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『世界が土曜の夜の夢なら ヤンキーと精神分析』斎藤 環

著者は、不良文化にルーツを持つヤンキー美学が、どのようにして世間に広く浸透したかを、多岐にわたる資料をもとに分析を試みている。本書は第11回角川財団学芸賞を受賞した。

ナンシー関のヤンキーについてのコラムから、『ヤンキー進化論』の著者・難波攻ニは、「ヤンキーの美学はバッドテイストなもの」とまとめた。このバッドテイストは、ヤンキーを語るときに欠かせないキーワードとなった。本書では、『ヤンキー進化論』を部分的に追試し、そこに著者の専門である精神分析の手法が加味され、質の高いヤンキー文化論が展開されているといえる。須佐之男命を日本初のヤンキーと位置づける発想は、博覧強記の著者ならではであり、もはや縦横無尽である。

世界が土曜の夜の夢なら  ヤンキーと精神分析
斎藤 環(Saitoh Tamaki
角川書店  2013年6月  ★★★★★

著者が繰り返し強調しているのが、ヤンキーの「気合」でありギャルの「アゲ」である。つまり、このふたつの言葉の意味するところは、内なるエネルギーで物事にぶつかれば何とかなるというヤンキーの体当たり至上主義を表している。
ギャルの美学の中心はアゲであり、アゲとは気分が高揚する、テンションが上がる、イケイケになることである。彼らはギャル・ファッションで武装することでアゲアゲになる、その一瞬こそが、「土曜の夜を煌めかせる」のだと書いている。本書のタイトルはここからつけられた。

著者がヤンキーを特徴づけるタームとして挙げているのは、バッドテイスト、気合、アゲのほかに、いびつな和洋折衷、地元ラブ、女性性、母親リスペクト、コミュニケーション力、ファンシー、反知性主義、保守志向、現実的などである。これらのうち、ヤンキーの本質が「女性性」であるという革新的なアイデアを提示のは作家の赤坂真理であると紹介している。

ヤンキーたちは関係性を大切にする。上下関係のみならず、異性との関係や、とりわけ家族を大切にする傾向がある。こうした関係性への配慮が、彼らを女性的に見せているのだという。

さらにヤンキー文化の根底には母性が存在するとしている。ヤンキーを女性性や母性との関連で見ると、これまでヤンキー文化に観察されてきた奇妙な現象について納得のいく説明をができるという。なぜヤンキーは女物のサンダルを履きたがるのか。なぜヤン車の中には様々なファンシーグッズが詰め込まれているのか。なぜヤンキーファッションにはかわいいキャラクターグッズが違和感なくなじむのか。なぜヤンキーはディズニーが好きなのか。といった疑問についての回答がえられるのである。

著者は、「ヤンキー文化=女性原理のもとで追及される男性性」、それに対として、「オタク文化=男性原理のもとで追及される女性性」と仮定してる。ヤンキー文化とは、男性原理の価値規範を、女性原理の方法論で伝達、拡散することによって、成り立ってきたのではないかと指摘する。この点は精神科医としての著者ならではの見解である。

著者は、ヤンキー文化の果たしている役割について、次のような達見を述べている。
〈わが国においては思春期に芽生えた反社会性のほとんどは、ヤンキー文化に吸収される。不良が徒党を組むさいに求心力を持つのは、ガチで気合の入った、ハンパなく筋を通す、喧嘩上等といった価値規範なのだ。
青少年の反社会性は、芽生えた瞬間にヤンキー文化に回収され、一定の様式化を経て、絆と仲間と伝統を大切にする、保守として成熟していくのである。われわれは全く無自覚なうちにかくも巧妙な治安システムを手にしていたのである。〉
ヤンキー文化が、青少年の反社会的な行動にブレーキをかける装置として機能しているという、著者のヤンキーに対する肯定的な見解は斬新であり、今後ヤンキーを語る上での重要な視点になるだろう。→ブログランキングへ

世界が土曜の夜の夢なら ヤンキーと精神分析/斎藤環/角川書店/2013年
ヤンキー進化論―不良文化はなぜ強い/難波功士/光文社新書/2009年

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