中カーテンをいてき光を遮断し、部屋の鍵は出入りの度にかけなければならない。
毅然として恐怖に打ち勝とうとする感の強い女性がグレースだが、そういう女性を演じたらニコール・キッドマンの右に出るものはいないと思う。

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そんなある日、ミルズ(フィオヌラ・フラナガン)と言葉を喋ることのできないリディア、庭師のタトル(エリック・サイクス)の3人が屋敷を訪れ、そのまま使用人として雇われる。

屋敷の中では、足音や話し声が聞こえ、ピアノが独りでに鳴りだすという怪奇現象が起き始める。侵入者がいると怯えるグレースに、アンは一枚の絵を描いてみせる。そこには全く見覚えのない、男の子とその両親と老婆が描かれていた。

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やがて3人の使用人は、半世紀以上も前にこの屋敷に奉公し亡くなった幽霊と判明する。さらに、グレースとアンとニコラスも幽霊だった。
アンが描いたのは、かつて入居した実在の一家で、屋敷に恐怖を感じ彼らは去っていったのだった。
ホラーは観る者に媚を売らない強引な設定もありだ。→人気ブログランキング

2013年8月23日 (金)

SAYURI

日本の芸者の物語であるにもかかわらず、主人公の芸者を中国系に割り当てたところが、WAPS(White Anglo-Saxon Protestant)の発想だと思う。中国系女優が演じる芸者はジャポニズムを摩訶不思議なものにして、それがかえって、彼女らの魅力を引き出しているのかもしれない。日本的過ぎないことが、かえって受け入れられたと思う。
本作は第78回アカデミー賞で、撮影賞、美術賞、衣装デザイン賞、作曲賞、録音賞、音響編集賞という「裏方部門の賞」を多く獲得している。

SayuriSAYURI
Memoirs of a Geisha
監督:ロブ・マーシャル
脚本:ロビン・スウィコード(英語版)/ダグ・ライト
原作:アーサー・ゴールデン『さゆり』
音楽:ジョン・ウィリアムズ
アメリカ 日本  中国  2005年 146分 

貧しい漁村に生まれた千代(大後寿々花)は、9歳の時に借金の形に置屋に売り飛ばされた。世界恐慌の頃である。
置屋はおかあさん(桃井かおり)と呼ばれる強欲なお女将が仕切っていて、千代は苛酷な下働きに明け暮れる。
千代は、先輩芸者の初桃(コン・リー)からいじめられれる日々を送っていた。それは初桃が幼い千代の芸者としての才能を見抜きそれに嫉妬していたからだ。

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ある日、彼女は街で会長(渡辺謙)と呼ばれる紳士に優しく声をかけられ、かき氷を食べさせてもらいハンカチをもらった。そのことが忘れられず、千代は会長にもう一度会うために、芸者になりたいと思うようになる。

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そして千代が15歳のときに、芸者の中の芸者と称えられる豆葉(ミシェル・ヨー)が、彼女を一流の芸者に育てたいと、お母さんに申し出る。豆葉は、流し目だけで旦那集をその気にさせる術を千代に伝授するのだった。豆葉の見込み通り、千代は芸者さゆり(チャン・ツーイー)として一流の芸者となり、数多くの男たちを虜にしていった。
やがてさゆりは、客として現われた会長と再会する。だが会長の親友である延(役所広司)がさゆりに魅了され、さゆりの思いとは裏腹に、水揚げは延が落札する。

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そして、日本は太平洋戦争に巻き込まれる。
世の中は芸者遊びどころではなくなった。さゆりは芸者を引退し、田舎に疎開することになった。そして日本は敗戦する。
さゆりは他の芸妓より上に行こうと思っていただろうし、ゆくゆくはおかあさんの置屋を継いで、安泰な生活を送りたいと思っていただろう。
敗戦で何もかもがめちゃくちゃになった。

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終戦後、延がさゆりを迎えにくる。延は、さゆりと豆葉を芸者として復活させ、アメリカ人を接待させ、商売を有利に運ぼうと考えていた。延の考え通り商売は順調に運ぶ。しかし、いざ彼がさゆりへの思いをぶつけると、彼女はそれを頑なに拒否した。
やがて、さゆりのもとへ会長が現れる。ふたりはお互いに抱いていた長年の恋心を、そこで初めて打ち明けるのだった。

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男は妻帯者、芸者はあくまで夜の女としての立場。これが純愛の物語となのだから、昭和は寛容な時代だった。
メインの芸者を演ずるチャン・ツーイーとコン・リーは中国人女優、ミシェル・ヨーはマレーシア人であるが、中国系である。本作が封切られた頃、中国国内では中国人に芸者を演じさせるとは何事だとの騒動が起こった。芸者が売春婦であると誤解していたらしい。
もうひとつ、脇役には桃井かおり、工藤夕貴と日本人女優を当てている。それはいいとして、「メインの芸者にひとり日本人を起用すると、微妙な化学変化が起こり、もっといいものになったのではないか」というのは私の意見。→人気ブログランキング

2013年8月22日 (木)

少年ナイフ ゴールデン☆ベスト(CD)Shonen Knife

「少年ナイフ」は、素人っぽいところが魅力である。
英語で歌って、とりあえず海外でもやってますからという無鉄砲さがウリだ。まずは「YOU TUBE」で、『トップ・オブ・ザ・ワールド』をチェックしていただきたい。
Image_20201127093101少年ナイフ ゴールデン☆ベスト
少年ナイフ
ユニバーサルJ (2006-07-05)

「少年ナイフ」は高校か大学の学園祭に出演した素人ロックバンド、しかも女性だけ、という感じだが、聴いていると「結構やるじゃん」となる。オリジナル曲を演奏しだすと「持ち歌もあるのか」と評価はアップする。そのうちに「プロなんだってよ」で「んー、なるほど」となる。
「なるほど」というのは、素人にしては音は外さないし、レパートリーが広い、それにボーカルには素朴な味がある、が、プロと言われるとやっていけるかなと心配だ、という意味が込められている。
「少年ナイフ」はオルタナティブロックというカテゴリーに属する。代用品のロックという意味だ。
オススメは、さっき、YOU TUBEで聴いていただいた、ディスク2に収録されているカーペンターズのナンバー『トップ・オブ・ザ・ワールド』。最後に「Top of the world」をリフレインするところが、なんとも滲みる。
映画『最後の晩餐 平和主義者の連続殺人』(1996年)のクレジットでこの曲が流れたとき、「誰が歌ってんだ、この調子っぱずれな歌?」とのけぞった。たどり着いたのが「少年ナイフ」だった。→人気ブログランキング

少年ナイフ公式サイト

ディスク:1
1. ロケットにのって
2. Twist Barbie
3. サイクリングは楽し
4. Antonio Baka Guy
5. I am a cat
6. Burning Farm
7. コンクリートアニマルズ
8. トマトヘッド
9. Brown Mushroom
10. Cobra versus Mongoose
ディスク:2
1. Space Christmas
2. Milky Way
3. Quavers
4. Goose Steppin’ Mama
5. Till the end of the day
6. Top of the world
7. Secret Dance
8. Cherry Bomb
9. Wind Your Spring
10. It’s a New Find

2013年8月21日 (水)

シリアル・ママ

ボルチモアの閑静な住宅地で暮らす専業主婦のビバリー(キャスリン・ターナー)は、理想的な妻であり母親である。ただ少し身びいき過ぎる。一家は歯科医の夫とティーンエイジャーの兄妹という、典型的な白人中産階級の家庭である。彼女は一家の平和を乱す者は誰であろうと容赦はしない。

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朝、家族を送り出したあと、ビバリーは友人に脅迫電話をかけ卑猥な言葉を浴びせてストレスを解消している。
高校生の息子の面談で、数学の教師から「ホラー映画の見過ぎ、精神病院に行くように」と注意を受たことが気に入らず、教師を車でひき殺してしまう。
次は、娘を振った男を火掻き棒で刺し殺す。
歯科医の夫に急患として電話をかけたきた夫婦を、妻をハサミで刺し夫はクーラーの室外機を落として殺してしまう。

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Serial Mom
監督:ジョン・ウォーターズ
脚本:ジョン・ウォーターズ
音楽:バジル・ポールデュリス
アメリカ  1994年  95分 

日曜の朝、一家4人で教会に出かける車の中で、「ママは連続殺人犯(Serial Mom)なの?」と問いかける息子に、ビバリーは「朝食のシリアル(Cereal)しか知らないわ」と答える。

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息子がアルバイトをするビデオショップで、返却ビデオの巻き戻しをしていないことを息子に注意された老婦人が、「人殺しの息子」と罵ったことにビバリーは腹を立て、老婦人をラム肉の塊で撲殺する。
その殺人現場を目撃した息子のシートベルトを締めないポルノ好きの友人を、ロックのライブ会場まで追いかけていく。
そこでは、女性パンクロックバンド「L7」が、扇情的なラクダの唇のパンツを履いて「ガス室」を演奏しているところだった。ビバリーはその友人を焼き殺す。すでに有名人になったビバリーは、聴衆が「シリアルママ」の連呼で騒然とする中、ついに逮捕される。

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彼女は大衆の注目の的となる。Tシャツやワッペンが売れ、トレーシー・ローズ主演の映画の話が持ち上がる。異常なのは彼女だけではない。社会なのだ。
裁判が開始されると、彼女は弁護士を解雇して自分で弁護を始めてしまう。すると、裁判はビバリーの思い通りにトントン拍子に進み、無罪になってしまう。
しかし、ビバリーは女性陪審員(パトリシア・ハースト)が秋なのに白い靴を履いていたことが気に入らず、「母親に教わったはず」と言いながら電話の受話器で殴り殺してしまう。

際物の感があったパトリシア・ハーストやトレーシー・ローズを出演させ、L7にラクダの唇のパンツを履かせるなどのバッド・テーストを撒き散らしているところがいい。陽気でパワフルなキャサリン・ターナーの演技が光るブラックコメディの金字塔である。世の中で自分たちが最も優等であると信じているWAPS(ホワイト アングロサクソン プロテスタント)を皮肉った映画のひとつである。→人気ブログランキング

【ワプス(WAPS)を風刺する場面がある作品】
グラン・トリノ(2008年)
ステップフォード・ワイフ(2004年)
アメリカン・サイコ(2000年)
アイズ・ワイド・シャット(1999年)
誘う女(1995年)
虚栄のかがり火(1990年)

2013年8月17日 (土)

64(ロクヨン) 横山秀夫

D県警で繰り広げられる組織内闘争、無能なキャリアと表向きは従順に振る舞うが裏で反発する地元組との確執、マスコミ記者と広報課との情報開示をめぐる攻防、さらに未解決の幼児誘拐殺人事件、そこに主人公自らの娘の失踪事件がからみ、スケールの大きな重みにあるストーリーがうねるように展開していく。全編を通じて息が詰まりそうな緊迫感が続く圧巻の警察小説。
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横山 秀夫
文藝春秋
2012年

D県警では、14年前の昭和64年に起きた「翔子ちゃん誘拐事件」を「64」という符丁で呼んでいる。D県警の管轄内で起きたはじめての誘拐事件である。2000万円を奪われ7歳の少女は無残にも殺され、時効まで1年と少しと迫っている。

46歳の主人公三上義信は捜査二課で刑事としての実績を積んできた自負があった。ところが、畑違いの警務部広報官に異動を命じられる。主な仕事はマスコミ対応である。再び刑事の仕事に戻ることを願望している。広報改革に取り組んだ三上の努力が実を結びそうな矢先、交通事故を起こした女性が妊婦という理由で匿名とすることに、記者たちが猛反発した。

「64」事件の父親宅を警察庁長官が訪問するという。凶悪事件を何がなんでも解決する姿勢を世間に示すためだという。しかし父親は三上に長官の訪問を拒否する意向を伝える。一方、匿名騒動で頑なになったマスコミ各社は長官訪問の取材を拒否する姿勢を示す。三上はこのふたつの難問を解決しなければならない。

マスコミを抑えられない警務部、その陣頭指揮に立っているのは三上だ。一方、警務部は凶悪犯を逮捕できない刑事部の力量を暗に批判している。三上は刑事部と警務部に翻弄されどちらからも信用されず、またマスコミからも責められる苦しい立場に立たされている。

そんな中、「64」事件にまつわる隠蔽された警察の不祥事が書かれた「幸田メモ」の存在が見え隠れしてくる。
自身の出世と保身しか頭にないキャリアの理不尽に堪えながら、三上はマスコミとの妥協点を模索する。父親が面会拒否する理由とはなんなのか。三上は先輩や同僚、後輩に会い、情報を得ることで、事態を収集し解決する糸口をみいだしていく。→人気ブログランキング

2013年8月13日 (火)

震える牛 相葉英雄

食品偽装、BSE問題、大企業の独禁法抵触などを扱った社会派サスペンス小説。
主人公の警部補が進める捜査過程を中心に描き、それと並行して女性ジャーナリストが巨大企業のスキャンダルを追いかけ、終盤で両者が出会い犯罪の全貌が明らかにされていく。
Image_20201117111101震える牛
相場 英雄
小学館文庫
2013年

田川警部補は高卒の叩き上げ、迷宮入りしそうな未解決事件ばかりが回ってくる警視庁捜査一課継続捜査班に所属する。田川は、現場周辺を丹念に聞き込む「地取り」、事件関係者のつながりを徹底的に洗う「鑑取り」の捜査手法を得意とする。この手法で得られた情報を蛇腹の分厚い手帳に書き込み、メモ魔の異名がある。
田川家では、事件の捜査を始める前と事件が解決したときに、同僚の池本警部補を呼んで、すき焼きパーティが開かれる。
作者は、こんなところにも本作のテーマである「牛」を登場させている。

田川は発生から2年が経ち未解決となっている「中野駅前居酒屋強盗殺人事件」の捜査を命じられる。黒づくめの目出し帽をかぶった男が「マニー、マニー」がと叫びながら店長に切りつけ売上金を奪い、刃物で客ふたりの首を刺し殺害した。初動捜査では犯人を「物盗りの外国人」に絞っていた。

一方、インターネット・ビズ・トゥディの女性記者鶴田真純は、大企業オックスマートの独禁法への抵触疑惑を調査している。
2000年に大店法が施行され、地方都市の郊外に大型ショッピングセンターが建設され、商店街は破壊されていった。
鶴田がオックスマートにこだわる理由は、妹が同社が展開するショッピングセンターの建設にからんで、不幸な亡くなり方をしたからである。

田川たちは地道な捜査を積み重ねていく中で、実は計画的な殺人事件であると断定した。殺害されたのはやくざの顔を持つ産廃業者、仙台に住む獣医師である。ふたりのつながりを探ろうと、田川たちは新潟へ仙台へと捜査の手を広げる。
一方、鶴田は食品偽装とオックスマートとの関連を調べていく。

食品偽装が浮かび上がり、オックスマート社の抱える闇、さらにBSE問題、警視庁や政界と企業の癒着の問題も絡んで、大きなスケールでストーリーは展開していく。→人気ブログランキング
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2013年8月 8日 (木)

エッジ 鈴木光司

本書は、2013年に、心理サスペンスやホラーなどの優れた作品に与えられる米国のシャーリー・ジャクスン賞の長編賞を受賞した。同賞は、米国のサスペンス作家の巨匠シャーリー・ジャクスン(1916年~1965年)の名前を冠して2007年よりスタートしている。
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鈴木 光司
角川文庫
Image_20201210195701エッジ 下
2012年

カリフォルニア州で謎の失踪事件が発生し、ハワイの国立天文台でスタッフが星の消滅を観察した。スタンフォード大学でπの計算中に5千億桁を超えたところで、コンピュータが0を連続して打ち始めた。宇宙規模の得体の知れない異変が起こっている。これがプロローグである。

2012年11月、ルポライターの栗山冴子は、長野県高遠町で一家4人が忽然と失踪した事件の真相を追うことになった。テレビ番組を作成する目的で、テレビマンの羽柴と霊能者鳥居茂子と冴子で高遠町に向かう。
失踪現場の家を調べた冴子は、そこで偶然に父眞一郎の手帳を発見する。

35年前、冴子の母は冴子を生んだあとに死んだ。その後、冴子は眞一郎により男手ひとつで育てられた。眞一郎は、地球の成り立ちから生命の誕生、絶滅していった種について、小学生の冴子に話し彼女はそれを熱心に聞いた。
そして、18年前冴子が17歳のときに、眞一郎はなにも告げないまま忽然と姿を消した。眞一郎が残したフロッピーディスクには、彼自身が大規模な失踪事件に興味を持っていたことがわかった。

そして、熱海の植物園で91人が跡形もなく消える事件が起こる。
冴子は、父にかつて授かった教えを頼りに、物理学者磯貝とクリス、そして恋人の羽柴とともに、こうした異変の正体を突き止めようとする。
活断層に沿って起こる数々の失踪事件、消えた星、数理学の定理や定数の異変、太陽の黒点の活動、磁場の狂い、これらからたどり着いた冴子たちの結論は宇宙の層移転であった。

本書は、宇宙の終わりを描く壮大な物語である。
宇宙の終わりを描くには、宇宙のはじまりから生命の誕生、生物の進化、人類の誕生から現代までを語らなければならない。さらに数理学、物理の法則、素粒子論、宇宙論を読者に示さなければならない。著者は眞一郎の手記や冴子への教え、磯貝とクリスの会話、冴子や羽柴の考察などで、それらを随所に披露している。そうした著者の緻密な手法により、宇宙の終末を迎える恐怖を生々しく感じさせられる作品である。→人気ブログランキング

2013年8月 7日 (水)

遥かなる大地へ

19世紀、アイルランドにおけるジャガイモ飢饉によって、多数のアイルランド人が故郷を捨てアメリカへ渡った。土地争奪戦(ランドラッシュ)は、19世紀後半にオクラホマで起こった。
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原題:Far and Away
監督:ロン・ハワード
脚本:ボブ・ドルマン
原案:ロン・ハワード/ボブ・ドルマン
音楽:ジョン・ウィリアムズ/主題歌:エンヤ「BOOK OF DAYS」
アメリカ 1992年 140分 

小作人のジョセフ(トム・クルーズ)は、西アイルランドの痩せた土地で極貧の生活を強いられていた。
地主ダニエル(ロバート・プロスキー)に対し、住民が立ち上がり暴動が起きたときに、ジョセフの父親は瓦礫の下敷きになり亡くなった。

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ジョセフは父の仇を打ちに地主の家に向かう。納屋に潜んでいるところを、地主のじゃじゃ馬娘シャノン(ニコール・キッドマン)に見つかり、干し草用フォークで太腿を刺されてしまう。ジョセフはそのまま地主の家で治療を受ける。シャノンはジョセフの寝ている部屋に忍び込んで、桶で隠されたジョセフの局所を見てニンマリする。なんだろうこの場面は、この時、キッドマンとクルーズは夫婦だった。

シャノンはアメリカのオクラホマで土地をただで手に入れることができるというチラシを手に、ジョセフを渡米に誘う。しかし、あくまでシャノンは地主のお嬢様で身分は上、ジョセフは下僕の扱いである。

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ボストンに渡ったシャノンは、騙されて頼みの銀食器をすべて失ってしまう。
住むところも金もないないふたりは、売春宿になんとか潜り込み、兄妹と偽って暮らすことになる。
やがて、ジョゼフはボクシングの試合で稼げるようになり、シャノンは食肉工場で働くが、こちらはうまくいかない。シャノンは向こう見ずにも酒場のダンサーになってしまう。
市会議員が主催したボクシングの試合中に、議員がシャノンにちょっかいを出そうとするのを見て、議員に殴りかかったジョセフは、その試合で惨敗を喫す。そして、飼い犬に手を噛まれたとボクシングの興行主はふたりを宿からたたき出す。
雪の夜に、ふたりは空腹と寒さで無人の邸宅に忍び込み、戻ってきた家の主人にシャノンが撃たれてしまう。ジョセフは傷ついたシャノンをクリスティー家に渡し彼女の前から去っていった。

8カ月後、ジョセフは列車で移動中に、オクラホマに土地を求めてやって来た人々に合流し、そこでシャノンと再会する。

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さて土地争奪戦(ランドラッシュ)の日がやってきた。荒くれ馬に乗ったジョセフに、シャノンは「鼻綱を引くのよ」と、荒くれ馬を乗りこなすコツを耳打ちするのだった。そして、悪戦苦闘の末、川の近くの肥沃な土地に一番乗りしたジョセフは、シャノンとともに自分のものとなる土地に旗を立てるのだった。→人気ブログランキング

2013年8月 5日 (月)

爪と目 藤野可織

第149回芥川賞受賞作。
「爪と目」はホラーの要素があるシュールな作品。「しょう子さんが忘れていること」は老女の性を巧みに扱っている。「ちびっこ広場」は母性愛を描いた作品である。
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藤野可織
新潮社
2013年

「爪と目」
幼女の視点から描かれ、それが独特な雰囲気が出ている。この視点でストーリーが成り立つ、ということはほかの視点からでも成り立つということだ。
冬に幼女の母親は自宅のマンションのベランダで死んだ。事故死とされた。
父親は付き合っていた女と暮らし始める。
幼女は、母親が亡くなってからベランダに近づかなくなり爪を噛むようになった。
女はかなり進んだ近眼でコンタクトレンズを入れている。
亡くなった母親の本を引取りに来た古本屋と、女は浮気をするようになる。
ある日、突然に訪れた古本屋との情事の間、女は幼女をベランダに追い出す。幼女はパニックに陥ってしまう。よく日、おとなしかった幼女が園児たちの顔を噛んでギザギザになった爪で引っ掻き、けがを負わせる。女は幼女の爪をヤスリで滑らかにしてマニキュアを塗る。
寝入っている女に幼女が乗っかって、剥がれたマニキュアの破片を女の目に入れようとする。

「しょう子さんが忘れていること」
老女の性を奥ゆかしく爽やかにちょっとだけ艶めかしく描いた作品。
しょう子さんは脳梗塞でリハビリ病院に入院している。毎朝、何もかもが気に入らない気分で目が覚める。
陽気で親切で誰からも好かれる入院患者の川端くんをしょう子さんも気に入っている。
見舞いにくる長女の長女は37歳で未婚。そのことで、しょう子さんは37歳のときに最後のセックスを済ませたことを思い出した。長女の長女のセックスはこれからだ。そんなことを考えたことにしょう子さんはわれながらムッとする。
就寝時間になるとしょう子さんはベッドに誰かが現れたような気がした。しょう子さんの体は激しく震える。これが毎晩繰り返えされ翌朝には忘れている。

「ちびっこ広場」
若い母親と息子の絆を描いた作品。
実加は大学の同級生の結婚披露パーティに出掛ける身支度をしている。
いつもは、ちびっこ広場で遊んで約束の時間に遅れる息子の大樹が、早く帰ってきた。何があったのか、うずくまって顔をあげない。仕方なく夫の帰宅を待ってパーティに出かけた。しかし実加は大樹のことが気になって仕方がない。二次会は止めにして帰宅する。
大樹は広場で起こったことを実加に話す。そして、夜中に実加と太樹は広場に向かう。→人気ブログランキング
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2013年8月 2日 (金)

『想像ラジオ』 いとうせいこう

最初の何ページかを読むと、架空の物語であるにもかかわらず、大震災に対して何ら責任を負っていない後ろめたさを感じてしまう。
第149回芥川賞候補作。
Bba031c7b2d14a78a274d2f79674fa21 想像ラジオ
いとう せいこう
河出書房新社
2013年3月

想像ラジオは、文字通り、聴く者の想像力により聴こえてくるラジオ放送のこと。
主人公のDJアークは、海沿いの小さな町で、高い杉の木のてっぺんに仰向けに引っかかって、軽快におしゃべりを続け、合間に曲を流している。なんともシュールな存在だ。
奇数章はDJアークの視点で語られ、偶数章は作家Sの視点で語られる。作家Sは作者のいとうせいこう自身と理解できる。
想像ラジオは、大震災で命を落としさまよい続ける死者たちに向けられた放送である。
被災者の現実には、傍観者が想像できないことあるいは想像してはいけないことが存在する。それゆえ、著者は、震災の当事者であるDJアークに感情のおもむくまま饒舌に語らせる手法をとったと思う。

Sたちが、被災地でのボランティア活動からの帰途に、ある者は死者をめぐる心の領域に部外者が踏み込むことは傲慢だと語る。別の者は死者の声に耳を澄ますことは誰も禁止できないと反論する。
Sは、いくつかの被災地で、想像ラジオの噂が流れていることを耳にする。こちら側にいる人間にも、想像ラジオはわずかながら浸透しているようだ。

想像ラジオの実在をめぐってSたちの間で論争になる。死者の声に耳を澄まそうとすることは、生きている者にとって避けられないとする意見もあれば、死者の声を想像することに反発を覚える意見もあり、死者よりも生者の救済を優先すべきだという現実的な見解もある。
このあたりで、大震災に対して何ら責任を負っていない後ろめたさを、どう折り合いをつけたらいいかという気持ちにさせられる。

東日本大震災の前には、阪神淡路大震災があり、かつては広島・長崎への原爆投下があり、東京大空襲があった。
世界に目を向ければ、ニューヨーク、ユーゴスラビア、イラク、アフリカで、たくさんの人たちが亡くなった。
そうした驚くべき数の死者のエピソードだけでなく、私たちの日常には死があふれている。

私たちが死者について考えるときに、鎮魂という意味の儀礼的な関わり前に、死者の心に思いを巡らすことで関わることができる。
生きている人間の世界と死んだ人間の世界は、曖昧に混ざり合っている。生者は死者から目をそらすことはできず、死者とともに生きていかなければいけない。生き残った人間の思い出は死者がいなければ成立しないのである。
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2013年8月 1日 (木)

解錠師 スティーヴ・ハミルトン

2011年度のアメリカ探偵作家クラブ賞(MWA)受賞、英国推理作家協会賞(CWA)受賞など世界のミステリー賞を数々受賞した。2012年度の『このミステリーがすごい!』と『週刊文春ミステリーベスト10』の両方で第1位に輝いた超話題作。
爽やかな読後感にひたれる青春小説であり、はかなくも美しい恋愛小説であり、スピード感のあるサスペンスであり、卓絶したクライムストーリーである。

刑務所に収監されている20歳代後半になった主人公マイクルの述懐ではじまる。
彼は8歳のときのショッキングな事件で、言葉を発することができなくなった。その凄惨な事件の全貌は後半に明らかにされる。
物語は二つの時間軸に沿い進んでいく。開錠の技術を身に付けるに至る過程と、解錠師として犯罪を重ねる現在までの過程が交互に描かれている。

Image_20201116171401解錠師

スティーヴ・ハミルトン(越前敏弥訳)
ハヤカワ文庫 
2012年

ミシガン州オークランドのミルフォード。
マイクルはミルフォード高校に入る。
彼には絵の才能があり、美術演習上級の授業を受けることになった。
体育ロッカーの開かなくなった南京錠を開けたときに、開錠の才能が芽生えた。
マイクルは骨董屋へ行って何個かの回転錠を5ドルで買い、それと戯れる夏を送った。

卒業パーティー(マイクルは2年生)でマイクルは鍵開けを披露し、その足でフットボールで惨敗させられた相手チームのキャプテンの寝室に自高の旗を掲げようと忍び込む。ところが、絵に見入って仲間が逃げたものの部屋にとどまり、あえなく捕まってしまう。
マイクルが見入った絵は、あとから恋人になるアメリアのデッサンであった。
ふたりは、絵を通じて愛を深めていく。

保護観察期間にアメリアの父親マーシュの機嫌を損ねれば収容所送りになる。
マイクルが開錠師になったのは彼の意思ではない。彼が開錠の腕前を披露したことで、マーシュはその技術を金儲けに使おうと目論んだ。これがマイクルが犯罪の道に入るきっかけとなった。
開錠の天賦の才能があるマイクルに、技術を叩き込んだのは解錠師のゴーストである。

マイクルの初仕事は17歳のとき。
原題の「The Lock Artist」のように、金庫破りというより、まさに芸術家(Artist)の仕事であった。
こうしてマイクルの犯罪の経歴が始まった。→人気ブログランキング

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