「モナリザ」の微笑み 顔を美術解剖する 布施英利
著者の専門は美術解剖学。
レオナル・ド・ダヴィンチは人体解剖を手掛け顔面筋の正確なスケッチを残している。ダ・ヴィンチが人物を描くときに、解剖の知識を多いに活用したことは間違いない。著者には、ダ・ヴィンチと同じ解剖学を学んだという立場で絵を分析できる強みがある。
「モナリザ」の微笑み 布施英利 (Fuse Hideto) PHP新書 2009年 |
そうした著者の視点からすると、モナリザの顔は合成されて描かれているという。
モナリザの顔は全体として斜めを向いていて、私たちは左斜めから見ている。ところが、左目や顎、鼻や人中を隠すと、顔の右半分は真正面を向いていると主張する。
この描き方はピカソの正面と側面の顔を同時に描くキュビズムの発想につながっていると、著者は大胆に持論を展開する。ピカソはモナリザの絵を見て、キュビズムのアイディアが浮かんだとまでいうのである。
美術史上、有名な「モナリザ盗難事件」の下りが面白い。
1911年、パリのルーブル美術館から「モナリザ」盗まれる。この時、スペインからパリに出てきて間もない29歳のピカソが警察に連行された。盗品の彫刻を買いヤバイと感じたピカソは、詩人のアポリネールを伴って、その彫刻をボストンバッグに入れセーヌ川に捨てるため夜のパリをうろついたものの、捨てずに帰ったという。このことで、ピカソもアポリネールも逮捕された。もちろん犯人は別にいた。
当時、アポリネールと付き合っていたマリー・ローランサンは、母親から泥棒と間違われるような男とは縁を切るように諭され、二人は別れたという。
この事件のあと、ピカソの絵はキュビズムへと変貌を遂げるという。
セザンヌ、レンブラント、アンディ・ウォホールらの作品の共通するところを分析し、さらにギリシャの彫刻とのつながりも挙げ、最終章で「世界は私たちが知っている以上につながっている」と、強引にまとめている。表面的でなく内面を描いている点で共通してるというのである。→人気ブログランキング
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