ピラティスってなんだ?
オウム真理教の前身がヨガサークルだったので、1995年3月の地下鉄サリン事件以後は、「ヨガやっています」とは言いにくい風潮になっていた。そこで勢いづいたのが、1990年の終わり頃にアメリカの女性セレブリティたちに受け入れられたというピラティスだ。
ヨガの身体的な要素にフィットネスの意味合いを加味したピラティスは、いわばヨガのハイブリッド亜種、あるいは体育会系ヨガのテイストである。ヨガの埃っぽさや抹香臭さはなく、女性セレブリティたちに受け入れられたとなれば、一般女性たちが放っておくはずがない。何せロハスなんてビジネスコンセプトもちょうど流行り始めたころだった。ロハスは、エコで一儲けしようと企んだ人物の造語である。ロハスは気楽にエコしましょうというくらいの意味合いで、ピラティスと相性がよさそうだった。
その頃の男たちといえば、バブルの残り香が漂うセカンドバックを片手に抱えていたものだが、ゼロ年代に入ると、実用性に重きがおかれるショルダーバックやデイバックに代わるようになった。からだを動かすことでは、女性の尻を見つめながら行なわれたエアロビクスエクササイズに替わって、ジョギングやロードバイクなどの品行方正な路線に方向転換されていった。それは、バブルが終り失われた10年のなかで、男たちがこんなことをしていていいのかとふとわれに返るときであったのだ。
そして、素人にも42.195キロを7時間くらいでならゴールに到達できることを、大々的に知らしめたのが2007年に始まった東京シティマラソンである。夏の24時間TVで恒例となったタレントの100キロマラソンの影響も受けて、いまや、いいんだか悪いんだか、マラソンなんか誰でもゴールに到達できるものと舐められている。マラソンまでいかなくとも、健康ブームに乗っかったジョギングは、その後も愛好者を着実に増やし今や空前のブームとなっている。
ピラティスの出自をたどれば、第一次世界大戦の頃ドイツ人の看護師のジョセフ・H・ピラティス氏が、負傷した兵士のリハビリのために開発したエクササイズ法だそうだ。エアロビクスエクササイズにヨガや太極拳などの要素を取り入れたもので、ヨガは腹式呼吸、ピラティスは胸式呼吸なんだそうだ。コアな筋肉を鍛えるというもの。コアな筋肉とは深部筋肉のことだ。コアな筋肉を鍛えれば故障しにくいからだができるといわれている。やり方によっては、かなりハードにもなるという。
この手の特に女性に愛好される健康増進エクササイズには、流行り廃れがある。
思い起こせば、最近はブートキャンプがあったが、あんなマゾヒスティックでヤクザなトレーニング法がなぜはやったのか。すでに化石化したが、流行り廃れに理論的な根拠などないということなのだろうか。エアロビクスエクササイズはとうの昔の流行り物の感があるが、今も健在であり、クラブのノリの集団トランス状態のようなあやしさが魅力なのかもしれない。最近ではベリーダンスやフラダンスやクラシックバレーも流行ったらしい。痩せるだのくびれだのがキーワードになって、タレントの御用達だった月謝が高くて有名なカーヴィーダンスは流行ったものの、スキャンダルのせいでほぼ消えた。世は見てくれのためには何でもありの風潮なので、これからもいろいろなエクササイズ法が流行っては消えていくんだろうな。
さて、ピラティスは、ピラニアの親戚の淡水魚であるティラピアや、かつて流行ったバブリーなスイーツのティラミスと、語感が似ているので、つい間違ってしまうらしい。それはさておき、ピラティスがカルチャーセンターの科目として今もしぶとく生き残っているのは、ヨガという数千年の歴史を持つ健康法をとり入れていて、キープスモールの状況で、つまり大流行りの洗礼を受けておらず、なによりセレブリティたちに後押しされた栄光の過去があるからだろう。
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