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『乳と卵』川上未映子 

著者の文章は主語がなかったり述語を省略したり、句点を打たずに長々と続けたり、大阪弁をつかったり、自由だ。詩的な表現が魅力。徹底して男の視点が排除され、テーマである女性「性」を、女の視点で赤裸々にしている。
著者のサイト純粋悲性批判をのぞいたら、乳と卵は二大アレルギー物質と、なるほどねー。
第138回芥川賞(2008年1月)受賞作。

 

乳と卵(らん) (文春文庫)

 

乳と卵(らん)
posted with amazlet at 14.03.05

 

川上未映子(Kawakami Mieko
文春文庫
2010年9月 ★★★★★

 

 

 

40歳の姉とその娘が、姉の豊胸手術の目的で大阪から東京に出てきて主人公のアパートに滞在する3日間を描いたもの。思春期の娘は言葉を発せず筆談でコミニュケーションをとるようになっていた。

 

豊胸手術は誰のために受けるのか。男のためではないかという厚化粧女と、手術を受けるのは自分のためであり、そもそも化粧をすることそのものが男に迎合しているという胸の平たい女との言い争いの場に、主人公がいあわせたエピソードが書かれている。やり取りは、白熱してやがて関西弁になるのだが、いわば女性に関わる古典的かつ哲学的な問題であって、愛読書として『子供のための哲学対話』(永井均/講談社文庫/2009年)を挙げる著者が、本書でもっとも力を入れたところではないか。哲学と関西弁の相性のよさは、『ソクラテスの弁明 関西弁訳』(プラトン 井口裕康訳/パルコ/2009年)で、目からウロコものくらいに、証明済みである。厚化粧女と胸平板女が繰り広げる会話にはユーモアがありテンポがよくて、まるでコントのよう。このあたりは大阪人である著者のサービスかもしれない。

 

姉は乳房に異常なこだわりを持ち、だから豊胸手術を受けようと考えるのだが、主人公と出掛けた銭湯では、選り取り見取りのサンプルを目の前にしての乳房談義あれこれを繰り広げる。乳房が膨らむことに異常な嫌悪を持つ娘は、母親が豊胸手術を受けることがどうにも許せず反抗的になっている。主人公は早まって始まった月経にうんざりしている。

後半に、母娘がいくつもの卵を頭で割り身体中がベトベトになる場面がある。女性「性」の根元である卵子を破壊する象徴と捉えることができるが、いささか突飛である。
ともあれ、肉体的にであれ精神的にであれ、三者三様の逃れようのない、なんとも鬱陶しい女性「性」との格闘が緻密に描かれている。

ほかに、『あなたたちの恋愛は瀕死』が収録されている。

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