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2013年9月

2013年9月29日 (日)

現代アート、超入門! 藤田令伊

普通のサラリーマンからアートライターに転身した著者は、現代アートはわかりにくいうえに、入門書は輪をかけてわかりにくいと嘆く。それなら、いっそのこと自らが、フツーの人の目線でフツーの人がわかるような現代アートの入門書を書こうと思い立った。本書はそうした著者の意図が見事に成功している名著である。
Photo_20210112080501現代アート、超入門!
藤田 令伊
集英社新書
2009年

 

現代アートは、〈20世紀以降に生まれた、技術と都市に関係の深いアート〉とザックリと理解すればいいという。現代アートは必ずしも美しくない、必ずしも感動させるものではない。ルネッサンス以降のクラシカルアートとはそこが決定的に違うという。

本書は12の章に分かれていて、各章に主題となる作品が提示され、それについて読者にどう感じるかが問いかけられ、著者の考えが説明される。そのあとその作品周辺について解説が加えられる構成になっている。
問いかけは次のようなものである。「興味をいだけるか否か?」「美しいと思うか否か?」「わかるか、わからないか?」「アートと思うか、思わないか?」というきわどい問いも投げかけられる。さらに「値打ちを感じるか否か?」、究極は「許せるか、許せないか?」という問いまで飛び出す。現代アートはタブーさせ超えてしまっている。

各章には【現代アートの水脈をたどる】という項目があって、そこでは提示された作品を中心に、その時代のアートの歴史が書かれている。

現代アートにどう向き合えばよいかについて、次のように書いている。アートの境界は曖昧なもの、あり方も多彩なものになっている。そんな状況下にあっては、もはやどれが優れていて、どれが劣っているとする万人に共通の価値判断など存在しない。選択や評価はすべて自己責任、アートとの付き合い方は自分自身で開拓するするほかはないという。
本書を一読すれば、著者の意図したとおり、〈現代アートの大まかな流れと全体像がわかった気になれる〉こと請け合いである。本書は迷える現代アート初心者を導いてくれる福音の書である。

著者はクラシックアートにも造詣が深く、特にフェルメールには耽溺していると言っても過言ではないと書いている。著書に、これまた名著の『フェルメール-静けさの謎を解く』(集英社新書/2011年)もある。→人気ブログランキング

現代アート経済学』宮津大輔(2014年)
キュレーション 知と感性を揺さぶる力』長谷川祐子(2013年)
現代アートを買おう!』宮津 大輔 (2010年)
現代アート、超入門!』藤田令伊(2009年)
セゾン現代美術館

2013年9月27日 (金)

セゾン現代美術館

9月23日(日) 

セゾン現代美術館は、国道146号線・通称日本ロマンチック街道を白糸の滝に向かい、星野エリアを過ぎたあたりで左折し山に少し入ったあたりの道路沿いにある。
門をくぐるとなだらかな斜面の向うの建物まではほぼ200mあって、鉄製の橋にしても立ち入り禁止の芝生の中に点在する彫像たちにしてもすでにアートが始まっている。

1

本館は名前からわかるように、セゾングループが運営する美術館である。
1962年に西武グループの創業者堤康次郎が収集した美術品を保存および一般公開する目的で、東京に高輪美術館が開館された。その後1981年にセゾングループの創業者の堤清二により軽井沢に移転した。1991年にはセゾン現代美術館と改名し、展示する作品を現代美術に絞った。

現代美術は理解できないことがしばしばで、馴染めないのが本音である。
今回のコレクション展「魂の場所」を監修した文芸評論家の三浦雅士氏によれば、美術の世界が大きく変わったのは、写真の発明であるという。画家たちは写真をきっかけに、絵画とは何かという問題に直面せざるを得なくなったという。
このあと小冊子は難解な表現が混じり馴染みのない固有名詞が出てきて私には理解できなくなるのだが、結局は1917年に既製品の小便器を『泉』というタイトルで展示したデュシャン以来、美術の世界はなんでもありになったということらしい。

展示されている作品のうち、名前を記憶している作家は、山口俶子の夫だったイサム・ノグチ、シュールレアリスムのコラージュを多く残したマン・レイ、同じくシュールレアリスムのミロ、カンディンスキーのリトグラフはアシュレイ・ジャドとトミー・リー・ジョーンズ主演の映画『ダブル・ジョパティー』の中でマクガフィンとして使われた。さらに、便器のデュシャン、色違いマリリン・モンローやキャンベルの缶詰のウォーホル、同じくポップアートのリキテンシュタイン、圧倒的な宗教性を感じさせるポロック、女体と曲面物体の彫像のマイヨールは知っている。しかし日本の作家は全滅だった。

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順路のほぼ終点にある廃材を組み立てた縦5m横10m奥行2mほどの巨大なオブジェを見終わって立ち去ろうとしたときに、警備員服の係員が床にあるスイッチを押した。するとそれは動き出した。いくつもある車輪が軋みながら回転し、てっぺんでは鷹がくるくる回り、ドラムや鐘が鳴り、動物の頭蓋骨が口を開閉した。
こうした動きが繰り返され、最後は左端の動きのない大きな鳥が、満を持して羽を広げるのがオチだろうと期待しながら10分待った。ところが、警備員が素っ気ない態度でスイッチを切ると、オチもなくオブジェは止まった。これがジャンティン・ゲリーの『地獄の首都 No.1』である。
どうにも収まらないので、なぜ鳥が動かないかを警備員に訊ねると、「壊れているんです。何カ所か壊れています」とのことだった。ペンチやドライバーを使いこなしハンダ付けができる絵画修復士はそうそういないだろうから、キネティック・アートは壊れたら修繕がままならないのだろう。

見終わったあとに不消化なモヤモヤ感が残った。どうにかしようと、性懲りもなく翌日も本館を訪れたのだが、解消されなかった。
要するに、知らないから入り込めないのだ。その作家の位置、というのは誰々の影響を受けて美術史の中でどの流れにいてどう輝いたかという意味であるが、それがわかると現代美術は理解からかけ離れたものではないと思った。→ブログランキングへ

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セゾン現代美術館

2013年9月25日 (水)

メメント

記憶を10分間しか保てないとしたらどうするか。メモを活用し、画像をカメラに収め、景色や顔を忘れないようにする。電話のやりとりはむつかしい。
原作は監督の弟であるジョナサン・ノーランの短編『Memento Mori』。
アカデミー賞のオリジナル脚本賞、編集賞にノミネートされた。
Photo_20201210081601メメント
Memento
監督:クリストファー・ノーラン
脚本:クリストファー・ノーラン
原案:ジョナサン・ノーラン
音楽:デヴィッド・ジュリアン
アメリカ 2000年 113分

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深夜、強盗が押し入り妻を殺された。そのときにに負った頭のケガで主人公のレナードは、前向性健忘となり10分しか記憶が保てない。
彼はメモを取り、ポラロイドカメラで人物を撮影し、さらに最重要事項はタトォーで体に刻み込んでいる。妻を殺した犯人を見つけ出し復讐することが目的で動き回っている。

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本作は、はじめにレナードが復讐を成し遂げたかに思われる殺人のシーンから始まり、過去にさかのぼっていくように構成されている。レナードが書いたメモやポラロイド写真、タトゥーとして刻まれた言葉が組み合わされてパズルを解くように、ストーリーが進んでいく。ミステリ小説を後ろからを見開き2ページずつ読むとすると、こんな感じにストーリーが進むのではないか。
レナードにはテディという何かとおせっかいを焼きアドバイスする男がつきまとう。そのテディが犯人という疑惑も浮かぶ。

130925memento3

それまで味方だと思われた謎の女ナタリーが、レナードの記憶喪失を利用していたことがわかってくる。
ここで気になるのがレナードの頬の引っ掻かれたような傷。ナタリーの下唇も殴られたように腫れている。こうした傷はいつなぜついたのか。

130925memento4

レナードが保険会社の調査員をしていた頃に担当した記憶喪失となった男サミーの物語が何回か挟まれる。そして、「サミーを忘れるな」とレナードは口癖のようにくりかえす。
観客はどこか違った方向に話が進んでいくような不安感を感じさせられるが、それはレナード自身に対する疑惑も徐々に膨らんでいくからである。妻が殺されたことすらもあやふやになっていく。
見直さないと細かいことはよくわからないなというのが偽らざる感想である。

テディは味方なのか敵なのか、あるいはレナードを利用しようとするだけなのか。
この映画は、そのはっきりしない焦燥感を最後まで引きずり続けるところが、狙いなのだ。疑問を残して終わることもこの映画の意図するところだと思う。実験的手法が成功した素晴らしい出来である。→人気ブログランキング

2013年9月21日 (土)

任侠ヘルパー

パンチパーマに太い眉、鋭い眼光で睨みをきかせ、肩で風を切り、べらんめえ口調で話す、勝ち目のない喧嘩でも独りで向かっていく、草彅剛は無鉄砲なヤクザの翼彦一を演じている。いくぶん華奢な身体つきなので、パンチパーマで一回り大きくなった頭とのバランスが奇妙でどことなく可笑しい。
『任侠ヘルパー』という虚をつくタイトルがいい。
Image_20210215204501任侠ヘルパー

監督:西谷弘
脚本:池上純哉
音楽:高見優/主題歌 LOVE PSYCHEDELICO「Beautiful World」
日本 2012年 

1

暴力団「隼会」を抜けカタギのコンビニ店員として働く彦一は、強盗を幇助した罪で刑務所に送られ、その強盗・蔦井(堺正章)と再会する。蔦井はかつて「極鵬会」のナンバー2だったが、跡目争いに嫌気がさして東京に出てきたものの食い詰め、強盗に至った。蔦井は刑務所の中で亡くなる。
足を洗った彦一には出所しても落ち着くあてがなく、結局、蔦井のツテを頼って「極鵬会」の組長(宇崎竜童)を訪ね、ヤクザに舞い戻ってしまう。
彦一に与えられた仕事は、ヤミ金融で老人たちにローンを組ませ破産に追い込み、年金や生活保護費をせしめ、さらに彼らを介護施設「うみねこの家」に送り込み、そこでも金を搾り取るというアコギな貧困ビジネスである。

一方、二世市議会議員の八代照生(香川照之)は、暴力団の排除と福祉施設の誘致を公約に掲げている。「極鵬会」は八代を快く思っておらず、どうにかして陥れようとしていた。

2

蔦井の娘葉子(成井和美)は認知症の母親(草村礼子)と幼い姉弟を抱え、苦しい生活を送っていた。葉子はヤクザの娘であることに負い目を感じてきた。
葉子と高校時代に付き合いがあった八代の口利きで、母親は介護施設に入所することができた。
しかし、介護施設の母親に対する扱いに腹を立てた葉子は、強引に母親を施設から連れ出したはいいが行くあてがない。結局、劣悪介護施設の「うみねこの家」に入所することになる。

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「うみねこの家」は悪臭が漂う劣悪な環境で、老人たちはほったらかされていた。彦一は最初はアコギな仕事を淡々とこなしていたが、老人を食い物にしていることに疑問を感じ始め、「お前ら見捨てるほど落ちちゃいねーよ」と、本作のキャッチフレーズ通り、「うみねこの家」の立て直しを決意する。彦一の気持ちにスイッチを入れたのは、彼が恋慕する葉子の息子の彼を頼りにする行動だった。
彦一のアイデアは、老人たちに自分のことは自分でさせる参加型介護。その目論見はうまくいって、老人たちは生き生きして、施設は活気があふれていく。「うみねこの家」は、彦一の舎弟(風間俊介)やキャバ嬢(夏帆)も手伝い、さながらヒッピーのコミューンの様相を呈していく。
介護の現場はこのような甘いものではないが、コミューンのように和気あいあいと平和でありたいという願望として理解したい。

彦一のやり方を快く思わない極鵬会は何かと嫌がらせをする。それに彦一は体を張って立ち向かっていく。一方、違法な貧困ビジネスを取り締まろうとする八代も彦一の前に立ちはだかる。
やがて、共通の敵である「極鵬会」と対峙することで、彦一と八代の間には連帯感が生まれ、葉子との三角関係の様相を呈し、さらに彦一の危機一髪の場面に現れた「隼会」の若頭(黒木メイサ)も絡んで、続編につながる余韻を残しつつ映画は終わる。
介護の現実とはかけ離れているが、エンターテイメントとしては一級品である。→人気ブログランキング

2013年9月16日 (月)

ギター弾きの恋

1930年代のシカゴ。ジプシージャズのギタリスト、エメット・レイ(ショーン・ペン)は天才のご多分に漏れず奇行で知られる男。ギターの腕前はフランスのジャンゴ・ラインハルト<についで、二番目だと思っていてる。二番目ってところが気楽そうで、なにをやっても許される感じである。
Image_20210131085201ギター弾きの恋
Sweet and Lowdown
監督:ウディ・アレン
脚本:ウディ・アレン
音楽:ディック・ハイマン
アメリカ 1999年  95分

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エメットにはフランスでジャンゴの演奏を聴いたときに失神し、ドイツではレストランでジャンゴを見かけただけで失神したというエピソードがある。ジャンゴのレコードを聴いて涙するという具合に、ジャンゴへの心酔ぶりは並大抵ではない。さらに、ジャンゴが客席に来ているとからかわれたことを真に受けて、楽屋からこそこそと逃げ出す小心者である。

2

そんなエメットがニュージャージーでナンパした洗濯女のハッティ(サマンサ・モートン)は口がきけず、エメットが迫っても抵抗しない。むしろ逆に服を脱ごうとする始末。抵抗しない女は勝手が違うエメットは戸惑う。一夜だけの遊びのはずが、ふたりは一緒に暮らし始める。ハッティはひっきりなしに何かを食べていて、そんなに食べてばかりいたら肥るだろうと心配させるほど、いつも口をモグモグさせている。「女遊びはするが、女は必要ない」というのがエメットの口癖。
口をきけない設定だから、サマンサ・モートンにはサイレント映画で見られるような大袈裟でぎこちない演技が要求され、それが小柄なハッティをよりキュートに見せている。

派手な服が好みのエメットは娼婦の元締めもやっていて、金銭感覚が麻痺している。演奏に遅刻したりサボったりがしょっちゅう、気前がいいのに泥棒癖がある。走る汽車を見るのが好きで、気晴らしに35口径の銃でネズミを撃つのが趣味。仕事に穴をあけるから、興行主からクビを言い渡されることもしばしば。
ギターの腕は天才的だが、実生活はめちゃくちゃというエメットを、ショーン・ペンが実にうまく演じている。

3

エメットは上流階級の女性ブランチ(ユマ・サーマン)に出会い、ハッティを捨てて結婚するが、「ふたりの共通点は服が派手なことくらい、すぐに別れるさ」というのが周囲の見方だった。小説家の端くれのブランチは、尋常ならざる物事に興味を持つ性癖がある。やがて、ジャズクラブの用心棒と不倫をはたらき、エメットの知るところとなる。彼は、ふたりが乗る車の後部座席に銃を持って忍び込む。エメットがどうやってふたりを撃ち殺そうかと思案していると、3人は事件に巻き込まれる。ここで3パターンの修羅場がそれぞれ映し出される。話におヒレがついて諸説があるというのが、3パターンが披露された理由であるが、ちょっとやりすぎだ。

4

周囲の読み通り結婚が破局したエメットにレコーディングの話が舞込み、再びニュージャージーのスタジオでレコーディングをすることになる。エメットはハッティを訪ね、「結婚はしないが、一緒にこないか」と性懲りもなく身勝手なことをいう。ハッティは紙切れに「結婚して子供がいる」と書いて渡すが、それが嘘なのをエメットは気付いている。「惚れられても面倒が増えるだけだ、俺は今夜もデートだ」と、負け惜しみをいうのだった。

レコードは上々のできで、エメットはジャンゴを超えたと大評判になる。そのあとエメットは第一線から姿を消す、という破天荒な天才の話。

1920年代から30年代のスイングジャズを集めたサントラが抜群にいい。オペラだけでまとめた『マッチポイント』のサントラもプラチナものだった。さすが音楽に造詣が深いウディ・アレンだ。→人気ブログランキング

2013年9月15日 (日)

幸運の25セント硬貨 スティーヴン・キング

些細なことに光を当てる卓絶な観察力、軽快に転がり畳み掛けるような文体、大いに寄り道しながら軸のぶれないストーリー運び、饒舌な言葉の雨を堪能できる7篇である。ブラックユーモアとスプラッタ、そしてぶっきら棒な下品さを満喫できる。
Image_20201116114901幸運の25セント硬貨
スティーヴン・キング
朝倉久志/風間賢二/白石朗/池田真紀子 訳
新潮文庫 2004年

「なにもかもが究極的」Everything's Eventual
高校中退だからディンクはろくな仕事につけない、というのはママの口癖。ディンクの新しい仕事は次の一文で語られる。〈呪文を書いたら、やつが勝手に死んでしまったのだ。〉この能力で家付き週70ドルの仕事に就いた。

「LTのペットに関するご高説」LT's Theory of Pets
LTが妻の誕生日にペルシャ猫を送ったら、妻と猫は相性が悪かった。猫は夫になつく。そのあと妻は夫の誕生日に犬を贈った。犬は夫と相性が悪く、妻になつく。そして、ペットとの相性問題が原因なのか、妻は家を出ていき、行方不明になってしまった。

「道路ウイルスは北に向かう」The Road Virus Heads North
キンネルはガレージセールで車を止めて一枚の絵を買った。自殺した若い男が描いた気味の悪い絵だ。男はキンネルの書いた小説をすべて読んでいたという。その絵は変化し不穏な事態が引き起こされる。

「ゴーサム・カフェで昼食を」Lunch at Gotham Cafe
妻がなにも告げず家を出て行った。それをきっかけに夫は禁煙をはじめた。そしてゴーサム・カフェで、妻と妻の弁護士と会うことになった。ところが夫の弁護士が母親のケガを見舞うため同席できなくなった。それは弁護士にとってスプラッタな事態に巻き込まれることがない幸福なことだった。

「例のあの感覚、フランス語でしか言えないあの感覚」That Feeling,You Can Only Say What It Is in French
結婚25周年のお祝いに、チャータージェット機でフロリダの島へ向かう夫婦。妻にはデジャヴの感覚が次々に頭をよぎる。

「1408号室」1408
ホテルの支配人は、1408号室に入った30人が亡くなっているから、馬鹿な真似はよせという。ホラー作家の主人公と支配人の侃侃諤諤のやり取りの末、作家はついに1408号室に入室する。人の忠告を聞くような作家ではない。→『1408号室』DVD

「幸運の25セント硬貨」Lucky Quater
シングルマザーのメイドは、ベッドの枕におかれた福袋の25セント玉を使って、スロットマシンで大当りを出した。その金を持ってカジノへ行き、ルーレットでつきにつきまくっていた。→人気ブログランキング

2013年9月13日 (金)

横道世之介

原作は『悪人』、『パレード』の吉田修一、監督は『南極料理人』、『キツツキと雨』の沖田修一監督。br />世之介は、井原西鶴の『好色一代男』の主人公の名前である。西鶴の世之介は何千人もの女ばかりでなく男とも関係をもった希代のドンファン。世之介は西鶴を意識したネーミングだと思う。本作の世之介は人が良くって人懐っこくて、誰とでもすぐに打ち解ける、とにかくいい奴である。人の良い人間を描くことがこの映画のテーマ。

Image_20210128095401横道世之介
監督:沖田修一
脚本:沖田修一/前田司郎
原作:吉田修一『横道世之介』
音楽:高田漣
主題歌:ASIAN KUNG-FU GENERATION「今を生きて」
日本  2013年  160分

舞台はバブル景気がそろそろ終わろうかという1987年とおよそ20年後。
東京の私立大学に入学した横道世之介(高良健吾)は、倉持一平(池松壮亮)と阿久津唯(朝倉あき)と仲良くなり、3人は敬遠していたサンバ同好会に入る。

1309122_2

世之介は、郊外の安アパートから都心の大学に通い、講義に出て、サークルに顔を出し、アルバイトに精を出し、夏休みにはサンバの合宿に参加する、そんな、普通の大学生の日常を送っていた。
真夏にクーラーのない部屋で、窓を開け放ち扇風機を回し、水の入ったバケツに足をつっこんで、首にはタオルを巻いて、汗をタラタラ流しながら、熱いインスタントラーメンをすする。似たようなことをやったよなあ、と観ている者に学生時代を思い起こさせる。

入学式で初対面にもかかわらず、その日のうちに唯とキスにまで発展したことを一平に聞かされて、世之介はうろたえる。
世之介が学園祭でサンバを踊り熱射病で倒れ、「僕に構わず先に行ってくれ」と言った自分が誇らしく感じて、その場面が写っているビデオを繰り返し見て「俺って、かっこいいだろう」と自慢する。こんな下らないことに固執するのが青春だ。

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世之介が思いを寄せる謎の派手な片瀬千春は、不倫相手の男との別れ話の席に、世之介を弟として同席させ手切れ金をせしめた。千春には娼婦という噂があった。

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世之介が自動車教習所で仲良くなったのは、社長令嬢の与謝野祥子(吉高由里子)。何不自由なく育った祥子から言い寄られた世之介は、生活環境のギャップに戸惑いながらも、深い仲になっていく。「世之介さーん、だーいすき」の吉高由里子の甘い声が耳に残る。
 
そして、20年後。世之介と交流があった人たちだれもが、「あいつはいい奴だったよな」と思い出す。いい人の常で世之介は早死にしていた。ほのぼのとしていて、ふと寂しさを感じさせる作品。

この世之介の死には、モデルになった事故があるといわれている。2010年1月に、電車の線路に落ちた男性を助けようと線路に飛び降りた日本人カメラマンと韓国人青年が、電車にはねられ、3人とも死亡した新大久保駅乗客転落事故が起こっている。
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2013年9月10日 (火)

ジャンゴ  繋がれざる者

本作は、第85回アカデミー賞で作品賞ほか5部門にノミネートされ、クエンティン・タランティーノ監督が脚本賞を、クリストフ・ヴァルツが助演男優賞を獲得した。
Jangoジャンゴ 繋がれざる者
Django Unchained
監督:クエンティン・タランティーノ
脚本:クエンティン・タランティーノ
アメリカ   165分  2012年

1859年、アメリカ南部。
ドイツ人の移動歯科医のキング・シュルツ(クリストフ・ヴァルツ)は奴隷業者からジャンゴ(ジェイミー・フォックス)を買い、自由人とした。キングは賞金がかけられた3人の首実検のためにジャンゴが必要だった。

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ジャンゴの度胸の良さと銃の腕前に惚れ込んだキングは、ふたりで賞金稼ぎをしようと持ちかける。腕を磨いたジャンゴは南部一の銃の使い手となり、こうして異色の黒人ガンマンが誕生する。
ジャンゴの望みは、奴隷市場で生き別れになった妻ブルームヒルダ(ケリー・ワシントン)を探し出すこと。

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ふたりは冬の間に賞金をがっぽり稼ぎ、春になったら動き出す予定。
ちなみにDjangoの「D」はサイレントと、ジャンゴがつぶやく場面がある。相手が銃を撃ちまくり「ジャンゴ、もうおしまいだぞ」と叫んだときに、反撃に出て口にしたフレーズだ。

ブルームヒルダは、カルヴィン・キャンディ(レオナルド・ディカプリオ)が経営する農園にいた。カルヴィンは奴隷を格闘士として闘わせ、敗者をなぶりものにして楽しんでいるような非道な悪人。
キングとジャンゴは、最強の格闘士をカルヴィンに売り込むという作り話をでっち上げ、カルヴィンに近づいていく。

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カルヴィンの右腕・奴隷頭のスティーヴンに扮するのは、タランティーノ映画の常連、サミエル・ジャクソン。スティーヴンの目つきの微妙な変化が、ことの成り行きを暗示している。

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本作ではドイツが伏線となっている。ドイツ人であるキングは人種差別をしないから黒人のガンマンが誕生した。ブルームヒルダは前の奴隷主からドイツ語を習った。キングとブルームヒルダのドイツ語の会話から、スティーヴンはキングたちの企てにほころびを見出す。

時代考証がなっていない、黒人を蔑視している、差別用語が使われている、凄惨な銃撃シーンがスクールシューティングを誘発する、血が流れすぎだなど、なにやかにやと批判の声が上がっているが、上質のマカロニウエスタンに仕上がっているのは間違いない。→人気ブログランキング

2013年9月 8日 (日)

硝子の葦 桜木紫乃

ホテルローヤル』で第149回(2013年7月)直木賞を受賞した桜木紫乃の長編小説。
飲み屋にいた厚岸(あつけし)署の刑事が、店を震わせる地震のような衝撃に驚き表に飛び出すと、スナックが燃えていた。男が中に人がいると叫んでいた。ガソリンをかぶって焼身自殺をしたかに思われたのは、主人公の幸田節子30歳。

節子は15歳のとき母の愛人であった47歳のラブホテルのオーナー幸田喜一郎と関係を持ち、短大を出たあと、喜一郎の紹介で働き始めた会計事務所の所長である澤木昌弘とも関係を持った。澤木との関係は節子が喜一郎の三番目の妻となっても続いている。なんとも、異形の生き様だ。

Image_20201105152601 硝子の葦
桜木 紫乃
新潮文庫 2014年

そんな節子は喜一郎に出資してもらい、性愛や虚無を詠った歌集『硝子の葦』を自費出版した。そのことで、短歌会のメンバーのやっかみを買っていた。本書のテーマを暗示している「短歌を墓に入れる」とは、果して何を意味するのか。

火事の約半月前、喜一郎はパヴァロッティの新しいCDを聴くために、ひとりでドライブに出かけ、事故を起こして意識不明の重態となる。厚岸署の刑事は、不自然な事故に疑惑を抱いた。喜一郎は事故前に血液検査を受けていて、結果は芳しくないものだった。

登場人物たちは大人も子供も尋常でない。節子も澤木も世間から外れている。愛人の娘を妻にした喜一郎、妻と娘を虐待する倒産したデパートの元オーナー、家庭的で良妻を演じる女、大麻の管理のバイトをする小娘、皆が皆、普通の生き方をしていない。

そうした尋常でない人々に、悲惨な事件が起きていくが、終始静かな雰囲気の中で物語は流れていく。濃密な人間関係のなかで、繰り広げられる愛憎劇の果てに待っていたものは、虐げられた女の逆襲である。→人気ブログランキング

緋の河/桜木紫乃/新潮社/2019年
ホテルローヤル/桜木紫乃/集英社/2013年(直木賞受賞作)
氷平線/桜木紫乃/文春文庫/2012年
硝子の葦/桜木紫乃/新潮社/2010年

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