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2013年9月 8日 (日)

硝子の葦 桜木紫乃

ホテルローヤル』で第149回(2013年7月)直木賞を受賞した桜木紫乃の長編小説。
飲み屋にいた厚岸(あつけし)署の刑事が、店を震わせる地震のような衝撃に驚き表に飛び出すと、スナックが燃えていた。男が中に人がいると叫んでいた。ガソリンをかぶって焼身自殺をしたかに思われたのは、主人公の幸田節子30歳。

節子は15歳のとき母の愛人であった47歳のラブホテルのオーナー幸田喜一郎と関係を持ち、短大を出たあと、喜一郎の紹介で働き始めた会計事務所の所長である澤木昌弘とも関係を持った。澤木との関係は節子が喜一郎の三番目の妻となっても続いている。なんとも、異形の生き様だ。

Image_20201105152601 硝子の葦
桜木 紫乃
新潮文庫 2014年

そんな節子は喜一郎に出資してもらい、性愛や虚無を詠った歌集『硝子の葦』を自費出版した。そのことで、短歌会のメンバーのやっかみを買っていた。本書のテーマを暗示している「短歌を墓に入れる」とは、果して何を意味するのか。

火事の約半月前、喜一郎はパヴァロッティの新しいCDを聴くために、ひとりでドライブに出かけ、事故を起こして意識不明の重態となる。厚岸署の刑事は、不自然な事故に疑惑を抱いた。喜一郎は事故前に血液検査を受けていて、結果は芳しくないものだった。

登場人物たちは大人も子供も尋常でない。節子も澤木も世間から外れている。愛人の娘を妻にした喜一郎、妻と娘を虐待する倒産したデパートの元オーナー、家庭的で良妻を演じる女、大麻の管理のバイトをする小娘、皆が皆、普通の生き方をしていない。

そうした尋常でない人々に、悲惨な事件が起きていくが、終始静かな雰囲気の中で物語は流れていく。濃密な人間関係のなかで、繰り広げられる愛憎劇の果てに待っていたものは、虐げられた女の逆襲である。→人気ブログランキング

緋の河/桜木紫乃/新潮社/2019年
ホテルローヤル/桜木紫乃/集英社/2013年(直木賞受賞作)
氷平線/桜木紫乃/文春文庫/2012年
硝子の葦/桜木紫乃/新潮社/2010年

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