ザ・チャンプ 伝説のファイター
エディプス・コンプレックスを抱え、結婚生活はうまくいかず、仕事はスランプ、そんな主人公が苦境を脱却できたのは、自らの過ちに対し真摯に立ち向かったことだった。
日本未公開。ストーリーの出来はいいし、サミエル・ジャクソンの落ちぶれた元ボクサーの演技は珠玉ものだが、映画自体の評価はなぜかいまひとつのようだった。
ザ・チャンプ 伝説のファイター Resurrecting The Champ 監督:ロッド・ルーリー 脚本:ミッチェル・ボルトマン/アリソン・バーネット アメリカ 2007年 112分 |
エリック・カーナン・ジュニア(ジョシュ・ハートネット)は『デンバー・タイムズ』のスポーツ担当の記者。同僚の妻ジョイス(キャサリン・モリス)とは別居中で、ふたりには6歳の息子がいる。エリックが書く記事は次々にボツになりスランプに陥っている。何かにつけ伝説のリポーターと呼ばれた父親の話題が出ることに辟易している。
ある夜、エリックは街のチンピラに絡まれた老いた黒人の路上生活者(サミエル・ジャクソン)を助ける。チャンプと呼ばれるその老人はかつてヘビー級ランキング3位になったことがあるボブ・サックフィールドであることを知る。エリックは、サックフィールドの栄光と挫折の半生を記事にしようと考えた。
はじめは取材を拒否していたサックフィールドだが、やがて協力するようになる。
資料集めを頼んだ同僚のポリー(レイチェル・ニコルス)は、存命の対戦相手やサックフィールドの息子の存在を調べ上げ、さらに蒐集家が持っていたサックフィールドの試合のビデオを見つけ出してきた。
こうしてエリックは記事を書き上げる。
記事は高く評価され、エリックの週刊誌部門への昇格が決まり、テレビ局からの引き抜きの話も持ち上がる。有頂天になっているエリックにボクシング関係者から、サックフィールドは20年前に亡くなったはずだと電話がくる。裏を取ることを怠ったエリックは記者として致命的なミスを犯してしまったのだ。
記事の捏造は映画のテーマになる。
『ニュースの天才』(03年)は、意図的にニュースを捏造する若手人気コラムニストの話。『ペーパーボーイ 真夏の引力』(12年)は、死刑囚を冤罪と捏造してしまう話。いずれにせよ、記事の捏造は故意であろうとなかろうと記者にとって致命的である。
妻は訂正記事を書きすべてを明らかにするよう諭すが、エリックは素直には従えない。八方塞がりになったエリックが酔っ払って、チャンプに喰ってかかると、呆気なく殴り倒され病院に運ばれてしまう。チャンプにはサックフィールドになりすまして生きた止む終えない理由があったのだ。
エリックは損害賠償を要求するサックフィールドの息子に謝罪すると、温情のある息子は本物のサックフィールドについて書いてみないかと持ちかけるのだった。エリックはなんと運のいい奴なのだろう。
エリックは自らが犯した過ちを息子に話すと、偉大な父親の呪縛が解け、妻との関係も修復される。そしてやっと「ムーチョグランデ」の気分になる、チャンプが絶好調のときに口にした言葉だ。→ 人気ブログランキング
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