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2013年10月

2013年10月22日 (火)

ビッグ・リボウスキ

本作は、コーエン兄弟が描く、レイモンド・チャンドラーが生みの親の探偵フィリップ・マーローへのオマージュであるという。「タフでなければ生きてゆけない。優しくなければ生きている資格がない」の1990年代版。もちろんロバート・アルトマン監督の『ロング・グッドバイ』(1974年)も意識されている。そういう目で本作をみると味わい深い。
Photo_20201214082201ビッグ・リボウスキ
The Big Lebowski
監督:ジョエル・コーエン
脚本:イーサン・コーエン/ジョエル・コーエン
音楽:カーター・バーウェル
アメリカ 1998年 117分

1991年、ロサンジェルス、パパ・ブッシュ政権下で、湾岸戦争まっただ中。
冒頭、影の声は無職の中年男ジェフ・リボウスキ、自称ジュードについて紹介する。ホワイトルシアンの飲み過ぎでいつもアルコール臭くマリファナ喫煙者で長髪ひげ面、仲間とのボウリングが日課、毎日をだらだらと過ごす、彼こそが90年代初頭が生んだヒーローなのだと語る。

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2人組のチンピラがジュードのアパートに押し込み、「女房の借金を返せ」と彼の頭を便器に突っ込む。身に覚えのない独身のジュードは、やられるがまま。チンピラはジュードがお気に入りの絨毯に、あろうことか、小便をして立ち去った。チンピラは同じ街に住む同姓同名の富豪のビッグ・リボウスキと人違いをしたのだ。

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ことの全貌がつかめず、怒りが収まらないジュードは、ボーリング仲間のウォルター(ジョーン・グッドマン)とドニー(スティーヴ・ブシェミ)に相談する。ナム帰りのまるでビッグ・リボウスキと呼ぶにふさわしい体型のウォルターは「切れキャラ」で、ドニーが口を挟もうとするのを遮って、ビッグ・リボウスキに弁償させろという。ウォルターは終始ドニーに意見を言わせない。

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こうした騒動の中、3人はボウリングのトーナメントを勝ち上がっていく。隣のレーンで練習をしている少年愛者で露出狂のジーザス・クィンターナ(ジョン・タトゥーロ)が挑発してくると、瞬間湯沸かし器のウォルターは、切れて銃をぶっ放そうとする。それはいくらなんでもやりすぎだと、ジュードに止められるのだった。

ジュードは富豪の邸宅を訪問するとけんもほろろに追い返されるが、腹いせに絨毯を盗んでくる。数日すると、今度は富豪から呼び出され、若い妻のバニーが〈本当に〉誘拐されたので、犯人に100万ドルの身代金を渡し妻を取り戻してほしいと依頼される。
身代金受け渡し場所に勝手についてきたウォルターは、狂言に違いないと例によって自説を押しとおし、下着の入ったカバンを相手に渡し、しかも機関銃をぶっ放してしまう。その騒ぎに乗じて、間抜けなことに車ごと100万ドルのカバンまで盗まれてしまうのだった。

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途方にくれるジュードであるが、このあたりから怪しげな人物がつぎつぎ現れる。富豪の義理の娘で財団を運営する前衛アーティストのモード(ジュリアン・ムーア)はひたすら妊娠を望む。ポルノ映画界の大物ジャッキー・トリホーン(ベン・ギャザラ)は元ポルノ女優のバーニーを探し回っている。さらにニヒリストと名乗る犯人一味が現れ、ボウリング場の駐車場でウォルターたちと銃激戦でやりあうと、ドニーが心臓麻痺を起こして死んでしまう。この辺りのドタバタぶりは、海辺でふたりがドニーの遺灰を散骨することで落ち着く。

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すったもんだの挙句、ことの真相はビッグ・リボウスキが財団の金をわがものにするために妻の誘拐を仕組んだもの。こうして騒動は終わったが、影の声はいう「あんたのスタイルが好きだぜ」と。なにも解決できなかったジュードこそが、仕掛け好きなコーエン兄弟が提示した90年代のヒーローなのだ。→人気ブログランキング

2013年10月19日 (土)

『ヒッチコック』

ヒッチコック [Blu-ray]

ヒッチコック [Blu-ray]

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Hitchcock
監督:サーシャ・ガヴァシ
脚本:ジョン・マクラフリン
原作:スティーヴン・レベロ『アルフレッド・ヒッチコック&ザ・メイキング・オブ・サイコ』
音楽:ダニー・エルフマン
アメリカ  2012年  98分  ★★★★*

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公開当時は規格外だった、映画史に残る不朽の名作『サイコ』(1960年)の撮影秘話が描かれている。ヒッチコックの妻アルマなしでは『サイコ』が駄作に終わったかもしれないという話。

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『北北西に進路を取れ』(1959年)のワールドプレミアで、60歳になったヒッチコックは、「そろそろ引退の潮時ではないか」との記者の質問に憤慨する。「俺はもう年か?」と妻のアルマ(ヘレン・ミレン)に訊くのだった。
あと1作の契約が残っているパラマウント社からは、『カジノ・ロワイヤル』をケイリー・グラントでという話がきたが、「スパイものはもう撮った」と断った。いくつかの企画が持ち込まれるが、どれもヒッチコックの眼鏡に適わない。「人を惹きつける〈吐き気がする〉ような作品を撮りたい」と彼はいう。

彼が目を付けたのは、実在の殺人鬼エド・ゲインをモデルにした小説『サイコ』であった。「なぜ『サイコ』なのか?マザーファッカーのシリアルキラーの話に金は出せない」とパラマウント社は拒否し、配給はするが製作費は出さないことになった。

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ヒッチコックは妻のアルマに相談する。脚本家であり映画編集者であるアルマは『サイコ』に、諸手で賛成はしなかった。
「どうしてそこまでして『サイコ』を撮りたいのか?」と問う妻に、「金策に苦労しながら映画を撮っていた昔が懐かしい。ただ楽しんで映画をつくりたいんだ」とヒッチコックはいう。初心に帰って撮りたいという言葉に、アルマは賛成せざるを得なかった。

自宅を抵当に入れて80万ドルを借金し制作費に当てた。
アルマは脚本家のウィートと共同執筆で脚本を仕上げていた。脚本を読んだヒッチコックは駄作だと一蹴にした。そのことが気に入らないのか、アルマは『サイコ』の製作に関わろうとしない。
アルマはウィートと別の脚本執筆で海辺の別荘に誘われ、上機嫌の日々を送る。ヒッチコックは浮気をしているのではないかと、妻の行動が気にかかって仕方がない。

しかし、『サイコ』のキャスト、マリオン役のジャネット・リン(スカーレット・ヨハンソン)も、ノーマン役のアンソニー・パーキンス(ジェームズ・ダーシー)も、アルマの一言で決まった。

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ヒッチコックの敵は、見限られたパラマウント社、ギクシャクした関係のアルマ、アルマに言い寄るウィートだけではない。映倫もヒッチコックの悩みの種だ。
女性の胸を映し過ぎてはいけない、ナイフを振り下ろすのは凄惨だ、便器を映してはいけないなど、ヒッチコックのやろうとすることにケチをつける。そうしたストレスに対し、ヒッチコックは暴飲暴食で憂さ晴らし、ますます肥る。

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そうしたストレスフルな環境の中、なんとかヒッチコックは『サイコ』を撮り終えるが、試写の段階では散々な評価だった。
そこで、アルマに相談するが、アルマは夫への積もり積もった鬱積をぶちまける。ヒッチクコックが映画を撮るたびに主演女優に入れあげることがアルマは気に入らなかった。
ヒッチコックはアルマに謝罪し、彼女が再編集班に加わり、彼女のアイディアでヴァイオリンが恐怖を煽る効果音を入れて、手応えのある作品に仕上がった。『サイコ』は、ヒッチコックと妻アルマとの共同作業でできあがったのだ。

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しかし、パラマウント社はどうせ当たらないからと、2館でしか上映しないのだが、ヒッチコックは巧みな戦略で宣伝し、『サイコ』は絶賛を浴びるのだった。

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最後に、画面に現れるヒッチコックの肩にカラスがとまって飛び去っていく。
次作は『鳥』だ。

2013年10月18日 (金)

北北西に進路を取れ

タイトルの北北西の意味は、ニューヨークから見たシカゴのこと、あるいはノースウェスト航空を利用したのでこのタイトルになった。さらに『ハムレット』の第2幕「おれは北北西の風が吹くときに気違いになる。南風が吹くときは、鷹もサギもよく見えるよ」からとったなど、諸説あるとのこと。
サスペンスあり、スリルあり、謎解きあり、カーチェイスあり、恋愛あり、有名観光スポットでのアクションあり、のサービス精神満点な作品。名場面が随所に散りばめられた本作が、その後の作品に与えた影響は計り知れないと言われている。
9c1db629dc44442fb4179e0d6e47e1db北北西に進路を取れ
North by Northwest
監督:アルフレッド・ヒッチコック
脚本:アーネスト・レーマン
音楽:バーナード・ハーマン
アメリカ 1959年  136分

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広告代理業のロジャー(ケイリー・ブラント)は、ふたりの男にニューヨークのホテルから拉致され郊外の邸宅に連れていかれる。そこで待っていたタウンゼントと名乗る男は、ロジャーをジョージ・キャプランと呼ぶが、ロジャーはなんのことだかわからない。強引にウィスキーを飲まされ泥酔させられたロジャーは、自動車に乗せられ事故に見せかけ殺されそうになるが、危機一髪で逃れる。

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ロジャーは、国連でタウンゼントに面会するが、そのタウンゼントは前に会った男と違う。目の前でそのタウンゼントが殺されてしまい、ロジャーは殺人の容疑者にされてしまう。

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こうして、指名手配犯として警察に追われる身となったロジャーは、キャプランとは誰なのかを突き止めるべく、警察の目をから逃れながらニューヨークからシカゴに向かう。
そこでで出会ったのは、味方なのか敵なのかわからないイーブ・ケンドルと名のる謎の美女(エヴァ・マリー・セイント)。イーヴは偽タウンゼント、悪の親玉バンダムの手下だった。そんなことはお構いなしに、ふたりは情熱の夜を過ごす。かつての007シリーズでおなじみのパターンだ。

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シカゴに着くとロジャーは郊外におびき出され、農薬を散布すプロペラ飛行機に追い回され、そこをまたまた危機一髪で逃れる。さらにサウス・ダコタ州のラシュモア山へと彼のキャプランを追う冒険は続く。
キャプランは、本物のスパイからバンダムの注意をそらすための架空のスパイだった。書くとややっこしいが、映画の中ではなるほどとうなずける設定だ。

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いつの間にか味方同士になったロジャーとイーヴは、ラシュモア山のワシントンら大統領の顔が刻まれた岩壁を、敵から逃げる。FBIと警官隊がロジャーたちを救い、悪人たちは岩肌から墜落していった。
そして、ロジャーとイーヴは列車でいちゃつきながらニューヨークへ向かう。これも、ショーン・コネリー時代の「007シリーズ」によく見られるシーンだ。

「この場面はあの作品のあそこで使われていたな」などと思いながら見る本作は、「一粒で何度もおいしい」エンターテイメント映画の教科書である。

1950年代60年代は、ミステリーものは作品として格下と見られていたという。1959年のアカデミー賞では本作は脚本賞と編集賞のノミネートされているが、賞はとっていない。オスカーをとった作品は『ベンハー』であった。『ベンハー』じゃ勝ち目はないな。→人気ブログランキング

2013年10月17日 (木)

セックスと嘘とビデオテープ

刺激的なタイトルであるが、抑制の効いた格調のある内容になっている。主人公アンを演じるアンディ・マクダウェルが静謐な気品を感じさせるからかもしれない。登場人物は4人、医者とバーの客をいれてもせいぜい6人である。本作は1989年のカンヌ映画祭グランプリを受賞した。若干26歳の・ソーダバーグ監督の処女作、才能がほとばしる秀作。
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Sex, Lies, and Videotape
監督:スティーブン・ソダーバーグ
脚本:スティーブン・ソダーバーグ
音楽:クリフ・マルティネス
アメリカ  1989年  100分

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辣腕弁護士のジョン(ピーター・ギャラガー)を夫に持ち、勤めを辞めても、なに不自由なく暮らすアン(アンディ・マクダウェル)は、うつ病に悩まされている。彼女は精神科医のカウンセリングを受けていて、夫とはうまくいっておらず、セックスレスである。

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一方、野心家の夫のジョンは、貞淑すぎる姉と正反対な性格の妹シンシア(ローラ・サン・ジャコモ)と肉体関係がある。
子供の頃からシンシアはアンの美貌に嫉妬していて、仲が悪い姉妹はなにかと意見が食い違う。シンシアはジョンと深い関係となることで、姉に嫌がらせをしているのかもしれない。

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ある日、ジョンの大学時代の友人グレアム(ジェームズ・スペイダー)がアパート探しのために、数日の間、アン夫婦の家に滞在することになった。アンはグレアムと話をするにつれ、彼に興味を抱くようになる。

アンがグレアムの新しいアパートを訪れると、多数のビデオテープがあった。ビデオテープの内容を問い質すと、これまでグレアムが出会った女性が性について語ったものであるという。中には告白だけでなく、ビデオカメラに向かって自慰行為をいているビデオもあった。彼女はその内容を知って、グレアムに不信感を抱くようになる。

何かにつけて好奇心が旺盛なシンシアはグレアムに近づき、ビデオカメラの前で、初体験からジョンとの情事までをあっけらかんと語ってしまう。
妹からグレアムのアパートでのことを聞かされたアンは、嫌悪感とともにシンシアに対し嫉妬を抱く。

自宅の寝室でシンシアのイヤリングを見つけたことで、ふたりの背信行為を確信したアンは、怒りにかられ家を飛び出し、グレアムのアパートに向かった。いつのまにか彼女は、グレアムのビデオカメラの前で告白を始めていた。性体験をビデオに向かって話すことで、アンは開放されていった。同時にアンはグレアムにも告白を促し、性的に不能であった彼の心の闇が開放されるのであった。

ビデオカメラに向かって話すことは、精神科医のカウンセリングより、はるかに治療効果があるという皮肉なことになる。

家に帰ったアンは夫に離婚を切り出し、グレアムのビデオに出たことを告げた。怒ったジョンはグレアムのアパートに駆けつけ、妻のビデオをを見る。ビデオの内容で、ジョンは自ら敗北を悟るのだった。
帰り際、ジョンはグレアムに、残酷にも彼の昔の恋人エリザベスと関係があったことを捨て台詞のように告げた。
何かが心の中で崩壊したグレアムは、ビデオテープを壊し始めるのだった。

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数日後アンとグレアムの間に芽生えた愛は確実なものとなっていた。そしてふたりは新たな生活を始めようとしていた。

心に傷を持つふたりは呪縛から開放され、インモラルなふたりは悔い改めることはない。

2013年10月16日 (水)

紀子の食卓

子どもが何を考えているのか、親たちも社会も皆目わからない時代である。現実を逃避をする子どもたちは、電子機器の向こうのヴァーチャルワールドに居場所を求める。そこは自分の思い通りのキャラクターを演じることができる、彼らにとって居心地のいい空間である。演じる自分と本来の自分の区別がつかなくなり、バーチャルワールドにマイインドコントロールされた女子高生たちが、本作の主人公である。
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監督:園 子温
脚本:園 子温
日本  2006年 159分  

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豊中市に住む主人公の島原紀子(吹石一恵)は17歳の女子高生、父・徹三(光石研)、母・妙子、妹・ユカ(吉高由里子)の4人家族。
紀子は東京の大学に進学したいが、父親は地元の大学にしろという。女が東京の大学にいくと妊娠すると思っているふしがある。
そんななかで、家族との人間関係にしっくりしないものを感じる紀子は、悶々とする日々を送っていた。ある日、紀子が「廃墟ドットコム」にハンドルネーム〈ミツコ〉でアクセスすると、そこには閉塞した日常から開放される別世界が広がっていた。

そして、紀子は「廃墟ドットコム」で知り合った〈上野54〉に会うために、やがてクリスマスになろうとする頃、家出をして東京に向かった。〈上野54〉ことクミコ(つぐみ)は「レンタル家族」業を営んでいた。紀子はミツコとしてレンタル家族の一員に加わることにした。ミツコとして娘を演じることで、自分と向き合い本物の家族のあるべき姿を感じとることができるように思えた。

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そんなおり、新宿駅8番ホームから54人の女子高生が一斉に線路に飛び込む集団自殺事件が起きる。この事件のあと若者たちの不可解な集団自殺事件が次々と起きる。
妹のユカは、この事件の手がかりを「廃墟ドットコム」の中に発見し、集団自殺事件の次の日、ユカまでもが紀子を探しに家出してしまう。

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「レンタル家族」とはどのようなものか? たとえば独居老人が誕生日に家族をレンタルしたとすると、息子夫婦役と孫役が老人宅を訪れ、誕生日を祝ってくれる。
あるいは、バツイチの中年男が娘2人をレンタルしたとすると、父親を囲んでおでんを摘まむ仲睦まじい夕餉のあと、予約の時間がきれても馴れ馴れしくする客に、「るっせんだよ、オヤジ、バカじゃねえか。時間は終わったんだよ。延長しねんだったら馴れ馴れしくするな」と豹変して、そくさくと娘たちは客の家を後にする。それでも馴れ馴れしくするケースでは、恐いお兄さんたちが出てきて、その男を叩きのめすこともある。

一方、父の徹三は、紀子が家出したことをきっかけに勤めていた地方新聞社を辞め、紀子の捜索に全精力を捧げるのだった。
ユカが失踪して2カ月後、妻が自殺してしまう。
家族を失った徹三だが、ついに「廃墟ドットコム」にたどり着いた。紀子もユカもレンタル家族に加わっていることを突き止めた徹三は、紀子とユカを娘としてレンタルすることを企てる。

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かつての島原家通りに家具を配置し、娘たちの部屋にはそれぞれの私物を、家出前の位置に置いた。そして、クミコを母親役、紀子とユカを娘役として、友人に指名させ、徹三自身はクローゼットの中に隠れて彼らの様子を伺うことにした。すき焼きをつまんで、家族団欒を取り戻す企てである。

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果たして徹三の思惑どおりに家族の絆を取り戻すことができるのか?
ストーリーは含みを残したまま終わる。

吹石一恵の演技はまあまあとして、父親役の光石研には鬼気迫るものがある。最後のシークエンスでは、本作でデビューを果たした吉高由里子のキラリとひかる演技が見られる。→人気ブログランキング

2013年10月14日 (月)

アクロス・ザ・ユニバース

ビートルズが活躍した60年代から70年代を時間軸にして物語は進む。ビートルズの歌33曲に合わせたストーリーで構成されたミュージカル。
監督のジュリー・ティモアは1952年生まれのアメリカ人女性で、脚本も共同執筆している。本作が生まれたのは、監督がビートルズと同時代を生き、ビートルズのことなら何でも頭の中に入っている根っからのビートルズおたくだったからに違いない。
登場人物はビートルズの曲に登場する名前が使われ、ビートルズ関連のネタが随所に差し挟まれていて、どこをとってもビートルズだ。
おまけに、主人公ジュード役のジム・スタージェスはどことなくポール・マッカートニー似ではないか。
Image_20210108200501アクロス・ザ・ユニバース
Across The Universe
監督:ジュリー・テイモア
脚本:ジュリー・テイモア/ディック・クレメント
音楽:エリオット・ゴールデンサール
アメリカ  2007年  133分 

造船所で働くジュードは、「俺はこの歳になるまで、ここにいるとは思わなかった」と嘆く髪の毛が薄くなった64歳の男から最後の給料を受け取り、恋人をリバプールに残して、父を捜しにアメリカへわたる。彼は船員になりすまし、ビザなしでアメリカに上陸したのだった。このシークエンスで歌われる曲は、「Girl」「Hold Me Tight」「All My Lovinng」「I Want To Hold Your Hand」。

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父はプリンストン大学の管理人をしていた。そこで陽気な学生マックス(ジョー・アンダーソン)と出会い意気投合する。さらに、ジュードはマックスから妹ルーシー(エヴァン・レイチェル・ウッド)を紹介してもらい、互いに好意を抱くようになる。「With A Little Help From My Friends」「It Won't Be Long」「I've Just Seen A Face(夢の人)」。

マックスは両親の反対を押しきって大学を中退してしまい、ジュードを連れてニューヨークに出て行く。そして、ふたりが転がり込んだのは、メジャーデビューを目指す女性ロックシンガー・サディのアパートだった。そこにデトロイトでの公民権運動の暴動で弟を失ったギタリストのジョジョも居ついてしまう。時代は公民権運動が盛んな1960年代の中頃である。マックスはタクシーの運転手として働き、ジュードはイラストレーターとして生活が始まった。

そのアパートに、ベトナム戦争で恋人を亡くしたルーシーが、兄の徴兵書類を携えて現れる。恋人を亡くし兄の身を案じるルーシーをジュードが慰め、ふたりの間に恋が芽ばえはじめる。ルーシーは「If I Fell(恋に落ちたら)」を語るように歌う。その頃、ジョジョはセディのバンドに加わり、こちらも愛が芽生えていた。

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ジョジョの弟とルーシーの恋人の葬儀に、黒人聖歌隊が歌うゴスペル風「Let It Be」が浪々と響き渡る。迫力あるなー。「Come Together」「Why Don't We Do It In The Road?」。

マックスは徴兵を逃れる術をあれこれ尽くし徴兵検査を受けたものの、思惑は外れなんなく合格してしまう。「I Want You/She's So Heavy」。

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そんな折、セディがレコード会社と契約を結び、そのマネージャーの誘いで、ジュードたち仲間を連れてドクター・ロバート(ボノ U2)のパーティに紛れ込む。セディたちはパーティーでLSDによるトリップを体験し、さらにドクター・ロバートのサイケデリックな黄色のバスに乗ってマジカル・ミステリー・ツアーへ出かける。向かった先は、ミスター・カイトの摩訶不思議なサーカスショーだった。「Dear Prudence」「Flying(instrumental)」「Blue Jay Way」「I Am the Walrus」「Being For The Benefit Of Mr. Kite!」「Because」「Something」。

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このあたりは、アルバム『マジカル・ミステリー・ツアー』のためのシークエンスである。
この後、マックスはベトナムに出征する。

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一方、セディのソロデビューの話にジョジョは腹を立て、ふたりは仲たがいをしてしまう。ライブで、前半をセディが後半をジョジョが、まるで激しい口論のように歌う「Oh! Darling」は見もの。

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ジュードとルーシーの愛は育まれてったが、ルーシーが反戦活動にのめり込んでいき、ジュードはついていけない。反戦に対する立場の違いでふたりの関係は徐々に気まずくなっていく。「Strawberry Fields Forever」。

スージーの気持ちが反戦運動の活動家になびいていると勘ぐったジュードは、活動家たちの事務所に押しかけ、「Revolution」を歌いながら反戦活動家に毒づく。このことで、ふたりの間に決定的な亀裂が入ってしまう。

傷心のジュードにジョジョが「While My Guitar Gently Weeps」を歌い慰める。ルーシーが部屋を出て行った後、ジュードが街を彷徨している場面に、映画のタイトルになっている「Across the Universe」が流れ、そこに「Helter Skelter(しっちゃかめっちゃか)」がクロスオーバーして流れる。

反戦デモに参加したスージーは警察に連行され、それをなんとか阻止しようとしたジュードも拘束され、彼は不法滞在がバレてイギリスに強制送還される。

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一方、負傷して帰還したマックスは精神的なダメージが大きく、情緒不安定でトラウマと闘う入院生活を送っていた。退院したマックスは妹ルーシーの見守るなか静養する。ここで、歌うセクシーな看護婦役でサルマ・ハエックがカメオ出演している。「Happiness Is a Warm Gun」「A Day In The Life」「Blackbird」。

イギリスに帰国したジュードは元の造船所の生活に戻るが、かつての恋人は結婚し妊娠していた。彼はルーシーへの想いが断ち切れず、マックスが歌う「Hey Jude」に勇気付けられ、今度はビザを取得して渡米するのだった。

アメリカに舞い戻ったジュードはマックスの出迎えを受け、サディとジョジョがライブを敢行しようとしているビルの屋上に向かう。この屋上のシーンは、ビートルズ解散前の屋上ライブを彷彿とさせる。

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サディたちが「Don't Let Me Down」を歌い上げたとき、警官たちにライブを中断されライブを止めるが、そのあとジュードがアカペラで「All You Need Is Love(愛こそはすべて)」を歌う。それに向かいのビルの屋上に登ったルーシーが応え、ハッピーエンドで幕を閉じる。ビートルズファンには堪えられない一作である。

エンドロールでは、ボノの歌う「Lucy In the Sky With Diamonds」が流れる。ボノ、サルマ・ハエックの他に、ジョー・コッカーハリー・J・レニックスディラン・ベイカーが、カメオ出演している。→人気ブログランキング

2013年10月11日 (金)

『現代アートを買おう!』宮津大輔

現代アートを買おう! (集英社新書)

現代アートを買おう! (集英社新書)

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宮津 大輔
集英社
2010年5月
★★★*☆

Amazon.co.jpで詳細を見る

 

現代アート300点を所有するコレクターの著者は、平凡なサラリーマンである。決して財力があるわけでない著者が、どのようにしてコレクターの仲間入りができたのか。
大まかな現代アートのあり様、購入のノウハウ、作品の保存の仕方、展覧会への貸し出しの方法、かつての現代アートバブルへの苦言などが、語られている。買うという視点で現代アートを見ると意外な側面が現れてくる。

作品を選ぶに当たってアドバイスがあるとすれば、「自分を信じて自分に嘘をつかない」ことだという。
著者自身は好きで手に入れた作品はどれも甲乙つけ難く手放せないという。それがたった15年で、300点も集まった理由だというのだ。ちなみに、著者がはじめて購入した作品は、草間彌生のドローイング、価格は50万円だったそうだ。

現代アートの魅力のひとつは、アーティストと同時代を共に生きていることだという。現代アートの英訳は Contemporary Art であり、Contemporaryは「同時代の」という意味である。作家と交流することを勧めている。そうした交流を通じて著者は新築する自宅の設計をフランス人アーティストに委託した。そして著者がドリームハウスと呼ぶ、住宅地で異彩を放つ住宅ができあがった。
もうひとつの魅力は、本物しか存在しないということである。贋作が皆無とまではいかないが、現代アートは一点物しかないといっていい。

著者は、芸術で金儲けをしようとは、ゆめゆめ考えていない。優れた芸術は受け継がれているものと思っているという。この考え方は、祖母の信条「美術作品は個人が持つものではなく、みんなのものであり、美術館で見るもの」に影響されたものであり、その姿勢を貫くことに、著者はぶれていない。
趣味が高じて有名なコレクターとなった著者が、邪気なく熱っぽく語る現代アート論である。

現代アート経済学』宮津大輔(2014年)
キュレーション 知と感性を揺さぶる力』長谷川祐子(2013年)
現代アートを買おう!』宮津 大輔 (2010年)
現代アート、超入門!』藤田令伊(2009年)
セゾン現代美術館

2013年10月10日 (木)

ロスト・ハイウェイ

ストーリーを論理的に追おうとするとしっくりこないので、見たまま受け入れるのがデビィット・リンチ作品の見方だろう。迷宮に入ったままにして、細かいことは詮索しないのがいい。

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Lost Highway
監督:デヴィッド・リンチ
脚本:デヴィッド・リンチ/バリー・ギフォード
音楽:アンジェロ・バダラメンティ/トレント・レズナー
アメリカ  フランス  1997年  135分 

白いセンターラインが車のヘッドライトに照らされて、車は漆黒の闇の中を疾走している場面から始まる。

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朝、テナーサックス奏者のフレッド(ビル・プルマン)は、玄関のインターフォンで「ディック・ロラントは死んだ」という声を聞く。ディック・ロラントが誰であるか最後まで明らかにならないが、この意味不明のフレーズが、本作のキーワードである。

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翌朝、ビデオテープが入った封筒が玄関におかれていて、フレッドの妻レイネ(パトリシア・アークエット)がビデオを映すと、そ玄関が映っていた。翌朝もビデオがおいてあり、今度は寝室で眠ている夫婦が映っていた。警察を呼んだが手がかりはない。

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その夜、ふたりはパーティに出かける。白塗りの不気味な男(ロバート・ブレイク)がフレッドに「私はあなたの家にいる」という。フレッドが携帯電話で自宅に電話してみると、電話から目の前の男の声が聞こえてきた。白塗りの男はディック・ロラントの友人だという。
頭の中が混乱したデヴィットが家に帰ると、ビデオには妻のバラバラ死体が映っていて、ここでビデオと現実が交錯して、フレッドは警察に逮捕されてしまう。
フレッドは妻殺しの容疑で死刑を宣告され独房に入れられ、そこで激しい頭痛に襲われる。
翌朝、独房にいたのはフレッドではなく修理工のピート(バルサザール・ゲティ)だった。ピートは釈放されたものの、彼はなぜ拘置されたかのを思い出せない。両親も友人たちも、自宅前でピートの身に起こったことを話そうとしない。

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職場に戻ったピートに、街の顔役のエディ(ロバート・ロッジア)が愛人のアリス(パトリシア・アークェット/レイネと2役)を連れて現れる。やがて、ピートとアリスは深い仲になって密会を続けるようになる。ふたりの仲がエディにバレれてしまえば殺されてしまう。アリスはピートに大金を知人から盗んで一緒に逃げようと持ちかける。

計画実行の夜、ピートはアリスの知人の邸宅へ忍び込み、手筈どおりピートは知人を殴り倒す。ところが、その時点になって、アリスの様子がどことなく怪しい。
ふたりは砂漠に逃げて、砂の上でからみあい、やがてアリスは裸で立ち去っってしまう。残されたピートが立ち上がると、フレッドの姿に替わっていた。
ここから、事態がさらにごじゃごじゃしてくる。

砂漠の小屋には白塗りの男がいて、「アリスなんて女はいない。彼女はレネエだ」と叫ぶ。
フレッドがアリスを追ってモーテルに入ると、そこにはベッドでもつれあうエディとレネエがいた。フレッドはエディを叩きのめして車のトランクに押し込み、再び砂漠に戻る。トランクを開けた途端にエディがフレッドに飛びかかるが、そこに白塗りの男が現れ、ナイフでエディの喉を切り裂いてしまう。

こんな風にストーリーは進んで、早朝、自宅に戻ったフレッドはインターフォンに「ディック・ロラントは死んだ」とささやく。流れからするとディック・ロラントはエディということになるが、そこは曖昧なまま話は進む。
フレッドの家にパトカーがきて、フレッドは車でハイウェイを逃走する。いつしか夜になり、はじめと同じ場面が映し出される。闇の中、白いセンターラインがヘッドライトに照らしだされては消えていく。振り出しに戻ったのだ。→人気ブログランキング

2013年10月 4日 (金)

キュレーション 知と感性を揺さぶる力 長谷川祐子

現代アートのキュレーターとして世界的に活躍する著者が、豊富な経験をもとにキュレーションの本質を広い視点から論じている。
Photo_20201118083401 キュレーション 知と感性を揺さぶる力
長谷川 祐子
集英社
2013年

著者は、キュレーターの仕事は視覚芸術を解釈し、これに沿って、芸術を再度プレゼンテーションすることと定義している。その仕事の内容は、多岐に渡っている。選択する、解釈する、構成するという意味ではエディターに近く、アーティストの作品制作に関わったりする点でプロデューサーであり、文献を渉猟し、フィールド・スタディもこなすリサーチャーであり、アカデミックなテキストや批判的なテキストを書き、展覧会のキャッチコピーまで考えるライターであり、展覧会の企画や執行をマネージメントする管理者でもある、という。
マルチな情報が頭の中で整理されていなければこなせない、豊富な知識と経験が要求されるタフな仕事である。

20110708200225

キュレーターの仕事の最もわかりやすい例は、1929年に開館したニューヨーク近代美術館に、当時前衛とされていたセザンヌ、ゴーギャン、スーラ,ゴッホを、第1回展に集めたことだという。
上の画像は初代館長のアルフレッド・バー・ジュニアの描いた有名なチャートである(『キュヴィズムと抽象絵画』展 1936年の図録カバーより)。現代アートがどのように進化していったかを示しているこのチャートは、館長自身が人々に新しい芸術を理解させるための、まさにキュレーターの役割を果たしていたことを示している。

中心となる流れがなくなり多様化し辺縁化した現代アートは、何事をも取り込みうるし、様々な事象とのつながりの中で生まれている。セクシャリティー、ジェンダーとの関わり、地域社会はもちろんのこと政治との関わりすらも起こっている。

冷めた著者の眼差しは、キュレーターの姿を次のように見ている。
〈キュレーター、この罪深き職業の《罪の極北》は、美術館、芸術品の終焉のヴィジョンを覚悟しつつ、最も誘惑的な声で美術館、芸術品の存続の意味を語り続ける二面性にあるのだ。〉何でもありの現代アートのキュレーションは二面性のジレンマの中で、時代を先取りしながら、これからも変容し続けるということである。
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著者のワールドワイドな目で見たその土地で開催される展覧会のあり様というか癖というかが、それぞれの国民性が反映されていて、実に面白い。
〈表現主義的な絵とインダストリアル・ミニマルの彫刻が好きなドイツ、オーガニックで感動的で、それが洗練された中庸の域を出ていないことが肝要なフランス、その間をとっているのが、奇妙さと可愛らしさ、グロテスクが混在するスイスである。そして《絵画》と《彫刻》が好きで、美術館での《学習》が趣味になっているアメリカ、音楽やダンス的な要素、トロピカルバロックが好きなブラジル、同じ傾向にありながら、浪速節的感情表現が入ってくるのがトルコ。記憶や物語、そしてミュータント的な人工生命の好きな韓国、とにかく巨大で壮大なテーマの作品と人間の身体モティーフが好きな中国。かわいくて感覚的、清々しいかグロテスクかのどちらかで、テクニカルに精巧にできている作品が好きな日本。〉という。→人気ブログランキング

現代アート経済学』宮津大輔(2014年)
キュレーション 知と感性を揺さぶる力』長谷川祐子(2013年)
現代アートを買おう!』宮津 大輔 (2010年)
現代アート、超入門!』藤田令伊(2009年)
セゾン現代美術館

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