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2013年11月30日 (土)

ゴスフォード・パーク

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1932年11月、バシャバシャと氷雨が降るなか、トレンサム伯爵夫人(マギー・スミス)が屋敷から出てきて車に乗り込むまで、メイドのメアリー(ケリー・マクドナルド)は、ずぶ濡れで車のそばに立っている。車が走り出ししばらくすると、後部席の夫人が「水筒の蓋が開かないのよ」と、助手席のメアリーにいう。運転席と後部席の間はガラスで仕切られているので、メアリーは車を降りて、またもや雨に打たれながら水筒の蓋を難なく開ける。本作のテーマである身分の上下を歴然と表すシーンである。

 

 

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Gosford Park
監督:ロバート・アルトマン
脚本:ジュリアン・フェロウズ
音楽:パトリック・ドイル
イギリス 2001年 137分 

車はロンドン郊外のマッコードル卿とシルヴィア夫人(クリスティン・スコット・トーマス)のゴスフォードパークにある館に向かっている。
館に招かれたのは、シルヴィアの叔母トレンサム伯爵夫人の他、夫人のふたりの妹とその夫たち、マッコードル卿の又従弟にあたる俳優やその友人など。招待客の車がゴスフォード・パークの玄関口に着くと、愛犬ヒップを抱いたマッコードル卿がお愛想の挨拶で客たちを迎い入れる。客は階上にお連れのメイドは階下の地下室へと分れる。

同じように、この時代の英国のメイドや従僕たちを描いた『日の名残り』(1993年)の冒頭で、晴れ上がった眩しい新緑のなかを、次々と車が到着する晴れやかなシーンとは対照的である。

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優雅そうに振舞っている階上の貴賓たちの間には、その実、見栄を張ったりほかの客を値踏みしたり夫婦がいがみ合ったり、妬みや憎しみが渦巻いている。何ともおどろおどろしい。

 

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そんな階上とは対照的にメイドや従者たちは休む暇もなく動き回る。仕事の合間に、自分たちに頼り切りでこき使うばかりの虚飾にまみれた主人たちのゴシップをしゃべりまくる。メイドや従僕たちは主人の名前で呼ばれ、主人たちの身分のままに彼らの食事の席も序列がつけられている。あくまでも主人の付属物なのだ。メアリーが末席に座ると上座に座るよう促されるところが面白い。
ちょっとした自己紹介が行われるが、これがあとに起こる事件の謎を解く布石になっている。

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マッコールド卿にはお手つきのメイド(エミリー・ワトソン)がいて、シルヴィア夫人といえば夜な夜な若い男を連れ込んでよろしくやっているし、階下の尻軽女は厨房に貴賓を引っ張り込んでいる。メアリーは男の部屋に強引に引っ張り込まれ、貞操の危機にさらされたりする。

二日目の午前中にキジ撃ちが行われ、マッコードル卿の頬を弾がかすめる事件が起こる。このあたりから、貴賓たちの間に不穏な空気が漂いはじめる。晩餐の席では、アメリカ人映画プロデューサーが、カントリー・ハウスを舞台にした殺人事件の構想を披露する。そんななか、まさにマッコードル卿が殺される事件が起きる。

さっぱり要領を得ない警察の捜査に対して、メアリーの感が鋭く冴え事件の核心に迫っていく。敵の多いマッコードル卿には殺されて当然の忌まわしい過去があった。殺人の動機は、階下の者のマッコードル卿に対する復讐であった。

『日の名残り』では、執事が晩餐のテーブルに並べられた食器を細心の注意を払ってチェックするシーンがあった。本作では、初日の晩餐会の準備のさいに、汚れているフォークにペッペッとつばを吐いて拭くという階下の者のささやかな抵抗ともいえるシーンが出てくる。アルトマンが描きたいのは、こうした虚飾の裏側で行われている、まやかしでない本音の部分なのだ。→人気ブログランキング

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