女のいない男たち 村上春樹
まえがきには本書を出版するにいたる経緯が書かれている。
『ドライブ・マイ・カー』は、タバコの吸殻ポイ捨ての箇所に北海道の地元の議員からクレームがついて、マスコミで話題になった作品である。書き直されている。『イエスタデイ』は、関西弁の歌詞についてビートルズの著作権代理人からやはりクレームがきて、著者としては言い分もあるが、書き換えたという。
『イエスタディ』には『フラニーとズーイ』の関西弁訳の話が出てくる。少し脱線するけれど、著者と柴田元幸の対談集『翻訳夜話2 サリンジャー戦記』(文春新書 2003年)で、フラニーとズーイの会話を関西弁訳をしてみたいと著者が語っている。
川上未映子のエッセイ集『そら頭はでかいです、世界がすこんと入ります 』にも「フラニーとズーイの喧嘩を大阪弁に置き換えて読んでいくと、……生き生きするよね」という件がある。実際の関西弁訳が一部試みられていて、なんともいい具合に会話が転がっているのだ。
本書の中で唯一の書下ろしである『女のいない男たち』は、アーネスト・ヘミングウェイの同じタイトルの短編集へのオマージュのような、あるいはインスパイヤーされて書いた作品である。
すでに指摘されていることかもしれないが、著者はミソジニーの視点が過剰である。男女の歪んだ関係を書けば、おのずとミソジニーが強く出るのかもしれないが、過剰である。
それにしても、まえおきはところどころ括弧つきの念には念をいれたエクスキューズだ。
女のいない男たち 村上春樹(Murakami Haruki) 文藝春秋 2014年 |
『ドライブ・マイ・カー』
舞台俳優の男は運転手として雇った若い女に、亡くなった妻の浮気の話をする。女から浮気相手の男は大した男ではないといわれ、それが自分にも跳ね返ってくることに男はたじろぐ。
『イエスタデイ』
阪神タイガーズファンが嵩じて、東京出身なのに完璧な関西弁をしゃべる友人から、幼馴染みの自分の恋人とデートしてくれるように主人公は頼まれる。「文化交流みたいなかんじで」と、そんな変わった友人に言われて。そして16年が過ぎて、主人公は女と再会し友人の消息を知る。
『独立器官』
中年の独身の美容外科医は複数の女性とほとんどトラブルなくスマートに付き合って人生を謳歌してきた。ところが、どうしとことか男は恋に落ちてしまう。年下の人妻に入れあげ、恋煩いで食欲がなくなり痩せていく。独立器官とは、主人公が考える女性に具わっている器官のこと。
『シェエラザード』
隔離された男のもとに、世話係の女が日用品や食料品を買ってやってくる。女は男と交わったあとに毎回不思議な話をする、千夜一夜物語のシェエラザードのように。女は17歳のときに片思いの同級生の家に空き巣に入った話をする。続きは次の訪問のときといって、女は話を止めた。男は女がもう来なくなるのではないかと不安になる。
『木野』
妻に裏切られた木野は苗字と同じ店名のバーを開く。客がポツポツ来るようになり、ウィスキーを飲み本を読む男が常連になる。そんなある日、常連の男が木野に店を閉じて、店に近づかないようにと言う。木野は事情が飲み込めないまま、抜き差しならぬことが起こったと察し旅に出る。
『女のいない男たち』
真夜中に、男から電話がかかりその男の妻が自殺したと知らされる。女は主人公はかつての恋人だった。男は彼女が死んだと聞かされたことで、人生から付き合っていた頃が根こそぎ消えてしまったような気がしている。→人気ブログランキング
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