ギター弾きの恋
1930年代のシカゴ。ジプシージャズのギタリスト、エメット・レイ(ショーン・ペン)は天才のご多分に漏れず奇行で知られる男。ギターの腕前はフランスのジャンゴ・ラインハルト<についで、二番目だと思っていてる。二番目ってところが気楽そうで、なにをやっても許される感じである。
ギター弾きの恋 Sweet and Lowdown 監督:ウディ・アレン 脚本:ウディ・アレン 音楽:ディック・ハイマン アメリカ 1999年 95分 |
エメットにはフランスでジャンゴの演奏を聴いたときに失神し、ドイツではレストランでジャンゴを見かけただけで失神したというエピソードがある。ジャンゴのレコードを聴いて涙するという具合に、ジャンゴへの心酔ぶりは並大抵ではない。さらに、ジャンゴが客席に来ているとからかわれたことを真に受けて、楽屋からこそこそと逃げ出す小心者である。
そんなエメットがニュージャージーでナンパした洗濯女のハッティ(サマンサ・モートン)は口がきけず、エメットが迫っても抵抗しない。むしろ逆に服を脱ごうとする始末。抵抗しない女は勝手が違うエメットは戸惑う。一夜だけの遊びのはずが、ふたりは一緒に暮らし始める。ハッティはひっきりなしに何かを食べていて、そんなに食べてばかりいたら肥るだろうと心配させるほど、いつも口をモグモグさせている。「女遊びはするが、女は必要ない」というのがエメットの口癖。
口をきけない設定だから、サマンサ・モートンにはサイレント映画で見られるような大袈裟でぎこちない演技が要求され、それが小柄なハッティをよりキュートに見せている。
派手な服が好みのエメットは娼婦の元締めもやっていて、金銭感覚が麻痺している。演奏に遅刻したりサボったりがしょっちゅう、気前がいいのに泥棒癖がある。走る汽車を見るのが好きで、気晴らしに35口径の銃でネズミを撃つのが趣味。仕事に穴をあけるから、興行主からクビを言い渡されることもしばしば。
ギターの腕は天才的だが、実生活はめちゃくちゃというエメットを、ショーン・ペンが実にうまく演じている。
エメットは上流階級の女性ブランチ(ユマ・サーマン)に出会い、ハッティを捨てて結婚するが、「ふたりの共通点は服が派手なことくらい、すぐに別れるさ」というのが周囲の見方だった。小説家の端くれのブランチは、尋常ならざる物事に興味を持つ性癖がある。やがて、ジャズクラブの用心棒と不倫をはたらき、エメットの知るところとなる。彼は、ふたりが乗る車の後部座席に銃を持って忍び込む。エメットがどうやってふたりを撃ち殺そうかと思案していると、3人は事件に巻き込まれる。ここで3パターンの修羅場がそれぞれ映し出される。話におヒレがついて諸説があるというのが、3パターンが披露された理由であるが、ちょっとやりすぎだ。
周囲の読み通り結婚が破局したエメットにレコーディングの話が舞込み、再びニュージャージーのスタジオでレコーディングをすることになる。エメットはハッティを訪ね、「結婚はしないが、一緒にこないか」と性懲りもなく身勝手なことをいう。ハッティは紙切れに「結婚して子供がいる」と書いて渡すが、それが嘘なのをエメットは気付いている。「惚れられても面倒が増えるだけだ、俺は今夜もデートだ」と、負け惜しみをいうのだった。
レコードは上々のできで、エメットはジャンゴを超えたと大評判になる。そのあとエメットは第一線から姿を消す、という破天荒な天才の話。
1920年代から30年代のスイングジャズを集めたサントラが抜群にいい。オペラだけでまとめた『マッチポイント』のサントラもプラチナものだった。さすが音楽に造詣が深いウディ・アレンだ。→人気ブログランキング
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